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44.雑貨屋アカネ

美咲達が王都から帰って半月が過ぎようとしていた。

その間も美咲は毎晩、寝る前に大量の物資を呼び出していた。

最初の頃はお米や味噌、醤油、お酒等、皆が欲しがっていた物を呼んでいたのだが、毎晩となると、そろそろ備蓄がとんでもない事になりつつあるため、茜の意見を容れ、様々な雑貨類も呼び出すようになっていた。

美咲も年頃の少女である。雑貨類はそれなりに購入した経験がある。とは言え佐藤家の家計を預かる身として、購入していたのは主にドラッグストアや100均であったが。

今日も今日とて、細々とした諸々を呼び出し、茜がそれを確認しながらアイテムボックスにしまっている。と、突然、茜が美咲に笑顔を見せた。


「美咲先輩。テンプレしても良いですか?」

「……また、そんな良い笑顔で。何をしようとしてるの?」

「雑貨屋をやってみたいなーって。これだけの雑貨、日の目を見ずにしまっておくだけなんて勿体ないですよー」

「ミサキ食堂は食堂です」


ばっさりと切り捨てる美咲。しかし茜はへこたれなかった。


「それなら、雑貨屋アカネを別店舗で開くって事でどーでしょー?」

「忘れたの? 茜ちゃんの同居の条件はミサキ食堂で働く事だよ?」

「あう、忘れてた……うーん、あ、孤児院の子供達に売って貰いましょー。これもテンプレっぽくて良いですよねー」

「グリン達に? 年齢的に無理があるんじゃない?」


確かにその仕事で定収入が得られるようになれば、孤児院も助かるだろう。しかし、店舗を任せるにはグリン達は少々幼過ぎる。

ファンタジー小説のテンプレでは、幼児が大人に混じって戦ったり、改革を行ったりする物があるため、茜にしてみれば10歳にもなったら商売位出来るよね? という感覚なのだが、現実には小学生しか店番のいない店など、ちょっと悪い大人に目を付けられたら、あっという間に食い物にされるに決まっている。


「そうですかー? それなら、傭兵組合で店番として傭兵を雇って、グリン達はそのお手伝いって事でどーでしょー?」

「孤児院に拘るね? 傭兵だけで良くない?」

「孤児院はテンプレの基本ですからねー。それに、孤児院の収入にもなるんですから、不幸になる人は誰もいませんよ?」

「まあ、どっちにしても毎晩色々呼び出す訳だから、茜ちゃんの望む物を呼ぶのは構わないんだけどね。茜ちゃん、やるならちゃんと最後まで面倒見るんだよ?」

「ありがとうございまーす」


 ◇◆◇◆◇


雑貨屋アカネの店舗は、ミサキ食堂の斜向かいの物件を茜が買い取った。

元は食堂として使われていた物件で、間口は広く、歪んでいるが窓ガラスが嵌っており、外から店内を覗く事が出来る。

構造としては、2F建てで、1Fの構造はミサキ食堂と似ていた。茜はカウンターを壁に作り替え、テーブルを取り払うと、入り口横に店番の座る席を作った。

厨房部分は倉庫である。

店舗部分は、壁一面に美咲が呼び出した壁面収納用の金属の網を貼り付け、そこに様々なグッズをぶら下げるという構造になる。

具体的には、鍋掴み、果物ナイフ、陶器の皿、陶器のマグカップ、絆創膏、トートバッグ、仏壇用ライター、ハンカチ、石鹸、剃刀、歯ブラシ、髪ゴム、ヘアピン、手鏡、サングラス、ネックウォーマー、マフラー、マスク、シャンプー、リンス、ハンドソープ、ショール、シャツ、靴下、セーター、手袋、綿棒、ネクタイ、痛み止め、包装用リボン、包装紙、大学ノート、トイレットペーパー、裁縫針、木綿糸等々、取り敢えず何でも並べてしまえという品揃えであった。ちなみに茜の設定価格は一律で20ラタグだ。


孤児院には美咲が話をしに行った。店主は茜で、店番は基本的に傭兵に依頼するが、子供達には店頭の商品の補充と倉庫の在庫管理を行ってもらいたい。給与は全員で日給100ラタグと告げると、シスターは、店番の傭兵が決まってから、受けるかを決めたいと返事をした。


傭兵であるが、住込みで日給300ラタグで募集した所、茜の予想に反して多くの応募があった。

面接は茜が行い、40歳の、片足が若干不自由な男の傭兵を採用した。ちなみに採用基準を美咲が茜に尋ねた所、おじいさんと若すぎるのは除外、多少の揉め事に対処できる程度の腕っぷしがあり、渋いおじさま。との答えが返り、美咲は頭を抱える事になった。


その傭兵は、シスターの知り合いであったため、グリン達の就職は問題なく決定した。グリン達は自主的に、収入の9割を孤児院に入れる事を決め、残り1割を傭兵組合に加入するための費用として貯金する事とした。


そんなこんなで雑貨屋アカネが開店に向けて準備を進めていると。

商業組合から待ったが掛かった。


「つまりですね、一律20ラタグなんて破格で販売されると、ミストの町の多くの商人が路頭に迷うんですよ」


マギーは、一例として、セーターを手に取った。


「サイズは1サイズだけですけど、これ、毛糸としての価値だけでも300ラタグ以上です。こちらのハンカチも布としての価値だけで、200ラタグはします。既存の商品と被らない物であれば問題はないのですが、布、毛糸、陶器をこんな安値で売られたら、ミストの町の商人、みんな干上がってしまうんです。下手をすれば王都から行商人が買い付けに来て、王都に持ち帰って売ってもまだ利益が出る価格設定なんですよ。アカネさんは儲ける気がおありなんですか?」


仕入れ値は0。店舗の元を取る事も考えていないので、一日の最低売り上げ目標は人件費の400ラタグである。

茜は、売り上げが400を越えたら、傭兵とグリンに山分けしてあげようとさえ考えている。そう、茜には儲ける気が全くなかった。単に、日本の商品すげー、と言って貰えればそれで満足なのだ。


「あー、茜ちゃん、他に迷惑掛けないようにしないと駄目だよ」

「んー、薄利多売で無双したかったんですけどねー。仕方ないので既存の商品と被りにくいラインナップで薄利多売を狙って、被る部分は商業組合の設定価格ベースで攻めてみますかー」


結果、店に入って右の壁面に、絆創膏、ライター、剃刀、歯ブラシ、髪ゴム、ヘアピン、手鏡、サングラス、シャンプー、リンス、ハンドソープ、綿棒、痛み止め、包装用リボン、包装紙、大学ノート、トイレットペーパー。

これらを、一律20ラタグで販売とする。

左の壁面には、トートバッグ、ネックウォーマー、マフラー、ショール、シャツ、セーター、手袋。

これらを、一律500ラタグで販売とした。

布類は500ラタグ均一。それ以外は20ラタグ均一である。

布類の金額についてはマギーの感覚ではまだ安いのだが、当初の25倍以上の価格にして貰ったのだ。そもそも販売価格は商業組合が強制できる類の物でもないため、マギーは口を噤んだ。


 ◇◆◇◆◇


そして開店初日。

店には閑古鳥が鳴いていた。

その様子を食堂から眺めながら、茜は首を傾げていた。


「おかしいですね。テンプレ的には、こう、わーっと人気店になっても良さそうな物なんですけど」

「茜ちゃん、準備出来たから、お店開けて良いよ」

「はいはーい……それじゃ、皆さん、ミサキ食堂開店でーす」


茜が扉を開け、看板を掲げると、列を作っていた客が5名、店内に入った。

本日最初のオーダーはすべてカレーパスタである。

茜が注文札を並べ、予め、パスタを茹でていた美咲が、手際よく盛り付けて茜に渡す。

茜は皿を受け取ると、カウンター越しに皿を渡して代金を受け取り、注文札を回収する。

そんな事を小一時間も続けると、すぐに30食は売り切れる。


「はい、それじゃお疲れ様。茜ちゃん、後はやっておくから、見てきたら?」

「ありがとーございます。ちょっと行ってきますねー」


茜が雑貨屋を覗くと、店内にお客の姿はなかった。


「あ、オーナー。今日はまだ売れてないですよ」


渋いおじさまこと、ブレッドからの残念なお知らせである。


「まー初日ですからねー。知名度が上がらないと、こんなものなんでしょーね。ノンビリ構えていて良いですよー」


 ◇◆◇◆◇


「そういうわけで、フェルさん、宣伝をお願いします」


広場でフェルを捕まえた茜は、雑貨屋の宣伝を頼み込んでいた。


「宣伝って言ってもねぇ。酒場で、新しい店が出来たって言うのは簡単だけど、何を扱っているのか知らないと、宣伝にならないよね」

「そう思って、こちらに一式持ってきましたー。こっちのメモには使い方を書いてますよー」


茜はトートバッグに詰め込んだ商品一式とメモをフェルに渡した。


「準備良いね……んー? マフラー、セーター、手袋は分かるけど……確かに使い方が分からない物ばかりだね。それじゃ、私が色々試して、良さそうなのを宣伝しとくね」


 ◇◆◇◆◇


翌日から雑貨屋アカネにはポツポツと客が来るようになってきた。

布系の商品はポツポツと、それ以外の商品は価格が安いため、物珍しさから買われているという状況である。

何にしても、人件費を十分に賄えるだけの売り上げが続いているのは喜ばしい事である。


「んー、まずまずの滑り出しですかねー」

「茜ちゃん、いっそスイーツでも売れば良いのに」

「もう少ししたら、チョコレートとかは売っても良いかなって考えてますよ? でもテイクアウト専門店なのでケーキとかは残念ですけど、ちょっと置けないかなーって」

「あ、なるほど。潰れちゃうもんね」


 ◇◆◇◆◇


雑貨屋アカネが軌道に乗り始めたある朝、ミサキ食堂の前に一台の馬車が停車した。

黒塗りで側面に金で複雑な紋章が描かれたそれを見て、ある者は首を傾げ、ある者は見間違いかと目を擦った。

その紋章は、王家に連なる者を意味する紋章だった。


馬車から降り立ったのは4人。

10人中9人が「執事さんですね」と言うであろう姿の男性。

軽鎧で帯剣した若い男性。

そして、茜と同年代に見える男の子と女の子。


「ギル、ここがミサキ食堂かね?」

「はい、今は準備中のようですが。店主が居るか、見て参ります」


執事の問い掛けに、軽鎧の男が答える。


「うむ。お二人はまだ馬車でお待ち頂いても……」

「「飽きた」」

「そうですか。もう少々お待ちください」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

お陰様で総合評価が500ptに到達しました。これも応援してくださっている皆様のお陰です。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 序盤は楽しませて頂きました。 [気になる点] 茜ちゃんが辛すぎて自分もついにギブアップ……。 何というか、TRPGでプレイヤー置いてけぼりでGMの操るNPCがひたすら無双するセッションみた…
[気になる点] 100均の感覚で値付けしたんだろうけど、これは明らかにだめだと思う。そもそもの技術力が違い、他の商人と商品が直接被らなくてもえらいことになる。 わかっててやってる部分もあるかもだけど、…
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