第20話 まほろば月へ
「天使の基地が分かったって?」
M機関基地にある作戦室で、昇は千尋に尋ねた。
「はい。ちはやで天使を倒す寸前、奴は明らかに上空を目指していました。そして、ちはやの光学センサーとコースを算出して得られたのがこの構造物です。」
千尋はモニターにヴァルハラの三次元映像を表示させた。桜花からの情報ではヴァルハラは地球の衛星軌道上にあるどの物体よりも巨大だった。
「かぐづちでも破壊出来るかどうか・・・」
「それにまほろばはしばらく使えないよ。」
誠の後ろから、千早博士が作戦室に入って来た。
「天使とのダメージがあまりに大きくてね。自力航行不可能、全兵装大破。撃沈寸前だったよ。半年以上は修理にかかるね。」
「なんてこった・・・」
昇は拳を叩いた。
「だが、天使の攻撃再開は今にも始まるかもしれない。そうだろう?」
昇、誠、千尋。まほろば級三人の艦長は同時に頷いた。
「だから、すめらぎを使うのさ。」
千早博士は自信を持って言った。
「まほろばのコアモジュールは生きているし、すめらぎならあの構造物を破壊することが可能だ。あまり時間がない。まほろばのクルーは月に飛んでくれないか?」
月までは片道3日はかかる。一刻の猶予もなかった。
「艦体各部接続正常。戦闘ブロックパージ準備。」
「準備完了。」
「パージ。」
まほろばの艦体からブリッジと動力部のみが切り離された。まほろばの心臓部のみ抽出されたその姿は、流麗な艦体とはまるで異なる異形の姿をしていた。
「よし、まほろば。これより月面基地に向けて発進する。」
まほろばの艦橋に降り立った昇はただちに発進を命令した。海面を出たまほろばは遥か上空、月に向けて飛び立っていった。
「さて、時間だね。ミカエル・・・行くよ。」
コクピットの中のミカエルは静かに目を開いた。眼下にはある都市の光が弱々しく瞬いていた。