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51.やったか!

時間を無駄に出来るような余裕は残されていない。

傭兵組合での会議は極めて短時間で終わった。

ゴードンは、遅れてやって来たマックに、地竜駆除の時と同様、美咲と茜を荷馬車に乗せてゴーレムに最短時間で向かうよう指示を出した。

ゴーレムの速度は速足程度との情報から、荷馬車で並走して攻撃魔法を撃ちこむ方法を採用した。

もしも反撃があった場合は、騎馬隊が敵を引き付ける囮になるという点も地竜駆除の時と同じだ。

美咲が鎧を身に着けるのを待ち、美咲と茜を乗せた荷馬車は北門を出て、街道を北に向かった。

街道を進んだ荷馬車は、ある程度進んだところで湖方面に向かって街道を逸れた。

ゴーレムの高さは湖畔の木々の梢よりも高かったが、まだその姿は見えていない。接敵はまだ先だ。

荷馬車の縁を掴む茜の手の震えに気付いた美咲は、茜に声を掛けた。


「茜ちゃん、力入りすぎだよ。今からそんなんじゃ、ゴーレムと会った時に疲れちゃうよ」

「そー……それはそうなんですけど、実戦ってこれが初めてだから……その、怖くて」


いつもの元気な口調は鳴りを潜め、素の茜が顔を出していた。


「大丈夫だよ、何かあったら私が守ってあげるから。ほら、テンプレしたって良いんだよ。あるんじゃないの? 戦いでのテンプレとか」

「そうですね……はい、そーでした。ゴーレムなんてどーせ頭の文字削ったら止まるよーな代物です。一撃で沈めて見せますよー」

「あー、茜ちゃん、狙うのは手前の前足付け根付近だからね」

「そーでした。なぜ頭を狙わないんでしょーか?」

「的が小さいし、高い位置にあって狙いにくいからね。それに目的はミストの町を守ることだから足止めが最優先」

「りょーかいです。頑張ります」

「うん。頑張ろうね」


 ◇◆◇◆◇


今回もマックは騎馬で荷馬車と並走している。

ゴーレムからの反撃があった場合は、注意を引き付け、盾となる役割だ。

森の木々の梢の上に動くものを発見したマックは、馭者に指示を出し、荷馬車の進路を微調整した。

ゴーレムのサイズは森の木々よりも高い。梢の上に見えていたのはその頭部だった。


「ミサキ、アカネ、ゴーレムを発見した。森から出てきたら並走しつつ距離を縮めるから、任意のタイミングで魔法を放ってくれ」


茜の体に力が入ったのを見て、美咲は茜の手を握った。


「ごめんね、怖い目に合わせちゃって」

「だ、大丈夫です。私の魔法で倒してみせます」

「違うよ茜ちゃん、私達の魔法だよ。茜ちゃんは1人なんかじゃないんだからね」


そのまま茜のことを抱きしめようとした美咲は、自分の恰好に気付いて途中で手を止めた。

美咲はいつもの黒い革鎧を着ているのだ。こんななりで抱きしめられても硬くて痛いだけだろう。


「茜ちゃん、外したって構わないから、落ち着いて攻撃するんだよ」

「了解です。美咲先輩」


虎のゴーレムが森の木々を薙ぎ倒すように森から出てきた。

動きは滑らかとは言い難いが、それでも人の速足程度の速度で移動している。

荷馬車は、ゴーレムに対して、25m程の距離を保ちつつ並走を始めた。


「ミサキ、アカネ、位置に付いた。任意のタイミングで攻撃してくれ」

「了解。茜ちゃんは私がアブソリュートゼロを当てたら、ちょっと下を狙ってインフェルノね。もしも反撃があったら、私に構わずにしっかり荷台にしがみ付いて!」

「了解です!」

「氷よ、槍となりあの足を貫け!」


アブソリュートゼロが着弾した左前足上部には、真っ白く霜がつき、ゴーレムの動きが鈍くなった。

ゴーレムからの反撃はなかった。


「茜ちゃん!」

「はい! 万物を構成せし極小なる物達よ、我が呼び掛けに応え、天狼星が如き獄炎を現出し、槍となりてあの足を貫け!」


美咲のアブソリュートゼロが着弾したのを確認した茜は、その少し下にインフェルノを着弾させた。

インフェルノの当たった部分は岩が蒸発し、白く霜がついていた部分には無数のひびが入り、砕け散った。

まだ左前足は繋がっているが、体重を掛ければ折れてしまいそうだ。


「おー! 美咲先輩! やりました!」

「まだだよ、茜ちゃん、今度は足が繋がってる所を凍らせて」

「了解です! 万物を構成せし極小なる物よ! 我が命によりその運動を停止せしめ、絶対なる氷結を槍と為し、あの足を貫け!」


急速冷凍、加熱、急速冷凍と繰り返された左前足は千切れ飛んだ。


「やったか!」


マックの喜びの声に茜が眉をしかめる。

と、ゴーレムは突然その場で丸まった。


「茜ちゃんは私の後ろに! 反撃来るかもしれないよ!」

「はい!」


荷馬車はゴーレム、というよりも既に丸まった岩にしか見えないが、それから距離を取り、騎馬が盾となるように間に入った。

騎馬に一瞬、視線が遮られただけだった。

それなのに、次に見えた時、ゴーレムは元通りの姿で立ち上がっていた。


「足が治ってる?」

「美咲先輩、あれ!」


茜が指さす方を見ると、先程千切れ飛んだ左前脚がそのままころがっている。


「治ったのとは違うみたいだね。茜ちゃん、今度、攻撃位置に付いたら胴体中央をアブソリュートゼロで狙うよ」

「はい!」


ゴーレムは、心なしか小さくなり、動きは速くなっているように見えた。

反撃がないと判断したマックは、再度荷馬車を攻撃位置につけた。


「ミサキ、アカネ! 攻撃位置についたぞ!」

「茜ちゃん!」

「了解です! 万物を構成せし極小なる物よ! 我が命によりその運動を停止せしめ、絶対なる氷結を槍と為し、あのゴーレムを貫け!」


今度は胴体中央が真っ白い霜に覆われた。

続いて美咲のアブソリュートゼロが少し後ろ足寄りの部分に着弾。

凍り付いた後ろ足がうまく動かなくなったのだろう。ゴーレムは停止した。

今度は丸まることなく、油の切れたゼンマイ人形のように、凍った部分を動かそうともがいている。そのたび、凍り付いた部分がパラパラと崩れていく。


「茜ちゃん、もう一回、さっきよりちょっと上を狙って!」

「はい! 万物を構成せし極小なる物よ! 我が命によりその運動を停止せしめ、絶対なる氷結を槍と為し、あのゴーレムを貫け!」


茜のアブソリュートゼロは、美咲の指示通りに着弾し凍り付いた。


「動きが鈍くなってきた。次はインフェルノ行くよ!」

「はい! 万物を構成せし極小なる物達よ、我が呼び掛けに応え、天狼星が如き獄炎を現出し、槍となりてあのゴーレムを貫け!」


茜と美咲のインフェルノは、ほぼ同時にゴーレムの腹部に命中し、着弾点付近は消し飛んだ。同時に、冷やされ切っていた胴体中央に大きな亀裂が走った。


「茜ちゃん、あの亀裂にアブソリュートゼロ!」

「了解です! 万物を構成せし極小なる物よ! 我が命によりその運動を停止せしめ、絶対なる氷結を槍と為し、あのゴーレムを貫け!」


茜のアブソリュートゼロで亀裂が大きくなった。

間髪入れずに、そこに美咲のインフェルノが命中した。

途端に亀裂部分が爆発したように弾け、上半身と下半身が分断された。


「美咲先輩!」

「まだ油断しないで。また復活してきたら今度は上半身部分を狙うからね」

「今度こそ、やったか!」


マックの言葉に茜が頭痛を堪えるように額を押さえた。


「あーもー、マックさんは……そーゆーテンプレはいーですから」


ゴーレムは、いや、ゴーレムの残骸は、完全に動作を停止しているように見えた。

だが、先程、足を再生したように、いつまた半身を再生しないとも限らない。


「茜ちゃん、まだ魔法は使える?」

「もちろんです。まだまだよゆーです」

「それじゃ、頭部、胸部にインフェルノをお願い、私は下半身を処分するね」

「りょーかいです」


2人の止めの攻撃でも、ゴーレムは反応することはなかった。

どうやら完全に倒したらしいと、2人はようやく理解した。


「茜ちゃん、やったね!」

「やりましたー! 勝ったぞー! おー!」


雄叫びを上げる茜に、美咲は苦笑した。


「茜ちゃん、お疲れ様。怖いことさせてごめんね」

「いえいえ、これも傭兵のお仕事ですからー」

「え? 傭兵? いつから?」

「さっき、待ち時間で登録しちゃいました。ほらほら、ペンダントでーす」


服の中から紫色のペンダントを取り出す茜。


「おー、それじゃ帰ったらゴードンさんに茜ちゃんが傭兵だって伝えないとね」

「はい!」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


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