第10話 危うし!NORAD!!
ラグエルとラギエルの周りを羽根のようなものが円を描くように飛び回っていた。ラギエルの持つ唯一の攻撃用兵装「セラフィック・フェザー」である。天使ラギエルは戦闘能力を持たない天使ラグエルとの連携作戦を主眼において設計された機体であり、七大天使中最高の防御力を誇る機体でもあった。高出力バリアーだけでなく、フェザーによる近接物理防御もまた、ラギエルを最強の防御力を持つ天使足らしめている理由だった。
ラギエルの翼に2,525枚格納されたフェザーは、操縦者であるラギエルの意のままに敵を追尾し攻撃する武器で、一つ一つの攻撃力は決して高いものではなかったが、広範囲に、そして多くの目標に対して使用出来る攻防一体の兵器だった。
ラギエルはフェザーを収納するとラギエルに言った。
「ラグエル。敵は私が倒しましたよぉ!!今度はラグエルの番です!」
コクピットのラグエルは頷くと、アカシック・レコードを輝かせた。
「電源、復帰しました!」
電源を切り、暗闇になったはずのNORADが突然光を取り戻した。
「馬鹿な!?非常用の電源ですら切ったはずだ!!」
司令官は驚いていた。電源をカットすれば、機械は動かない。それなのに動かないはずのマシンが動き始めたのである。
ラグエルは、あらゆる媒体、あらゆる機器を一つずつ調べ上げ、マシン本隊に残っていたわずかな電圧を見つけ出し、システムを復旧、主電源を回復させたのだ。
そして、それはアメリカだけでなく、ほとんど同じ処置を行っていた核保有国全てに、行われていたのである。通常の人間ならば、長い時間をかけてやり遂げる作業をものの数分で片付けたのはこのアカシック・レコードのおかげであった。
アカシック・レコードは天使が持つ兵器の中でも最も複雑で、広範囲をカバーする兵器であった。ヴァルハラとのリンクにより、全地球をその攻撃範囲におさめる能力と、あらゆる機器を制御下に置き、操る能力は人類の常識を遥かに超えた存在だったのである。
「だめです!第18防壁、突破されました。」
「電源ダウンできません。このままでは!!」
オペレーター達の必死の抵抗をあざ笑うかのように、侵入者はその速度を上げていった。そのとき、司令部の自動ドアが開き、金髪をオールバックにした若い男が入って来た。
「このディスクのデータをインストールするんだ。これで少しだけ時間が稼げる。」
男はオペレーターにディスクを差し出すと、コンピュータにデータをインストールさせた。データが読み込まれた瞬間、侵入のスピードが急激に落ちて止まった。
「侵入、停止しました。」
「予想以上に効いたようだな。間に合ってよかった。」
男は胸をはって、深く息を吐くと、司令官に言った。
「危なかったな。ウィルソン。あともう少しでメインシステムに侵入されるところだったぞ。」
息子のような年齢の男に無遠慮に言われ、司令官は少し不機嫌な表情で言った。
「まったく、年長者はもっと尊敬するものだぞ。マックス。それよりも、お前、今何をした?」
NORAD司令官のウィルソンはマックスに尋ねた。マックス・シーザー博士。若くしてアメリカのコンピュータシステムの権威となった天才であった。
「コンピュータウィルスを仕掛けたんだ。原始的だが、無限にプログラムを増殖し奴を蝕み続ける。だが、そうはもたないだろう。恐らく2時間と言ったところか。」
たった2時間、天才と言われるものの頭脳をもってしても、天使を止める時間は2時間が限度だった。
「短いな。」
ウィルソンは言った。
「だがそうもいってられないさ。やれるだけのことをしなくてはな。よぉし、全員力を貸してくれ。人類滅亡阻止のための時間を稼ぐんだ。一分でも、一秒でも多く。」
マックスはスタッフ達を集めると指示を出していった。
「・・・!」
マックスが天使ラグエルの攻撃を阻止したとき、ラグエルは違和感を感じていた。
「どうしたんですか?ラグエル。」
ラグエルは無口な相棒に言った。
「少し、攻撃を邪魔されただけ、計画には問題ないわ。」
「そうですかぁ・・・よかったぁ。」
「3時方向から高エネルギー反応。」
「え?」
天使ラギエルはすぐさまバリアーを張り、攻撃を防いだ。天使ラギエルと天使ラグエルは攻撃を受けた方向を向いた。
「まさか・・・奴が!?」
こんな攻撃が出来るのは天使以外でただ一つしかない。ラグエルはモニターを睨みつけた。
天使の視線の先には白銀の戦艦、まほろばがいた。
「・・・まさか、あの攻撃を防ぐとはな・・・なみなみならぬ防御力だ。」
最強の防御力を持つ天使と、地上最強の攻撃力を持つ戦艦との戦いが今、始まろうとしていた。