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83.クロネの湯

 帰りの便の都合がつくまで、コティアの町には三日滞在した。

 浜辺で何もせずに海を眺めたり、傭兵組合でリンディに聞いたお薦めメニューを制覇したり、市場で色々買い込んだりと、暇なんだか、忙しいんだか、美咲達自身でも分からないような時間を過ごし、帰る日がやって来た。

 町中では、派手な色の服を着た、女神様の色の姉妹が土産物屋を練り歩いているなどと噂されていたようだが、幸いにして美咲達の耳には入ってこなかった。

 そして。


「今日でコティアともお別れですかー」

「なんか感慨深いね」


 深山亭の前で馬車を待ちながら、そんな話をしていると、デューイがクレメントを連れてやってきた。


「お散歩ですかー?」

「ああ、今日は非番だから浜でクレメントと遊んでやるんだ」

「オンオン!」

「ああ、わかった、早く遊びたいんだな。それじゃまたな!」

「はい、またでーす!」


 茜が元気よく答えると、ひとりと一匹は海に向かって走って行った。


「仲良さそうでよかったね」

「そうですねー。クレメントもよく懐いてるよーですし」


 待つこと暫し、馬車がやってきた。

 今回はマシューという商人の馬車である。


「おはようございます。ミサキさんとアカネさんですね?」


 背は低いががっしりとした体格の男性が声を掛けてきた。


「はい、私が美咲です。マシューさんですか? ヒノリアまでよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ。しかしコティアからとは珍しい。お仕事で?」

「いえ、海を見に」

「ほう、物見遊山ですか。羨ましいことです。ああ、馬車は、あれに乗ってください」


 マシューが指差した馬車に乗り込む美咲達。

 馬車の半分ほどは荷箱で埋まっている。


「なんか、微妙に魚臭くないですか?」

「干物でも積んでるのかもね」


 馬車の中にタオルクッションを敷き、美咲達は居場所を作る。マントを被り、座り心地のいい姿勢を探しながらもぞもぞしていると、馭者から声が掛かり、馬車が動き出した。


「動き出しましたねー」

「そうだね。茜ちゃん、この世界の海はどうだった?」

「地球の海とおんなじで驚きましたねー。海産物とかも一緒でしたし」

「タコとかいたしね」

「蟹も海老もいましたねー、見た目も味もそっくりで驚きました」

「地球とこっちの世界とで、昔、生物の往来があったのかもしれないね。人間がいる時点で生物相は似たようなものなんだろうし」


 別々に進化した世界とは思えない相似性を感じる美咲だった。


「せーぶつそーって何ですか?」

「とりあえず生き物の種類とかだと思っといて」

「はーい。でもこっちには角兎とかいますよね」

「地球では絶滅したのかもね」


 ◇◆◇◆◇


 塩の道は、往路より復路の方が内陸に向かう分、緩やかではあるが上り坂になっている。

 当然、往路よりも足は遅くなる。

 ノンビリペースで馬車はクロネに向かう。

 それでも昼過ぎにはクロネの町に到着した。


「クロネの周りは相変わらず揺れますねー」

「林業の町だって話だったから、木を運んだりして道が悪くなってるのかもね」

「そー言えば組木細工買った町でしたねー」


 クロネの町の門をくぐると、馬車は少し入ったところで停車した。


「お客さん、お疲れ様です。明日は切り株亭の前に集合です」

「はい、ありがとうございました」

「やっぱり切り株亭なんですねー」

「別の宿にしてみる?」

「そーですねー。ちょっと覗いてみましょーか」


 ふたりは連れ立ってつい先日歩いた町をまた歩く。

 と、唐突に茜が足を止める。


「美咲先輩、なんか匂いませんか?」

「え、なんの匂い?」


 林業の町と言うだけあって、材木の匂いがあたりをつつんでいる。

 昼過ぎということで、食堂の匂いもする。


「んーと、茹で卵……いえ、硫黄の匂い、みたいな?」

「ん? そう言えば微かに……こっちかな?」


 匂いを頼りに歩いていると、楠亭という宿に到着した。


「ここっぽいですよねー」

「そうだね。ちょっと聞いてみようか。すみませーん」


 美咲は楠亭の中に入り、カウンターに座っている全体的に丸いおばさんに声をかけた。


「はいはい、お泊りですか?」

「いえ、なんか硫黄の匂いがするんですけど、この匂いってこちらですか?」

「あー、温泉ね。うちの売りなんだけど、知ってるかい? 温泉」

「あ、はい。知ってます。へぇ、温泉ですか」

「あー、それでこんなに匂いがしたんですねー」


 茜が納得顔で頷いた。


「そうそう、お嬢ちゃん物知りだね。美人になる温泉だよ」

「温泉入ると一泊お幾らですか?」

「泊ってくかい? 250ラタグだよ。お風呂は入りたい放題」

「美咲先輩、泊まりましょーよ」

「あー、うん、そうだね」


 ◇◆◇◆◇


 楠亭にツインルームをとったふたりは、部屋に入るなり部屋着に着替え、タオルを持って温泉に向かった。

 お湯の色は乳白色。源泉のお湯をかけ流しにしているそうだ。

 ふたりは髪をお湯につけないように丸めた後、お互いの背中を流し、お湯にゆっくりと浸かって旅の疲れを癒した。


「茜ちゃん、のぼせない様にね」

「はーい……美咲先輩、このお湯、なんで乳白色なんでしょーか?」

「湧き出した時は透明で、酸化して白くなるってきいたような気が」

「錆びみたいなもんなんですかね」

「まー、そんな感じで納得してお風呂浸かってよーよ。美人になれるって言ってたよ」

「どこでも言いますよねー。お肌がツルツルにー、とか」

「ツルツルに関しては角質をしっかり落とすって意味では事実だと思うけどねー」


 ◇◆◇◆◇


 長湯になった茜はベッドに倒れ伏していた。

 美咲はパタパタとタオルで扇いでいる。


「だからのぼせない様にって言ったのに」

「もう一種類の温泉が隠れてるなんて卑怯ですよ。入るに決まってるじゃないですか、そんなの」

「壺温泉ね。随分と変わった趣向の温泉だったよね」

「別の源泉から温泉が壺に流れ込んでくるとは思ってもみませんでしたよ……でも気持ちよかったです」

「それで骨抜きなんだから、茜ちゃんは温泉はほどほどにね」


 茜はガウンを羽織り、ウエストを紐で結んである。大人しくしている分には問題はないが、フラフラ歩かれると湯当りで倒れないとも限らない。この格好で倒れたらちょっとした惨事だ。


「茜ちゃん、氷出してあげるから。首筋にでも当てておこう」


 ヒノリア領主の娘に頼まれた氷作製技術で、適正な温度、適当なサイズの氷礫が出来上がり、革袋ではなくタオル地に包まれる。


「あー、心地よいです」

ふと思ったんですが、この作品の略称ってどうなるのでしょう?

私は単に『生活』とか読んでるんですけれど、『フ女子生活』と呼ぶ方もいらっしゃるようですw


いつも読んで頂き、ありがとうございます。



20180218:誤字修正。


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[一言] ファン女 かな
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