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96.エリー

 翌朝、マリアを門まで見送った美咲達はエリーを伴ってミサキ食堂に帰ってきた。


「エリーちゃん、朝ご飯は何か食べたい物ある?」

「んーとね、スープとパン」

「スープとパンね。ちょっと待っててね。茜ちゃん、お湯沸かして。パンは……パンケーキでいっか。後はベーコンかな」


 美咲はこの世界でパンを単体で買った事がなかった。

 さすがに日本製のパンがこの世界で異質であるということは理解しているので、パンを呼び出す事は諦め、ほのかに甘いパンケーキを作ることにした。

 牛乳と卵は日本製になるが、他はこの世界産の材料なので、後でマリアにレシピを聞かれても問題はない。

 甘さを控えるのは、砂糖の高価さを鑑みてのことである。


 カチャカチャと材料を混ぜ合わせ、温めたフライパンで焼くと、パンケーキの焼ける匂いが漂ってくる。

 その匂いに反応してエリーの尻尾が激しく揺れる。


「おいしそー!」

「もうちょっと待っててね」

「まってるー!」


 テーブル席の椅子によじ登るエリーを見て、茜が身悶えていた。


「エリーちゃんはかわいーなー、もう! スープも美味しいの作るからねー」

「ん!」


 全員分の朝食を作り、全員でテーブル席に付く。


「はい、それじゃ食べようか。感謝を」

「かんしゃを! ふぉー! あまくておいしーの」


 砂糖はごく僅かしか使っていないが、エリーは気に入ったようである。

 ベーコンは柔らか目に焼いてあるが、これもエリーのお気に召したようで、はぐはぐと食べている。

 スープはコーンポタージュである。最初はドロリとしたスープに不思議そうな表情だったエリーだが、一口飲むと目を輝かせた。


「エリーちゃん、足りなかったら、茜おねーちゃんの半分あげるからねー」

「ん。だいじょーぶ。おいしかったの」

「んー、エリーちゃん、可愛いなー。お口を拭きましょーね」


 茜はエリーを構いたくて仕方がないようで、ハンカチを取り出してエリーの口元を拭いている。


 ◇◆◇◆◇


 朝食後、エリーは美咲の後をついて回った。その後ろから茜が追いかけているので、まるで三人で追いかけっこをしているようだったが、先頭にいる美咲は単に屋内の掃除をしているだけである。


「エリーちゃんもやってみる?」


 美咲がそう聞くとはたきに興味深々だったエリーは大きく頷いた。


「これで、やさしくパタパターって埃を落とすんだよ」

「ぱたぱたー」

「あーもう! 可愛いなー!」

「茜ちゃん、テンション高すぎ」

「こんな可愛い生き物見て、テンション上がらない方がどうかしてます!」

「いいけど、そういうテンションって嫌われるよ、きっと」

「ぱたぱたー」

「う、善処します」


 各部屋で軽く埃だけ落とし、箒ではけば掃除は終わりである。


「えーと、お掃除終わったし、エリーちゃん何かしたいことある?」

「ボール遊び」

「ボール?」


 エリーは自分の着替えなどが詰められたカバンからテニスボール程の大きさの布の塊を取り出してきた。


「これをね、投げっこするの」

「そっかー、どこでやろうか?」

「お外!」

「そっか。それじゃお外でボールの投げっこしようね。茜ちゃん、出番だよ」

「よろこんでー!」


 茜とエリーのキャッチボールはエリーが飽きるまで続いた。

 キャッチボールが終わる頃にはエリーも茜に慣れて、茜の指を握って美咲の元に帰ってきた。


「楽しかった?」

「うん! アカネおねーちゃんもなかなかやるの!」

「エリーちゃんも上手だったよ」


 美咲がそう言ってエリーの頭を撫でると、エリーは楽しそうに尻尾を振った。


「くふふ、くすぐったいのー」


 ◇◆◇◆◇


 ミサキ食堂の営業は美咲と茜が交代で行うこととした。

 レトルトメインに切り替えてから、塩ラーメンの注文以外は誰が作っても同じ味を出せるようになっているのだ。

 塩ラーメンに乗せる野菜炒めだけ美咲が作っておけば、ふたりが同時に店に出ている必要はない。


「それじゃ茜ちゃん、勝負」

「負けませんよ」

「「じゃんけん、ぽん!」」


 初日の食堂担当は茜となった。


「エリーちゃん、お昼、何か食べたい物ある?」

「んー、おにく!」

「そっか、それじゃ広場行こうか」

「うん!」


 エリーは美咲の人差し指と中指を握った。


「抱っこしてあげようか?」

「だいじょーぶ。あるけるよ」

「あれ? ミサキ? その子、どうしたの?」


 広場に到着すると、フェルに声を掛けられた。


「あ、フェル。今子守りの仕事してるんだ」

「へぇ、狐の獣人さんかな。可愛いね。私はフェルだよ。お名前は?」

「フェルおねーちゃん? エリーだよ」

「か、可愛い……連れて帰りたくなっちゃうね」

「駄目だよ。私が預かってるんだから」

「エリーちゃん、可愛いねー」


 フェルがそう言ってエリーの頭を撫でると、エリーは気持ちよさそうにパタパタと尻尾を振った。


「それでミサキ、エリーちゃん連れてお散歩?」

「ん。それとお昼食べにね」

「ミサキ食堂で食べればいいのに」

「それは雨の日に取っておくよ。毎日だと飽きちゃうからね。エリーちゃん、ご飯買いに行こうね」

「うん。フェルおねーちゃんまたねー」

「またね、エリーちゃん」


 ◇◆◇◆◇


 昼は、ホットドッグに似たものを買った。

 エリーには少し量が多かったようなので、残った分は美咲が食べた。

 食後、ふたりがミストの町の中をのんびりと歩いていると、エリーがぴたりと足を止めた。


「どうしたの? 疲れた?」

「あのね。あめのにおいがするの」


 見上げればいつの間にか空には厚い雲が掛かっていた。


「雨が降るのかな。急いで帰ろう。エリー、抱っこするよ」

「ん」


 両手を伸ばしてくるエリーを抱きしめるように抱っこした美咲は、ミサキ食堂への帰路を急いだ。

 食堂はもう30食を売り切ったようで、看板は片付けられていた。


「茜ちゃん、ただいまー」

「ただいまー」

「あ、早かったですね。今日は何食べたんですか?」

「雨降りそうだから帰ってきた。今日はホットドッグもどき食べたから、明日は違うのにしてあげてね」


 美咲がそう言うのとほぼ同時に、表から、サーッと言う雨音が聞こえてきた。


「あー、間に合って良かったですね」

「エリーちゃんが、雨の匂いがするって教えてくれたんだよ。ね?」

「ねー!」


 上半身を傾けるようにしてエリーが返事をする。


「あーもー、可愛いなー。エリーちゃん、アカネおねーちゃんとお昼寝しようか」

「アカネおねーちゃんと?」

「そうそう」

「ミサキおねーちゃんは?」

「三人で寝るにはちょっとベッドが狭いかな?」

「きょうはミサキおねーちゃんとねるの」

「じゃあ、明日は一緒に寝ようね」

「んー、うん」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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