第7話 それぞれの悲しみ
一方、人工衛星と、東京に密かに偵察飛行させていた影花からの映像によってM機関の面々も東京消滅の瞬間を目の当たりにしていた。南太平洋の絶海の孤島の地下にある司令室のモニターを見ていた、まほろば艦長の昇も、副長の誠も、千尋も何も癒えなkッタ。ただただ一瞬の出来事で信じがたいことだったからである。
M機関の司令室の面々がその残酷な、そして悪夢のような事実を受け入れるまでに十数秒の時間を要した。昇のすぐそば、わずか5mほど先のオペレーター席から大きな音が聞こえた。その場所に座っていた女性オペレーターが椅子から崩れ落ちたのである。
「・・・お母さん・・・お父さん・・・」
オペレーターの目から止めどなく涙があふれ、嗚咽を漏らしていた。隣に座っていたオペレーターが彼女に肩を貸し、司令室を出て行った。
「すみません・・・俺も少し出てきます・・・」
千尋もまた、悲しみと怒りを精一杯抑えた声で出て行こうとした。
「千尋さん・・・」
「桜花さん。すまない・・・今はひとりにしてくれ・・・」
心配する桜花に目も合わせず、千尋は司令室の扉を開け、出て行った。司令室に自動ドアの閉まる乾いた音が空しく響いた。家族を失った昇はともかくとして、M機関に新しく加わった隊員の多くは家族を東京に残している者が大勢いた。生きて二度と会えないかもしれない。しかし、残して来た家族を守ると言う使命感もまた、M機関の隊員を動かす原動力の一つだった。天使は無情にもそれを一瞬で焼き払った。昇は拳を握りしめた。
「天使め・・・許さん・・・」
昇もまた、天使に向けて闘志を燃やしていた。
「先輩・・・」
誰もいない廊下で、千尋は泣いていた。東京にいた編集長も犠牲になっていた。編集者になりたてのときからフリーライターになってからも、何かと気にかけてくれた先輩の思い出が走馬灯のように千尋に駆け巡っていた。未練はないはずなのに、二度と会えないと覚悟していたはずなのに、千尋の心の中は制御しようのない喪失感で一杯だった。
「先輩・・・」
泣きながら、千尋は無機質な廊下の壁を何度も何度も殴った。千尋の鳴き声と、廊下を叩く音が寂しくこだましていた。