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223.樹海の迷宮・第五階層・石板

 夕食は美咲が芋と小麦粉を捏ねてニョッキを作成した。

 味付けはシンプルにオニオンソルトと炒めた野菜。

 それに野菜と干し肉のスープを付ける。

 美咲が作る料理に炭水化物が多いのは、コメを始めとする炭水化物を主食と認識する日本人ならではなのかも知れない。

 石のテーブルの上にできあがった料理を並べ、皆で食事をとる。

「ミサキ食堂のパスタは、ニョッキに似てますわよね?」

「まあ、ニョッキの親戚といえば親戚かな? ミサキ食堂のパスタは細長いけど、パスタには色んな種類があるよ? このニョッキみたいなリボン型のもあるし」

「それはそれで食べてみたいですわね」

「……美咲先輩、生パスタって作れますか? 私、食べたことないんですよね」

 ニョッキのツルツルした感触を楽しみながら、茜がふと思い出したようにそう尋ねると、美咲は頷いた。

「できるよ? てゆーか、混ぜて捏ねて寝かせて切るだけだから、割と簡単だけど?」

「今度作り方、教えてください」

「生パスタ……美味しそうな名前だね」

 フェルがニョッキを齧りながら口を挟む。

「フェルも食べたいなら、明日、早めに次の安全地帯に入れたら作ろうか?」

 材料は卵を含め、持ち込んできている。

 問題は、少し寝かせるという工程が入るため、料理としては時間が掛かる点にある。

 だから、美咲は条件付きで作ると約束した。

「……楽しみ」

「ミサキ食堂のパスタは十分に美味しいのに、更に上がありますのね?」

「俺、多分たくさん食べるから大盛りな」

「んー、ミサキ食堂のパスタより美味しいかは微妙かな」

 製品として完成している乾麺のパスタと、手作りで大きさが不揃いの生パスタでは、全体の完成度は乾麺の方が上である。

 味については、美咲の味付けなのだから大きな差は出ない。

 だが生パスタには乾麺では出せない食感がある。差し引きでトントンくらいだろうと美咲は予想していた。

「でも、なんでまた急に生パスタなんて言い出したの?」

「おねーちゃんが美味しいって言ってたの思い出したんです」

「へぇ、そういえば私が生パスタ作ったのも、お父さんから美味しいからって言われたからだったなぁ」

 日本の家族のことを思い出し、少ししんみりする美咲たちだったが、ベルの

「スープお替り!」

 という声ですぐに現実に引き戻された。

「はいはい、スープね。あとふたり分くらいあるからね」

「ミサキのスープはちょっと変わった風味があって、俺は好きだな」

「あー、風味付けにちょっと変わったもの使ってるからね」

 それは山椒の葉だった。

 山椒の葉はエトワクタル王国では薬草として知られており、あまり料理で使われることはない。

 美咲が使ったのはごく少量だが、その香りはベルたちにとっても好ましいものだったらしい。

「ミサキ、私もお替り」

 黙々と食べていたフェルがカップを手に立ち上がる。

 それを見て、アンナの手の動きが速くなる。

 夕食が終わったら就寝であるが、ナツを廊下に立たせているため、見張りは立てないこととした。

 交代ありだと睡眠時間として12時間程度を確保するが、そうでないなら8時間で十分である。

 早めに寝て早めに行動するのだと、皆、早々に毛布を被っている。


 夜半、トイレに起きた美咲は、神殿の入り口のナツの様子を見に行った。

 今日は月も出ていないようで、神殿の外も真っ暗である。

 そんな中、ナツの頭部から漏れる緑色の光が辺りをぼんやりと照らしていた。

「ナツ、異常はない?」

「いいえ」

 ナツは美咲に魔石と、見慣れない、スマホにしては分厚い板を差し出してきた。

 片面には丸い模様が二つあり、スイッチのようなものもついている。

 光の杖を取り出して細部を確認すればするほど、それは地球産の機械によく似ているように見えた。

「なんだろ? ボタンが付いてるね……普通の魔物はこんなの落とさないから、アーティファクトかな? ナツ、これは護宝の狐が落としたの?」

「はい」

「後で茜ちゃんに見てもらおう」

 受け取った箱を収納魔法にしまうと、美咲はふらふらと礼拝堂の中を歩き回った。

 春告の巫女の時の癖で、石碑を巡り始めた美咲は、その途中で石碑が足りないことに気付いた。

「あれ? 記憶違い……じゃないよね」

 前半の石碑は記憶通りの場所にちゃんとあった。

 しかし、後半の石碑が丸々なくなっていた。

「石碑を回る順番は、各地で奇跡が起きた順番のはずだから……新しい石碑がなくなってる?」

 碑文を確認すると、300年前の奇跡の石碑までしか存在しないことが分かった。

「ここは300年前の神殿のコピーだとか? ……中身が石でないなら、図書室の本とか持っていったら面白いかもしれないけど」

 ふらふらと歩きながら美咲は300年前より新しい石碑がないことを繰り返し確認する。

 そして、改めて、王都の神殿との違いがないかとじっくりと眺めていた美咲は、女神像の台座の上に置かれた石板に目を留めた。

「なんだろ、ちょっと置かれてるだけだと思ってたけど……もしかしたら違うのかも」

 大きめのノートパソコンほどの大きさの石板を手に取った美咲は、そこに刻まれた言葉に目を瞠った。

『ユフィテリアを最高神と位置付け崇めよ

 汝、奇跡を求めるなかれ

 汝、罪なき隣人を殺すなかれ

 汝、父母を敬え

 汝、盗むなかれ

 汝、隣人の財を欲っするなかれ』

「これって数は少ないけど、十戒に似てるね……こんなのあったんだ。ナツ、この石板のこと知ってる?」

「はい。六戒と呼ばれています。かつて女神ユフィテリア様が人間に渡した石板。王都神殿の原本は300年前の魔物溢れの際、避難のゴタゴタの中で失われました」

「……なるほど」

 美咲は手に持った石板をひっくり返して裏を見た。

「裏にも何か刻まれてるけど……文字じゃないのかな。読めないや……ナツ、これ読める?」

「いいえ」

「ナツが読めないってことは文字じゃないのかな?」

 美咲は少し考えてから、石板の扱いについてはキャシーたちに相談しようと決めた。


 翌朝、美咲が目を覚ますと、キャシーたちは既に目を覚ましており、フェルは角兎を使ったスープを作り始めていた。

「美咲先輩、おはようございます。美咲先輩がこんなに寝るの、珍しいですね」

「うん。昨夜、夜中に目が覚めちゃって……あれ? まだ寝てる人がいるね」

「ああ、アンナさんですね。一昨日徹夜したらしいからゆっくり寝かせておこうってフェルさんが言ってました」

 ナツと話していた件か、と美咲は納得して、そっと毛布を畳んで収納魔法にしまい込む。

「毛布、干したいですね」

「そうだね……そういう魔法はないのかな? 熱風を当てるだけの魔法とか作れそうだけど」

「布団乾燥機の魔法ですか? 魔道具なら袋部分以外は簡単に作れそうですけど……でもそうですね、毛布じゃないですけど、体の汚れを落とす魔法とかテンプレなんですよね」

 開発できたらまた褒章メダル貰えるかもですね。などと興奮する茜に、美咲は冷静に、魔法では無理だと指摘した。

「体の汚れは無理だよ。魔法の仕組み的に人体に近い部分に作用する魔法ってできないはずだし」

「……微妙に不便ですよね」

「人間の思考に従う魔素なんて物質が存在する時点で、かなり便利だと思うけど?」

「魔素ってなんなんでしょうね?」

「ナツに聞いてみたら? ……ってそうだった。昨日の夜、ナツが護宝の狐を倒して、これを拾ったんだ。これ、なんだか分かる?」

 美咲は収納魔法から、四角い箱を取り出して茜に手渡した。

「えーと……はぁ、微妙ですね。追憶の音匣(オルゴール)です。操作者が記憶している音楽を再生するとか……該当する楽曲を思い出しながらボタンを押すんだそうです」

「覚えてない曲は再生できないの?」

「欠片でも覚えてればいいみたいです」

「んー……この世界だと、音楽って人間が演奏するものだから、このアーティファクトは意外と高値が付くかもしれないね」

 美咲はある曲を思い出しながらボタンを押す。

 すると、箱に内蔵されていたのだろう、スピーカーが小さい音を奏で始めた。

 ピアニッシモで始まったワルツ曲は、進むにつれて音量を上げていく。

「あ、これ聞いたことあります。クラシックですよね?」

「うん。美しく青きドナウ。有名なSF映画で使われたこともある曲だよ」

「何ですの? これは」

 キャシーが曲を聞きつけて美咲のそばにやってくる。

「アーティファクト、昨晩ナツが護宝の狐を仕留めたんだ」

「音楽が鳴るアーティファクトですのね? この重厚な音楽……ダンスによさそうですけれど、初めて聞きますわ」

「地球の……って分からないよね。日本の音楽だと思って。このアーティファクトは追憶の音匣(オルゴール)って言って、聞いたことのある音楽を再生してくれるんだって」

「それは……音楽家泣かせのアーティファクトですわね……それよりこの曲、素敵ですわね」

「日本は音楽の溢れている国でしたから、色々なのを知ってますよ」

 美咲は別の曲を思い出しながらボタンを押す。

 今度は、まるで戦争映画のBGMのような音楽が流れ出す。

「これは聞いたことないですね?」

「ホルストの惑星の木星は聞いたことない? これは火星」

「著作権とか大丈夫なんでしょーか?」

「ん、ホルストもシュトラウスも問題ないはずだけど、この追憶の音匣(オルゴール)に著作権は関係ないんじゃないかな?」

「……ミサキさん、あなたはこのアーティファクトで音楽を奏でるだけでお金を稼げますわね」

 音楽を奏でる追憶の音匣(オルゴール)を美咲から受け取り、キャシーは笑った。

「あ、そうだキャシーさん。昨日の夜、少し散歩してたら面白いもの見つけたんです」

「何でしょう?」

「石板です。六戒の石板かもです……えっとですね。この神殿の石碑って、世界各地の奇跡を記したものなんですけど……」


 美咲はキャシーにこの神殿が300年前のコピーであるのではないかという仮説とその根拠を語り、石板が失われる前の時代の神殿のコピーだから、石板もコピーされたのではないかという推測を話した。


「……まあ、コピーですから原本と同じ価値があるとは思えませんけれど、持ち帰る価値はありそうですわね」

「やっぱりそうすべきだよね」

「そうすべき、とまでは思ってはいませんわよ。所詮は複製に過ぎないのですから」


 女神様から賜った本物の石板とは比べられないでしょう。とキャシーは笑った。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また、誤字報告ありがとうございます。とても助かっております。


二巻発売中です。

大量の加筆修正と、書下ろしの追加がございます。

お手に取っていただければ幸いです。


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