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52.凱旋

ゴーレムの暴走事件は、ミストの町に被害をもたらすことなく終結した。

だが、大慌てで北門から出て行った騎馬と荷馬車の姿は多くの町民が見ており、ミストの町の代官でもあるビリーから、非常事態に備えるようにとの周知があったことから、美咲達が帰ってくる頃には、事態は多くの町民が知るところとなっていた。

また、戦える傭兵達は塀の上に弓や槍を用意し、ゴーレムが接近してきた場合は足止めを行えるように準備を行っていた。

そこに、騎馬の一騎が接近してきた。


「ゴーレムは破壊! ゴーレムは破壊された!」


大きな声でゴーレムの破壊を伝えながら塀の周囲を回った後、傭兵は馬から降りて傭兵組合に走った。

連絡を受けた傭兵組合では、傭兵の待機を解除し、代官であるビリーへも伝令を走らせた。

ビリーからの各地区代表に警戒解除の指示が下った頃、美咲達は帰ってきた。

塀の上で手を振る傭兵達に手を振り返しつつ、美咲達は門をくぐった。


「美咲先輩、本当に勝てて良かったって思えますねー」

「うん。あ、これで茜ちゃんにも通り名が付くかもしれないね」

「格好良いのがいーなー」


 ◇◆◇◆◇


傭兵組合では、美咲達が戻るのとほぼ同時に数台の空荷の荷馬車を走らせた。

目的はゴーレムの残骸である。

この世界のゴーレムは魔道具の一種であり、希少な素材が用いられていることも少なくないため、ゴードンが接収を命じたのだ。

白狼の時同様、そこから得られた収入を、今回動員した傭兵が受け取ることになる。

なお、それで不足が出た場合は代官から不足分が補填される。今回のケースでは王都魔法協会に非がある為、ミストの町として王都魔法協会に損害賠償を請求し、そこから費用が捻出される事となる。

そうした細かな事情はさておき、美咲達がゴードンに報告を終えると、美咲と茜は傭兵達に酒場に連れ込まれた。

そして茜は、酔っ払った傭兵を相手にジュースを飲みながら事の顛末を面白おかしく話すのだった。


「そこで美咲先輩が言ったんです。今回は足止めが任務だって。だから私はこう言ったんです。足止めは分かりました……ですが、倒してしまっても構わないのですよね? と」

「いやいや言ってないから」


という美咲の突っ込みは大きな歓声にかき消された。

茜の話に酔っ払い達は一喜一憂し、最後に真っ二つに裂けたゴーレムに止めを刺すシーンでは、怒号だか歓声だか分からない叫びが飛び交っていた。

そして、茜はめでたく、蒼炎使いという通り名を授かったのだった。


 ◇◆◇◆◇


ゴーレムについての詳細は一部を除き謎のままだった。

王都魔法協会内で責任の所在の追及が行われている間に、傭兵組合によって、壊れたゴーレムのパーツはバラバラにされ、換金可能な素材ごとに分割され、一部素材は商人の手に渡っていたのだ。

王都魔法協会内部のごたごたが片付き、ゴーレムのパーツを寄越せと要求してきた頃には、パーツの形状を残しているのは頭部だけだった。

その頭部を高い金を出して購入した王都魔法協会の調査では、ゴーレムが細かな無数のブロックから構成されているということしか分からなかった。

おそらく、コアからの命令でブロックが所定の位置に収まり、壊れた部分を切り離しながら動き続ける仕組みなのだろう。という推測は立ったが、肝心の、魔素をどうやって補充していたのかという点は謎のままとなった。

なお、大きく株を下げることとなった王都魔法協会であるが、小川は魔素酔いの関連調査を行っていた為、ゴーレムの件には関わっておらず被害を免れていた。結果、魔法協会内で、小川の発言力は高まることとなった。


 ◇◆◇◆◇


ゴーレム騒動の余波で、雑貨屋アカネの売上が急上昇したり、ミサキ食堂に傭兵の客が良く来るようになったりしたが、暫くするとそれらの変化も元に戻った。

その日の食堂の業務を終えた美咲は自室の窓から外を眺めていた。


「拠点は出来たよね」


ミサキ食堂は、支払いを終え、美咲の所有する物件となっていた。


「仕事もあるし、空き時間で人間観察しながら常識を学ぶことも出来る」


ミサキ食堂は仕込みから清掃まで含めて1日3時間程度の仕事である。

それ以外の空き時間は広場で人間観察をしたり、広場でフェルと話したり、傭兵組合でシェリーと話したり、商業組合でマギーと話したり、道端でグリンと話したりして常識を学ぶことが出来るようになった。


「目立たない……ってのは失敗したかなぁ」


青いズボンの魔素使いとして名前が売れてしまったし、ミサキ食堂の店主としてもそこそこ有名になってしまった。

最近セットで扱われるようになった茜にも通り名が付いてしまった。


「当初の目的は大体達成しちゃったんだよね。この先どうしよう。拠点の……この町の防衛を本格的に考えるべきかな」


対ゴーレム戦で勝てたのは、インフェルノ、アブソリュートゼロの2つの魔法を使える人間が2人いたお陰だと美咲は考えていた。

もしも魔法の効果がなければ勝つことは出来なかっただろう。また、効果のある魔法を使えたとしても謎の修復機能を持つゴーレムの修復速度の方が早ければ、倒し切ることは出来なかっただろう。効果のある魔法で飽和攻撃が出来たからこそ、修復速度を上回ることが出来、勝つことが出来たのだと、美咲はそう考えていたのだ。


「例えば、もっと強力な魔法とかがあれば」


美咲の理解では、そして実証された事実として、魔法は人間のイメージに従い効果を発揮する。しかも、炎槍も、氷槍も、射手や、その近くにいる人間には影響を与えない。つまり、何らかの安全装置まで組み込まれているのだ。

フェルの魔法を真似しつつ、温度のパラメータをいじった物がインフェルノであり、アブソリュートゼロである。

パラメータだけではなく、全体像を変えられないものか、美咲は色々なイメージを魔法の原理に当て嵌めて考え始めた。


 ◇◆◇◆◇


美咲が魔法について考えている頃、ミストの町の鍛冶屋では、小さな騒ぎが起きていた。


「うむ、これは軽銀だな。ベン、軽銀なんてどこで手に入れた?」


鍛冶屋の親方は、冷え固まった銀色の金属を槌で軽く叩いてそう言った。


「軽銀って、滅多に産出しないって聞くけど、間違いないのか?」


軽銀を持ち込んだベンは興奮気味にそう尋ねた。


「ああ、修業時代に一回だが見た事がある。銀に似ているが軽い。間違いない。偉く珍しい物を持ってきたもんだ」

「どうなんだい? 値が付く代物かい?」

「いや……うちじゃ扱わないな。希少性は高いがそれだけの代物だ。鍛えても全く意味がないから使い勝手が悪い。銀と名がついてはいるが、すぐに白く錆びちまうしな」

「量があったらどうだい?」

「軽銀だろ? 意味ねぇな。好事家がいりゃ、大金出してでも買うかもしれねえが、心当たりはねえしな」


親方は鼻で笑って軽銀の塊を槌で転がした。

そこにもう一つの塊を置いた。


「こっちは多少マシだな。ちぃっとばかし混じりもんがあるようだが、立派な鉄だ。使えるよ」


ベンが持ち込んだのは空き缶だった。

自然界にも稀に金属として存在するアルミは軽銀と呼ばれている。希少性は極めて高いが、アルミの性質から、アルミ缶を鋳溶かし、固めたアルミには親方は興味を示さなかった。

対してスチール缶は、鋳溶かし固めた物を見る限り、鉄として十分に利用可能な物だった。


「そっか。それで幾ら位になる?」

「ん? そうだな、この塊で5ラタグってところか?」

「……マジかよ、そんなら素直に雑貨屋に持って行った方が金になるじゃねぇか」


何回かこういうことがあったが、以降、大半の空き缶は雑貨屋アカネに戻って来るようになった。


 ◇◆◇◆◇


そうこうする内に季節は晩秋である。

エトワクタル王国にも一応四季らしきものが存在する。

畑の大半は夏に収穫を迎えるため、あまり収穫の秋というイメージはないが、冬を迎える前にミストの町では小さな祭りが催される。

白の樹海の奥に住むと言う女神ユフィテリアが眠りにつき、いたずら好きの他の女神達に留守を任せるという事で、微睡祭と呼ばれている。

春の復活祭まではユフィテリアに会えなくなるため、それまでの平穏を祈りつつ、一晩中騒ぐという代物で、広場には多くの屋台が出店する。

ミサキ食堂にも出店依頼が来た為、美咲はアイディアを出して貰おうと茜を捕まえた。


「あ、茜ちゃん、うちにも参加依頼が来たんだけど、何かアイディアない?」

「屋台ですか? 焼きそば……は器が面倒だし、お好み焼きも同じ。クレープも油が染みない紙なんてないし、かと言って、綿菓子なんて作れないし……串焼肉で日本風焼き鳥なんてどうでしょー?」


日本でよく見かける屋台の大半は器がネックとなりそうだったので、茜は無難なところで焼き鳥を提案した。


「うーん、それだと普通の串焼き肉と被りそうだね。でも器の事を考えると串に刺すのはありかな。あ、薩摩揚げとかを焼いて、串に刺して出したらどうかな?」

「薩摩揚げってどんなのですか?」

「んーと、こんなの」


分厚い薩摩揚げが幾つか詰まった袋が出てきたので、慌てて受け止める茜。


「へー、厚みがあるから、串に刺して焼けば食べやすそうですね。味付けはどうします?」

「ん? これ、味ついてるから、そのままで大丈夫だよ」

「屋台と串はどうするんですか?」

「その辺りは商業組合で準備してくれるって」


 ◇◆◇◆◇


微睡祭で出店した薩摩揚げは、それなりの人気を集めていた。

見慣れぬ異国の食品と敬遠する者もいれば、ミサキ食堂なら外れなしとばかりに買っていく者もいる。


「まずまずの出だしですねー」

「そだね。あ、いらっしゃい」

「ミサキさん、お久し振りです。一本いただけますか?」


屋台の前に立った女性にそう言われ、美咲は相手が誰だかを思い出した。


「はい、今温めますね。キャシーさん、最近見掛けなかったけど、どこか行ってたんですか?」

「ええ、ちょっと王都までお仕事で」

「へえ、私達もちょっと前に観光行って来たんですよ。タワーとか良かったですね。はい、あがりました。熱いから気を付けて」

「ありがとう。こちらお代ですわ」

「毎度ありがとうございます」


商品と引き換えに大銅貨を受け取り、美咲は笑顔でキャシーを見送った。


「美咲先輩、今の人は?」

「ん? フェルの傭兵仲間のキャシーさん。魔法使いだよ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


次回、ちょっと遅れるかもしれません。。。

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