表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/258

43.ミストの町へ

王都で流行していた魔素酔いは終息した。薬を求める者も最初の数日こそ多かったものの、5日を経過した辺りから減少している。

魔法協会でも、予備期間を設けはするものの問題は解決したという空気が大勢を占めていた。

その考えに同調できない小川は、魔素酔いについて転移者達の意見を聞く事にした。


「……という訳なんだが、魔素酔いの根本原因について意見はないかな?」

「わっかりませーん」


考えた上なのかどうかは不明だが、茜はあっさりとそう答えた。


「すんません。そもそも、体内に魔素が蓄積されるってのが理解できません」


と広瀬もギブアップ。

これは駄目かと小川が諦めかけた時。


「あの、そもそも魔素って何なんですか?」


美咲が基本的な部分に対する疑問を提示した。


「魔素? 魔素は魔力の素だよね」

「そういう事じゃなくてですね。例えば魔素は人間の思った通りに変化しますよね。何故ですか?」

「そういう物でしょ? 魔素は人間の思考に従い、魔力となり、魔法になる。この世界を満たす空気の様な存在って言うのが魔法協会の見解だよ」


魔素や魔力等という物は、恐らくはファンタジー小説でも手垢のついたありふれた設定だろう。

しかし、ファンタジー小説を読んでこなかった美咲にしてみれば、魔素の存在自体が不可思議な物に感じられた。

どんな物にでも浸透し、人間の思考に従う、人間に取って都合の良い物質。そんな物質が自然界に存在し得るものなのだろうか、と。

だが、存在しているのは厳然たる事実だ。しかし魔素について分かっているのはたった2つ。思考制御出来る。魔力に変換出来るという事だけだ。


「小川さん、魔素酔いを起こした人は、体内に魔素が淀んでいると言うお話でしたが、その魔素を思考で散らす事は出来なかったんですか?」

「ん? ああ、そうだね。出来なかったよ」

「じゃあ、それは魔素に似た別の物じゃないんですか? 魔素なら思考制御出来る筈ですよね」


小川は腕組みをして考え込んだ。


「……ああ、確かにそうだね。そういう点では、魔素とは異なる挙動を見せている……うん、魔素と同じ物と感じられたけど、動きから判断するなら魔素とは別物だね……魔素に見間違えるような物で、魔素ではない物か」

「例えば砂粒ほどの魔石なんてどうですか? それが風に舞って呼吸器に付着すれば?」

「体内に微弱な魔素の放出源が出来て、呼吸器を侵すから風邪に似た症状になる。舞い飛ぶ量によっては流行病のようにも見える、か?」

「まあ、魔石が何なのかも分からないんですけどね」

「魔石は魔素の集合体だと言われているよ。そうなると思考制御で魔素を引き出す事は出来るけど、魔石を動かす事は出来なくなるね」

「集合体ですか。じゃあ、空気中の魔素濃度が濃くなれば、極小の魔石が生まれることもありそうですね」

「ああ、そうだね、きっとそうだ。循環が止まった魔素。その魔素から小さな魔石が生まれ、風で舞い、魔物を生み出し、王都では病の元となった。そう考えれば一連の問題が一つに繋がるよ。ありがとう、美咲ちゃん!」

「いえ、お役に立てたのなら何よりです」


二人のやり取りを見ていた茜は、首を傾げた。


「おにーさん、意味わかりました?」

「あ、あー、何となく、な」

「じゃあ説明して下さいよー」

「……すまん、見栄張った、分からん」


 ◇◆◇◆◇


そして、美咲と茜がミストの町に帰る日がやって来た。

小川と広瀬、それに使用人一同に見送られ、箱馬車でリバーシ屋敷を後にする。

今回は前回の反省を活かして最初からタオルクッション満載である。


「何か、あっという間だったねぇ」

「そうですねー。でもおかげ様でロバートも和食を作れるようになったし、おじさん達は喜んでましたよー」


ロバートが和風の味付けを覚えたことで、小川達の、もう少し甘辛く、等の要望にも的確に応えられるようになっていた。

美咲も傭兵組合の通常の依頼を無事達成である。


帰路も往路同様何事もなく、馬車はミストの町へと到着した。


「あー、もう。盗賊位出てきたって良いのにー」

「物騒だね。それもテンプレ?」

「そーですよー、異世界転移、事件に巻き込まれてなんぼですよー」


事件が起きないから、自分で事件を起こしているんだな、と美咲は納得した。


「目立たず平穏無事が一番だと思うんだけどね」


馬車がミサキ食堂の前に停車すると、美咲達はクッションをアイテムボックスにしまって下車した。


「なんか、帰って来たって感じがするなぁ」

「そーですねー」

「や、茜ちゃんの家は王都だからね」

「ミサキ食堂も第二の故郷でーす」


 ◇◆◇◆◇


荷解きという程でもないが、アイテムボックスから諸々取り出してチェストにしまうと、美咲は茜のサインが入った依頼票を片手に傭兵組合に向かった。

その途中でグリンを見付けた美咲は、ベンチに座り、依頼票を見せてあげた。


「ほら、これが傭兵組合の依頼票だよ」

「おー……なんかサインしてあるね」


依頼票を太陽に透かしたり裏返したりするグリン。


「依頼達成したら、依頼人にサインして貰うんだ。これを傭兵組合に持って行って依頼完了ってなるんだよ」

「へー、そうなんだ。いーなー。俺も早く傭兵になりたいなー」

「もう少し大きくなったらきっとなれるよ。そだ、後で余った食材持って行くから、シスターに宜しくね」


グリンと別れ、傭兵組合を訪ねた美咲は、シェリーに出迎えられた。


「あ、ミサキさん、王都の依頼ですね。お帰りなさい」

「うん、依頼票を持ってきたよ」

「えーと……はい、確認しました。こちらが報酬です、ご確認ください。王都は如何でしたか?」

「初めて行ったけど、タワーからの眺めは中々良かったかな」


貰ったコインを数えながら美咲がお薦め観光スポットを教える。


「あ、王都を一望できるって言う噂ですね。良いなぁ、私も行ってみたいです」

「うん、タワーはお薦め。あ、報酬、確認したよ」

「それでは、こちらの領収にサインをお願いします……はい、ありがとうございました」

「それじゃ、またね」


 ◇◆◇◆◇


ミサキ食堂に戻った美咲は、冷蔵庫に呼び出した食材類を詰める。

それとは別に、スイーツ類を呼び出し、冷蔵庫に仕舞う。

次に鶏肉を呼び出し、孤児院に持って行くために葉で包む。


「茜ちゃん、ちょっと孤児院行ってくるよ」

「はーい。付いて行っても良いですかー?」

「フェルが来るかもだから、お留守番お願い。冷蔵庫にフェル用のスイーツあるから、来たら出してあげてね」

「はーい」


王都から帰ったばかりなので、余ったも何もないのだが、鶏肉を余った食材として孤児院に持って行き、シスターに渡すと、美咲は食堂には戻らずに門に近付き、門番に挨拶した。


「こんにちは。ちょっと塀に登らせてもらっても良いですか?」

「ん? ああ、こんにちは。青いズボンの魔素使いさんか。あんたなら大丈夫かな。落ちないように気を付けてくれよ」


設置されている梯子を使って塀の上に登った美咲は、ミストの町を見渡した。

そこには、王都で見たタワーからの眺めとは比較にならない、小さな町があった。


「小さい町だよね……でも、うん、やっぱりこっちの方が好きかな」


塀からの眺めを堪能した美咲は広場を経由して食堂に戻った。


「あ、広場に居ないと思ったら、やっぱりここに来てた。フェル、元気だった?」

「ん? あ、ミサキお帰り。王都はどうだった?」

「ん、楽しかったよ、これ、お土産ね」

「ありがと、指輪? 綺麗な石が付いてるね」


受け取った指輪を右手の中指に付け、角度を変えて眺めるフェル。どうやら気に入ったらしい。


「茜ちゃんが言ってたけど、その石、魔石らしいよ」

「高かったんじゃないの?」

「露店の掘り出物だから気にしないでね」

「フェルさん、ロールケーキお待たせしましたー」

「ありがと、アカネ……んー、やっぱり美味しいは正義だよね」


茜がフェルの前に皿とフォークを置くと、フェルは待ってましたとばかりにケーキを一口食べ、相好を崩した。


「ところで、日本だと結婚指輪とかを左手薬指につける風習があるんだけど、この辺りではどうなの?」

「んー? 確か人間はブレスレットを付ける筈だよ? エルフにはそういう風習はないけどね」

「所変われば品変わるか。茜ちゃんは知ってた?」

「初耳でしたー。色々違うんですねー。指輪の交換に憧れてたんですけど、残念ですー」


そう言って茜は肩を落とした。


「小川さんか広瀬さんなら、指輪交換出来るんじゃない?」

「それはないですねー」

「ないかぁ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

2017/11/23 ご指摘いただいた誤記を修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー"
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ