92.サーベル
それから10日ほど経ち、商業組合から連絡を受けた茜は美咲と共に商業組合まで足を運んだ。
組合には木箱が届けられていた。
その場で内容物の確認を、と言われ、蓋を開けた茜は目をみはった。
美しい鞘に収められた両手持ちも可能なサーベルが一振り、箱に入っていた。
鞘から僅かに抜いて刃を見ると、青黒い剣身がぬらりと光った。
「魔剣一振り。銘はなし。アカネ様への直接手渡しとの事でしたのでご足労願いました。ご確認頂けましたでしょうか?」
商業組合の男性がそう問い掛ける。
「うん、思ったよりも凄いの出来ちゃったな。ありがとう。問題ないです」
茜はサーベルを鞘に収め、右手に持って商業組合を後にした。
「馬車でくればよかったかな。重いでしょ」
「アイテムボックスにしまうから大丈夫ですよ」
「そっか、それが一番安全だね」
「はい。それにしても、やっぱり凄いですね職人って。とても気に入りました」
「いいものになってよかったね」
「はい!」
嬉しそうな笑顔で茜は頷いた。
◇◆◇◆◇
屋敷に戻った茜は、セバスにサーベルを飾る台を工房に依頼するように命じた。
それを聞き、美咲は首を傾げた。
「王都で飾っておくんだ?」
「はい。後、必要ならおにーさんに貸し出します」
「広瀬さんなら使いこなしてくれるだろうね。剣の才能って能力があるんだっけ?」
「そーですよ。折角の能力なんだから見合った剣を使わないと勿体ないですしね」
「実際のところ、広瀬さんとはどうなの?」
内緒話をするように、小さな声で美咲が尋ねると、茜は目を瞬かせた。
「なにがですか?」
まったく何を言われているのか分からないと言う表情の茜に、これは違うのかな。と思いつつも美咲は尋ねてみた。
「その、好きとか嫌いとか」
「……ないですねー。お友達枠です」
「そっかー」
「そういう美咲先輩はどうなんです? 恋バナ、なんかあります?」
「そういう余裕はないかな」
「ですよねー」
◇◆◇◆◇
茜と別れた美咲は、その足で小川の部屋を訪ねた。
「おや、どうしたの?」
「ちょっと質問があるんですけど、今、大丈夫ですか?」
「いいよ。どんな質問かな?」
「魔素についてです。魔法を使う時って魔素を魔力に変換して魔力を消費しますよね?」
「うん。そうだね」
「それじゃ、いつか魔素はなくなってしまうんでしょうか? それともどこからか供給されてるんでしょうか?」
小川は天井を見上げ、指先で顎をなぞる。
そして、本棚から一冊の本を取り出して美咲に手渡した。
「この前、魔法協会の図書館で見つけたんだ。その本に一応の解釈はある。この世界に迷宮があるっていうのは知っているね?」
「はい」
「その本では魔素は迷宮から供給されているとされている。魔素は迷宮から生まれ、海に溶け込み消えていくという仮説なんだけどね」
「それが魔素の循環ですか?」
「多分ね。それで、海の浄化能力を越えて、魔素が溢れた状態がこの前までの世界じゃないかと、僕は考えているんだ」
そして、その事態は収束した。
増殖した魔物は倒された。
崩れていたバランスは元に戻った。
これから必要になるのは魔素消費量の押上げだ。
それは例えば魔道具であったり、回復魔法の実用化で為されるのかもしれない。
「美咲ちゃんも、普通の魔法の開発はしてもいいと思うんだよね。レールガンは行き過ぎだったけど、魔素の消費量が多くて、便利な魔法だったら世界のバランスを維持するために使えると思うし……どこまでが女神様の思惑なのかは分からないけどね」
◇◆◇◆◇
「おにーさん、見てください!」
帰ってきた広瀬をつかまえ、茜はアイテムボックスから取り出した魔剣を見せた。
「本当に見せびらかすんだ……」
美咲は少し呆れ気味である。
「何だ? サーベルか? にしては柄が長いな?」
「両手で握れるようにしたサーベルです。魔剣ですよ、魔剣!」
「魔剣だ?」
「ほらほら」
柄を握り、僅かに剣を引き抜き、剣身を広瀬に見せる茜。
青黒い剣身を見て広瀬の目の色が変わった。
「ちょ、お前その色は……ちょっと見せてもらってもいいか?」
「はい、どうぞ」
茜はサーベルを鞘に戻して鞘ごと広瀬に手渡した。
広瀬はその場でサーベルを抜き、じっくりと剣身を確かめた。
鞘をベルトにはさみ、両手で柄を握る。
「……いい剣だ。魔剣としてもかなりの上物だな……茜、これ、どうしたんだ?」
「キナムの町でエイブラハムって鍛冶屋さんに打って貰いました」
「おいおい、マジかよ。本物の武器職人じゃないか」
「有名なんですか?」
「知らないで打って貰ったのか。対魔物部隊の剣の半分は、あのおっさんの作だぞ。腕は確かだが値が張るので有名……って、茜、幾ら使ったんだ?」
「まあ、それは内緒ってことで」
「美咲、幾らだ?」
「知らない方が幸せってこともありますよ?」
広瀬はサーベルを鞘に戻し、茜に返した。
「随分と金のかかる趣味に手を出したな」
「これ一本だけですよ。必要ならおにーさんに貸し出しますよ」
「これだけの品、そうそう借りられるかよ」
「まあ、この屋敷に飾っておくつもりですから、必要なら遠慮せずに使ってくださいね」
◇◆◇◆◇
「茜ちゃんはいつまで王都にいる?」
「サーベルは届きましたからね、美咲先輩が戻るなら一緒に戻りますよ」
夕食後、居間でお茶を飲みながら美咲に問われ、茜はそう答えた。
サーベルの件があったから王都に留まっていただけで、それがなければ王都にいる必要はなかったのだ。
「んー、それじゃ、明日、傭兵組合で依頼を探してみようか?」
話を聞いていたアンナが首を傾げた。
「ふたりとも、ミストの町に戻るの?」
「んー、もう王都に留まる理由もなくなったしね」
「……そう。寂しくなる」
「また会えるよ」
◇◆◇◆◇
その翌日。
傭兵組合で、青でも受けられるミストの町までの護衛依頼を見つけた美咲達は、それを受けることにした。
出発は翌日である。
その日の午後のお茶のデザートはロバートに頼んで美咲が作らせてもらった。
メニューはプリンアラモードである。
広めの器にアイスと生クリーム、缶詰の果物を配置し、中央にプリンを乗せる。
プリンも生クリームで飾り付け、サクランボに似た果物を乗せて完成である。
広瀬は仕事で留守なので、小川、美咲、茜、アンナの分に加え、美咲の横で目を皿のようにしているロバートの分、計五人分を作る。
「これはプリンと……何?」
「プリン、クリーム、アイス、果物のシロップ漬け。名前はプリンアラモード。私が作れる一番のスイーツだよ……食べてみて」
「……おいしい」
「フェルも一度しかたべたことがないデザートなんだ。次に会った時にまた作ってあげるね」
「……うん、楽しみにしてる。ミサキたちも元気でね」
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
花粉が、花粉がぁぁぁ。




