第3話 「轟音炸裂!四連装46cm砲!」
天使による世界首都攻撃によって、先進国の首都はほとんどその機能を失った。天使による昼夜を問わない神出鬼没の奇襲攻撃を前に、わずか3日で各都市は壊滅した。唯一壊滅を免れていたのは東京だけであった。
「たかが東京一つ。僕にかかれば楽勝だよ。」
大気圏に突入する天使「メタトロン」の中で小さな足をばたつかせながらメタトロンは言った。彼が操るメタトロンはバリアを展開しながら減速していった。
空から現れた異常物体を特殊戦術研究旅団所属の早期警戒指司令機あまてらすの超望遠光学カメラがとらえていた。そこには、降下している赤銀に輝く人型の物体があった。
「司令官。あまてらすから緊急信です。」
陸上自衛隊、市ヶ谷駐屯地地下100mにある特殊戦術研究旅団作戦司令部で旅団長の山根陸将補は天使発見の報に接した。
「あまてらす。映像を出せるか?」
山根は即座にあまてらすに指令を下した。数秒のうちにあまてらすの超望遠カメラにとらえられた天使の映像が送られてきた。
「軌道と方位から算出するに、真っすぐに東京を目指しています。」
あまてらすのオペレーターは山根に報告した。司令部のモニターには巨大な天使の姿が映し出されていた。
「でかいな・・・」
メタトロンは七大天使のなかでも最大の機体で全長は200mに達する。護衛艦一隻を縦にしてもなお余りある大きさは遥か遠くからでも威圧感を放っていた。司令部の一同が映像に釘付けになっていると、突然メタトロンの目がカメラの方を向いた。
「まずい!気づかれたぞ!!あまてらす。ただちに現場空域から離れろ!」
「了解」
山根はあまてらすに離脱の命令を出した。あまてらすは旋回して離脱を図ったが、すぐにメタトロンに捕捉された。あまてらすの最高速度は時速800km、天使の中では鈍足とはいえ、マッハ1.5の速力を誇るメタトロンとでは相手にならなかった。
「あははは!!でっかい飛行機!!でも、いくら下から見張ってても、僕らには丸見えだよ。」
メタトロンはあまてらすに追いつくとその大きな翼に取り付いた。あまてらすの防御用機銃である30mmガトリング砲が火を噴いたが、天使相手では豆鉄砲以下の存在でしかなかった。天使一の巨体にのしかかられてあまてらすの翼にひびが入り始めた。
『つぶれろ!!』
メタトロンがそう言った瞬間、あまてらすは瞬時に爆散した。
「あまてらす・・・反応消失。」
オペレーターが沈痛な声で山根に報告した。
「生存者の救出を急がせろ。それから、東京の全住民に避難命令。4時間以内で完了させろ。迎撃部隊は?」
「現在百里基地から、影電隊が出撃しました。三沢、千歳からも空自の鋭光隊が発進しています。あと30分ほどで、接敵します。」
鋭光は影電とほぼ同時期に開発され多用途戦術戦闘機だった。影電がステルス性能を極めた特殊戦闘機として開発されたのに対し、鋭光は戦域、戦術を選ばない多用途戦闘機として開発された。
外観は影電と大して変わらないが、戦域、用途を選ばない汎用性ははるかに影電を超えていた。翼下ハードポイントにもうけられたマルチラックは空自のあらゆる爆弾、ミサイルを積み込むことができるだけでなく、電子線ポッドを装着すれば、電子戦機としても、早期警戒機としても活用出来た。また、多用途戦闘機ゆえにパワーや運動性能が低下すると思われたが、F-15戦闘機と同じエンジンを搭載し、さらに二次元ベクターノズルを導入したことで、運動性、ならびにエンジン出力は申し分無い性能を有していた。
多用途機としての汎用性能の高さ、戦闘機として高いレベルでバランスのとれた性能が認められ、空自の次期主力戦闘機として各地に配備が進められていた。
いち早く鋭光が配備された三沢基地、千歳基地から、それぞれ12機ずつ、合わせて24機の鋭光が飛び立った。
「筑波に『たじからお』の準備をさせておけ。あれが恐らく今回の切り札になる。すさのおはどうだ?」
山根はオペレーターに尋ねた。オペレーターが答えるより早く、別のオペレーターが山根に報告した。
「司令。すさのおより入電です。」
「わかった。モニターに出してくれ。」
すぐにモニターに映像が表示された。モニターには口ひげを蓄えた士官が映っていた。すさのお艦長、末永一佐だった。
「山根君。すさのおは配置についたぞ。奴が我々のいる海域の近くに現れたのが不幸中の幸いだったな。」
「はい。現在の海洋戦力の中で、奴らを倒せる力を持つのはすさのおしかいません。水際で叩いてください。」
山根は一回り年上の艦長に言った。
「何だ。つまんない。こんなんじゃ東京なんてあっという間につぶしちゃうよ。」
山根率いる特殊戦術研究旅団が天使迎撃の準備を整えている中、メタトロンは退屈そうに自分の操る天使をゆっくり東京にむけて飛ばしていた。外見も精神もまるで子どもな彼はその自分とは正反対の巨大な天使をひらひらと操っていた。
日本の海岸線からおよそ300kmの公海上でメタトロンは影電隊10機に捕捉された。
「シャドウ1より全機へやつは世界の都市を焼き払った奴らの同型機だ。しめてかかれ!」
影電隊長の桑原三佐が部下に檄を飛ばした。
「ターゲット、ロック!シャドウ1。FOX3!」
隊長機から2本のミサイルが放たれた。先頭の隊長機にならって、編隊から次々とミサイルが発射された。自身に迫り来るミサイルをその目にしたとき、メタトロンは驚喜した。
「あっははは!!こうでなくっちゃ!もっと僕を楽しませてよ!!」
メタトロンは両手を前方に向けると高出力ビームを放った。ミサイルを全基撃ち落とした。
「化け物め・・・」
影電のパイロット、早瀬二尉が自分たちを見ている天使に毒づいた。
「なら、楽しませてやろう!」
桑原は翼端灯を少し点滅させた。隊長の合図に瞭機達はすぐに散開して距離をとった。天使の前後左右。そして上に散開した影電隊は互いが同士討ちしない絶妙のタイミングでミサイルを放った。
『!』
太平洋の公海上で爆音が轟いた。
「はじまったな。」
影電隊が天使と死闘を繰り広げている海域からほど近い場所に戦艦「すさのお」はいた。
すさのおは日本が大和型戦艦を作り上げて以来、初めて建造された戦艦であった。主砲は大和型からサルベージし、再設計を重ねて改良された46cm四連装砲塔2基、主砲門数では大和型には及ばないが、速射性能、射撃性能は60年の時を経て、格段の向上を成し遂げていた。
さらにすさのおには国産初のレーザー戦車、瞬雷に導入された高フッ素レーザー砲をも搭載していた。
60年の歳月を経て現代によみがえったもう一つの超超弩級戦艦、それがすさのおだった。すさのおは青銅色の衝角をきらめかせ、洋上に威容を誇っていた。
「ふたたび、46cm砲が海で火を吹く時が来るとはな。副長。」
末永は隣にいた副長に話しかけた。山根と同い年くらいの副長は頷いた。
「はい。今度は日本を、そして人類を守るために・・・いささか、痛快であります。」
「ははは。私達はさしずめ、地球防衛軍と言ったところかな。さて、戦闘準備だ。」
末永はブリッジクルーに命令を下した。
「索敵開始、敵座標、計算開始。」
「噴進誘導主砲弾、装填。弾種、09式撤甲焼夷弾。」
「高フッ素レーザー砲、座標点固定。攻撃準備完了!」
ブリッジのオペレーターは淡々と、しかし、とてつもない早さで、戦闘準備をおこなった。
「あとは、戦闘機隊が頼りかな・・・」
末永は双眼鏡を向けた。
『あははは!効かないよ!そんなオモチャ!!』
メタトロンは爆風を振り払った。必殺の影電隊のフォーメーションも天使には通じなかった。ミサイルの攻撃をものともせず、メタトロンは影電を撃墜にかかった。
「ちぃ!!」
桑原率いる影電隊は二次元ベクターノズルをうまく使い、ぎりぎりのところでメタトロンの攻撃をかわしていた。それも限界かと思われたそのとき、空自の鋭光隊が到着した。
「待ちかねたぞ!!」
桑原は銀に輝く鋭光を見た。頼もしい仲間達だった。鋭光は24機一斉にミサイルを発射した。
「よし、俺たちは退くぞ!!」
ミサイルを撃ち尽くした影電は、戦闘を鋭光にまかせ、空域を離脱した。
鋭光の発射したミサイルは真っすぐに天使メタトロンに向かった。
『何発撃っても同じだよ!』
メタトロンはミサイルをまたも迎撃した。ミサイルはあっけなく爆発し、辺りは爆煙に包まれた。
『他愛無い他愛無い。・・・何?』
爆煙を通り越して、さらにミサイルが72発、メタトロンに襲来した。鋭光が全てのミサイルを発射したのである。ミサイルは全て気化爆弾、あたれば天使と言えども傷は免れない。
『くそぉぉぉぉぉ!!!!』
72発のミサイルが全てメタトロンに命中し、辺りは高熱と爆煙で覆われた。
それを見た末永はすぐに発射の命令を下した。
「今だ!!撃てぇ!!!」
すさのおの46cm砲が発射された。地球上の海で、実に64年ぶりに46cm砲の轟音がこだました。