表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/258

214.会議

 パーツが入っていた木箱を収納魔法でしまった美咲は、ナツに付いてくるように指示をして自室に戻った。


「ナツ、壁際、この辺にしゃがんで」


 部屋の中で、邪魔にならない位置にナツをしゃがませた美咲は、少し考えて、その前に椅子を運んだ。


「ナツ、改めてよろしく。私は美咲。私があなたの……マスターです。これから私のゴーレムとしての基本命令を伝えます。まず、基本命令第一条、人の安全を最優先とすること。基本命令第二条、第一条に反しない限り、ナツは私の命令を最優先で実行すること。基本命令第三条、第一条、第二条に反しない限り、ナツは自分の体を保全すること。ここまではいい?」

「はい」

「それと、一応、第零条。より多くの人命を保護するためであれば、第一条を無視すること。できる?」

「いいえ」

「……人命優先は近視眼的なものなのかな。ナツ、次の件について検討しなさい。巨大な石が転がってきていて、その先には5人の人がいます。ナツが体当たりをすれば石の軌道を変えられますが、軌道を変えた先には人がひとりいます。ナツの力で石を止めたり砕いたりはできません。ナツはどうしますか?」


 この世界には線路やトロッコという概念がないので、別のものに置き換えてトロッコ問題を出してみる。

 放置すれば5名が死に、石の軌道を変えればひとりが死ぬというあれだ。


「わかりません」

「5人を助けるか、ひとりを助けるか。もしくは、放置して5人を殺すか、石の軌道を変えてひとりを殺すか。同じ結果でも、見方を変えると意味が変わってくるよね。これ、やることがないときは考えて、いつか答えが出たら教えてね」

「はい」

「それとナツ、迷宮産の核って、迷宮に潜っていれば普通に手に入るものなの?」

「確率はかなり低いです」


 ナツの返事は、まるで人間のようだと言うと言いすぎだが、固定の音声を流しているにしては抑揚など、かなり自然なものに近かった。


「ナツの声って、声の高さとかも調整できるの?」

「はい。一音毎に再生時に高め、低め、普通の3パターンを選択できます」

「へぇ、後で小川さんにどうやったのか聞いてみよ。それでナツ、迷宮でゴーレムの核が出る確率が低いって、どの程度なの?」

「1万分の1未満です」

「……かなり珍しいってことは分かったけど、出ないって程でもないのかな? でも、それだけ珍しいなら、ゴーレムによる世界の崩壊とかは考える必要ないかな」


 量産できないのであれば、迷宮産の核を用いたゴーレムが産業用ロボットよりも便利に使えるとしても、多くの人々にとって、脅威になることはないだろう。と美咲は安心する。

 同時に、それだけ珍しいものがなぜ自分のもとに来たのだろうかと疑問を覚える。


「ナツの核が私の手元に来たのは、女神様の采配?」

「わかりません」


 ナツには小川に頭部パーツを作ってもらい、起動される以前の記憶がない。

 人間に置き換えれば、生まれる前の記憶がないのは当たり前だが、ナツは生まれたばかりにしては物を知り過ぎている。恐らくは、この世界の知識が詰まったデータベースのようなものにアクセスしているのだろうと美咲は考えていた。それなのに答えが分からないということは、その答えを女神様は美咲に教えるつもりがないということなのだろう。

 そう納得した美咲は、ナツの額の部分に見慣れない突起があるのに気付いた。


「ナツ、額の出っ張りは何?」

「起動ランプです。起動中は緑に点灯します」


 ナツの答えに、美咲は、そういう注文もしたっけと思い出す。

 だが、起動ランプにしては光っていない。


「光ってないけど故障しているの?」

「いいえ」

「なんで光ってないの?」

「ランプは光っていますが、遮光板で光を遮っているのです」

「なんでそんな無意味なことを?」


 光が漏れないように遮光板で覆うくらいなら、光らせないようにした方がいいのではと、美咲はナツに尋ねる。


「眩しすぎるから蓋をするようにと、オガワさんから命令を受けました」

「さっきの電話かな? 遮光板を半分だけひらける?」

「はい」


 ナツの額の出っ張りが溶けるように消えると、そこには緑色の魔石に覆われた灯りの魔道具が点灯していた。

 その光は、直視するには少々明るすぎた。


「なるほどね。そしたら、遮光板で覆って、遮光板に直径2ミリくらいの穴を3ミリ間隔で開けたりできる?」

「はい」

「それじゃ、やってみて」


 額の出っ張りの先端に細かな穴が開き、そこから緑色の光が漏れ出る。


「うん、いい感じだね。ナツ、その灯りは、待機状態になると消えるんだよね?」

「はい」

「待機状態になった場合、どの程度の期間、魔素補給なしで耐えられる?」

「暗闇なら35日。日当たりがよければ、何年でも」


 虎のゴーレムが何十年も湖畔で動き続けたことを思い出し、美咲はなるほど、と頷きつつ、ふと、疑問に思ったことを口にする。


「ナツ。電気は分かるかな?」

「はい」

「ナツの体は光を魔素に変化させるって聞いたけど、光を電気に変えたりはできる?」

「いいえ」


 ナツを電源にして、日本の家電を使えないかという試みは初手で挫折した。美咲の場合、呼び出せる家電などたかが知れているので、できたとしても、あまり意味はなかったりするのだが。

 ナツ、コンセント化計画は、こうして日の目を見ることなく頓挫した。




 翌日、ミサキ食堂の営業が終わった頃、ゴードンが宣言していた通り、シェリーがやってきた。

 傭兵組合の会議室に集合してほしいということで、フェルたちにも声をかけてきたところだと言う。


「シェリーさんはどんな依頼かは聞いてる?」

「組合長からは、また迷宮に潜ってもらう話だとだけ聞いています」

「あんまり詳しい話は聞いてないんだね」


 美咲のつぶやきに、シェリーは頷いた。


「そうです。依頼内容は、必要最低限の人にだけ伝えるっていうのが、方針みたいで」

「正しい方針だね。それじゃ、傭兵組合に行くけど、シェリーさんも一緒に行く?」

「いえ、お使いも頼まれてますので。それじゃ、私はここで」


 くるりと背を向けるシェリーを見送り、美咲は茜を連れて傭兵組合に向かった。


 美咲が傭兵組合に到着すると、ちょうどフェルが着いたところだった。


「あ、ミサキも呼ばれてたんだね」

「うん。昨日ちょっとだけ話は聞いてるんだけどね。なんか迷宮を深いところまで調査してほしいんだって」

「へー」


 話しながら会議室入ると、そこにはベルとキャシー、それにアンナがいた。


「アンナも呼ばれてたんだ。てっきり、最初のメンバーだけかと思ってたよ」

「キャシーが呼んでくれた」

「今日の目的は組合長から事前に聞いてましたの。わたくしたちは魔法に特化したパーティですから、魔素切れ対策として、同じ魔法を使える魔法使いを増やすのは基本ですわ」


 キャシーの言葉に、茜が首を傾げた。


「あの、敵を足止めして物理で殴る戦士系の人は入れないんですか?」

「わたくしとベルがいますわ。それに、長期間の迷宮探索なんて、気心の知れた仲間じゃないとできませんわ」

「あーなるほど、それは確かにそうですね。今からひとり追加したら、色々調整が必要になりますね」


 理解できたと頷く茜に、それに、とキャシーは付け加えた。


「あとは、ミサキさんとアンナがいれば、回復方法が二通りになるというのも大きいですわね。怪我をしたからといって、簡単に戻ってこられる場所じゃないんですから」

「迷宮、10階層まであるんでしたっけ? 往復全部歩きですから、足でも怪我したら大変ですね」

「その時はナツに運んでもらうけど……茜ちゃん、どうかした?」


 蜘蛛型になれば、背中にひとり乗せてもナツは普通に移動できる。怪我人の移送ならできるだろうと美咲が言うと、茜は少し考えるような仕草をした。


「いえ、ナツの背中の上って、丸みを帯びてるから、結構不安定なんですよ。怪我人を運ぶなら、ロープか何かで固定した方がいいかなって」

「なるほどね。怪我人が意識なくしてることもあるだろうから、ナツの背中にロープを固定するためのフックとか作ろうか」

「あと可能なら、背中の上は平らにするとかですね。でもナツってそんなに長距離歩けるんですか?」

「どうかな? まあ、魔素補充要員はたくさんいるし、その辺は大丈夫じゃない?」

「ミサキさん、アカネさん、落ち着いてくださいまし。そもそも怪我をしたときに回復できる人がふたりもいるなら、怪我人を運ぶという事態にはならないはずですわ」

「あ、そうですね」


 そんな話をしていると、会議室の扉が開かれ、ゴードンが入ってきた。


「すまん。待たせたな」

「いえ。それで、依頼内容は迷宮を10階層まで下りて、さらに下に下りる階段がないかを調べるということでよろしいんですの?」


 ゴードンはキャシーに羊皮紙の束を手渡すと、椅子に腰かけた。


「そうだな……パーティによって地形が異なるという報告の裏取りはしたんだが、それならパーティによって、最下層が異なるということはないか。というのが今回の調査の目的だ。俺は最下層は違わないと思ってるんだがな」

「これは……偵察隊が作った地図ですわね? 魔物の傾向も書かれてますのね」


 パラパラと羊皮紙をめくり、キャシーは内容を確認する。


「今のところ、分かっている全ての情報だ。今回の調査では、第10階層の探索を最優先にしてほしい」

「魔物は無視して進めということですの?」

「まあ、探索の邪魔になるようなら倒してくれて構わない。アーティファクトは売ってくれるとありがたいが、その判断は任せる」

「もしも第11階層に下りる階段を発見した場合はどうしますの? 調査しますの?」

「いや、何があるか分からないからな。情報を持ち帰ることを優先してくれ。受けてくれるか?」

「少し、仲間だけで話をさせてもらえますか?」

「ああ、もちろんだ」


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また、誤字報告ありがとうございます。とても助かっております。


親戚に不幸がありまして、近日中に数日留守にすることになりますので、次回か、その次あたりで更新が遅くなるかもしれません。申し訳ありませんが、ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー"
― 新着の感想 ―
[一言] もうすぐで終わりまで先が見えてきた どうなるのか?
[一言] 冒頭の話は、アシモフのファウンデーション読んでないと意味不明だと思いまーす。w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ