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77.旅支度

 アンナを空いている客室に案内した後、美咲と茜はリビングで寛いでいた。


「それで、茜達はさっきの娘を紹介するために王都に来たのか?」

「えーと、これはアルさんには内緒でお願いしますね」


 美咲はミストの町であった出来事を広瀬に説明した。


「なるほど、そりゃアルには内緒にしないとな……その魔法、俺でも使えるのかな」

「魔素操作がかなり複雑ですけど、それが出来たら後は簡単ですよ」

「魔素操作か、俺には無理かもな……で、海に行くんだって? 遠いぞ?」

「そうなんですか?」

「あー、ちょっと紙とペンないか?」

「はい」


 大学ノートとボールペンを渡すと、広瀬はサラサラとエトワクタル王国の地図を描いた。


「王都が中心で、南がミストと白の樹海な。で東がヒノリア、西がニースト、北が黒の山脈だ。で、ヒノリアの東が自由連邦、ニーストの西が所謂蛮族の住む領域だ」

「白の樹海の南には何があるんですか?」

「樹海を踏破した者はいないが、まあ、海があると言われてるよ」

「この黒の山脈の北は?」

「海だな」

「近いじゃないですか」


 王都からまっすぐ北上すれば海である。


「間にある山脈がなぁ、対魔物部隊が踏破訓練に使うのをやめたほど険しいんだ。しかも、山の向こうは断崖絶壁だ」

「おにーさん、質問です」

「なんだ?」

「海に行く安全な最短ルートはどうなるんですか?」

「王都から東に向かい、ヒノリアを経由して自由連邦に入り、そこから更に東に進むと海があるらしいぞ」


 海を見るのに外国に出なければならないと想像もしていなかった美咲は、ショックを受けたような表情だ。

 対して茜は嬉しそうである。


「茜ちゃん、嬉しそうだね」

「だって、面白いじゃないですか。海を見るのに海外旅行しなきゃならないなんて」


 外国イコール海の外、という感覚が抜けない日本人らしい感想を述べる茜に、美咲は疲れたようにコタツに突っ伏した。


「海、見たかったなぁ」

「え、見に行かないんですか?」

「行けば良いじゃないか。遠いだけで行くのは簡単だと思うぞ」


 広瀬の言葉に美咲は背筋を伸ばした。


「そうなんですか?」

「自由連邦ってのは、元々王国の貴族が離反して作った国だから、言葉も社会制度も大体同じだ。パスポートもビザも必要ない……まあ、国境を越える際に金取られるけどな。エトワクタルの塩の半分くらいは、自由連邦から輸入したものだし、今は国家間の仲も悪くない」

「ああ、そう言えば、教科書に塩を押さえられて自由連邦の独立を阻止できなかったって書いてあったような」


 自由連邦とは、王都東方の町を治める領主達がエトワクタルから離反して生まれた国である。

 王都から離れた場所を開拓して作られた町は、有事の際に王都からの支援を受けにくく、その割に開拓時にはあまり援助を受けられなかったのだ。そうした不満が爆発して独立運動の機運が高まった。

 現在、王国はヒノリアの塩湖で塩を生産しているが、独立運動が起きた当時は、大半の塩を自由連邦に依存していたことと、当時の王が西方の蛮族からの侵略に苦慮していたことから、無血で独立が成り現在に至る。


「それじゃ、行ってみようか、海」

「はい!」

「美咲、地図なら商業組合で手に入るから買っておけよ。まあ、俺の描いたのとあまり変わらんと思うけど」


 ◇◆◇◆◇


 翌日、美咲と茜は商業組合を訪れ、地図を買い、海までの安全なルートに関する情報を教えて貰った。


「これが地図……」

「ファンタジーっぽい地図ですねー」


 エトワクタル王国と自由連邦の地図には、道と町と森、山くらいしか記述がなかった。

 まだ等高線という概念がないらしく、山は尾根の位置だけが記されている。

 ミストの町周辺を見る限り、縮尺もかなり適当な物である。町が異様に大きく描かれている。

 教えて貰ったルートを指で辿ると、片道1週間ほどの旅程になりそうだ。


 今回の旅で使うのは、塩の道と呼ばれる街道だった。

 王都からヒノリアを経由し、国境を越えて自由連邦に入る。そして、ノージー、ホッキズ、バーギス、クロネと経由して、海沿いの町、コティアに至る。

 それぞれの町は宿場町として機能しており、馬車での移動であれば、朝に町を出れば昼過ぎには次の町に到着できる程度の間隔で作られている。


「茜ちゃんはマントって持ってたっけ?」

「マントですか? 持ってませんけど」

「一応、買っといた方が良いよ。雨具になるし、もしも野宿なんてことになったら毛布代わりになるし」

「あー、傘って訳にはいかないですもんねー」

「急ぐ旅じゃないから雨の日は休養日でも良いんだけど、にわか雨だってあるだろうしね」

「他にどんなものが必要なんでしょーか?」


 なんだかんだで傭兵稼業が長い美咲は、それなりの装備を揃えていたが、茜は準備する物が多かった。

 その準備すら楽しみつつ、美咲と茜は市場を見て回った。


「美咲先輩、火口箱ってないんですかね?」

「ほくちばこって何?」

「火を点けるための道具ってゆーか、ファンタジー世界のマッチのようなものです」

「魔道具あるじゃない。私達なら魔法でもいけるよね、何ならライターも呼べるし……お仏壇用だけど」

「あ、そっか……松明とかは必要でしょーか?」

「夜は歩かないから要らないと思うな。最悪、ヘッドランプあるし」


 そして、茜の準備も整った。


「帰ったら一応、広瀬さんに見て貰おう。対魔物部隊ってことは旅慣れてるだろうし」

「そーですねー」


 ◇◆◇◆◇


「まず、足回りな。これは大事だぞ。美咲のブーツは良いとして、茜のスニーカーはそろそろ寿命だろ? 美咲、何か茜にあうサイズの靴出せないか? 靴は日本製の方が良いからなぁ」


 旅の荷物について広瀬に尋ねたところ、そんな回答を貰った。


「茜ちゃん、足のサイズは?」

「23.5ですけど、出せます?」

「あ、私と同じなんだ、それじゃ、登山靴とブーツと、あ、革靴もあるね、それにスニーカーっと」


 次々に呼び出して茜に渡していく美咲。

 それらを受け取り、茜は嬉しそうにお礼を言った。


「こんなにありがとうございます」

「登山靴があるのか。旅するならそれが良いと思うぞ……美咲、ちなみに27の靴なんかは」

「呼べないです」

「だよな……ああ、後、厚手の靴下な。それと、服装はすぐに脱いだり着たり出来る物を重ね着するんだ。温度に合わせてしっかり調整するんだぞ」


 広瀬の言う通りに靴から小物まで色々揃え、準備がほぼ整った。


「それで、徒歩で行くのか?」

「いえ、塩の道は沢山の荷馬車が行き交っているそうなので、それに便乗させてもらうつもりなんです」

「なるほど、馬車にあてはあるのか?」

「商業組合で仲介してくれるってことでした」

「ああ、客として乗せて貰うのか。それなら楽で良いな」

「いざとなったら、美咲先輩と一緒に護衛として雇ってもらうって手もありますしねー」

「なら大丈夫かな。あ、そうだ。初めての町では、その日、最初に馬車から降りた場所を集合地点として覚えておくこと。はぐれたら最悪だからな」

「なるほど。携帯電話で連絡って訳にはいかないですもんね」

「りょーかいです」


 ◇◆◇◆◇


 翌日、美咲と茜は馬車の手配の為、商業組合を訪れていた。

 塩の道を行く馬車は、何も塩だけを運ぶわけではない。

 塩を運んできた馬車は、帰りには多くの場合、鉱物資源を積んで帰っていく。

 美咲達はそれに便乗させて貰おうというわけだ。

 勿論、有料である。

 また、あくまでも輸送がメインなので宿の世話などもしてくれるわけではない。


「アカネ様、コティア行きでしたら明日出発の便に空きがあるようです」


商業組合では、王都で名前の売れている茜が受付と話をしていた。


「美咲先輩、明日出発で良いですか?」

「うん。問題ないよ」

「それじゃ、明日の便、2名押さえてください。集合場所は東門ですか?」

「はい。東門のそばの白の森亭という宿の前に馬車が停まっていますので、そこからお乗りください。ニックという者のキャラバンです」

「ああ、あの白の森亭前ですね。で、ニックさん、と」


 茜は白の森亭を知っているようだった。


「白の森亭って有名なの?」

「はい、平民街区では珍しい白い石を使った建物なんですよ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


これからは更新頻度が3日に1度くらいになるかもしれませんm(_ _)m

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