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25.大山鳴動して

砦に残ったメンバーは待機となった。

魔法使い達(美咲含む)は地竜がいなければいつも待機任務となるため、変わりのない日常となったが、偵察部隊と残った騎馬隊は暇を持て余して砦内でギャンブルに興じていた。

各自が小石を3つ持ち、右手に幾つかを握りこみ、全員が右手を突き出し、次々に数を言い合う。最後に全員が右手を開き、全員の右手に握りこんでいた石の総数を当てた者が勝者となるシンプルなゲームだ。


(なるほどねぇ……娯楽っていうのはどんな環境でも発達するんだね)

「これ、皆さんでどうぞー」


ゲームが一段落した所で小皿にあけたアーモンドチョコレートを渡し、美咲は自室に戻った。


「お帰り、男共は賭け事してた?」

「んー、なんかね、皆で石握って数字言い合ってた」

「数当てだね。もう少し建設的な事でもすれば良いのに」

「……そう言いつつ、フェルは何してるの?」


フェルは寝そべって指輪を小さい端切れで磨いていた。

賭け事よりは健全だが建設的かと言われると微妙な気がする美咲であった。


「魔力発動体の指輪をね、暇だから磨いているの」

「魔力発動体?」

「そ、効率よく魔素を制御したり、魔素を魔力に変換したりする道具。今はなくても問題なく魔法を使えるんだけど、何となくお守りとして持ってるの」


こんなの。と、フェルは指輪を美咲に良く見えるように掲げる。銀色で太目の指輪に紋様が刻まれていた。

よく見ようと美咲が顔を近づけた時、カン……カン……カン。と鐘の音が響いた。


「ミサキ、一応塀の上に移動しよう!」

「うん……でもこの叩き方って何だっけ?」

「確か、味方の接近……だけど、隊長達が帰ってくるには早過ぎる」


隊長達が出かけてまだ3時間ほどだ。

ミストの町までの単純な往復だけであれば、騎馬のみで構成された部隊が往復するのは不可能ではないが、隊長達は今後の方針を傭兵組合長と相談するためにミストの町に向かったのだ。

こんな短時間で戻って来る筈がない。

美咲達は最低限の防具を装備している事を互いに確認し、塀に向かった。


階段を登りかけた所で、鐘の音が、激しくかき鳴らすように変化した。

これは、言うまでもなく緊急事態。地竜の接近を告げる物だ。

慌てて階段を駆け上り、美咲は近場にいた偵察隊のメンバーを捉まえた。


「状況は?」

「詳細は不明ですが、王都方面から来た部隊が地竜と戦っています」


指差す方を見ると、確かに見慣れない部隊がいる。恐らくは正規兵なのだろう。ほぼ全員が揃いの装備で、中には旗を掲げている者もいる。

だが地竜の姿は見えない。


「地竜はどこに?」

「……丘の向こうから現れたのですが、押し返しました」

「こちらに誘引は出来る? この距離だと魔素のラインが届かないよ」

「あー、多分、それは必要ない」


偵察隊のリーダーのジェガンが美咲の後ろに立って兵隊の方を見ていた。

なぜか渋い表情だ。


「ジェガンさん、助けないんですか?」

「ああ、あの旗は対魔物部隊の物だ。俺達より遥かに魔物との戦いに慣れている。下手に手を出すと邪魔になるだけだ。しかし、そうか。地竜が見つからなかったのは、あの部隊が倒していたからか」


対魔物部隊が王都側に地竜を誘引して倒していたため、ミストの町周辺の地竜が激減していたという事なのだろう。そして、地竜を倒しながらここまでやってきたという事は、地竜はほぼ駆除されたと見ても良いだろう。

と、再び鐘が掻き鳴らされた。


「展開中の部隊の右側面に地竜。成体。数2!」

「フェル、いつでも行けるよ!」

「ジェガンさん! 撃ちますか?」

「フェルとミサキは待機だ」


対魔物部隊も気付いて応戦を始めるが、最初に相手にしていた地竜も倒し切れておらず、地竜3体に囲まれつつある。まだ犠牲者は出ていないようだが、このままでは遠からず隊列を食い破られるかもしれない。


「……仕方ないか……フェル、ミサキ、一番近い地竜の背中を目標に全力の半分程度で一撃」

「了解、ミサキ!」

「うん。わかった。魔素のライン!」

「……炎槍!」


美咲の有効射程距離ギリギリで全力の半分の威力である。

成体の地竜相手には明らかに威力不足だったが、撃たれた地竜は攻撃を受けたという事実に攻撃の目標を砦に変えた。


「良し、後はギリギリ届く程度の攻撃を顔面に。いいか、倒すんじゃなく引き付けるんだ」

「? はい、それじゃ……指位の太さで魔素のライン!」

「そっか、なるほど……炎槍!」


ミサキは不思議そうな表情で、フェルは何やら納得顔で攻撃を開始する。

炎槍は再び地竜の顔に命中し、怒った地竜が砦に近付いてくる。1体減り、残り2体になった地竜を相手に回し、対魔物部隊は獅子奮迅の戦いを見せ、まず地竜1体を倒す。そうなれば残りの地竜の駆除も時間の問題である。

砦に向かった地竜は砦の塀を越える事は出来ずに砦の周囲をグルグルと回る。そこに、美咲抜きで魔法使い全員がそれぞれの得意魔法を当てる。もちろん、その程度では地竜に傷は付かないが、地竜の怒りは益々砦に向かう。そして、その背後から2体目の地竜を倒した対魔物部隊が襲い掛かり、一気に地竜は倒された。


 ◇◆◇◆◇


「魔物駆除の協力感謝する」


対魔物部隊の部隊長は、砦に入るなりそう言って頭を下げた。隊長代理を務めるジェガンは慌てて礼を返す。


「いえ、こちらこそ地竜駆除、感謝いたします。我々はミストの町の傭兵です……その、どうしてミストに?」

「王都とミストの通商が滞っており、原因が地竜との事だったので我々に駆除命令が出たのだ。まさかここまでの数がいるとは思いもしなかったが」

「偵察では最低でも20体の存在を確認していましたが……」

「我々が駆除したのは先程の4体を加えて27体だ。大半は駆除できたと思うが、一度ミストに立ち寄り、補給後、復路では森の中も探索する予定だ」

「それは助かります」


王都の食料自給率は低い。そのため、周辺の各町村から食料を買い付けて需要を賄っている。中でもミストは人口が少ない割に作付面積が広く、王都の生鮮食品の2割近くを供給しているのだ。今回の地竜騒動は、その供給ルートを断つ物であった。

王都としてはミストの町一つで即座に食糧不足とはならないものの、他の町村でも類似の事件が発生すれば深刻な問題となるため、原因が判明すると同時に交易ルートの安全確保のため、対魔物部隊が投入されたのだ。


ジェガン達の情報交換が終わると、対魔物部隊はミストの町に向けて移動を開始した。

塀の上からそれを見送りながら美咲はフェルに問い掛けた。


「これってつまり、私達の仕事は終わりって事だよね?」

「そうね。拍子抜けだけど」


ミストの町で今後の方針が決まってからとなるため、即座に帰還とはならないが、少なくとも地竜についてはこれで片が付いたとみるべきだろう。となれば美咲達が砦に詰めている必要はなくなる。

だが、フェルには一つの懸念があった。


「さっきの地竜への攻撃……ばれてないかな?」

「ばれるって、何が?」

「あんたの事よ、ミサキ。もしも遠距離から有効な魔法攻撃が出来るなんて知られたら、ミサキ、王都に連れて行かれちゃうんだから」

「え、なんで?」

「あの部隊は対魔物の部隊で、ミサキと私がいればより効率的に魔物を駆除出来るんだから、連れてかない理由がないでしょうが」

「……嫌だって言っても?」

「無駄でしょうね。特に貢献が期待される場合は徴兵出来るって制度があるし。ま、力を抜いて攻撃してたし、何も言わずにミストに向かったから多分大丈夫だと思うけど」

「もう、脅かさないでよ」

「……ミストで、青いズボンの魔素使いの話を聞かれたりしたらどうなるか分からないから覚悟だけはしとこうね。その時は私も一緒に連れてかれると思うけど」


その話を広めた一人であるフェルが肩を竦めて見せる。美咲の魔素使いとしての能力を効率よく使うには、魔素のラインに魔法を置く必要がある。それを確実に行う事が出来る、魔素を見る能力を持つフェルもまた、徴兵の対象となりうるのだ。

それに魔素使いの話は炎槍使いの話とセットで語られる事が多い。話の裏を取られれば二人とも引っ張り出される事になる。徴兵はフェルにとっても他人事ではないのだ。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また、評価、ブクマ、ありがとうございます。励みになります。

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