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番外編・ポリカの加工と新しい甘味

 まだ命名されていない新しい町の魔法協会の空き地で、小川はアキに、奇妙な形状の鉄のブロックを、その体を構成するマイクロマシンに作らせていた。

 虎のゴーレムから採取されたマイクロマシンは、ゴーレムの核からの指示で自由に変形する。初めて作る物は変形に時間こそ掛かる物の、素材となる鉄混じりの砂さえ用意すれば、大抵の形状を模すことが可能である。


 だから小川は、ゴーレムの核とこのマイクロマシンを用いた建材について研究していた。

 もちろん、研究で使用しているのは普通のゴーレムの核である。


 マイクロマシンの素材を建築現場に持ち込み、マイクロマシンが増殖したところで、ゴーレムの核からの指示で任意の形状に変化、固定する。

 鉄粉混じりの砂はそれなりに重いが、それで構築された石板の強度はかなりのもので、その重さを問題としない現場であれば、かなり使い勝手は良い建築素材となる。

 それなりに使われている石灰石を主原料とするセメントよりも高価だが、使いどころさえ間違わなければ日本にも存在しないような建材となる、と小川は考えていた。

 空き地には、その建材の実験のために幾つかの小屋が作られていた。

 が、今日、小川がやろうとしているのは、それとは別の作業だった。


「アキ、それが完成したら、さっきのと同じやり方で170度くらいまで加熱して、この板を押し付けて変形させるんだ」

「はい」


 加熱は小川が魔法の鉄砲に記憶させた、弱めの炎槍を使用する。

 一発では均等に加熱できないため、数発の炎槍でブロックを加熱したアキは、しばらくブロックの前で手元の計器を見ていたが、おもむろに透明な板をブロックに乗せて両端を下に向かって引っ張った。

 熱せられた鉄のブロックに触れた透明な板は、少し白くなった部分もあったが、ほぼ透明なまま変形する。


「今回もまあ成功、と。ふむ……前にキャノピー作る動画を見たことあったけど、こんなので出来るもんなんだな。アキ、それ、ここに置いて」


 ブロックから変形した板を外したアキは、まだ熱を持つそれを小川の前の机の上、既に幾つも作ったパーツを並べた横に置いた。

 パーツは変形する際に透明さが失われている部分もあるが、見た目は目指す形状になっている。


 小川は油性ペンを取り出すと、ポリカーボネートの板に線を引き、糸鋸を取り出してアキに渡した。


「アキ、この糸鋸で黒い線の中心を切断して。切る時、切断した部分の両面が出来るだけ均等な角度になるように」

「はい」


 アキは小川に赤外線温度計を渡し、糸鋸を使って器用に透明な板を切断する。

 切断面が極端な鋭角にならないように丁寧に切っているのにかなりの速度である。それを見て、小川は頷き、他のパーツにも線を書いていく。


「それじゃ僕は、接続部分を作ろうかな」


 小川はペンと型紙を取り出すと、パーツに丸を三つ描き込んでいく。

 一通りのパーツに印を付けると、パーツの切り離しが終わって待機しているアキに、先端が鋭く尖ったナイフとヤスリと共に渡す。


「アキ、この丸の部分をくり抜いて。線の中央部分が穴になるように。僕は他のパーツにも印入れてくから」

「はい」


 カリカリとナイフの先端で穴を開けていくアキ。糸鋸で切るよりも時間が掛かりそうである。

 幾つか作った試作品が並んだテーブルから、小川は首から胸に掛けてのパーツを持ち上げて重さを確かめる。


「思ってたより軽いから、直接でも固定できそうかな? まあでも、一応念のため、この加工もしておくか」


 アキが開けた穴に、その穴に丁度填まり込むサイズの透明なパイプを取り出し、短く切って穴に固定する。アキに固定した時、パイプの強度を超えない限り、これでパーツが割れる心配はない。


 その作業を繰り返して、必要なパーツが一式揃ったところで、小川はポリカーボネート用のスプレー塗料を取り出す。

 ポリカーボネートは柔軟性が高いため、普通の塗料では、塗った後で簡単にひび割れてしまう。

 また、溶剤に弱い材質なので、塗料の選択肢はそう多くない。

 小川は、パーツの表側から塗るつもりだったが、色々調べた結果、内側を塗装した方が安全だと知った。

 パーツを置いて、少し離れた場所からスプレーしようとしたところで、小川は作業の手を止めた。


「美咲ちゃんに買ってもらってからの方がいいかな。もう一度、同じ作業をして美咲ちゃんの分を作るより、その方が効率が良いだろうし……アキ、こっちに来て」


 小川に呼ばれ、アキが小川の隣に立つ。

 小川はパーツとA4用紙に印刷した図面を示しながら、アキに指示を出した。


「この図の通りに、これらのパーツを装着して。パーツのこのパイプの穴に合わせた棒を体から生やして、それに差し込み、パイプの上下の部分に膨らみを作って、固定する感じで」

「はい」


 アキは体から棒を生やし、そこにパーツを取り付けていく。

 頭部は完全に某アニメのロボットそっくりで、片方の肩には刺こそないが丸いショルダーガードが付いていて、反対の肩には体と同じ素材で盾を成形している。

 それっぽく見えることだけを目指し、色々と手抜きをしているし、型に押しつけて変形させるだけでは細かな作り込みなども出来ないが、腰に無意味に装着したフレキシブルチューブは動力パイプっぽく見えるし、腕周りは関節から離れたあたりだけ見ると、割とよく出来ている、と小川は自画自賛した。


「アキ、手を動かして……干渉する部分はないかな?」

「はい」

「よし……とりあえず完成、と……アキ、パーツを取り付けた状態の形状をMSセットという名称で記憶したらパーツを外して」

「はい」


 外したパーツをテーブルに戻したアキは、小川の命令を待つが、小川は首を傾げていた。

 しばらくそうしていた小川だったが、うん、と頷くとアキに指示を出した。


「一応、見ておきますか……アキ、さっきのパーツを、胴体の素材だけで再現」

「はい」


 アキの体の表面が波打ち、ゆっくりとロボットの形状を再現していく。

 ポリカーボネートのボディ同様、まったく意味はないが、形状だけならそれらしく見える。


「これで表面の色の変更ができたら面白いんだけど……でも、同じ方法で色々作れそうだよな。アキ、起動ランプの表面の魔石をピンクの魔石に変更して、その表面形状をアーマーモードという名称で記憶して」

「はい」

「ポリカは耐火性能ないけど、そこそこ丈夫な鎧の量産ができるってのは面白いか……今度、板を追加で買っておこうかな」


 小川はアキが作成した金型と、完成したパーツ、それらを作成する際に使用した道具類を収納魔法でしまうと、テーブルだけはアキに片付けるように指示する。

 小川が魔法協会の建物に入ろうとすると、そこにはキャシーがいた。


「ケイト、何かあった?」

「いえ、ちょっとお話が……あと、あなたが変わったことをしていると聞いたので気になって……あのガラスの鎧はどういうものですの?」

「ガラスに似てるけど、もっと軽くて丈夫だよ。ほらこれ」


 小川は、パーツを切り取った際に出た、切れ端をキャシーに渡す。

 キャシーはまずその軽さに驚き、ガラスよりも温かい感触にも驚きの声を上げる。


「軽いですわ。これで窓を作ったら、窓の開け閉めが楽になりそうですわね」

「あー、これは、日光で劣化しないタイプだけど、ガラスよりも傷が付きやすいから、窓には向かないかな。ガラスと同じように拭いたら傷がつくからね」

「傷付きやすい素材で鎧を作ってらしたの?」


 小川の執務室に向かって歩きながらキャシーが尋ねると、小川は首を横に振った。


「鎧じゃなく、アキの装甲……いや、服かな。アキって白黒の虎模様だから、なんとかならないかって話になって、美咲ちゃんたちがあっちの素材で透明な鎧作って、色を塗ったらって言ってくれてね」

「ああ、これはニホンの素材でしたのね。でしたら、あまり大っぴらには使えませんわね」


 小川と結婚し、キャシーも日本についての説明を受けている。

 小川以外の日本人の能力については明確にしていないが、ユフィテリアの力によって日本と往復ができることは伝えてある。

 今のところキャシーからは。日本の技術を使ってどうこうという要求は()()()ない。


「それよりもあなたにお願いがありますの」

「日本の化粧品や下着なら、美咲ちゃんに頼んでほしいんだけど」

「そちらはそうしますわ。そうではなくて、お酒を……ニホンシュを50本ほど手配していただきたいんですの」

「なんでまたそんなに? ケイトはそんなに飲まないよね?」


 小川の執務室に入り、キャシーをソファーに座らせながら小川が尋ねると、キャシーは嬉しそうな笑みを浮かべた。


「実は先程父から電話がありまして、この町の名前が決まりましたの」


 町の名前が決まったというのは、ただそれだけのことではない。

 町の名前は特に理由がなければ、領主や代官の持つ貴族としての家名を使用する。ミストの町ならビリー・ミストが代官だし、コナーの町なら、アルバート王子の持つ公爵位の名前が使われている。

 町の名前が決まったということはつまり、男爵のまま町の開発を行なっていたキャシーに子爵位が与えられるということを意味するのだ。


「なるほど、まずはおめでとう。それで、僕の奥さんはなんて名前になるんだい?」

「実は希望を聞かれましたの……なので、オガワにしてほしいとお願いしましたわ」

「え? あ、そうなんだ。へぇ、てことは、この町はオガワの町か」


 ニコニコと微笑むキャシーに、小川はほんの少しだけ微妙な笑みを返した。


(日本人の感性からすると、どうかと思わないでもないけど……まあ、よかれと思って決めてくれたんだよな)

「ええ、気に入ってもらえますかしら?」

「ああ勿論。ありがとう。ところでケヴィン君はどうしてる?」


 ケヴィンはキャシーの弟で、元々、このオガワの町の開拓を主導していた人物である。

 小川を取り込むためにキャシーがその開拓を引き継ぐことになり、ケヴィンはケヴィンで、もう一つ畜産業に特化した町の開拓に取り組んでいる。


「ケヴィンの方は、石材が足りてないとかで、塀が半分程度ですわね。町が完成しないと、爵位は授けられませんから、私に先を越されたって拗ねてましたわ」

「ああ、彼の作ってた町を僕らが貰っちゃったから、恨まれてるだろうなぁ」

「いえ、あなたには色々感謝してましたわよ? 畜産を始めたら、わたくしたちの町に、堆肥でしたっけ? 肥料を売れると喜んでましたもの」

「なら良かったけど……ああ、で、お酒だったね。50本ってのは結局なんで? それによって、買ってくる種類も変わるし」

「パーティがありますの……子爵になったということで、まず王都で。次にこの町で」


 キャシーは祝ってもらう側なので、王都でのパーティは王家が主催するが、細かな手配りはキャシー・オガワ女子爵の子爵としての最初の仕事となる。

 まずはそこに、王家でも滅多に手に入らない日本酒を持ち込んで度肝を抜きたいということだった。


「あー、それは止めておこう。日本酒を用意するくらいは苦でもなんでもないんだけど、この町で作ってるわけでもないのに、大量に提供できるとなったら、おかしいと思う人も出てくるし、ことある毎に買いに来る人も出てくるだろう。だから、まだダメだ」

「残念ですわ……今、まだと仰いました?」

「ああ。こちらは少し気温が低めだけど、水田を作って温度管理をきちんとすれば、米は作れると分かったからね。日本酒を造るのは可能だと思ってる」

「そうなんですの?」

「ああ、この前買ってきた、手作り醤油セットが使えたからね」


 転移の指輪で転移する際、検疫されて疫病を持ち込むことができないと美咲に聞いていたので、出来るかどうかは賭けだったのだが、麹菌の持ち込みには成功していた。

 どういう基準があるのかはいずれ女神様と会う機会があれば、そのときに聞いてみようと考えていた小川だったが、今のところは出来ると分かっていればそれで良い。


「ニホンシュをこの町で作れるようになったら素敵ですわね」

「ガラス瓶は難しいだろうから、樽酒かな。コナーの町の漆器で酒器を作ってもらって、セットで売ってもいいかもね」

「前に見せていただいた、紅いお皿みたいなものですわね?」

「ああ。あれは酒杯だね。あっちでも日本の漆器は人気があってね。海外では漆器のことを日本って意味のジャパンって呼んでるんだ」


 漆は正しくは「Japanese(ジャパニーズ) lacquer(ラッカー)」だが、15世紀あたりから始まった南蛮貿易以来、漆器その他が海外に輸出され、漆器はその美しさから、西洋で模倣され、漆を模倣する技法をジャパニング。ジャパニングによって生み出された作品をジャパンと呼ぶようになった。その少し前に中国から輸入された磁器がチャイナと呼ばれていたことから、それと似た略し方がされたのだろう。

 いずれにせよ熟練の職人が作成した手作りの漆器は海外でも高い評価を得ていたのだ。職人が慣れてくれば、こちらでもそれなりに良い物が作られるようになるだろう、と小川は期待していた。


「でもそうすると、パーティに持ち込むのに何か適当な物はないものでしょうか?」

「そうだね……日本酒を提案したってことは、お酒とか食べ物とか、パーティに出せる物が良いんだよね?」

「そうですわね。魔法協会であなたが作ってる作物でも良いのですけれど、何かありまして?」


 キャシーの問いに、小川は少し考えた。

 思い浮かばなかったのではない。色々ありすぎたのだ。

 日本から持ち込んだ色々な作物があり、幾つかは根付くことはなかったが、半数程度はそれなりに育っている。


「いくつか候補がある。まず、エルフの黄金芋で作った料理。僕はそんなに詳しくないけど、スイートポテト、いもようかん、きんとんなんて甘味が作れるはずだ」

「甘味はお酒に並ぶパーティの花形ですわ。いいですわね」

「あとは、こっちの赤豆を使って、お汁粉とかかな……餅は喉に詰まると怖いから、米を粉にして団子を入れるか、ああ、そのままあんこを付けた団子にしてもいいな……みたらしもあるけど、作り方は……まあ、あっちで調べてくればいいか」


 サツマイモと数種類の米をベースに、思いつくまま料理の名前を挙げる小川。だが、小川の料理の腕は、必要なら自炊ができるレベルで、美咲のように色々作れるというほどではないため、説明も若干あやふやである。


「コメというのは、ニホンシュの材料でしたわね?」

「品種は違うけど……まあ米であるという点は同じだね。ほら、小麦だって色んな品種があるでしょ?」

「ええ……そのオシルコというのを食べてみたいですわ。ニホンシュと同じ材料で作ったと言えば、ニホンシュを好んでいる王家の方も気に掛けるかも知れませんし」

「お汁粉は持ってないけど……団子ならあったかな……ええと」


 小川はアイテムボックス内にしまったままの、以前美咲からもらった物資を調べる。


「えーと、これが栗きんとん。日本は正月、年が変わった後、3日くらいは特別な料理を食べる風習があるんだけど、そのひとつ」

「金色ですわね……中には何かの実が入ってますわ」

「甘く煮た栗だね……で、こっちが団子、真っ黒なのがゴマ、紫っぽいのがアンコ、茶色いのがみたらし。白い部分が団子本体で、こうやって色んな味付けして楽しむんだ。団子そのものに砂糖を混ぜるやり方もあったかな?」


 パックのままの栗きんとんと団子各種を見て、キャシーの目が光る。


「味見をしたいのですけれど、開けてくださるかしら?」

「ああ、ちょっと待ってて」


 小川は執務室に(しつら)えられた食器棚から茶菓子用の皿と、日本で買ってきた使い捨ての竹のフォーク、ティーセットを取り出し、キャシーの前に並べる。

 カップに紅茶のペットボトルから無糖の紅茶を注ぎ、団子ときんとんを開封して皿に載せる。


「どうやって頂くのかしら……串焼き肉のように?」

「団子はそうだね。串を持ってかじり付く。まあ、串から外して、ひとつずつ食べる人もいるって聞くけど」

「なるほど……結構べたつきますのね」


 竹のフォークを使って団子を串から外したキャシーは、ゴマ、アンコ、みたらしのそれぞれをじっくりと観察する。

 次に、団子を外した串にパクリとかじり付くと、串に残った白い団子をこそぎ取る。


「味がない……あなたがたまに食べる、ハクマイに似てますわね」

「まあ、元は米だからね」

「……それでは、感謝を」


 キャシーはまず、みたらしをフォークで刺して口に運んだ。

 もぐもぐと咀嚼し、飲み込んだキャシーは楽しげな笑みを浮かべた。


「これ、ミサキさんの料理に使われたソースと似た味付けですわ」

「醤油だね。魔法協会主導で、こっちでも製造が始まってるけど、味が安定するまでは結構掛かりそうだね」

「それは仕方ありませんわ。発酵食品は結果が出るまで時間がかかりますもの……で、こちらは赤豆ですの?」


 アンコの団子を口にしたキャシーは首を傾げた。


「赤豆じゃなく、小豆ってのを使ってるね。小豆もこの町で生産できる」


 赤豆とは、日本で言う赤インゲン豆のことである。

 美咲が来るまでは、小川たちは赤インゲン豆を甘く煮てお節料理のかわりにしていたのだが、小豆とは少し風味が異なる。白餡を染めたようなもの、と言うのが、当時の小川たちの感想だった。


「それなら問題はありませんわね。でも、随分とお砂糖を使ってますのね」

「うん、まあね」


 小川は苦笑した。

 地球において、日本の甘味は全体的に海外のそれと比較すると甘さ控えめなのだ。

 やはり、色々な部分に違いがあるのだと改めて意識させられる小川だった。


「ゴマ……これは知りませんわ」

「この辺じゃ採れないからね」


 地球に於けるゴマの主要生産地はアフリカ大陸、アジア(インドから中国)、南米、中南米で、赤道から南緯、北緯で30度の亜熱帯、熱帯の地域である。

 日本国内でも作られてはいるが、一部の例外を除けば、鹿児島、沖縄が主要な生産地である。なお日本のゴマの自給率は0.1%程度と低い。

 関東地方育ちの小川たちに、夏でもそれほど暑さを感じないエトワクタル王国は、あまりゴマの生産には向いていないのだ。


「……あ、でも美味しいです。食感がちょっとジャリジャリしますけど、風味が良いですわ」

「うん。その風味が良いって言って、日本人はゴマを色んなことに使ってるんだ」

「分かる気がしますわ……さて、次はこちらのキントンですわね……栗キントンと仰いましたかしら? これはどのように食べるものですの?」

「さあ? 僕は箸やスプーンですくって、食べてたけど。子供の頃は皿まで舐めてたね」

「まあ……では、この栗を……」


 竹のフォークで栗を口に運ぶキャシー。その表情が幸せそうなものに変わり、口の中で栗を咀嚼せずに舐めているのが分かる。

 しばらくそうした後、栗に歯を立ててそれを咀嚼し、飲み込むと、カップを手に取り、紅茶で口の中を清め、皿に残ったきんとんをフォークで集めて口に運ぶ。


「……これは……あの黄金芋でできてますのね?」

「まあ、同じ品種かは知らないけど、そうだね。今食べたのは栗きんとんで、栗が入ってないきんとんってのもある……詳しくは知らないけど、芋を煮て、ザルで裏漉しってのをするらしい。美咲ちゃんも作ったことがあるかどうか分からないけど」

「でも、作り方を調べる方法はあるのですわよね?」

「そうだね。向こうに行けば、簡単に調べられるし、必要な道具も準備出来る」

「でしたら、ミサキさんに連絡してみますわ」


 キャシーは女神のスマホを取り出すと、操作を始めた。


「あ、ミサキさん? 今大丈夫かしら? ……ええ、おかげさまで……いえ、それはまだ大丈夫ですわ……ええ、そうですわね……実はミサキさんにお願いがありますの……前にもお願いしましたけれど、うちの料理人にまた、新しい料理を教えてほしいんですの……いえ、それは問題ありませんわ……今度王都でパーティーがあるのですけれど、そこで、オダンゴとキントンとアンコを出そうと思ってますの……ええ……いえ、一粒毎に分かれたオダンゴに、アンコとキントンを添えて、好きな方で食べられるようにしようかと……そう、そうですの……はい、それでは、後ほどミストの町の傭兵組合に依頼を出させていただきますわ……いえ、本当はニホンシュをと思っていたのですけれど、作れるようになるまではダメだと……いえ、それは当然だと思いますもの、むしろ無理を言って困らせてしまったかと反省しておりますわ……ええ、それではまた」

「あー、大体やろうとしてることは分かったけど、そうすると僕の方で準備することはあるのかな?」

「そうですわね……あちらでしか手に入らないような調理器具があれば、それを……5つ、いえ、10個ずつかしら?」


 小さく首を傾げ、キャシーは虚空を見上げ、そう答えた。


「そんなに用意しても使い切れないだろうに。予備ってことかい?」

「それもありますが、王都では沢山の料理人を雇って料理をしてもらいますので、調理器具は多めに必要になるそうなのです」

「なるほどね。うん分かった、多めに入手しとくよ」

なんか、長くなってしまいました。。。なのに終わっておりません( ̄∇ ̄;)

新作の方も進めたいし、ローペースでまいります。


マンガ版も更新されてますので見て頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] オガワ夫妻の話、楽しいです。 小川さん、アンナかキャシーとくっつけばいいのにと思ってたので余計に。
[気になる点] 中国磁器を英語でchinaといいます。当時、中国磁器の材料である白色粘土が入手困難であったため、白色の磁器をイギリスでも作れないかと、試行錯誤した結果、牛の骨灰を混ぜることで出来た乳白…
[一言] 色がどうのって話、ナノマシーン有るなら構造色再現させれたら如何様にも出来そうなものだけど
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