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67 友人の依頼



 温泉、非常に良かった。



 ダカシュの温泉施設は宿ごとにテーマがあり、入浴設備はもちろんのこと、ロケーションや季節的なものまでガラッと変わる。猿を始め、いろいろな生き物と一緒に露天風呂に入れる宿なんかは、プレイヤーにとても人気があるそうだ。


 俺たちが宿泊した宿のテーマは、初夏の河原。


 野趣溢れる広い露天風呂や、香り立つ檜風呂。とても解放感がある。そして、お風呂から上がったら夕涼み。夕闇を舞う蛍光の幻想的な風景。黄緑色の光の軌跡が不思議な模様を描いていく。


 河原を散策しながら、浮かび上がる湯上がりの浴衣姿。時が止まったみたいに静かな時間が流れていた。言葉にしなくても、通じるものがあるっていうか……なんか俺、ずっと笑っていた気がする。温泉文化素晴らしい。しみじみそう思った。


 楽しい思い出を振り返りながら、次の講義までの時間、大学のカフェテリアでボーッとしていると、



「よお昴、なんかいいことあった?」


「まあ、ちょっとね」


「イケメンがそんな顔してると、周りの女子が煩いこと。そのオーラ、俺に分けて欲しいよ」



 友人の雅弘が声をかけてきた。


 いつも忙しそうにしている彼は、とてもコミュ力が高い男だ。俺と取っている科目がかなり重なっていたこともあり、大学に入ってすぐの時期に親しくなった。



「何を言ってるんだよ。雅弘こそ日頃からモテモテじゃないか」


「俺はガードが緩いからな。女子からすると、気さくで話しやすいんだってさ。合コンの幹事もしてるしな。ところで昴くん、前に新世代VRギアを持ってるって言ってたよな?」


「うん。持ってるよ」


「よしっ! 1人目GET!!」


 1人目GET!? いったい何だ?


「いきなりガッツポーズしてどうしたんだ?」


「友達思いの昴くんに、お願いがあるんだ」


「何?VRに関係すること?」


「そう! そうなんだ! 思いっきり関係がある、っていうかVRゲームそのもの。」


「そのものって?」


「今度配信される次世代VRMMO『Treasure Hunters of The Cristal World』略してトレハンCWを、昴にちょっとやって欲しいんだ」


 新しいゲーム? いやあ、それはちょっと。


「無理。俺、ISAOで手一杯だし」


「いやいや。もうちょい話を聞いてくれるかな?何もずっと続けてくれっていうわけじゃない。まず、キャラメイク時に、俺の『招待コード』を使って特典を受け取る。そして、正式ゲームでレベル20まで上げる。それでおしまい。アプリのDLは無料だし、月額使用料も、設定を変えなきゃ無料」


「それ、俺にどんな得があるわけ?」


「そうくると思った! これ見て、これ」


「『笑いの祭典。爆笑フェスティバル・ペア招待券』?」


「そう。これ凄い人気のイベントで、普通だとなかなかチケットを取れないんだよ。俺はコネを使ったけどな。もちろん無料。お前の彼女、お笑い好きだって言ってただろ?」


「……まだ彼女じゃないかな」


「おや。見かけによらず奥手だな。じゃあこれが、距離をグッと縮めるいい機会になるんじゃないか?絶対喜ぶって」


 距離を縮める。そう言われてしまうと、グラッとくる。


「そうかな?」


「そうそう。無料で手に入れたチケットだって分かれば、相手にも気を使わせずに済むし、イベントの後、食事にも誘いやすいと思うぞ」


「お前、口が上手いなぁ」


「おっ! その気になってきたか?決断は早い方がいいぞ。このチケット、欲しがる奴はかなりいるからな、マジで」


 まあ、ここまでサービスしてくれるんだ。断る理由もないかな。


「分かった。引き受けるよ。レベル20まで上げたら止めていいんだよな」


「ありがとう、昴! 話が早くて助かるよ。『招待コード』は後で送るから、届いたら早速キャラメイクして頂戴。最初の方で入力する画面が出るから、忘れずに使ってくれよ。」


「分かった。そこは気をつける。」


「正式ゲームは配信前だが、プレゲームをDLすればチュートリアルまでは進めるから。その案内コードも後で送っておく。じゃあ、はい。チケットどうぞ」


「引き受けた以上、早めにやっておくよ。そうじゃないと、俺も落ち着かないからな」


「そういう真面目なところ、頼りにしてるよ。じゃあよろしく。俺は次の奴を探さないと」


「忙しい奴だな。いったい何人集めるつもりなんだ?」


「できれば10人少なくとも5人。招待1人・5人・10人ごとに非売品のレアアイテムを貰えるんだ。非売品ってとこが重要。俺、アイテムコレクターだから」


「そっか。大変そうだな。頑張れよ」


「イケメンの応援で元気出た。昴がやるって聞いたら、釣れる子が出てくるかもだし。いけるいける。頑張るぞ! 」



 *



 チケット…貰っちゃったよ。人気イベントだって。誘ったら来てくれるかな?


 さっき雅弘のやつ、何て言ってたかな?……チケットが無料なら、チケット代に気を使わせずに済むから、食事に誘いやすい…だったな。


 よし。


 さっさとキャラメイクを片付けて、メールを送ってみるか!




 *-----*-----*-----*-----*-----*




 《『Treasure Hunters of The Cristal World』へようこそ。》



 《既存データがありません。新規アカウントを作成しますか?》


 ポチ。


 《「招待コード」をお持ちの方は、ここで入力して下さい。※使用した招待コードは、アカウントに登録されます。リセットをしても、他の招待コードを使用することはできなくなりますので、ご注意下さい。》



 これか。「招待コード」は…ポチポチポチ……ポチと。入力OK。



 《ユーザー「(みやび)」からの招待を確認しました。「招待特典」は、ゲーム開始後、「亜空間収納」に送られます。》



 *



 《キャラメイキングを開始します。読み込むアバターデータを選択して下さい。》



 これはさっき、パーソナルデータを自動編集でザクッとイジって作ったものを指定する。ISAOのプレイヤーに見つかると恥ずかしいから、「ユキムラ」のアバターは使わないことにしたんだ。



 ……出てきた。



 おれの面影が残っているが、もっと大人っぽく見える。そういう風に外観の年齢設定を変更できたので指定した。あと、髪全体を少し明るめにして、前髪は少し長め。



 これで[確定]。



 《種族を決定します。ランダムスロットを回して下さい。※キャンセルは2回まで可能です。キャンセルすると、その選択は破棄され、保留することはできません。》



 このゲームは、ISAOと違って[種族]が大事な要素らしい。雅弘がメールで教えてくれた。全てランダム選択で、自由には選べない。2回まではキャンセルしてやり直しができるって。でも、すぐやめるゲームなわけだし、やり直しをするつもりはないけど。



 ポチ。



 《ランダムスロット結果: 「金鵄(きんし)族」。これでよろしければ[確定]を、やり直すなら[再試行]を押して下さい。》



 [確定]



 《種族名: 「金鵄族」に確定しました。アバターの配色を、一部、「種族固有カラー」に変更致します。》



 うげっ。



 髪の色が、金色?っぽい橙色?になった。虹彩色も、同じく金色がかった橙色だ。……派手だなぁ。



 金の……(とび)



 見た感じ、全然鳥っぽい感じはない。……色は派手だけど、変な耳とか尻尾が生えていないだけマシか?



 《「種族固有カラー」以外のアバター色の調整ができます。》



 [スキップ]



 《メインスキルを選択して下さい。》



 メインスキルか。



 この種族……ステを見る限りでは、STRとAGIが、飛び抜けて高い。回避型戦士タイプってとこだな。じゃあ、これでいいか。レベル20までだし、慣れた武器の方がいいだろう。



 《【刀術】で宜しいですか?一度決定すると変更できません。》



 [決定]



 《ユーザー名を登録して下さい。※一度決めたユーザー名は変更できません。》



 このゲーム、ユーザー名に漢字が使えるようだ。じゃあ、「信繁」……いや、「源次郎(げんじろう)」にするか。ポチ。



 《キャラメイキングを終了します。続いてチュートリアルを始めますが宜しいですか?》



 よろしいですよ、と。



 *

 *

 *



 視界が切り替わり、気がつくと天井が高く広い洞窟の中にいた。光源はどこか分からないが、明るさは十分だ。


 そして、目の前には小鳥。


 ハチドリみたいな、輝きのある鮮やかな緑色の小鳥が、空中でホバリングしている。



 《初めまして。私はこの世界の案内を任された「ハミング」よ。チュートリアルの間、よろしくね。》



「源次郎だ。よろしく」



 《源次郎…じゃあ、源ちゃんって呼ぶわね。まず最初に「ステータス」って念じてちょうだい。》



 なんか、馴れ馴れしい鳥だな。…ステータス。



 《目の前に出てきたのがステータス画面よ。次に、「亜空間収納」の項目にある、「装備ボックス」っていうパネルを触ってね。》


 《メインスキルに合わせた初期配布の武器と防具一式が入っているから、そのふたつを選んでから「装備」って念じて。それで装備できるはずよ。》



 装備OK。



 《このやり方のほかに、予め「パターン登録」をしておくと、「亜空間収納」から直接装備することもできるようになるから、後で試してみてね。》


 《じゃあ次に、サブスキルについて説明するわ。サブスキルは……》



 終始、馴れ馴れしい口調だったが、説明は分かりやすく親切だった。そんな感じでチュートリアルを終了し、あとは正式ゲームの配信後になるので、ログアウトした。




 *-----*-----*-----*-----*-----*-----*




 《ユキムラです。こんにちは。


 今日はゲームのことじゃなくて、リアルでの話なんです。実は、『笑いの祭典。爆笑フェスティバル・ペア招待券』っていうのを友達から貰いました。


 そこで、以前キョウカさんが、お笑いが好きでライブをよく見に行かれるって言っていたのを思い出しました。よろしければ、このイベントに一緒に行きませんか? ご都合はいかかでしょう?


 日時は◯月◯日、◯時開場◯時開演です。お返事お待ちしています。》



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