表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/258

21.地竜

フェルと狩りを行った3日後、美咲は傭兵組合に呼び出されていた。

指名依頼だった。

以前からミストの町と王都の間では極稀に地竜の目撃情報があったのだが、地竜の目撃情報が増えてきており、対策を講じる必要が生じたのだ。

竜と名がついてはいるものの、地竜は大型の火を噴くトカゲである。鱗は硬いが近距離からなら魔法は通るし動きは馬より遅い。


「どんな計画なんですか?」


という美咲の問いにゴードン組合長は計画の骨子を説明してくれた。

美咲とフェルを馬車に乗せて魔法の射程内で停車し、そこから魔法攻撃を最大3回。攻撃の成否に関わらず馬車で離脱。という実に美咲とフェルに優しい計画だった。

とにかく、ミストの町の最大火力である美咲とフェルのコンビを守る事を至上としているのだ。


「うん、それなら大丈夫かな。フェルも問題ない?」

「もちろん」


こうして、地竜駆除の指名依頼は受注された。


 ◇◆◇◆◇


数頭の騎馬に護衛され、幌なしの荷馬車で地竜の生息域に近付いていく。

ちなみに騎馬の中の1頭がこの駆除隊のマック隊長が乗った馬なのだが、美咲には区別がついていなかった。

馬車の中で美咲はふと疑問に思った事を口にした。


「この指名依頼の事、フェルは知っていたの?」

「まさか、どうして?」

「この前の狩りは良いタイミングだったから」

「あー、あれは本当に偶然。こんなすぐに指名依頼があるって分かっていたら、泊り掛けで白の樹海のそばの砦周辺での狩りをしたと思う。狩るにしても角兎じゃねぇ」


だが、角兎狩り程度であっても同じ地面に立っての狩りの経験が0回と1回とでは大きく違う。

何かあった場合に狼狽えずに行動できる可能性が僅かでも高いという事は、それだけで生存率の向上に寄与するのだ。


「初めての狩りが地竜ってのよりは良いと思う。助かったよ」

「それもそっか。ところでミサキ、今回荷物多くない?」


美咲はアタックザックに色々と詰めて持ってきていた。

主にチョコレートなどの菓子類である。


「食事は用意してくれるって事だから、お菓子をみんなにわけようと思って」

「美味しい物が食べられるのは歓迎だから良いけど、随分持ってきたんだね」


そうこうする内に馬車が停車する。

先行している偵察チームとの合流ポイントだった。


偵察チームの報告では、地竜の動きは予想の範囲内との事。

このまま馬車で30分程走ると会敵予想地点となる。

予定では、街道を少し外れた所まで馬車で移動したら、そこから最大火力の魔法を撃つ。

2発目以降の魔法の要否は隊長が判断し、美咲達に指示する手筈となっており、3発撃った後は効果がなくても馬車は離脱する事になっている。


「予定通りだね」

「質問、いいかな」


フェルが偵察チームの傭兵に問い掛ける。


「どうぞ」

「地竜の向きは? 私達の攻撃は地竜の頭に当たるの? 尻尾に当たるの?」

「偵察時点では丸くなって横向きで寝ていた。寝返りしてなければ背中に当たるな」


傭兵の答えに考え込むフェル。

胴体部分に魔法が当たるというのは、まずは朗報だ。尻尾にしか魔法が当たらないという状況よりは遥かにマシだ。

だが、地竜の弱点は顔と腹部と言われている。


「……ミサキ、体勢が変わってなければ狙うのは背骨にしよう」

「分かった。体勢が変わっていたら?」

「可能なら頭部か腹部。無理なら胴体のどこか、とにかく尻尾以外」

「ん、了解」


再び荷馬車に乗り、会敵予想地点に向かう。

会敵、と言っても美咲達がやるのは指示された回数魔法を撃つだけ。

しかも今は寝ているらしい。

ガタン、と大きく揺れて馬車が街道に刻まれた轍を外れた。

草原というよりも荒地に近いそこを、馬車はゆっくりと進んでいく。

やがて前方に木々が見えてきた。そのまま暫く進むとそこに地竜がいた。

偵察チームの報告通り丸くなって眠っている。

体長は10メートル程。体高は1メートル程のトカゲだ。

美咲の知識で一番近い物を挙げるなら、サイズは異なるがコモドオオトカゲだろうか。

荷馬車からは馭者のいる前方を除くほぼ全周が攻撃可能範囲となるが、その後の撤退のため、真横方向に地竜が来たら攻撃位置についたと判断する。

やがてマック隊長から指示が出る。


「停車。魔法用意」


馬車が停車する。


「フェル、背中中央、背骨を狙うね」

「よろしく」


地竜までの距離はほぼ50メートル。有効射程の半分の距離である。


「……魔素のライン」

腕程の太さの魔素のラインがフェルの前から地竜の背中まで伸びた。


「炎槍!」


フェルが魔法を発動する。次の瞬間、炎槍が地竜に突き刺さり、爆発した。

地竜は身動き一つしない。声一つ上げない。

いや、背中に人が入れる程の穴が開いており背骨も一部焼失しているのだ。これで動けるわけがない。

その生命力からまだ生きている可能性はあるが、確実に致命傷を与えたと判断出来た。

マック隊長は一応警戒しているが、呆れたような表情だ。

美咲の隣でフェルが自分を取り戻した。


「ミサキ、今のって白狼撃退初日よりも力、入ってなかった?」

「そう? 白狼の時よりちょっと距離があったから力みすぎたかな?」


ノンビリとそんな事を話していると。


「全員警戒! 馬車は街道へ退避!」


マック隊長の声が響き、馬車が動き出した。


「え? 何? あ、ミサキ、掴まって!」


突然動き出した馬車に体勢を崩した美咲の手を掴むフェル。

馬車はそのまま街道に向かって走り続ける。

後ろを見た美咲は目を疑った。


「……え?」


木立の奥から地竜が3頭出てきていた。

騎馬隊は地竜に攻撃を加えつつ、美咲達とは逆方向に向かって地竜を誘引していた。

馬車が小さな丘の陰に入り、すぐに地竜は見えなくなったが、最後に見た地竜は大きく口を開いてブレスを吹こうとしていた。

いや、それよりも。


「……親子だったんだ」


フェルが呟いた。

美咲達が倒したのと同サイズの地竜が2頭。そして体高3メートルはあろうかという地竜が1頭いた。


「フェルが倒したのって子供だったんだね」

「ミサキ、さっきのと同じ魔素のライン、後何回使える?」

「あと3回かな。頑張れば4回行けるかも?」

「そっか、あの親は1回では倒せないかもだよね」


子供の3倍の体高である。鱗も分厚いだろう。


 ◇◆◇◆◇


街道に出た馬車は、撤退時の予定行動を取った。つまり、一定距離を移動して停車である。

停車後、馭者は近くの丘に登って地竜や他の魔物が見えないかを確認している。

万が一、こちらに地竜やその他の魔物が来た場合は更に逃げる事になる。

荷馬車には美咲とフェルだけが残される。


「フェル、おやつ食べよう」


美咲はアタックザックからアーモンドチョコを取り出し、開封してフェルに差し出した。


「おやつって……まあ、出来る事もないからいいか」


一粒を取り、口に含むフェル。その表情が面白いように変わる。


「……ってミサキ、これチョコレートじゃない。こんな高級品を持ってきてたの?」

「私の住んでた辺りじゃ、珍しくもなかったんだけど」

「ニホンだっけ? 一度行ってみたいわね。ラーメンとかパスタとかチョコとか、食に関しては貪欲な国みたいだし」


美咲は曖昧な表情で微笑んだ。


「私が迷子じゃなかったら案内したいけど……大騒ぎになりそう」


ちらりとフェルの耳を見る。


「ああ、エルフが珍しいって言ってたっけ。それにしても、地竜が全部で4頭もいただなんて、傭兵組合もいい加減な事するよね」

「偵察してて気付かなかったのかな」

「1頭しかいないと思い込んでたのかもね」


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また、評価、ブクマ、ありがとうございます。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー"
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ