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88.王都への帰還

 茜の剣の発注が終わった美咲達は傭兵組合の扉をたたいた。


「鉱山での駆除の依頼は……ありませんねー」


 依頼票を眺め、茜は肩を落とした。

 鉱山に入れるような駆除依頼がないかと期待していたらしい。

 鉱山は国が運営しており、対魔物部隊が常駐しているため、傭兵の出番はほぼないのだ。


「単なる駆除依頼なら幾つかあるみたいだけどね」

「駆除依頼……ハチとか熊とかって日本でも普通にありそうな駆除依頼ですよねー」

「駆除以外だと……護衛依頼だと町を離れることになっちゃうし……」

「どちらにしても面白そうな依頼はありませんねー」

「そうだね」


 しばらくの間、依頼票を眺めていた美咲達だったが、受注したいと思わせるような依頼がなかったことから、傭兵組合を後にした。

 次に向かったのは鉱山入り口であるが、こちらには門番が立っており、関係者以外が入れないようになっていた。

 キナムの町は鉱山の町である。鉱山関連施設が関係者以外立ち入り禁止ということは、町の大半に立ち入れないということだ。


「本当にキナムって観光には向かない町ですねー」

「そうだね。もういっそ、明日にでも王都に戻っちゃおうか。アンナがどうなったのかも気になるし」

「王都にですか?」

「ここからなら、王都まで半日。護衛依頼も結構あったからね。剣が出来るまで宿で読書でもいいけど、旅先でそれも虚しいしね」

「あー、そうですね。サーベルは仕上がったら送ってもらうようにエイブラハムさんに依頼しましょう」


 ◇◆◇◆◇


 サーベルが仕上がったら王都に送ってほしいと告げると、エイブラハムは唖然とし、お前、正気か。と言わんばかりの表情を見せた。


「お前、正気か?」


 言葉にも出した。


「正気ですけど?」

「金貨100枚もの魔剣を送るだと? 直接受け取りに来て品質を確認し、必要なら調整までするのが普通だぞ?」

「そこは信じてますので」


 実際には茜には剣を使うつもりがない。

 自慢するためだけに魔剣を買うと言うのは親方も予想していなかった。


「むう……だが、送るにしても信頼できる者に頼まねば……盗まれたらどうするつもりだ」

「商業組合に依頼してください。私に送るとなれば、商業組合もそれなりに真剣に対応するでしょうから」

「……お前さん、何者だ?」

「あー、まあ商売でちょっと小金を貯め込んだ成金ですよ」

「ああ、そうかい。まあ、お前さんがそれでいいっていうならそうするがな」

「よろしくです」


 ◇◆◇◆◇


 美咲達は再び傭兵組合にやってきていた。

 今回は王都までの護衛依頼を探すのが目的だ。


「青でも出来る護衛依頼……結構ありますね」

「王都とキナムの間はほとんど魔物出ないんじゃない?」

「あー、念入りに魔物駆除されてそうですもんねー」


 キナムの町には対魔物部隊が常駐しており鉱山を保守している。また、王都近辺は定期的に魔物の予防駆除が行われているため、美咲達が予想したようにほとんど魔物が出ることはない。

 出るとしても精々が単体で、青の傭兵であっても十分に護衛の役割を果たす事が出来るのだ。

 翌日の王都までの護衛依頼を受け、美咲達は宿に戻った。


 ◇◆◇◆◇


 鉄床亭の夕食は川魚と野菜の煮込み料理だった。


「コティアの方と比べると、随分と薄味ですねー」

「この辺りじゃ塩は貴重品だから仕方ないよ。それにほら、野菜の旨味が出てて美味しいよ」


 丁寧に味が調えられており、美咲には美味しく感じられるのだが、茜には物足りなかったようだ。

 見かねて美咲が塩を取り出して渡すと、茜は自分の料理に振り掛け、美味しそうに食べ始めた。


「ありがとうございます。マナー違反だと思うんですけど、美味しく食べたいですからねー」

「うん。ちなみにそれはコティアで買ってきた塩だよ」

「コティアと言えばあの犬、元気ですかねー」

「クレメント、だっけ? 門番さんと仲良くやってるんじゃない?」


 美咲はデューイの名前を忘れてしまっているようだった。


「門番と番犬のペアですから最強ですよねー」


 茜に至ってはどちらの名前も覚えていない様子だった。


 ◇◆◇◆◇


 翌早朝、美咲達は南門前でジェリーと言う商人と合流した。

 護衛依頼の依頼人である。

 最初は子供にしか見えない美咲と茜に不安そうだったが、茜の。


「これでも美咲先輩は青いズボンの魔素使い、私は蒼炎使いって通り名を持ってるんですよ」


 という言葉と、美咲の緑色の傭兵のペンダントを見て安心したようだった。


「通り名持ちとはおみそれしました。護衛、宜しくお願いします」

「いえ、こちらこそ」


 美咲達が2台目の馬車に乗り込むと、馬車はすぐに出発した。

 黒の山脈から王都への道のりは基本的に緩やかな下り坂だ。

 しばらくは下り道が続く。

 街道も整備されており、山道だが、クロネ周辺の様に道が悪いということもない。


 やがて、馬車は平地に出る。


「ミサキさん、もう警戒はいいですよ。こっから先は魔物は出ません」


 ジェリーからそんな声が掛かった。


「そうなんですか?」

「もう王都が見えてますからね。こんなところで魔物が出たら、対魔物部隊の怠慢ですよ」

「分かりました。少しノンビリしてますね」

「……美咲先輩、帰ってきましたねー」

「そうだね。思ってたより早く帰ってこれたね」


 ◇◆◇◆◇


 王都の門をくぐり、依頼票にサインをして貰ったふたりは、まず傭兵組合に足を運んだ。

 傭兵組合で依頼票を提出すると、美咲宛に手紙が届いていた。


「なんだろ? ゴードンさん? ミストの町の傭兵組合長からって、何か不味いことでもあったのかな?」


 一番まずいのは、美咲のレールガンの情報が他の町に漏洩することである。

 王家にでも知られたら身柄を拘束されかねない。

 だが、そんな事態になっているのだとしたら、一々連絡など寄越さないだろう。

 美咲は首を傾げつつも手紙の封を切った。


「えーと……ああ、なるほど」


 手紙の内容は、飛竜駆除の件はインフェルノとアブソリュートゼロによるものということで、何の疑義もなく決着したのでいつでも戻ってこい。というものだった。

 茜にも手紙を見せると、茜はホッとしたように頬を緩ませた。


「よかったですね、美咲先輩」

「そうだね。まあサーベルが到着するまでは王都暮らしを続けるけどね」

「あー、そう言えばそうでした」

「忘れないでよね。金貨100枚なんだから」

ようやく旅の部分を書き終えました。次話からは不定期更新になるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 茜の魔剣制作依頼の仕方がとことん失礼に思える。 ①まだ成人もしていない小柄な子供が大金で制作依頼。 ②使いこなせないだろうと思われるサーベルの用途は【自慢】 ③サーベルの出来栄え確認も調整も…
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