06 施療院
「司祭様、ありがとうございました」
「はい。お大事になさって下さい」
「施療院」はとても混んでいた。
予想していたよりも、利用するNPCの人数がかなり多くて、一旦施療を始めると、なかなか患者さんが途切れなくて大変だ。
でも、みんな治療後は身体が楽になるようで、凄く喜んでくれる。それに、重症な患者は神殿長様が施療されるので、俺のところに回ってくるのは軽症者ばかりで悲愴感はない。
人(NPCだけど)に感謝される仕事っていいものだな。現実じゃあこう上手くはいかないだろうが、ここはゲーム世界だ。こういうゲームの楽しみかたもありだなと思う今日この頃。
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「施療院」は、基本的には昼の時間帯にしか開院していない。他にも昼時間帯にしなければいけない日課や仕事が多いので、ここのところフィールドへは夜時間帯に行くことにしている。
夜時間帯には、東の草原にも狼が出るんだ。
ギルドで受ける依頼も、採取依頼じゃなくて討伐依頼になるから、討伐報酬が出る代わりに難易度は昼時間帯よりも高くなる。まだレベルでゴリ押しが効くから大丈夫だが、狼は群れで来られると結構相手にするのが大変だ。
その代わり、レベルが上がり易くなった。
狼はちゃんと倒せるなら経験値的には美味しい。そして俺はまだソロプレイ中だ。
現状、討伐中心で動いている前衛職のプレイヤーたちと、固定パーティを組むのは無理。というのも、固定パーティは拘束時間が長い上に、時間に融通の利くメンバーを希望するからだ。
だから、神殿の仕事で忙しい俺にはとても務まらない。
俺は本当に最近、よく働いている。これって、神殿のNPCよりも仕事量が多いんじゃない?って思うことも多い。
……何故こうなった。
「司祭様、お願いします」
「はい。次の方どうぞ」
まあでも、一旦引き受けた以上、ちゃんとやるつもりだ。NPCの患者さんも、だいぶ馴染みになってきたし、感謝されるのは嬉しい。
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【JS疾病治療I】は、取ってみて分かったが、実はかなり奥の深いスキルだった。
【JS疾病治療I】MND+10 疾病を緩和・治療する。治療効果はMND値・加護・スキルLVに依存。 ※スキル選択により覚えることが出来る。
①「常跡」技 スキルレベル IーV ※効果はMND・GP消費量依存。
【JS疾病治療I】「快癒の光」 筋骨関節系。
【JS疾病治療II】「滅魔の光」感染症 ←イマココ!
【JS疾病治療III】「平癒の光」慢性疾患(各臓器の慢性障害 脳肝腎肺心消化管)
【JS疾病治療IV】「恢復の光」急性疾患(各臓器の急性障害 脳肝腎肺心消化管)
【JS疾病治療V】 「還元の光」新生物・悪性腫瘍除去
②「奇跡」技 スキルレベルVIーX ※成功率が設定され、クールタイムが発生する。
【JS疾病治療VI】「全癒の光」疾病により残った障害を含めて治す。
【JS疾病治療VII】「甦生の光」先天異常(機能的 てんかん)
【JS疾病治療VIII】「回転の光」先天異常(器質的 先天的欠損 染色体異常)
【JS疾病治療IX】 「悠久の光」加齢を緩和・若返り効果
【JS疾病治療X】 「蘇生の光」疾病により死亡に至った者を治療し蘇生する。
……いや、IからXまで、これ全部奇跡だろ。
それに、俺の所有するその他のスキルと比べて設定が細かい。細か過ぎるくらいだ。
JSスキルってみんなこうなのか?NPC相手に使うスキルに、ここまでの設定を用意する必要ってあり?もしかして、いずれイベントなどで必要になるとか?イベントのキーとなるスキルだったりして。
ISAOならやらなくもないと思うが、スキルの内容を考えると、阿鼻叫喚な状態にならないように祈ろう。
特に「悠久の光」と「蘇生の光」はヤバイ気がする。こんなことができるようになったら、悪役NPC(いるのかどうかは不明)に、拉致とかされそうだ。
いやいや。ナイナイ。
もし起こったとしても、これだけ値段が高いゲームでバッドエンド、キャラロストとかはないはずだ。……だよね? 万一そうなったとしても、きっと正義の味方が現れて、何とかしてくれるに違いない。
でも……無理してスキルレベルを上げる必要はないな。うん。このままNPCの求めに応じて、ぼちぼち施療を続けていこう。
「司祭様、今日の施療はこれで終了になります。ありがとうございました」
「お疲れ様でした。では、自室に引き上げますね。次回もよろしくお願いします」
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そして、神殿の仕事と並行して地道な狩りも続け、やっと目標の金額が貯まったので装備を更新した。
・【司祭のローブ】MND+10 耐久∞
・【六尺棒(赤樫)】STR+15 AGI+5 耐久200
・【疾風のブーツ】AGI+30 VIT+10 耐久300
・【聖典★★】MND+20 耐久∞
購入したのは、武器と靴。
【司祭のローブ】は、神殿の「販売所」で売っている品で、本来は購入しないと手に入らない。
【見習い神官のローブ(初心者装備)】とMND+5しか補正効果が変わらないので、急ぐ必要はないと購入を見合わせていた。ところが、施療院の仕事を始めるにあたり、神殿長様の所に仕事内容の説明を受けに行った際に、仕事着として無料で配布してくれた。ラッキーだ。
以前からずっと使ってみたかった【六尺棒】は、使われている素材の種類が多くてかなり迷ったが、いろいろ試してみた末に、軽くて扱い易かった赤樫に落ち着いた。ちょっと贅沢をしてプレイヤーメイドだ。でも、ステータスが上がったら、金属製に更新するかもしれない。
そして狼対策として是非欲しかったのが【疾風のブーツ】。これもプレイヤーメイド。
狼の群との多対1の戦闘で、AGIの大切さが身に染みたので、奮発してこれを購入した。高かったが履き易く、見た目も俺の好みに合っていてシンプルだがカッコいい。いい買い物だったと思っている。
そして【聖典★★】。★が付いているからもしかして……と思っていたが、やはり装備し続けている内に成長して★が増え、付与効果も増えた。成長するアクセサリなんて、とてもお得だ。これからも大事に使っていこう。
[ユーザ名]ユキムラ [種族]人族 S/Jスキル空き枠 1
[職業]司祭(格★★★)
[レベル]31
[HP]150 [MP]80 [GP]410
[STR]65【装備15】=80
[VIT]65【10】=75
[INT]40
[MND]175【30】=205
[AGI]60【35】=95
[DEX]55
[LUK]40
Bonus Point 0
これが今の俺のステータス。かなりGPが上がってきた。STRとVITは、次の狩場に移る頃にはもう少し上げたいな。
でもリアルの方もおろそかにはできないから、周りを気にせず、俺のペースでこのまま行けばいいと思っている。「神殿」の日課や仕事も慣れてきたし、NPCばかりだけど、ここの居心地はいい。
ISAOを買ってよかった。
始めてまだ1ヶ月弱なのに、こんなに充実しているなんて凄いよな。これからどうなるのか、ますます楽しみだ。
※以下の項目は、読者の方からご質問があった点についての返答になります。
◆蘇生系スキルについて
Q.【JS疾病治療】のように、取得するプレイヤー数が非常に少ないと思われるスキルの最終段階に、攻略の要となりそうな蘇生スキルが用意されていることについて。
A.
ISAO運営トップの方針は、リアル重視。そのため、
「教義の理解も,聖職者としての経験も伴わないような者が、神の奇跡の中でも上位にあたる『人の蘇生』なんてできるわけがない。」
といった考えなので、「相当に修行を積んだ神官系の職業」でないと、蘇生系のスキルは出てこない設定(俺Tueeができない仕様)になっています。
蘇生系のスキルは、【JP疾病治療】以外のスキルでも、スキルレベルMAXになれば出てくるスキルが他に幾つかあります。ユキムラのような支援系以外でも、ガチの神官系職業であれば、恐らくいずれは習得できるのではないでしょうか。
一方、欠損回復については、ほぼNPCに対する治療です。なぜなら、プレイヤーのアバターは、HPが全回復すれば修復されるからです。
そして、蘇生アイテムについてですが、これも初級の生産職が簡単に作成できるものではありません。現状では、ダンジョンの宝箱などから、入手できるものだけになります。
従って、攻略組クランはある程度所持しているはずですが、やはり死に戻りも少なくないです。そのため、このゲームでは、これといったデスペナルティの設定はなく、負担は、死に戻った神殿(修道院)へ少額の寄付をするのみです。
蘇生アイテムも、いずれ薬師系の職業が育ってくれば、作れるようになる予定です。