75.レールガン
上空で円を描くように舞い飛ぶ飛竜の群れ。
その群れに対し、美咲は狙いを定めた。
「魔素で仮想レールを形成、魔力励起。レールに弾体をセット」
ポケットから取り出した錘をセットする。
「通電!」
ドン!という音と共に弾体である錘が飛竜に向かって発射された。
直撃したのか、それとも衝撃波でやられたのか、同時に5頭の飛竜が落ちてくる。
高さ15メートルほどからの落下だ、地面に叩きつけられれば生きていたとしても、二度と空には舞い上がれないだろう。
「ミサキ、凄いよ!」
「魔素使い過ぎるから、どれだけ落とせるか分からないけど、やれるだけやってみるよ」
「うん、頑張れ」
「魔素で仮想レールを形成」
4頭の飛竜が何かに気付いたかのように美咲の方に向かって飛び始めた。
「魔力励起。レールに弾体をセット」
先頭の飛竜が口を開き炎を吐きだす。
「通電!」
ドン!。
撃ち出された弾体は炎を貫き、後ろに続く4頭の飛竜に直撃した。
直撃を受けた飛竜はその場で四散した。その後ろで輪を描いていた飛竜達も衝撃波を食らい、フラフラと飛行している。
「凄い……私も使えないかな」
「日本の知識がないと無理だと思う……」
「ニホンか、行ってみたいな」
「私もだよ」
周囲の塀の上から、援護のつもりか、炎槍が撃ち出され始める。
美咲を群れに対する脅威と認識したのだろうか、群れ全体が美咲達の方に近付いてくる。
「ミサキ、来たよ!」
「魔素で仮想レールを形成、魔力励起。レールに弾体をセット」
輪を描くのをやめた飛竜達が美咲に向かって襲い掛かる。
だが、それはレールガンの弾道に群れが収まるということで。
「通電!」
直撃を受けたもの、直撃ではなくとも至近でレールガンの余波を食らったものは全て地に落ちた。
残りは僅か3頭。だが、その3頭は美咲に接近してきていた。
今からではレールガンは間に合わない。
「炎槍!」
「……インフェルノ!」
2頭が炎の槍に貫かれて落ちる。
しかし残り1頭が美咲に向かって襲い掛かって来る。
飛竜が口を開き、炎を吐きだした。
「ミサキ!」
フェルが後ろから美咲の体を引っ張る。
美咲とフェルはもつれあう様にして胸壁の上に倒れ込んだ。
そして真上から飛竜の爪が美咲達を襲おうとしたとき。
「「炎槍!」」
塀の上にいたアンナとキャシーの炎槍が飛竜の翼に当たった。バランスを崩した飛竜はそのまま塀の外へと舞い降りて行く。
「無事ですか!」
「大丈夫! ……インフェルノ!」
そのまま飛んで逃げたのであれば飛竜は生き残ることが出来ただろう。
だが、飛竜は地面を蹴って再び美咲達の方に向かって飛ぼうとしていた。
そこに美咲が放ったインフェルノが直撃し、最後の飛竜も燃え落ちた。
「……お、終わったね」
「うん、美咲の魔法のお陰だよ」
「最後、助かったのはアンナとキャシーのお陰だけどね……なんでこんな近くに?」
すぐそばに来ていたアンナとキャシーに美咲が聞くと。
「届かないなら届く所に移動するまで」
とアンナが答えた。
「アンナが急に走り出した時はどうしようかと思いましたわ」
キャシーはそう言って肩を竦めて見せた。
「お陰で命拾いしたよ。ミサキ、手を貸して」
「うん。フェルもありがとうね。危なく炎の直撃を受けるところだったよ」
美咲と胸壁に挟まれ、倒れていたフェルを引き起こしながら美咲はお礼を言った。
「いいよ。ミサキの魔法がなかったら、ミストは全滅してたかもしれないんだから」
「凄い魔法だった。後で詳しく」
「その前にミサキさんが落した飛竜にとどめを刺さないといけませんわね」
◇◆◇◆◇
レールガンの直撃を食らって生き延びた個体はいなかったが、余波で落下した中には生き残っている個体も存在した。
上空の脅威がなくなった今、傭兵達はそうした飛竜にとどめを刺して回っていた。
全部が全部、地面に叩き落とされたわけではない、むしろ屋根に落ちたものの方が多く、後片付けは困難なものとなった。
翼が折れ、飛べなくなった飛竜でも、火を吐くことは出来る。とどめを刺しに傭兵が近付いた際、飛竜が炎を吐いて小火になることもあり、全てが片付いたのは夕刻になってからだった。
偵察に出たまま林に身を隠していた者の回収と治療が終わり、ゴードンは一息ついていた。
何があったのかは分かっていない。
見ていた者は皆一様に、大きな音と共に飛竜が四散し、落下してきたと言う。
誰かがそれをした筈だが、誰がやったのかという点になると皆、首を傾げる。
「まあ、こんなことをやってくれるのは、ミサキだろうな」
ゴードンは美咲とフェルを呼び出すよう指示を出し、椅子の背もたれに体重を掛けた。
◇◆◇◆◇
「まずどうやって倒したのかを聞きたい」
2人を前にゴードンはそう切り出した。
美咲とフェルは顔を見合わせている。
「フェル、何があった?」
「……ミサキの魔素のラインで」
「違う。大きな音がする魔法のことだ」
「えーと……」
フェルの目が泳いでいる。
美咲は溜息を吐いて、一歩前に出た。
「すみません、私がやりました」
「……別に咎めている訳ではないぞ」
「そうなんですか? えーと、私の新開発した魔法は、射程距離が物凄いんです」
「どれ位だ?」
美咲は首を傾げた。
「さあ。王都まで届くかも?」
「……冗談だろ?」
「いえ、結構本気です。ただ、狙いようがないから、そうそう当たらないでしょうけどね」
「流れ弾でも当たったら大事件だ」
実際のところ、美咲のレールガンは距離だけなら王都まで余裕で届く。
衛星からの補助でもなければ、狙って当てるのは不可能だが、方位と仰角が偶々あっていたら王城の壁にめり込むと言った事件にも発展しかねない。
「今回は上空を狙ったから、そこまでの飛距離は出ない筈です」
「そうか……そんな魔法があると、なぜ黙っていた?」
「理由は幾つかあります。まず、最近開発した魔法であること。魔素消費が激しいので使える回数が少ないこと。そして一番の理由が、強力すぎて、王都にばれたら徴兵されかねないことです」
「……徴兵か」
ゴードンは腕組みをして考え込んだ。
対魔物でも使える魔法であることは間違いないが、万が一戦争となれば、敵の攻撃が一切届かない距離から一方的に攻撃できる悪魔の魔法だ。威力は今回のことで実証済みである。
周囲の反応から考えるに、音しか聞こえないような魔法である。ということは避けることも防ぐ事も出来ない。
「なるほどな。確かに今までの魔法とはあまりに違い過ぎる。そんな魔法が使えると知られたら、王城に監禁されかねない……そんな魔法をなぜ使った?」
「ミストの町を守る為に仕方なくです。元々、その為に開発した魔法ですから」
「そうか……公式には魔素のラインで敵を倒したことにしておく。だが、人の口に戸は立てられない。いつか噂になるだろう。だから、ミサキ、暫くミストの町を離れないか?」
「離れる、ですか?」
「ずっととは言わん、だが、3ヵ月程度は戻らない方が良かろう……噂と同じ場所にミサキを置いておけば、いつか真実に辿り着く者が出るやもしれん。考えておいてくれ」
今回のことは今迄のやらかしとは決定的に違っていた。
今迄の美咲は、知らず知らずの内にやらかしていたのだが、今回は、こうなると分かっていてやらかしたのだ。
美咲は、ゴードンの言葉に頷いた。
お陰様で、第6回ネット小説大賞の期間中受賞を頂きました。
いつも読んで下さっている皆様のお陰です。この場を借りてお礼申し上げます。
ありがとうございます。これからも引き続き、よろしくお願いいたします。
モーニングスターブックス様から刊行して頂けるそうです。




