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003 閑話 二人のユキムラ

⚠︎【閲覧注意】

この閑話は物語の本筋とは関係ありません。飛ばして頂いても大丈夫です。

これまでの話と受ける印象が違う、読後感がよくない。…というご意見を幾つか頂きましたので、お読みになる際にはご注意下さい。

 



 俺の名はユキムラ。



 刀士だ。(本当は見習い刀士だ。だがすぐに刀士になる。だから刀士だ。)


 ユキムラはもちろん、「六文銭」の「真田幸村」から貰った。


日本一(ひのもといち)(つわもの)


 に、俺はなる!!



 そんな俺は、ただいま絶賛ISAO中。念願のISAOだ。第二陣だけどな。しかし、俺の活躍はこれから始まる。さっさと第一陣に追いついて、追い越してやるのさ。


 そして、俺の名を天下に知らしめる。見てろよ!




 《第2の街「ジルトレ」冒険者ギルド》



 来てやったぜ。ジルトレの街の冒険者ギルドだ。


 道中出てきたカッパみたいな敵を、俺は一刀のもとにバッタバッタと切り倒し、とうとうここまで来た。レベルもかなり上がったぜ。さすが俺だ。



「お兄ちゃん、ちょっと休もうよ。あそこに、イートインみたいなのがあるよ。ISAOって、食べ物や飲み物が美味しいんだって!なのに、ゲーム始めてまだ蜜しか飲んでないんだよ」



 妹よ。お前は情緒がなさすぎる。


 しかし、飯か。うまいのか。それは試してみてもいいな。腹が減っては…って言うしな(武士は食わねど…という言葉もあるがな)!ちなみに、ことわざは得意だ。



「ナデシコ、先に席とっとけ。俺は常設依頼の報告をしてから行く」



 そうしないと金がないからな!



「依頼の報告ですね。ギルドカードの提出をお願いします」



 おっ!ここのねーちゃんも美人だな。でもなんで年増(おばさん)なんだ?始まりの街も年増だった。


 チッチッチ!


 わかってないな運営。やれやれ。受付嬢といえば猫耳ギャル。お約束はちゃんと守ってもらわないと。



「合計 3,600G になります」



 うわっ、怖え。なんか睨んでないか、このおばさん。接客態度悪過ぎ。いや、NPCがそんなことするわけないか。気のせい、気のせい。


 よし。金も手に入ったことだし、メシを食うか。



「お兄ちゃん、どうだった?」


「わりといい金になったぞ。渡しておくな。美味そうなのあったか?」


「んっとねー。オススメは、これみたい。ジルトレ名物のシチューだって」


「ふーん、シチューか。悪くないな、食ってみるか。注文よろしくな」


「うん、行ってくるね」



 しかし、空いてるな。静かだし。冒険者ギルドって、もっとザワザワしているもんじゃないか?まあそれもそうか、第二陣はまだみんな始まりの街だろうしな。


 俺たち以外はなっ!


 第二陣の先陣を切るのも大変だ。まあ、俺だからできるがな。


 でも、第一陣はいったいどこにいるんだ?


 カウンターにも誰も並んでない。過疎か? 受付嬢が猫耳じゃないから、獣人の村にでも集団移動したのかもしれないな。きっとそうだ。俺も探そう。



「常設依頼の報告をお願いします」



 おっ。そう言ってたら人が来た。


 背が高いなあいつ。く、悔しくなんかないぞ、俺はこれから成長期が来るんだ。そうだ、そうに決まってる。あいつは装備からして坊主みたいだしな。顔も地味だし。俺の敵じゃあない。うん、敵じゃない。



「あら、ユキムラさんお久しぶり。ギルドカードをお預かりしますね」



 …………。



 な……なんだと!?


 ユキムラ?ユキムラって言ったか?ユキムラは俺だぞ。「日本一(ひのもといち)(つわもの)」だ。そうだ、日本一だ。日本ニでも日本三でもない。ユキムラは一人じゃなくちゃいけないんだ。



「お兄ちゃん、シチュー頼んできたよ。怖い顔してどうしたの?って、お兄ちゃん、どこ行くの?」



「おい。お前、俺と勝負しろ!」


「えっ?勝負??」


「お前、ユキムラってんだろ?俺も、いや俺が()()()ユキムラだ。だから勝負しろ!」


「名前?……ああ、ユーザー名が同じなんですか。でも、ISAOではユーザー名は重複可だし、カタカナ表記しかできないから、被りもあるんじゃないですか?」


「そんなことは知らねえよ。とにかく本物のユキムラは俺だ!だから勝負しろ!」




 《ギルド訓練場》



「おい。どっちが勝つと思う?」


「んー。まあ決まりかな。神官服の方は、時々見かける顔だから第一陣だろ?で、喧嘩売った小僧の方は戦闘職みたいだが、装備を見ると第二陣っぽい。レベル差からいったら、まだ神官の方がかなり強いと思うぞ」


「だよな。賭けにならないよな」


「おっ?木刀でやるの?小僧の方が『刀で勝負だ!』って言ってるぞ」


「マジ?相手は神官なのに?木刀でワンチャン狙いか?」


「あっ!神官の方が木刀に持ち替えた。マジか」


「そもそもなんでこんな勝負してるんだ?」


「俺、聞いてたぞ。ユーザー名が被ってるって小僧がいきなり怒って、『勝負だ!』って吹っかけてた」


「あー。困った君か。ユーザー名被りなんて当たり前じゃん、制限なしなんだから」


「有名戦国武将なんて、被らない方がおかしい。実際、ノブナガとか二桁以上いるし」


「ノブナガなの?」


「いや。『ユキムラ』。真田幸村。みんなが知ってる有名武将」


「本名かもしれないって考えないのかね。神官で『ユキムラ』とかあまりつけなさそうだよな」


「神官で『ユキムラ』?……ちょっと待て。やべえ。あの小僧、社会的に逝ったわ」


「何者?」


「あの地味顔。まず間違いない。あれ、『神殿の人』だ」


「マジ?この街で『神殿の人』に喧嘩売るとか。面白過ぎ。掲示板に流そ」


「『神殿の人』かぁ。NPCの好感度がヤバイらしいね。なんでも、『神殿の人』の通った後は、NPCが次々と頭を下げていくせいで、見通しがよくなるって噂が」


「本当かよ、それ? おっ、はじまったぞ」



 *



「……あれ。武道経験者だな。構えが違う」


「神官さんの方だよね。わかる。型が決まってる。で、小僧の方は、……なんか特撮レンジャーみたいだな。決めポーズかって!気合いだけは感じるけど」


「リアルスキル違い過ぎ。ステ差もあるし、こりゃ勝負にならないな」


「そっかぁ。神官なのに『ユキムラ』は、リアルで剣道か何かやってるからなのか」


「踏み込み速え。剣速も速い。剣術、持ってないんだよな?リアルスキル凄いな」


「おっ。決まったな。勝負ありだ」


「観戦乙」


「さて行くか、いい休憩になったな」




 *

 *

 *




「ごめんね。刀を持った勝負では、手抜きは出来ないんだ」



 奴はそう言って去って行った……悔しいがカッコいい。



「お兄ちゃん、大丈夫?もう!ゲーム始めたばかりでこれだなんて、超信じらんない。シチューだって、せっかく頼んだのに置いてきちゃったんだからね」


「ナデシコ…男には勝負しなくちゃならない時があるんだ」


「知らない人に喧嘩売るののどこが勝負よ!あんまり変なことばっかりするなら、パーティ解散だよ」


「ふっ。所詮、女には分かるまい」


「何言ってるの、このバカ兄い!」




 ----------------------------《ナデシコ view》




 私はナデシコ。弓術士よ。(本当は見習い弓術士。だって始めたばかりだもん。)



 ナデシコはもちろん、大人気アニメ「戦乙女 フラワーキューティ」の「キューティ撫子」から貰ったの。


「戦乙女 フラワーキューティ」は、5人組の女の子。刀の桜・槍の椿・斧の山吹・盾の桔梗そして弓の撫子。色違いの袴を身につけて闘う姿は、とてもカッコいい。


 撫子みたいな強くて可愛い女の子に……私はなりたい。


 そんな私は、絶賛ISAO中。


 念願のISAO。本当は第一陣だったんだけど、事情があって第二陣と一緒のスタートになっちゃった。



 でも、これからきっと楽しい冒険が始まるわ。やたらテンションが上がっているお兄ちゃんが心配だけど、パパと約束してやっと始められたISAOだもの。いくらお兄ちゃんだって無茶はしないはず。


 あれ?


 お兄ちゃん、どこに行くの?初心者ダンジョンの入口はあっちよ。そっちにそのまま行ったら、初心者エリアから外れちゃうのに。




 《第2の街「ジルトレ」冒険者ギルド》



 来ちゃいました。


 ジルトレの街の冒険者ギルドに。


 道中、頭にお花が咲いた「メル」っていう可愛いモンスターが沢山出てきた。


 忘れちゃってたけど、今はイベント期間中で、始まりの街とジルトレの街の間の草原は、イベントエリアになっていて、普段の敵よりずっと弱い「メル」しか出てこないんだった。


「メル」ちゃんには申し訳なかったけど、お兄ちゃんに群がっているところを1匹1匹着実に射倒して行ったの。


 楽しかった。


 リアルで弓道をしているし、ゲーム補正もあって、最初から命中してくれたの。レベルはかなり上がったけど、ジルトレに来るにはまだ早いはず。でも、イベント期間中だけならいいかな?



「お兄ちゃん、ちょっと休もうよ。あそこに、イートインみたいなのがあるよ。ISAOって、食べ物や飲み物が美味しいんだって!なのに、ゲーム始めてまだ蜜しか飲んでないんだよ」



 ISAOを手に入れてから、実際に始めるまで2ヶ月もあったから、ISAOについてはいろいろチェック済み。攻略本も持っているし、情報サイトもよく調べたわ。



「ナデシコ、先に席とっとけ。俺は常設依頼の報告をしてから行く」



 換金は、お兄ちゃんに任せても大丈夫かな?


 本当にやっとここまで来れた。友達に勧められて応募した懸賞が、まさかの当選!ISAOのギアセットが本ゲーム開始前に届いた時は、お兄ちゃんが大騒ぎして家中が大変だった。


 可能なら、お兄ちゃんにあげてもよかったんだけど、転売防止の為に、懸賞に当たった本人しか登録できないようになっていたの。


 お兄ちゃんが、成績とか進路とかパパに沢山条件を付けられて、VRギアセットを入手したのが、つい最近。


 それまでは、お兄ちゃんの手前、ISAOを始める訳にもいかず、パソコンでこっそりアバターを作るので精一杯。


 だから、アバターは、我ながらとてもよく出来ていて、いい感じにキューティ感を取り入れられたと思うの。髪の色は「キューティ撫子」と同じパステル・ピンクよ。



「お兄ちゃん、どうだった?」


「わりといい金になったぞ。渡しておくな。なんか美味そうなのあったか?」


「んっとねー。オススメは、これみたい。ジルトレ名物のシチューだって」


「ふーん、食ってみるか。注文よろしくな」


「うん、行ってくるね」



 お兄ちゃんたら、いい刀が欲しいから金貸してくれってしつこいんだもの。


 初心者装備で耐久∞の刀を貰ってるのに。でも恥ずかしいくらい人前で頭を下げるから、仕方なく初期配布のG(おかね)を渡したの。だから他に何も買えなかった。あとでお店でも覗きに行こうっと。



「おじさん、シチューを二つお願いします」


「あいよ。大盛りと普通盛りがあるが、どっちにするかい?大盛りは1杯200G、普通盛りは1杯150Gだ」


「二つとも普通盛りでお願いします」


「はいよ。出来上がり次第、テーブルに運ぶから、座って待っていてくれ」


「はーい」



 あれ?お兄ちゃん何で立ち上がってるのかな?それになんだか雰囲気がおかしい。



「お兄ちゃん、シチュー頼んできたよ。怖い顔してどうしたの?って、お兄ちゃん、どこ行くの?」



 お兄ちゃんが、ギルドカウンターの前にいる男の人のところに行っちゃった。



「おい。お前、俺と勝負しろ!」



 やだ、信じられな〜い。


 何喧嘩売ってるの?他人に迷惑をかけないって、パパと約束してたじゃない。なのに知らない人に喧嘩売るとか、迷惑そのもの。マジありえない。




 《ギルド訓練場》



 うん、無理。


 お兄ちゃんじゃ勝てないどころか、ハナから相手にならない気がする。


 喧嘩を売った相手の人、体幹がしっかりしていて姿勢もいいし、鍛えている人だと思う。身長は10cm……いえ、15cmくらい違う。それにこの街にいるなら第一陣だよね。



「刀で勝負だ!」



 えっ?あの人、神父服みたいなの着ているし、棒を持っているから、神官職だよきっと。


 なのに武器指定「刀」?


 一方的に喧嘩を売っておいて、自分の有利な武器を指定するなんて、卑怯者って言われちゃうよ。お兄ちゃん、ヤバイよそれ。掲示板で拡散だよ。


 ……相手の人も木刀に持ち替えちゃった。仕方ないって表情してる。ゴメンナサイ、ゴメンナサイ。お兄ちゃんが迷惑かけてゴメンナサイ。


 あら。あの人カッコいい!フラワーキューティの桜ちゃんみたい。凛とした感じ。


 お兄ちゃんは……。


 うん。見なかったことにしよう。「ゲーム同好会」所属で、ほぼ帰宅部のお兄ちゃんには、あれが精一杯なんでしょう。


 速い!一瞬で決まっちゃった。



「ごめんね。刀を持った勝負では、手抜きは出来ないんだ」



 こちらこそゴメンナサイ。



「お兄ちゃん、大丈夫?もう!ゲーム始めたばかりでこれだなんて、超信じらんない。シチュー、だってせっかく頼んだのに置いてきちゃったんだからね」


「ナデシコ……男には勝負しなくちゃならない時があるんだ」



 やだもう、馬鹿馬鹿馬鹿、本当にお馬鹿。



「知らない人に喧嘩売るののどこが勝負よ!あんまり変なことばっかりするなら、パーティ解散だよ」


「ふっ。所詮、女には分かるまい」


「何言ってるの、このバカ兄い!」



 あとで分かったことだけど、相手の人は攻略サイトにも必ず名前が挙がるような有名人だった。


 NPC好感度のページで。


 そして神官職のページでも。


 あの勝負?のあと街に買い物に行ったら、NPCの人たちがお兄ちゃんに冷たい。


 気のせいじゃない。


 私には普通に愛想がいい店員さんが、お兄ちゃんを見ると表情が変わる。お兄ちゃんは、元々NPCはAIって思ってちゃんと見ていないから、気付いてないと思うけど。



 さっき情報サイトをチェックしたら、掲示板で早速お兄ちゃんのことが話題になってた。第二陣の馬鹿1号って呼ばれてたよ、お兄ちゃん。


 溜息(はぁ)。パパから、お兄ちゃんのお目付役をするように、こっそり言われてるし。ISAOの月々の利用料金を払ってもらう約束だから、逃げる訳にもいかない。



 ナデシコ、ピンチ!



 でも負けない!だって、キューティフラワーはどんなに敵が強くても逃げないし、立ち向かっていくもの!


 力を貸して、キューティフラワー。私、頑張って強くなる。とりあえず、「メル」を倒して妖精をGETしなきゃ。キューティ達にもそれぞれ「花の妖精」が付いているもの。絶対GETよ!



「お兄ちゃん、メル狩りに行くわよ」


「おう。いきなり積極的だな。だが望むところだ!行こう、ナデシコ!」



 ……無事、妖精さんはGET出来ました♡



◆二人のユキムラ 後日談



「なあ、俺なんかバリバリ意識されてないか?」


「そう?気のせいじゃない?」


「いや。気のせいじゃない。街中や店のNPCが、俺を見ると真顔になる。」


「ふうん。どうしてだろうね。」


「参ったなぁ。俺が天下を取るのは、まだだいぶ先だっていうのに、NPCには分かっちまうのか。」


「いや。それ、ないから……。」


「センダンはフタバより何ちゃら……っていうしな!やれやれ。」


「やれやれ?でもまあ、よく知ってたね、そのことわざ。」


「まあな。センダン、潜在能力を秘めた男子…まさに俺のことだしな。」


「……お兄ちゃん、それ誰に聞いたの?」


「クラスのダチだ。」


「……友達は選んだ方がいいよ。」


「ふっ。人気者はつらいぜ!フタを開けたらバーン!だしな。」


「だ・か・ら、友達は選ぼうよ!」


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