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241.情報収集

済みません、今回、かなり長めになっています、、、

 ミサキ食堂に戻った美咲は小川に、茜は広瀬へと電話をかけ、ユフィテリアとの対話の内容を伝えた。

 一時的にせよ日本に戻れると聞いたふたりは、できるだけ早く仕事を片付けてミストの町に向かうと言ってきた。


「茜ちゃん、広瀬さんは日本に自分の分身がいるってことについて、何か言ってた?」

「友達や親兄弟に心配を掛けなかったという点は女神様を評価する。だそうです」

「あー、それは私も思った……それで茜ちゃんは次に日本に行ったら何を買ってくるか考えた?」

「まだです。食べ物は美咲先輩が大抵のものを呼べますから、衣類とか靴でしょうか……念のため、美咲先輩に買ってもらっておいた方がよいかもですね」


 往き来できなくなったときに備え、美咲が呼び出せるようにしておいた方がいいと茜が言うと、美咲も首肯した。


「そうだね。万が一に備えて衣類は一通りのサイズは色々揃えておきたいね」

「そしたら今晩にでも、もう一度日本に行きませんか? ルルガーデンで色々買っちゃいましょうよ」


 茜はK市の駅のそばにある小さめの商業施設(ショッピングパーク)の名前を口にした。


「今晩って……そか、日本とは時差があるんだっけ。ルルガーデンって靴屋はあったっけ?」

「10年前なら、いろはマートがありましたね。あとウニクロもありました。あっちの気温の感じだと、夏物セールやってるかもですね」

「ドライ素材のシャツは無地の生成りに近いのがあったら全サイズ制覇したいね。靴下も色々買っておきたいし、小川さんたち向けに男性用のも押さえておこうか」


 家族に頼まれて買ったことがあるので、美咲は何種類かの男性用のシャツや下着を呼び出すことができる。

 しかし女性用と比べると、そのレパートリーは極めて狭いため、色々買っておこうと考えていた。


「そうですね、おじさんたちも自分で買いに行くとは思いますけど、美咲先輩が呼び出せるようにしておくのはいいと思います。ところで、靴屋では何を買うんですか?」

「サンダルと、念のため24と24.5のスニーカーを買っておきたいかなって。地味なのがあるといいんだけど」


 こちらの世界の靴は質実剛健で、あまり飾り気というものがない。日本の靴はどんなものでも目立ってしまいそうだと美咲はため息をついた。


「長靴とか買ってきたら売れませんかね?」

「ミサキ食堂やってる私が言えたことじゃないかもだけど、世界間貿易はやめておいた方がいいと思うよ。絶対に目立って目を付けられるから」


 すでに雑貨屋アカネで目立っているので手遅れ気味ではあるが、オーバーテクノロジーな商品を並べることについて美咲は苦言を呈した。


「そうですねぇ……あ、電器屋さんで太陽電池とか買ってきませんか?」

「使いたい電化製品とかあるの?」

「……あんまりないですね。魔道具って割となんでもできちゃいますから。夏もそこまで暑くならないからエアコンはいらないですし、コタツは魔道具作っちゃいましたし、ドライヤーもありますし」


 これがないと決定的に不便という部分については大抵それなりの魔道具が存在するため、本当に必要かと問われると首を傾げざるを得ない茜であった。


「後は本屋さんで漫画とラノベですね」

「あー、本屋は私も行きたいな。あ、あと、あれが欲しい。圧力鍋」


 佐藤家の厨房には圧力鍋があったが、それは美咲の母が使っていたものなので、美咲は圧力鍋を買ったことがないのだ。

 圧力鍋があれば調理時間を短縮できるし、肉を柔らかく煮るのにも適している。便利さを知っているだけに、美咲は圧力鍋は絶対に欲しいと言った。


「でも、圧力鍋ってどこで売ってるんですか?」

「んー、確かにあんまり店頭では見掛けないね。うちのは通販で買ったって言ってたけど」

「それならショッピングモールとかで探してみましょうか?」

「あー、確かにモールなら扱ってる店が入ってるかもしれないね」

「後、日本で活動するならスマホが欲しいです」


 スマホを手に入れるには何が必要だろうかと美咲は首を捻った。

 身分証明書と銀行口座、それに判子とあたりを付け、銀行口座を作るには少なくとも住所が必要になるのではないかと思い至る。


「小川さんにお願いして、アパートとか借りてもらわないと駄目かもだね」

「なんでですか?」

「銀行口座を作る時って、住所が必要だったからね。戸籍と身分証明書はユフィテリア様が作ってくれたけど、私たち、日本じゃ住所不定だし」


 美咲は以前銀行口座を作ったときのことを思い出した。その時はたしか自宅に通帳が送られてきたのだ。


「住所不定でもアパート借りられるんですか?」

「お金と戸籍と身分証明書があればね。海外から帰ってきたふりをすれば、バレないと思う……で、住所が決まったら住民票作って、国民年金と国民保険に入るのかな?」

「年金と保険はいらなくないですか?」


 日本に転移して現地時間で丸一日経過すると、強制的にこちらの世界に戻されるのだ。

 生活の場がこちらの世界である以上、年金と保険は無駄になるのではないかと茜は主張した。


「保険は作っておいた方がいいよ、病気したときに日本の病院に行けるのは大きいよ? 年金は無駄になると思うけど、未払いがバレて犯罪者扱いされたりすると困るでしょ?」

「なるほど……できるだけ普通の日本人になりきるわけですね」

「そうそう。日本でも目立つのは厳禁てことで」


 ミストの町(異世界)に初めて来たときと同じである。

 できるだけ注目されないように周囲に溶け込むことで身の安全を確保するのだ。


「普通の日本人として行動していれば目立たないとは思いますけど、服装なんかは気をつけた方がいいかもしれないですね」

「服装?」

「10年経ってますからね、流行とかも変化してるんじゃないかと」

「デニムのパンツなら、そうそう悪目立ちはしないと思うけど」


 美咲も茜も、青いズボンの魔素使いでお馴染みのデニムを穿いている。

 定番でもあるし、このスタイルが日本で珍しがられることはないのではないかと美咲が言うと、茜は顎に人差し指を当てて天井を見上げた。


「歴史で習いましたけど、昔はパンタロンとかいうのが流行ったらしいじゃないですか。その時代にスキニーとかテーパードだと目立つと思うんですよ」


 写真を見たけど凄い服でした。と茜は笑った。


「また随分極端な時代を持ってきたね。服装はよほどのことがない限り、単なる趣味で押し通せると思うけど」

「その結果、青いズボンの魔素使いなんて二つ名が付いちゃったわけですね」


 茜の突っ込みに、美咲は苦笑いをした。

 たしかに美咲としてはできる限り目立たない格好を選択していたはずなのに、その実、目立ちまくっていたという過去がある。


「そしたら、まず本屋でファッション雑誌とか買ってきて、それ見て傾向を調べてみようか」

「そうですね。そうしましょう。あ、ついでラノベと漫画も買いたいです」

「それは後回しにしようよ。もしも変に目立っちゃって、次からその本屋に行けなくなっちゃうと困るし……あと、茜ちゃんにお願いなんだけど、本屋で買い物ができるようになったら、私にもファンタジーなライトノベル、幾つか紹介してほしいんだ」

「どうしたんですか、急に?」

「茜ちゃんを見てると、ファンタジー小説の定番も馬鹿にできないなって思って、少し勉強しようかなって」


 この世界は魔法が実在する世界だ。

 SFを行動の指針にするよりもファンタジー小説の方が適切ではないかと美咲は考えたのだ。


「ファンタジーにも色々ありますからねぇ……勉強ってことなら、異世界転移系のお話でしょうけれど、今の日本の流行が分からないんですよね」

「そっか、10年の壁があったっけ。それなら茜ちゃんが読んで参考になりそうなファンタジー小説があったら教えてってことで」

「分かりました。美咲先輩も面白くて読みやすいSFがあったら教えてくださいね。それはさておき、結局今日はファッション雑誌の入手を目的にするってことでいいですか?」

「後はできれば、ここ20年くらいの近代史の本とかかな。ないとは思うけど、密告を推奨するような社会体制になっていたら、より慎重に行動しないとダメだし、小川さんたちに指輪を渡す前にそのあたりは入手しておきたいな」

「近代史の本とかって見たことないんですけど、本屋さんに売ってるものなんですか?」

「店員さんに聞けば教えてくれると思うよ。そしたらブレスレットで5000ラタグくらい両替しておこうか」


 美咲は大銀貨を6枚取り出すと、それを日本円に両替し、呼び出した財布に丁寧にしまう。


「出発は今日の夕飯を食べた後。目的地はルルガーデンの本屋さん。もしも本屋さんがなかったら、店から出てコンビニを探して、ファッション雑誌、情報誌、新聞なんかを手当たり次第に買ってくるってことでいいかな。あと、周りの人の服装を見て目立ってないと判断できたら、色々本を買って、ついでに洋服と靴も見てこよう」

「いいと思います……ホームセンターなんかも覗いてみたいですね」

「アウトドア系? 大抵の道具は魔道具で代替できると思うけど?」


 懐中電灯なら光の杖、携帯コンロならコンロの魔道具と、本当に必要な道具は大抵、魔道具として実用化されている。

 ドームテントや寝袋はあれば便利だろうが、オーバーテクノロジー過ぎて人目のあるところでは使いにくい。

 そう考えると、使えるアウトドア用品がどれだけあるのだろうかと美咲は首を傾げた。


「えーと、美咲先輩から貰ったアタックザックも便利ですけど、もう少し地味目なのが欲しいなっていうのと、アウトドア用の衣類や靴も見てみたいなって思ったんです」

「あー、確かに緑のアタックザックはこっちじゃ目立つからね……アウトドア用品を見るなら専門店かな。私たちの服装が目立ってなさそうなら覗いてみようか」

「それじゃ、私も両替したいのでブレスレットを貸してください」


 美咲からブレスレットを受け取った茜は、10000ラタグを両替し、こちらに来たときに持ってきていたという財布の中にお金を詰め込む。

 9万円以上が詰め込まれた財布を見て茜は、このお財布にこんなにお金を入れたのは初めてです、と嬉しそうだった。


「……そういえば、今の日本って、時間の進み方は10倍のままなんでしょうか?」

「んー、それは分からないけど、こっちと1対1じゃないかもしれないね……ってそうか、だとしたら時差が半日とは限らないんだ。こっちの1時間があっちの10時間ってこともあるんだね」

「はい、夜まで待たなくてもいいかも知れません」

「準備できたら出発しよっか」


 美咲たちの服装は、基本的に日本の衣類をベースにしている。

 だから、お金の準備と覚悟さえ決めてしまえば後はなんの問題もない。


「それじゃ、美咲先輩。今回は私が転移してもいいですか?」

「うん。えっと、茜ちゃんに掴まって、指輪に魔素を通しておくんだよね」

「はい。それじゃ、ルルガーデンのそばの歩道に転移しますね」

「いいけど、なんで歩道?」

「中に転移するつもりで、ルルガーデンが潰れてたりしたら困りそうなので……行きます」


 茜は指輪に転移先を強くイメージしながら指輪に魔素を通した。


 次の瞬間、ふたりはショッピングパーク、ルルガーデンのそばの歩道に立っていた。

 空は紫色に染まりかけている。夕方にしては店舗が閉まっている。

 ジョギングをしている人や、通勤途中の人の姿がちらほらと見える。


「……早朝っぽいですね」

「視線を集めてないか、目立たないように周囲に注意しながら駅前に行こう。コンビニがあったはず」

「ですね。ファッション誌と、なんかそれっぽい情報誌を買うんですよね。ついでに美咲先輩が見たことのないスイーツがあったら仕入れておきましょう」

「あー、新製品とかあるといいね」


 買い物かごを手に店内を一回りし、情報収集のための雑誌を手に取る。続いてスイーツコーナーで目新しいものがないかを確認し、数点かごに入れる。

 レジ横の新聞を適当に3紙、買い物かごに入れ、レジに向かう手前で美咲が茜を引き留めた。


「どうしたんですか?」

「さっきからレジ見てたら、現金で買い物してる人がいないんだけど」

「電子マネーが主流になったんですかね?」

「……10年かそこらで現金がなくなったりもしないだろうから、とりあえず現金で買ってくるね」


 美咲がレジの店員に商品を渡すと、店員は面倒そうに商品をレジに通す。

 美咲が金額分の紙幣を渡すと、店員は更に面倒そうにお金を受け取り、お釣りを寄越す。

 その様子を見て、やはり電子マネーが主流になりつつあるのではないかと美咲は予想した。そして、キョロキョロと辺りを見回した美咲は、レジ横にあった電子マネーの申込書をレジ袋に詰め込む。


「ありがとうございました」


 店員の声を背に店を出た美咲は、目立たなさそうな場所で茜の腕を抱く。


「それじゃ戻ろっか」

「はい」




 ミサキ食堂に戻ってきた美咲たちは、まずファッション誌を開いてみた。


「割と10年前と変わらないように見えますね」

「ガーリーな感じの服が流行ってるんだって……あ、編み上げベストとか流行ってるって。これならこっちでも手に入りそうだね」

「編み上げ? ああ、民族衣装っぽいのですね。確かにこっちでもたまに着てる人いますね」


 ファッション誌を開いてみた限り10年で流行は移り変わっているが、極端なファッションが流行っているということはなさそうだった。

 何を着たところで、変に目立ってしまうことはなさそうだと判断した美咲たちは、続いて情報誌を開いてみた。


「……何が重要な情報なのか分かりませんね」

「とりあえず、政権批判とかやってるから、日本が独裁制の国になってるって心配はいらないかな……芸能人の離婚の話とかは興味ないし……」

「AIによる家電制御とか書いてますね。人工知能ってそんなに賢くなったんでしょうか?」

「ナツくらい賢いのがいたら楽しそうだね」


 情報誌はハードルが高いと、美咲は新聞を広げる。

 そして、その日付を見て、10年が経ってしまっているのだと改めて実感した。


「……えっと……茜ちゃん、10年前の金相場とか覚えてる?」

「え? 気にしたこともありません。なんで金相場なんて気にしたんですか?」

「んー、世の中が荒れ気味だと金相場が上がるって何かで読んだことがあったから何となくね」

「社会科系は苦手です」


 そんな話をしながら美咲は新聞の全ページを斜め読みしていく。

 色々変化はあるようだが、決定的に違ってしまった部分はないように見える。

 詳細は小川たちと合流したときに、小川たちに見てもらえばいいだろうと、美咲は新聞を閉じ、雑誌の上に置いた。


「暗くなってきたね。そろそろ夕飯作らないとだね」

「そんな時間ですか。それじゃ、今日は豚肉を焼き肉風にしましょうか」

「醤油とタマネギでタレを作ろっか……って、そっか、日本で麹が手に入るかも」

「麹って味噌や醤油のですか?」

「そうそう、前に広瀬さんに出せないかって聞かれたんだよね」

「麹菌って日本で見たことないですけど、普通のお店に売ってるんですか? あ、塩麹なら見たことありますね」

「塩麹は加熱殺菌してるから使えないと思うけど、味噌や醤油の手作りキットなら通販で売ってるから、麹菌も入ってるはず」


 通販を使うにはやはり住所が必要だと美咲は腕組みをする。


「でも、日本とこっちの時間の進み方が違うなら、指定の日時に取りに戻るのって大変そうですよ?」

「宅配ボックスの付いてる物件が必要だね。それとクレジットカード」

「いっそ、一戸建てを借りるのもありかもですね」

「一戸建ては近所付き合いとか庭の手入れが必要だよ? こっちの生活がメインだと使いにくいと思う。リバーシ屋敷みたいに使用人を雇って、なんてやったら日本じゃ目立っちゃうだろうし」

「それならマンションですね。全員分個室が欲しいです。そしたら、そこを日本との往き来にも使えますし」


 4LDKのマンションとかってあるんでしょうか。と茜は首を傾ける。


「別に個室はいらないでしょ? プライバシーが必要ならこっちに戻ってくればいいんだし」

「なるほど。そしたら会議室としてリビング、後は転移用の部屋があれば十分ですね。あとはパソコン部屋もあるといいのかな?」

「リビングにディスプレイになる大きなテレビを置いて、ノートパソコンを繋げばいいと思うけど」

「なるほど。あ、トイレとお風呂は拘りたいです」

「そうだね。茜ちゃんの要望、ノートにまとめておいて。私は夕食を作ってくるから」




 夕食として、野菜の煮物、大麦のリゾット、タマネギとニンニクをすりおろし、醤油と砂糖と酢で味を調えたステーキソースを添えた焼き肉を美咲が作り終えた頃、ミサキ食堂の扉を誰かがノックした。


「茜ちゃん、今手が離せないからお願い」

「はーい、どなたですかー……って、おじさん?」

「うん。仕事を片付けて、馬を飛ばして来ちゃった」


 当然であるが馬車を引かない分、馬に乗った方が速度は遙かに速い。

 荷を持たない小川ひとり程度であれば、常歩(なみあし)速歩(はやあし)を交互に使えば、王都からミストの町まで2時間もあれば到着できないこともない。


「それにしても早かったですね」

「通信省の足の速い連絡用のを借りてきたんだ……それで一時的にでも日本に戻れるって話だけど」

「えーと、美咲先輩が食事の支度してるので、夕ご飯食べてからでもいいですか?」

「ああもちろん。僕は適当に携帯食かじってるから、上の空き部屋に行っててもいいかな?」

「そうですね、食事が終わったら行きますので待っててください……あ、日本の雑誌とか新聞を手に入れてきたので預けておきますね」


 茜は小川を二階の空き部屋に案内し、美咲の部屋に置きっぱなしになっていた各種雑誌や新聞を小川に手渡す。

 それを見て、小川は大きなため息をついた。


「本当に日本に行けるんだね。この手の雑誌は情報収集としてはかなりいい選択肢だと思うよ」

「ファッションは私たちの服装でも違和感をもたれないレベルだと思います。あと、政治批判の記事があるから独裁制じゃないだろうって美咲先輩が言ってましたね」

「なるほど……AIによる家電制御って、どの程度のAIなのかな。以前からなくはなかったけど」

「詳しくは記事を読んでみてください」

「……自然言語で対話できるみたいだ。凄いな」


 雑誌を読み始めた小川をその場に残し、茜は一階に下りるのだった。




「これが転移の指輪です。指にはめ、転移先を思い浮かべながら魔素を通せば転移します。戻りたいと念じればこっちに戻ってきます……」


 美咲は小川に転移の指輪と変装の指輪の使い方を説明する。

 一通りの説明を聞いた小川は、腕組みをして考え込んだ。


「どうしたんですか?」

「いやね。転移の瞬間を撮影されたらどうなるのかと思ってね……人の意識には作用するようだけど、撮影されてたらそんなの関係なくなりそうだよね?」

「あー、監視カメラとかですか。それは確かにそうですね……カメラのない場所で転移するようにしないとですね」

「そうだね。カメラの死角とかを探して転移しないと厳しそうだね。自動車やバイクもドライブレコーダーとか当たり前だから要注意だね」

「そうすると、やっぱり拠点があった方がいいですよね。小川さん、日本でマンションかアパート、借りてもらえませんか?」


 美咲は、銀行口座を作ったり通信販売を利用したりするうえで、拠点が必要だと主張した。


「確かに住所不定だと何かあったときに余計な詮索を受けそうだね。口座もあった方がいいし、拠点の必要性は理解したよ」

「そしたらおじさん。これが私の要望です」


 茜はノートに書いた、拠点に必要な要望を小川に見せた。

 それをさらりと斜め読みして、小川は頷いた。


「拠点については広瀬君とも話してみないとね。あ、身分証明書って何をくれたんだい?」

「私はバイクの免許でした。小川さんはこの封筒です」

「どれどれ? 運転免許証とパスポートだね……免許は普通車と中型自動二輪か。パスポートは渡航履歴なしと」

「おじさん、自動車の運転できるんですか?」

「うーん、どうかな。ペーパードライバーだからあんまり自信がないな。日本じゃ収納魔法が使えるって話だから、自動車は必要ないんじゃないかい?」


 小川の問いに、茜は頷いた。


「荷物の運搬って意味では不要ですけど、おねーちゃんは観光地ではレンタカー借りて乗り回してましたから、あったら便利かなって」

「なるほどね。でも事故を起こして目立ってしまう危険からは離れるべきだね」

「自転車くらいならいいですか?」

「まあ、あんまり速くないやつならね。さて、それじゃ僕も日本に転移してみたいんだけど、そろそろいいかな?」

「私たちも一緒に行きますか?」


 美咲がそう尋ねると、小川は少し考えてから頷いた。


「それじゃ、僕がよく行ってた電器屋さんに行ってみよう。何かあったときのために場所を覚えておいてほしいし」

「あ、ブレスレットで両替しないとですね」

「おっと、そうだった。とりあえず、金貨10枚くらいでいいかな」


 小川は美咲からブレスレットを受け取ると、金貨を両替する。


「そんなに両替して、何を買ってくるつもりなんですか?」

「今回は様子見だから買い物はしないつもりだけど、日本円が必要になるたびにミストの町に来るのは大変だからね」

「なるほど。それじゃ美咲先輩はおじさんの右手にどうぞ。私は左手に掴まります……おじさん、両手に花ですね」

「そうだね。それじゃ行くよ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また、誤字報告ありがとうございます。とても助かっております。

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― 新着の感想 ―
[一言] レトルトのカレーは欲しい。
[気になる点] 免許証には現住所が書かれてると思うので、免許証がある時点で住所不定は無理では?
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