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46.ドナドナ

翌朝、茜は疲れた表情で帰ってきた。

聞けば、一晩中、2対1でリバーシをやっていたという。


「美咲先輩に片方の相手をお願いしたかったんですけどねー」

「や、無理だから。これ以上、王族とは関わりたくないから」

「美咲先輩も慎重ですよねー……ふぁ……ちょっと寝てきて良いですかー?」

「うん。開店前に起こすから。それまで寝てて」


だらだらと階段を上っていく茜に美咲はそう答えた。


 ◇◆◇◆◇


同じ頃、ミストの町から北西の方角にある湖では、傭兵組合の依頼で湖周辺で目撃情報があったと言う巨大な虎の探索が行われていた。

目撃された虎が人馬を襲う等の情報はなく、探索では虎の存在有無と、存在するならばその生態についての調査を目的としていた。

探索の依頼を受けた傭兵達は、目撃情報があった付近で大きな足跡を発見したが、虎を発見する事は出来ず、既に探索は4日目に突入していた。


「兄貴、岩場で足跡は完全に消えていますぜ」


足跡を追い、這う様に地面を調べていた男がそう言った。


「そうか。足跡があるんだ、存在するのは間違いなさそうだが、何を食って生きてるんだ?」


湖周辺の動物には異常は見られない。

何かを食べた形跡もなければ、糞なども見つかっていない。

巨大な虎なんてものがいるのであれば、その影響は多岐に渡る筈だが、足跡以外、それらがまったくないのだ。


「足跡がなければ、痕跡なしって言って終わりなんすけどね」

「ああ、足跡がある以上、それは出来んがな」

「そうっすよねぇ」


そして、5日目で食料が心許なくなって来た傭兵達は、探索を中断し、ミストの町に帰還することとなった。


 ◇◆◇◆◇


傭兵達の報告を受けた組合長は、虎を存在する脅威とみなし、退治する方針を固めた。

対象の脅威度は不明。ただし、虎であれば地竜とは比較にならないほど素早く動くと考えられるため、遠距離から速やかに攻撃をヒットさせる必要がある。


「また、フェルとミサキの出番か」

「それでは、指名依頼という事で……脅威度が不明では報酬額が決められませんけど、どうしますか?」


シェリーに問われ、ゴードンは頭を掻き、困ったような表情を見せた。


「……そうだな。1500プラス成功報酬と言ったところか」

「承知しました。その額でフェルさんとミサキさんに指名依頼の連絡をしますね」


 ◇◆◇◆◇


翌朝、傭兵組合の会議室に、美咲、フェルに加え、地竜騒動の時のマックが集められた。

ゴードンから状況の説明を受け、質問はないかと問われ、フェルが手を挙げた。


「相手を確認出来てないのにミサキを投入するのは気が早過ぎませんか?」

「どうも隠密能力に優れているようでな。発見したら即座に撃破しないと、次に発見出来るかが怪しいんだ」

「そもそも被害が出ていないのであれば、放置でも良さそうなんですけど」

「地竜の件があるからな。脅威度が低いと長らく放置していたら、あの様だ。今回は同じ轍を踏みたくないんだよ」

「そうですか……ミサキは何も聞かなくて良いの?」


フェルにつつかれ、美咲は首を傾げた。

ゴードンの言っている事は、何となく納得出来る話だった。

暫く考えてから、美咲は質問を口にした。


「あの。そもそも虎って魔物なんですか? 魔物じゃなければ普通の魔法使いでも倒せますよね?」

「魔物か否かは未確認だが、足跡のサイズから見て、まず、普通の虎ではない。それに、魔物でないと思って魔物だった場合は最悪だからな、慎重を期す」

「俺からも質問、いいか?」


静かに腕組みをしていたマックが声をあげた。


「おう」

「相手が虎なら、地竜とは比べ物にならない速度で動くだろう。どうやってミサキとフェルを守るんだ?」


地竜戦では、地竜が馬より遅い点を突き、美咲達を馬車に乗せ、マック達は馬で地竜を誘引した。

だが、虎が相手では、その手は使えない。


「檻を使う」

「……罠、ではないのだな?」

「ああ、檻だ」


ゴードンの答えを聞き、マックは深い溜息を吐いた。


「無茶な事を考える。フェル、ミサキ、よく考えて返事をした方が良いぞ」

「フェル、どういう事?」

「つまり、私とミサキを檻に入れて、安全を確保するって事じゃない?」


美咲は、自分が檻に入っているところを想像してみた。

檻は、サーカスの動物が入るような頑丈なものだ。

大きな虎がやってきて檻ごと転がされる未来を想像してしまった。


「もう少し安全な方法はないの?」

「こっちも攻撃しないといけないから、檻みたく、ある程度開口部がないとね。それに安全性を重視すると運べる重さじゃなくなるだろうし」

「あれ? マックさん達はどうなるの?」

「檻に入った私達を運ぶ係だから、運んだら一旦撤収でしょうね。あと、もしも運んでる途中で虎が出たら逃げるしかないでしょうね……私達の攻撃が間に合わなければ犠牲が出るかもしれないね」

「責任重大だね……フェルはこの作戦、どう思う?」

「んー、作戦としては、まあ妥当かなぁ」


フェルは人差し指を顎に当てて、上を向いた。

髪が耳に掛かり、それを嫌う様に耳がピンと跳ねる。


「……でも、相手がはっきりしないのが気持ち悪いよね。ミサキは受けるの?」

「んー、使い捨てにはされないだろうから、受けても良いかなって思ってるけど……檻の中でどれくらい待機してれば良いの?」

「予定では4日だ。それだけ待って出てこなければ、一旦諦める」


ゴードンの答えに、美咲は首を傾げた。


「あれ? 檻の中に閉じ込められて4日もって、食事やトイレはどうするの?」

「一応、穴を掘っておく。檻の中にテントを張って使ってくれ」

「うわ、それが一番辛そう。ま、でも町を守るためだよね、受けるよ」

「そか、それじゃ、私も受けるね」

「おう、そうしてくれるか。助かる」


嬉しそうなゴードンを見て、マックは再び深い溜息を吐いた。


「はー……それで、出発はいつにするんだ?」

「あー、檻の手配があるんでな、3日後だ」


 ◇◆◇◆◇


美咲が食堂に戻ると、茜がテーブルの上に雑貨を並べて考え込んでいた。


「何してるの?」

「んー、新しいラインナップの検討です」

「程々にね。茜ちゃんは商業組合でも有名人だから手出しされないと思うけど、ブレッドさんやグリンは普通の人なんだから、変に目立ちすぎると迷惑を掛ける事になっちゃうよ」


美咲は、誘拐されたり、秘密を探られたりする危険性について茜に説明した。


「あー、そういう……迷惑掛けるのは本意じゃないし、分かりました……あ、新しい魔道具開発して売る分には、オーバーテクノロジーじゃないし、迷惑にはならないですよね?」

「新しい魔道具って言うと、洗濯機とか?」


前に作ろうとしていたのを思い出し、聞いてみると茜は頷いた。


「ですです。洗濯槽と脱水槽を分けて作れば良いって気付いたんですよねー」

「良いの出来たら、買うから教えてね」

「はーい」

「それと、3日後から傭兵組合の仕事で留守にするから、今日からはスイーツとかメインで出すね」

「食堂はどうするんですか?」

「お休みにするよ」

「了解でーす」


 ◇◆◇◆◇


3日後、檻に入った美咲とフェルは、荷馬車に揺られていた。


「なんか、売られていく家畜の気分だね」

「やめてよミサキ。考えないようにしてたんだから」


鉄の檻は天井と床も鉄格子で、2人は荷物を鉄格子の上に置いて、そこに座っていた。

居心地が良いとは決して言えないそこで、2人はただ流れて行く景色を眺めていた。

湖まではこのペースだと半日といったところだろうか、湖に着くまでは檻の外に出ていても良いのではと思い、マックに申し出た所、いつ襲ってくるかも分からない虎が相手だから、と檻に押し込められてしまった。

鍵こそ、フェルが持っているが、檻で運ばれる様を想像すると、ついついドナドナを口ずさんでしまう美咲であった。


「……なんか辛気臭い歌ね、何の歌?」

「売られていく家畜の歌」

「そんなピンポイントな歌があるんだ、ニホンて変なところだね」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また応援頂いている皆様、ありがとうございます。お陰様で日間総合ランキングに名前が載りました。作者、小心者なので本気でびびっております。。。

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