第18話 千尋の思い
「煙幕か!?橘花。索敵を。」
「だめです。煙幕の中に電波撹乱剤が入っているようです。ロストしました。」
「そうか・・・繰り返し天使の襲来があるかもしれない。警戒を続けてくれ。」
天使ガブリエルは音速を遥かに超えるスピードで上昇を続けていた。ガブリエルと同等のビーム兵器をもっていたとは・・・主に報告すべく、ガブリエルは真っすぐヴァルハラを目指していた。
あと少し、もう少しでヴァルハラにたどり着く。
太陽の光に反射して、ヴァルハラが一瞬きらめいた。そのときだった。ガブリエルが高速で接近するエネルギー体の存在を確認したのは。
「え?」
これが、ガブリエルの最後の言葉だった。バリアーをはる間もなく、エネルギー体はガブリエルを貫き、爆発させた。
遥か成層圏で、ガブリエルはそのはかない命をちらせたのである。
「天使、消滅しました。艦長。」
「ありがとう。桜花さん。」
爆発から遠く離れた空域に青く輝くまほろばとうりふたつの戦艦の姿があった。
名をちはや。まほろば級3番艦である。外見、武装こそ、まほろばと同じだが、内部が全く異なっていた。
艦の全ての制御を統合コンピュータである桜花が行なうため、人員は艦長ただ一人という史上初の単座式万能戦艦であった。
艦長席ではちはやの艦長になった千尋が一枚の写真を眺めていた。
「仇をとりましたよ・・・先輩。」
東京消滅に巻き込まれた出版社時代の先輩と千尋が仲良く腕を組んでいる写真だった。先輩が二度と千尋と腕を組むことも笑うこともない。
仇を取ることを先輩は望んでいなかったかもしれないが、千尋にはそれ以外出来なかった。
「艦長・・・」
桜花は千尋に呼びかけた。
「大丈夫だよ。桜花さん。それに今まで通り千尋でいい。基地に帰投しよう。もう天使は襲ってこないだろうから。」
ちはやはエンジンを点火させると空に消えていった。
「ガブリエル・・・まさか・・・」
ヴァルハラの間近でオチか爆発にラファエルは動揺を隠しきれなかった。
「そうか・・・ガブリエルも・・・」
ミカエルはガブリエル最後の光を見つめていた。
「七大天使も、僕たちだけになってしまったね。」
ミカエルはあまり気にしていないような口ぶりでラファエルに言った。
「そろそろ、計画の最終段階に移ろう。ラファエル。」
ミカエルは座っていた椅子から立ち上がった。最強の天使がついに愛機に向かって歩き出した。世界の浄化の時は近い。ラファエルはそう感じていた。