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59 帰還

 



 気がつくと、だだっ広い野原に立っていた。あれほど不気味だった沢山の手は、もうどこにも見えない。丈の低い草が一面に生えているだけ。


 なんだか寂しい感じの野原だな。


 辺りはほの暗く、太陽の姿はもちろん、月や星さえ見えない。俺以外に動く者の姿は見当たらず、静か過ぎるくらいに音がしなかった。


 右を向いても左を向いても、あまり景色が変わらない。


 どっちへ行けばいいのか、見当もつかないな。


 ふと足元を見ると、地面の所々がぼんやりと光っているのに気づいた。


 ……夜光花。いや、楽園草か。


 楽園草の儚い光は、全体をよく見ると点々と連なり、道を作っているように……見えなくもないか。光が導く先には、木々が疎らに生えた林のような影が見える。



 他にあてもないし、行ってみるか。



 暗い林の中に分け入って行くと、地面が淡く発光している開けた場所に出た。


 楽園草の群生地か?


 しばらく花を眺めていたが、何も起こらない。花を踏みつけるのには抵抗があったが、思い切って中に足を進めてみる。



 フワッ。



 何かが優しく俺の頬を撫でた。



 フワリフワリ。俺の顔・首・頭・身体を、撫でては去っていく不思議な感触。


 フワリ、フワリ。以前もこんなことがあったな。



 《『精霊のいざない』が発動しました。転移します。》



 またもや俺の視界は暗転した。……最近は、こんなのばっかりだ。




 *

 *

 *



 ここは?



 周囲を確かめる前に、アナウンスがあった。


 《『アスポデロスの野』が解放されました。対象者: ユーザ名[ユキムラ」。

 これ以降、転移に際する演出はショートカット可能です。ショートカットしますか?》



 →[ショートカットする]


 →[1回毎にショートカットの有無を確認する]


 →[ショートカットしない]



 ※この設定は、タッチパネルから随時変更可能です。》



 えっと……こんな時には中庸の選択肢を選んでしまう俺。変更可能だって言うけど、1回毎で。ポチッ。



 《設定しました。今後、演出のショートカットを選んだ際は、『転移魔法陣』を演出の代替といたします。》



 矢継ぎ早で、何を言われているのかよくわからない。で、結局ここはどこなんだ?


 改めて辺りを見回すと、そこは俺のよく見知った場所だった。



 またここか!



 常闇神殿。……かつて来たことのある洞窟状の神殿。その祭壇前に、俺は立っていた。




 *

 *

 *



 あの後、解放された『アスポデロスの野』の仕様を確認して、それからジルトレに戻った。


 そして今俺は、ウォータッド大神殿の私室にいる。帰ってきたぜマイルーム。 すっかり馴染んだ部屋の中で、思いっきりダラけて寛ぐ。ゴロゴロ。


 いやー。


 今回は本当に参った。やっと帰ってこれたって感じ。自分で入れたお茶がやたら美味い。


 ずっとゴロゴロしていたわけじゃない。


 大神殿の図書室にも行き、いろいろ調べてきた。その結果分かったことだが、『アスポデロスの野』というのは、冥界の一部であり、冥界の中ではこの世と最も近い場所……ということだった。


 どこに載っているのか見当がつかなかったので、これと思う本を次から次に開けて読んでいくうちに、やっとそういう記述が出てきた。今では、タッチパネル上の[説明]にも、同様の説明が出てくるようになっている。


 この『アスポデロスの野』が解放されたことで、「常闇神殿」と「蛇塔聖堂」(螺旋の塔の出入口がある聖堂)の間を転移で移動できるようになった。これは1回きりではなく再現性があるらしい。


 転移条件は、帰還後に新しく得た特殊称号『冥界の帰還者』を持っていること。


 だが、この移動システムの使用にはクールタイムがあることも分かり、気軽にポイポイ使えるわけじゃなかった。今でこそグラッツ王国へ行く稀少なルートかもしれないが、エリアが解放されて他のルートが開通してしまえば、便利かどうかは微妙なところだ。



 *



 そうだ!


 メール機能が戻っているかどうかも調べないと。


 メールボックスを開けると、……なんだか沢山メールが来てる。さっきピコピコ鳴ってたのはこれか。


「黒曜団」のレオンさんに、「賢者の集い」のハルさん。ココノエさんからもだ。アカギさん、ヘイハチロウさん、ガルダの試練で一緒だったアカツキさんまで。


 いつの間にか、フレ増えたな。


 ……って言ってる場合じゃない。キョウカさんから来てるじゃん。




 《こんにちは、キョウカです。メールで連絡がつかなくて、みんな心配しています。トラブルじゃないといいのですが。可能ならメール下さい。》



 うわっ、ヤバ。返信返信。



 《こんにちは。ユキムラです。ご心配をおかけして済みません。シークレットクエスト絡みで特殊エリアに行っていて、今やっとジルトレに戻って来ました。キョウカさんや皆さんは、今どちらですか?》



 送信。



 他のメールも見なくちゃだけど、なんか疲れたな。そうだ、妖精と索冥も出して、顔合わせをしないとな。


 3人?を呼び出す。


 全員揃うとかなり明るい。みんな燐光でピカピカ光ってるから。


 どうやら……お互いに観察を始めたようだ。


 3人が親睦を深めている間に、俺は床にゴロゴロ落ちているカラフルな実を拾い集めることにした。



 赤・青・黄・緑・白・黒


 これは6属性「火・水・土・風・光・闇」だな。分かりやすい。



 半透明のガラスみたいな青・黄・緑


 これは「氷・磁・雷」



 そして銀。これが「聖」属性。銀色の玉を拾おうと手を伸ばしたとき、すぐそばにもうひとつ、目立たない玉があるのに気づいた。



 ……透明?



 無色透明か。この属性はなんだろう?もう一度床に転がして、【Sフィールド鑑定】をしてみる。


「時空属性」


 こんな属性あったんだ。ふーん。




 《ピコン!》



 《キョウカです。クエストだったんですね。安心しました。私達は全員、アドーリアの街に滞在中です。アドーリアは、解放クエスト『巨人の切り通し』の攻略のため、現在生産がとても活発になっています。


 ユキムラさんは、攻略には参加しますか?いろんな人にユキムラさんのことを聞かれました。


 攻略が終わるまでは遊ぶ時間が取れませんが、よければこちらに来ませんか?面白そうなアスレチックエリアがあるんですよ。みんなで帰りに寄ってやって行こうって話になっているので、ユキムラさんも来れそうなら是非一緒にやりましょう。》



 アドーリアか。


 帰ってきたばかりだけど、みんなが行ってるなら行ってみるか。でも、ちょっとお土産を作ってからにしようかな。だいぶ心配かけちゃったみたいだし。お詫びの品ということで。



 *

 *

 *



 厨房に行くと、しばらく留守にしていたせいで、物販所の売り物の製作も頼まれてしまった。そして、頼まれた量を作り終わる頃には、結構長い時間が経ってしまっていた。


 その間に、妖精たちと索冥は仲良くなったようで、今は一緒におやつを食べている。索冥のは、虹彩樹産の銀玉と不殺のレシピの余った材料で作った特別製。しばらくはもつが、いずれ材料のストックがなくなるので、他に使えそうな素材も探しておかなきゃな。


 調理の合間に、届いていたメールに返事を出したら、改めてお誘いのメールが来た。もちろん巨人討伐のだ。考えるまでもなく引き受ける。


 よし、準備も出来たし出かけるか。



 〈乗ってく?〉



 えっ!? いやいや。



 本音を言えば索冥に乗って行きたい気持ちもあるが、さすがに目立ち過ぎる。空中散歩は別の機会にすることにして、索冥には虹星に入ってもらった。


 一方、他の2人は俺の肩にしがみついて、一緒に行くアピールをしていたので、しばらく出しっ放しにすることに。最近ずっと引っ込めていたから、それもいいかなって思ったんだ。



 では、出発!



 *



 ジルトレから始まりの街へ。そして、始まりの街からトリムへ。もちろんソロで移動。


 なんかこうやって闘うのも久しぶりな感じだ。立て続けにいろいろあり過ぎだよ。シークレットクエストだから、仕方ないのかもだけど。



「す、すいません!ちょっと話をしてもいいですか?」



 始まりの街を出たところで、見知らぬ少年に声をかけられた。なんだ?



「あの、間違ってたらすみません。もしかして、公式PVに出ていた方ですか?」


「えーっと、君が見たのがどれかは分からないけど、幾つかのPVには映っていると思うよ」


「あ、あの、僕、そのPVを見て支援系の神官になったんですけど、なかなか思ったように育成が進まなくて」



 同業者だとは服装を見て分かったが、支援系とは珍しい。これはちょっと親切にしてあげてもいいかな。



「支援系は、最初の頃は育成が大変だけど、慣れてしまえばわりと順調に行くよ」


「あの、それが、どう育成していいか、かなり迷っていて。もしご迷惑でなかったら、具体的にアドバイスを貰えたらと思って」


「俺に分かることならいいよ。参考までに、今の位階は何か聞いてもいい?」


「今はまだ司祭なんです。もう少ししたら転職できそうなんですけど」


「なら、今の時期は、Jスキルのレベル上げを頑張るのが大事かな。俺はそれ以外に、神殿業務の[調理]もしてたけど」


「調理ですか?」


「うん。リアルで実際に料理してるから、とっつきやすかっただけなんだけど、やってみるとなかなか面白いよ」


「僕、料理はしたことないです」


「じゃあ、無理してやらなくていいと思う。人それぞれだから。ジルトレに来るなら一緒に体験することもできるけど」


「僕、頑張ってジルトレに行きます」


「じゃあ、待ってる。これから解放クエストの方へ行っちゃうから、しばらくは留守にするけど、終わったら戻るから。ジルトレには、俺以外にもプレイヤー神官が何人か滞在しているから、行けば、その人たちにもいろいろな話を聞けると思うよ」


「はい。ご親切にありがとうございます。これからよろしくお願いします」



 フレ登録をして、その少年とは別れた。


 イナバ君、お礼の言える子だった。支援系神官の後輩か。なんか新鮮。エリーにメールを入れておくか。ジルトレでボッチになったら可哀想だからな。



 その後の旅路は順調で、トリムから王都、王都からクォーチを経由して、ようやく目的地のアドーリアに到着した。



やっと帰って来れました。ここで5章終了です。明日からの6章もよろしくお願いします。

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