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48.寝癖

虎の形状をしたゴーレムが岩を齧っていたという美咲達の報告を受け、傭兵組合では会議が開かれていた。


「それで、倒せそうなのか?」


ゴードンの問い掛けにフェルは首を横に振った。


「あのゴーレムの弱点を教えて貰えれば或いは。そうでなければ無理ですね」


何しろ見上げる程の岩の塊である。

何も考えずに魔法を撃ったのでは、表面を削るだけで終わるだろう。

美咲や茜の魔法であれば効果的に削ることは出来るだろうが、魔法の影響範囲は限られている。急所に当たるまで何発の魔法が必要になる事か。

ゴーレムは、魔法式が刻まれた核となる部分を破壊しない限り機能を停止することはない。

そして、下手に攻撃した場合、反撃が待っている可能性が極めて高い。攻撃が藪蛇になりかねないのだ。


「あー、これは魔法協会員としてのフェルに聞くのだが、魔法協会で心当たりはないのか?」

「あのサイズのゴーレムを作れるような術者の心当たり、ですよね? ミストの町にはいませんね。力のある魔法使いってことなら、むしろ傭兵組合に加入してるでしょうから」

「そうか……」


フェルの答えを聞いたゴードンは腕組みをして考え込んだ。

それを見て、おずおすと美咲が手を挙げた。


「あの、湖周辺の岩を齧るだけのロボ……ゴーレムで、人に被害がないのなら、急いで処分する必要はないんじゃないですか?」

「ん? なるほど、ゴーレムなら地竜の様に増えることはないか」

「そうです。観察して弱点を調べても良いでしょうし、誰がいつ作ったのかを調べても良いでしょうし」


ゴーレムに意識はないとされている。刻まれた魔法式に従って動くのがゴーレムだ。

美咲の理解している範囲では、プログラム通りに動作するロボットがこれに該当する。

岩を齧るだけのプログラムなら、少なくとも今は害はない。

それを観察し、弱点を見つけることが出来れば、倒せるかもしれない。

また、来歴によってはこのまま放置しても良いかもしれない。


「うむ……即座に破壊しようにも手段がない。暫くは監視だな……フェル、動き出すのは昼頃なんだな?」

「そうですね。ああ、来歴を調べるのなら、ゴーレムの足跡をわざわざネコ科の足跡にするようなもの好きを探すのも手ですよ」


 ◇◆◇◆◇


「ただいまぁ」


ミサキ食堂に戻った美咲は、そのまま風呂に向かい、お湯を溜め始めた。

何しろ4日間も風呂に入れず、体を拭くだけだったのだ。風呂好きの美咲でなくとも風呂が恋しくなって当然である。


「美咲先輩、お帰りなさーい」

「あ、茜ちゃん、何か変わった事はなかった?」

「と、特になかったですよ。はい」


と、目を逸らす茜に、美咲は溜息を吐いた。


「……怒らないから」

「本当に大したことじゃないんですよ……その、前に作ったハンドミキサーがあるじゃないですか」

「ん? ああ、あの売れなかった?」


以前、茜が作ったものの、この世界では需要がなく、売れなかったとボヤいていたのを思い出した美咲は首を傾げた。


「ですです。それが、王都の貴族の間で売れ始めてるらしいんです……ほら。アルにマヨネーズの作り方を教えたじゃないですか。多分、あれが原因だと思うんですよねー」

「なるほど。妙にあっさりとレシピを公開すると思ったら、これが狙いだったか」

「こんなすぐに反応があるとは思わなくて……テンプレになる前に言うつもりだったんですけど。ごめんなさい」


テンプレする時は先に言うことという約束を気にしてか、茜はばつが悪そうな表情で謝る。


「いいよ。この世界にある物を組み合わせて作った物でしょ? 売れてよかったじゃない……あ、お風呂、お湯溜まったから入るね」

「あ、はーい」


 ◇◆◇◆◇


風呂から出た美咲は、部屋に戻るなり、ベッドに飛び込んだ。


「あー、お布団ー……」


そして数秒後には寝息を立てていた。

4日間のテント生活は、美咲に取っては過酷な物だったらしい。

なお、同じく過酷な4日間を過ごしたフェルは、美咲が寝息を立て始めた頃、シャワーを浴びてからミサキ食堂にやってきていた。


「ミサキー、来たよー」

「あ、フェルさん、いらっしゃーい。美咲先輩、部屋に居ますけど呼んで来ますか?」

「ううん、疲れてるだろうし、プリンだけ貰えれば十分だよ」

「はーい。って、そんなに疲れるような依頼だったんですか?」


冷蔵庫からプリンを取り出し、皿に乗せてフェルの前に出しながら、茜は心配そうに尋ねた。


「んー、ちょっと変わった野営だったけど、そんなでもなかったよ。美咲は辛そうにしてたけどね。あー、やっぱりプリン美味しいなぁ。食べられる店が増えると良いんだけど」

「お砂糖が高いから厳しいですねー。国内生産が少ないから、平民まで回って来ないんですよねー」

「そっかぁ。ま、私はここで食べられるならそれで構わないけど」


 ◇◆◇◆◇


その日の夜遅くに起き出してきた美咲は、久し振りの大量呼び出しを実施した。

食堂のメニュー刷新のため、レトルトのパスタソース各種と、その他レトルト食品である。

一通り呼んだ後は余力で缶詰を呼んでみる。


「最近、王都に送るのを前提とした構成ばかりだったから、たまにはこういうのも面白いよね」


サバの味噌煮、イワシの蒲焼、ツナ缶といったおかず系や、ミカン、パイナップル、桃などのシロップ漬けのようなスイーツ系等、思い付くままに缶詰を呼んでみる。


「あー、こういう缶詰、茜ちゃんに売って貰っても良いかな。空き缶はデポジット制にして買い取れば、ある程度は回収できるだろうし」


ゴーレムが出てくるまでの4日間、最終日を除き、干し肉と硬いパンだけで過ごした美咲は、長期間の探索における食の重要性が身に染みていた。缶詰はその改善策として、丁度良い物に思えたのだ。


「あー、でも洗濯機の製作が忙しいのかな……明日、聞いてみよう……ふぁ」


呼び出し過ぎで眠くなった美咲は、呼び出しまくった物は、そのまま調理台に置き、自室のベッドに戻った。


 ◇◆◇◆◇


(うー、髪がまとまらない)


4日間の野営の影響か、はたまた、寝すぎた影響か、いつものポニーテイルにまとめようとした美咲は、髪が跳ねまくってしまい閉口していた。


「おはよーございます先輩。あれ? 髪、跳ねてますよ?」


厨房では朝食の準備の為、茜が鍋にお湯を沸かしていた。


「んー、なんかまとまらなくて。茜ちゃん、ドライヤーって作れない?」

「熱はコンロの魔道具を弱くして、風は回転の魔道具で出せるから、組み合わせれば作れると思いますよー。問題はサイズかなぁ」


茜は必要そうな素材を考えながら、お湯で濡らしたタオル片手に美咲の背後に回り、寝癖を取り始めた。


「お金は払うから、何とかお願い」

「はいはい、その前に髪を何とかしましょーねー」


ブラシと、お湯で濡らしたタオルで、茜は器用に美咲の寝癖を直していく。


「……茜ちゃん、手慣れてない?」

「日本にいた頃、よくお姉ちゃんの寝癖直してたんですよね……はい、綺麗になった……」


最後にブラシで全体を整え、茜は美咲の髪から名残惜しそうに手を放した。


「ありがと。今日は何作ろうか?」


見れば、既にお米は火に掛けられているようだ。


「あ、はい。サバの塩焼きと、ワカメと豆腐のお味噌汁がいーかなーって準備してます」

「じゃ、お味噌汁は私が作るね」


エプロンを付けて冷蔵庫を確認し、豆腐とワカメがなかったので呼び出す美咲。

そんな美咲に、茜は厨房に入った時から疑問に思っていたことを口にした。


「はい。ところで美咲先輩。調理台にあるのは何なんでしょうか? レトルトのパスタソースに缶詰とか、王都に送るんですか?」

「ああ、食堂のメニュー刷新しようかと思って」


美咲の答えに、茜は調理台の上に置いてある品を確認し始める。


「美咲先輩がとうとうやる気に! 桃缶とかもあるってことは、スイーツも扱うんですね?」

「や、違うから。缶詰は雑貨屋にどうかと思ってね。空き缶は持って来たら5ラタグ返して回収する方式で」

「回収必要ですか? 放っておいても鍛冶屋に流れると思いますよー。この世界のリサイクル率はかなり高いですよー」

「缶の素材がちょっと心配だから、出来るだけで良いから回収してね。メニューについては朝ご飯の後でね」

「はーい」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また応援頂いている皆様、ありがとうございます。

お陰様で書き始めた時は遥か彼方にあった総合評価1万ポイントに到達しました。

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