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57.ゆく年くる年

申し訳ありませんが、年内は大掃除その他の為、これが最後の更新になるかもしれません。

時間が取れたら不定期で更新させていただきます。

神殿に行ったその夜、美咲は不思議な夢を見た。

真っ白い世界で、姿かたちが曖昧な3人の女性に囲まれ、色々論評される。そういう夢だ。


「性格が大人しすぎるのよねー。もう少し色々やらかしてくれると面白いのに」

「姉上、やらかすのを期待するのは駄目です」

「駄目かしら?」

「駄目です。やらかすように誘導しなければ。この娘は色恋にも興味を持たず、ただ、臆病に拠点に籠ってばかり。ならばこの娘自身に色々仕掛ければ良いのです。そうすればきっと面白くなります」

「色恋に興味ないのは困りものですわ、もう一人の娘もそうですけど、同郷の男性がいるのに興味をもたないなんて。見ていてつまらないですわ」

「きっと自分に自信がないのねー。ユフィと同じでプロポーションが色々控え目だからね」

「そうですわね。この世界では成人の年齢なのだから、もう少し過激な色々があっても良さそうなものなのに」

「ですから、こちらから仕掛けないと。普段は拠点にいるのが分かっているのだから、そこを出会いの場にすれば良いのです」

「それなら……すれば」

「ですわね……だと面白そうね」

「その通りです……しましょう」


 ◇◆◇◆◇


「あー、なんか朝から疲れた」


目覚めた美咲は、上半身を起こし、そのまま膝を抱え、いつもよりも広いベッドの上でころころ転がった。


「妙な夢だったなぁ」


美咲は起き上がり、起伏に乏しい自身の体を見下ろした。


「コンプレックスはないつもりなんだけどなぁ。色恋とかはやってる余裕がないだけだし」


ごそごそと着替え、身支度を済ませてリビングに降りるとコタツムリと化した広瀬がいた。


「お久し振りです。広瀬さん」

「おー、美咲か。茜とは仲良くやってるか?」

「ええ、仲良しですよ。茜ちゃんのお陰で、私もホームシックにならずに済んでるし。そだ、広瀬さんにビール渡したいって思ってたんですよ」


アイテムボックスから取り出された大量のビールが、コタツの横に広がった。

広瀬は出されたビールをアイテムボックスに収納しながら礼を言った。


「おー、ありがとうな」

「調味料とかお米は小川さんに渡してますから。あ、地竜のお肉とかいります?」

「あ、地竜の肉も出せるんだ、それは是非とも欲しいな」


こちらの世界産のものを呼べるという事に疑問を持たない広瀬。どうやら、日本のものしか出せないと勘違いをしていたのは美咲だけだったようだ。


「それじゃ、ええと。はい」


ゴミ袋を呼び出した美咲はそれを広げ、その中に入るように地竜の肉の塊を呼び出した。


「狩りたての新鮮なお肉ですよ」

「ん? 美咲が狩ったのか?」

「前に地竜騒ぎがあった時のメンバーに茜ちゃんを加えて、みんなで狩りに行ったんですよ」

「そりゃ凄い。さすが、ミストの町は魔物の最前線だな」

「魔物の最前線?」

「ああ、白の樹海に一番近いだろ? だから、一部でそう呼ばれてるんだ」


 ◇◆◇◆◇


暫くすると小川、茜も起き出してきた。

そして皆、コタツに入る。

絨毯は綺麗に掃除されているが、土足が一般的な世界で絨毯に寝そべる姿は、あまり褒められたものではない。セバスは若干引き攣った表情で、朝食の準備が出来たことを知らせに来た。


朝食を食べ終わっても小川、広瀬はコタツでくつろぎ、出勤する様子がなかった。


「おじさん、おにーさん、2人とも今日は休みなんですか?」

「ああ、俺は年末年始は休みにして貰った。こんな時期になんで休むんだって不思議がられたけどな」

「僕もそうですね。この世界では年末年始に休む習慣はないようですから、不思議がられましたよ」

「明日が大晦日ですけど、ゆっくりしてますね?」


年の瀬らしくない、落ち着いた様子に、美咲は首を傾げた。


「そりゃ、美咲が来てくれたからだよ。正月らしい物を求めて市場を彷徨う必要はなくなったし、掃除はメイドがやってくれている。年賀状なんて書いても理解されないだろうから、後は一年を振り返りつつ、のんびり過ごすだけだ」

「そうだね。僕も用事と言えば昨日注文しておいた重箱が届くのを待つだけで、基本のんびりだね」


昨年までは、僅かでも正月らしい物を求め、2人は年末の市場を彷徨っていたのだ。そして彷徨った結果、小豆に似た豆を手に入れて、甘い煮豆を作るのが関の山だったのだが、今年は本場日本のお節料理の材料が揃っている。

皆、久し振りの本物のお節料理となるのだ。


「あ、それじゃ、煮物と焼き物は作らないとですね。うちのお節は、煮物と焼き物はネットで調べたレシピですけど、一応手作りでしたから。ところでお雑煮は関東風しか作れないんですけど、構いませんか?」

「大丈夫です美咲先輩。全員関東地方です。そう言えば話したことなかったですね。みんな同じ県に住んでたんですよ。美咲先輩もS県に住んでませんでしたか?」


茜に問いかけられ、美咲は驚いたように目を見開いた。


「うん、え? みんなご近所さん? 私、K市だけど」

「お、茜と同じだな。俺はW市に住んでて、小川さんは……S市でしたっけ?」

「そうだよ。それでね美咲ちゃん、僕と広瀬君もK市にいる時にこっちにとばされたんだ」

「K市に特異点でもあるんでしょうかね?」

「その可能性は高いね。4人が4人、K市から来たなんて、何かあるとしか思えないからね」

「なるほど……それはそれとして、お雑煮は関東風で良いんですよね?」

「冷静にそこに戻るとはさすが美咲先輩です」


 ◇◆◇◆◇


木工店から5段重ねの白木の重箱が届き、美咲と茜は重箱にお節料理を詰め始めた。

同時に、3段目、4段目に詰める煮物と焼き物を作り始める。

美咲とて、1年に1回しか作らないお節料理の詰め方などいちいち覚えている筈もなく、なんとなく、それっぽい詰め方で良しとした。

そして、大晦日を迎える前に、お節料理は完成した。

なお、焼き物と煮物については、ロバートに作り方を説明しているので、材料さえあれば、次回からはロバートでも作れる筈である。


「後は、明日、年越し蕎麦だね。茜ちゃんは何か希望ある?」

「天ザルが良いです。つゆは濃縮つゆの素で、エビ天乗せて」

「随分とお手軽だね」

「美咲先輩はどういうお蕎麦にするんですか? 私が作ってあげますよ」

「普通に天蕎麦かな。温かいの。蕎麦茹でる所までは同じだから、一緒に作ろっか」

「はい」


 ◇◆◇◆◇


大晦日は平和に過ぎ、夕刻には年越し蕎麦を食べる。

紅白も除夜の鐘もないので、皆、普通に早寝だった。

茜だけは、初日の出を見るのだと粘っていたが、途中で力尽き、コタツで眠ってしまった。


そして元日の朝。

日本人達にとっては特別な朝だが、この世界の者にとってはなんの変哲もない朝。

美咲達は身支度を整え、リビングのコタツで集まり、年始の挨拶を交わした。

小川と広瀬は、小さな革袋に硬貨を入れて、美咲と茜に渡した。お年玉である。

お屠蘇を飲み、雑煮とお節料理を食べる。

皆が若いためか、作法は適当である。

それでも、広瀬や小川にとっては、本当に久し振りの正月らしい正月で、広瀬などは苦しくなるまで雑煮を食べていた。


「やっぱり、お正月は集まって正解だったね」

「そーですねー。こっちの人達からしたら、お節もお雑煮も意味不明でしょうし、新年を祝うって気持ちも共有出来ないでしょうからねー。テンプレだと、日本の事なんか思い出しもせずに、好き勝手に暴れまわるものですけど、ちょっとそれだけは真似できそーにありませんよ」


 ◇◆◇◆◇


王都では新年を祝うでもなく、日常が繰り返されている。

美咲達は、僅かでも正月気分を味わおうと市場を回って、珍しい物がないかを眺めていたが、茜がある露店で足を止めた。


「何かあった?」

「えーとですね。雑貨屋アカネで扱ってる商品が流れてきてますね。手鏡、値段は10倍です。他にも、色々流れてきてますね。こうなることは予想してましたが、値段がちょっと予想外でした」

「まあ、ガラスを使った鏡なんて、この世界の技術じゃ作れないだろうし、安い方じゃない?」


ふらふらと露店を渡り歩いていると、小瓶を並べただけのやる気のなさそうな露店があった。


「茜ちゃん、あれ何かな? なんか小瓶が並んでるけど」

「えーと……お? おおお? これは、初めて見ました。回復薬……ポーションですね。存在したんだ。へぇ」

「回復薬って、何が回復するの?」


ファイトで一発な肉体疲労の回復。をイメージする美咲であった。


「怪我が治るんですよ。それも飲んだり、傷に掛けたりするだけですぐに。この世界にはないと思ってました」


茜の言葉を聞き、露店商が顔をあげた。

綺麗な女性だった。


「お客さん、これの価値が分かるなら買ってもらえませんか? みんな胡散臭い物を見る目で眺めるだけで買ってくれないんです」

「そりゃそーですよ。存在しない筈の魔法の薬が露店で売られてるなんて、おかしーじゃないですか」

「でも、本物なんですよ? 実際にここにこうして存在してるんですよ」

「茜ちゃん、存在しない筈ってどういう意味?」

「この世界に回復魔法は存在しないんですよー。だから、それを模した魔法薬もない筈なんですけどー」


でも、鑑定で見た限り、本物なんですよねー。と茜は呟いた。


「えーと、お姉さん、それ、お幾ら?」

「美咲先輩、買うんですか?」

「うん、面白そうだし」

「ポーション1本、大銀貨。1万ラタグ。3本買ってくれたら、2万8千ラタグにおまけしますよ」

「それじゃ、3本貰おうかな。何だか珍しいものみたいだし」

「毎度あり」


お金と引き換えに受け取ったポーションを収納魔法でしまい、美咲達はポーションの露店を後にした。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


丁度良い機会ですので、オセロ→リバーシの変更や、誤字脱字などの点検もしたいと思います。

それでは皆様、良いお年を。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうせ買ったものは増やせるのに3本買っちゃうあたり、 美咲はまだまだ自分の力を使いこなせてないですね。
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