第9話 史上最大の空戦
ミカエルの宣告からわずか数時間後、太平洋上の各基地に集められるだけの空中給油機、戦闘機、AWACSが集結した。太平洋の中心にいる天使をとりかこむかのように、太平洋の島々の飛行場、空港は軍用機で埋め尽くされていた。
あとは各国の足並みをそろえるだけだった。
天使攻撃作戦の総指揮は執り行い、ミサイルの飽和攻撃によって、天使をしとめる作戦が決定された。シンプルで原始的な作戦であるが、作戦の桁が違った。
参加航空機数2,000機以上、ミサイルの総数は1万発以上、まさに空前の作戦だった。
翌日、正午をもって、天使撃滅作戦が発動した。
「うまくいくといいが・・・」
作戦空域から、遠く離れたすさのおの艦上で、山根は作戦を見守っていた。山根自身指揮を執りたかったが、時間と距離の関係上、すさのおではかけつけることができなかった。二本からは特殊戦術研究旅団の新星改、影電、空自からは鋭光、F−15J、合わせて100機がこの作戦に参加した。
「これだけの戦闘機が一同に会するとは壮観なものだな。」
F-16Cパイロットの、マイケル・シュニッツ中尉は空を埋め尽くす戦闘機の群れを見ていた。これから天使を撃滅する。不安はあったが、かつて敵として戦っていた国の機体を見たとき奇妙な気持ちに襲われた。
人類を救う。ただそれだけのために国や民族の垣根を越えて一体になれるものなのか。
ファイターパイロット達は今、不思議な連帯感で結ばれていた。
「目標視認!」
編隊長はAWACSのオペレーターに言った。天使はそれぞれ巡洋艦並みの大きさを持ち、翼をも含めると、艦艇もしのぐ。
そのため、離れた場所からでも姿を見ることが出来た。
「了解。編隊各機、攻撃を開始せよ。」
オペレーターは淡々と、そして冷静に攻撃開始の命令を出した。
「アルファリーダー、FOX3!!」
先頭を飛んでいたF-22ラプターが空対空ミサイルを発射した。それに続いて、後続の1,800機の戦闘機からミサイルが次々と発射された。1,800基のミサイルは白い尾を引きながら、天使に向かって飛んでいった。
「すごい数ですねぇ・・・でも、ラギエルの前ではこんなもの!!」
天使ラギエルは天使ラグエルを守るかのようにミサイルの前に立ち、バリアーを展開させた。バリアーが2体の天使を包んだ瞬間、1,800基のミサイルが天使に到達し、爆発した。
「やったか?」
シュニッツは、爆発地点の上空をフライパスした。ミサイル1,800基分の爆発、しかもそのうちの200は燃料気化爆弾という念の入れようで、天使と言えど無事では済まないはずだった。
爆煙が晴れ始めたとき、煙の中から何かが光った。
「何だ?」
シュニッツが光を見た瞬間、後ろの瞭機が爆発した。後ろだけではない。戦闘空域全体で謎の爆発が起きていた。
「天使の攻撃だ!かわせ!かわせ!!」
編隊長からの無線がシュニッツの耳に入った。だがその司令から5秒もたたずに編隊長からの通信は途絶えた。
空はもはや地獄絵図と化していた。
「おい、なんだよあれは!!?」
「避けられない!!うわぁぁぁぁ!!!」
「ち、ちくしょう!!!」
どの無線からも、悲鳴と爆音、パイロット達の断末魔の叫び声が聞こえたきた。
「野郎!!!」
シュニッツは機体を翻し、天使のもとに向かったが、すぐに光にとらえられた。
「畜生・・・畜生!!!!!」
シュニッツはトリガーを引き、ミサイルを全弾発射したが、その代償は大きかった。ミサイルを発射した直後、光がシュニッツのF-16Cをつらぬき爆砕した。
「全機撤退!くりかえす。全機撤・・・」
撤退を呼びかけ続けたAWACSも、光に貫かれ、爆発した。攻撃開始からわずか7分で攻撃隊は全滅した。爆煙が晴れ、絶望が天使に姿を変えて現れた。驚くべきことに天使は無傷だった。