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90.国立図書館

 翌日。

 美咲と茜は小川に依頼され、国立図書館へと足を運んでいた。

 国立図書館は貴族街区にあるため、小川が紹介状を書き、内壁の門でチェックを受けて貴族街区に入る。


「登城して以来ですねー」

「そうだね。アルは元気かな?」

「王族ですから、元気がなくなったら大騒ぎですよ」


 そんな話をしながら図書館へと向かう。

 小川からの依頼は科学的な文献の調査だった。

 科学的な基礎知識がないと出来ない作業なので、他の誰かに頼むということは出来ない。

 小川自身は魔法協会の各種文献を調査しつつ、アンナに教育を施しているが、国立図書館までは手が回らなかったのだ。

 そこで、帰ってきて時間を持て余していた美咲達に白羽の矢が立った。

 中学生レベルで構わないのである程度正しい医学の知識が記された文献がないか探してほしいと言うリクエストを、美咲はふたつ返事で引き受けた。

 もともと美咲もこの世界の書物に興味があったのだ。国立図書館が存在することを知っていれば、もっと早くに自分から小川に頼んで紹介状を書いてもらったかもしれない。

 この世界にSFがあるとは思えないが、冒険小説の類であれば存在するかもしれないという期待が美咲にはあった。

 買った事のない本を呼び出せない美咲は、新しい知識に触れる機会を待ち望んでいたのだ。


「図書館って……ここかな?」


 大きな石造りの建物には、エトワクタル国立図書館と刻み込まれた石柱が立てられていた。

 門には剣を佩いた兵がふたり立っていた。


「みたいですね。随分と立派な建物ですねー」


 門番に小川からの紹介状を見せて入館を許可される。

 建物に入るなり司書が近付いてくる。


「どのようなご用件でしょうか」


 ここでも小川からの紹介状を見せるが、それだけでは司書は道を譲らなかった。


「医学に関する本を探しに来たんです」

「医学ですか。内科、外科、その他とありますが」

「怪我が治る仕組みや、体が成長する理由について記された本を探しています」

「なるほど、それでしたらございます。館内では一切の魔法の使用は禁じられています。また火気厳禁となっています。飲食も禁止です。入館費用はひとり500ラタグです」


 どうやら探している本があるかを判断してから入館費用を徴収するシステムらしい。

 美咲が1000ラタグを支払い、ふたりは入館した。


「こちらです」


 司書に先導され、ふたりは該当の書籍が収蔵された本棚へ辿り着いた。

 本棚の数は多く、自力で該当する分野の本を探そうとしていたら日が暮れていただろう。

 案内された本棚には大きく重そうな本が鎖で繋がれて保存されていた。

 鎖は十分な長さがあり、読書をするには支障がなさそうだ。


「ここから、ここまでが仰られる内容の本となります」


 司書が本の位置まで教えてくれる。

 それを確認し、美咲は礼を述べ、本を取り出した。


「……重い……茜ちゃんは反対側から確認よろしくね」

「はーい……本当に重いですねー」


 本を机まで運び、ベルトを外して表紙をめくる。

 暫くはページをめくる音だけが館内に響いた。


「……これはどうなんでしょう? 生物には特徴を受け継ぐ因子があり、両親や祖先からその因子を受け継ぐ……DNAっぽいと言えばぽいんですけど」

「一応著者と書籍名、要点をメモしておいて」

「はーい」


 この調査の主目的は、小川の作っている教科書の箔付けにあった。

 現代の科学知識をもとに教科書を作っても、この世界では何の裏付けもない空論に過ぎない。

 回復魔法の存在だけが、小川の拠って立つ証拠である。

 そこで小川が考えたのが、過去の書籍から都合のよい部分を抜粋し、教科書の文章の出典を増やすという方法だった。

 出典が国立図書館所蔵の書籍であれば、十分な箔付けとなる。


「生物には負った傷をある程度復元する能力がある。なんてのもありますねー」

「見せて……うん、ここまでの文章は使えそうだね。後半の女神様云々はちょっとアレだけど。茜ちゃん、見つけるの早いね」

「えへへ、探し物には自信があるんですよ」


 ◇◆◇◆◇


「うん、ありがとう。これは予想以上の成果だよ」


 帰宅後、メモを小川に渡したところ、小川は満足そうにそう言った。


「教科書の箔付けになりますか?」

「そうだね、結構な有名人もいるし、これなら教科書の信用度もあがると思う。助かったよ」


 小川はメモに目を通し、ホッと息を吐いた。


「おじさん、アンナさんの後でいいから、私達にも回復魔法を教えてくださいねー」

「先でもいいけど? 何で後でなんだい?」

「駄目ですよ小川さん。アンナと私達では基礎知識に絶対的な差がありますから、私達が途中でアンナを追い抜く形になるのは避けないと」

「ああ、なるほどね。うん、それは確かに気を付けないといけないね。ありがと」


 メモから目をあげ、小川は頷いた。


「美咲先輩がいれば、ポーション呼んで貰えますから、覚えるのはまだ先でいいですしね」

「そうだね。回復の魔道具もあるし。茜ちゃんにも渡しておこうか?」

「んー、それじゃ、魔道具下さい。ポーションは使った後の申し開きが大変そうなので」

「それじゃ、はい、魔道具」


 美咲は回復の魔道具を呼び出して茜に手渡した。


「ありがとうございます。黄色い側を傷口に向けるんでしたっけ?」

「そうだよ。輪っかの中に傷口が収まるようにしてね」

「あ、美咲ちゃん。僕にもひとつ貰えないかな? アンナ君にひとつあげたくてね」

「いいですよ……はい、どうぞ……そうそう、お酒も追加しておきますね」

「お、ありがたい。今晩飲ませて貰うよ」


 ◇◆◇◆◇


 夕食後の酒宴は、小川、広瀬にアンナを加えて開かれた。


「ミサキは成人してると聞いたけど、飲まないの?」

「日本では20歳にならないと飲んじゃいけないって法律があるんだよ」

「論理的じゃないように思うけど」

「まあ、結婚は16歳から出来るんだけどね……そこ、茜ちゃん、飲もうとしない!」


 自分のコップにお酒を注ごうとしていた茜を止める美咲。


「えー、いいじゃないですか。これ、レモンの匂いがして美味しそうなんですよー」

「お酒は過ぎると成長に悪影響があるっていうよ」

「茜、お前に酒はまだはやいぞ」


 広瀬にも止められ、茜はふくれっ面でコーラに手を出す。


「分かりました、炭酸にしときますー」

「……ミサキ、お酒は成長に悪影響があるの?」


 アンナは、比較的慎ましやかな自分の胸に手を当てて美咲にそう尋ねた。


「……血行がよくなるから、そこの成長にはむしろいいかもね。脳と骨の発達に悪影響があるって言われてるんだよね」

「脳……頭……魔法にも悪い?」

「アンナ君、全ては量だよ。お酒は量を過ぎれば毒になるし、適量なら薬になるんだ。君の年代なら、ほろ酔いまでで止めておくことをお勧めするね」

「はい、オガワ先生」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


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