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199.白の樹海の砦の賢者

 魔物の異常増殖の後、各地を巡る調査の旅を行った小川である。

 革鎧などの基本的な装備は持っている。

 しかし、対魔物部隊や魔法協会の研究員たちとの旅でもあったため、天幕や調理器具となると、共同の物を使っていたため、手持ちにはない。

 そのため、茜に案内された小川は、傭兵組合のそばにある雑貨屋で、そうした細々したものの準備をするのだった。


「おじさん、マントは持ってますか?」

「ああ、貴重な雨具だからね。川ネズミの革のを持ってるよ」

「あ、毛織りじゃないのなら、毛織りのもあった方がいいですね。寝る時にそれを被って寝ますから」

「なるほど。寝具にもなるのか……前に旅をしていた時は毛布が用意されていたけど、荷物の制限があるならそうなるか……でも茜ちゃんたちのアイテムボックスなら、毛布を持ち込んでも問題はないんじゃない?」


 アイテムボックスであれば今のところその容量には限界はないように見えている。

 アイテムボックスを使えばいいのでは、と小川が尋ねると、茜は首を横に振った。


「収納魔法の収容量的にはそうなんですけど、私たちだけ毛布で、他のみんなはマントって、ちょっとやな感じじゃないですか。それに、アイテムボックスと収納魔法で魔素の動きが違ったりすると、フェルさんにアイテムボックスのことがバレちゃいますからね、みんなの前ではできるだけアイテムボックスは使わないようにしてるんですよ」

「ああ、フェルさんは魔素を感じられるんだっけ。収納魔法とアイテムボックスだと確かに微妙に魔素の動きに違いがあるけど、誤差みたいなものだから、そうそうばれないと思うけどね」

「そうなんですか? それはいい情報を聞きました。アイテムボックスを使えれば、保存期間を気にせず色々保存できますからね」


 茜の収納魔法は美咲のそれと異なり、時間停止の機能は付いていない。

 時間停止ありのアイテムボックスが使えれば、その問題は解決すると茜は嬉しそうだ。


「……それで、天幕と毛織りのマントの他に必要なのって何かな?」

「水筒は持ってますよね?」

「ああ、皮の水筒だから、水に匂いが移っちゃうけどね」

「武器と防具、マントと天幕、水筒に背負い袋、大体こんな感じですけど……あ、光の杖」

「それなら持ってる」

「後は食器類と嗜好品でしょーか。料理器具は共同ですし」


 鍋とコンロは共同のものがある。

 寝ること、食べること、戦うこと、休むこと、と茜は思考を巡らせる。


「そうだ、おじさん、穴掘り魔法は使えますか?」

「ああ、以前の探索でトイレ用に散々掘ったからね」

「なら大丈夫ですね。後は……最近暖かくなってきましたけど、カイロの魔道具があると寒い時にいいかも知れません」

「なるほど。前の探索時に手に入れてるから、それも問題ないね……さっき言ってた嗜好品って、どんなのがあるんだい?」

「保存食として焼き菓子を持ち込んだり、缶詰とかですね。あ、交代で眠るのでお酒はやめた方がいいと思いますよ」


 小川が警戒に立つかは分からないが、もしも警戒に立つことになれば、酔いを醒ます余裕がないかもしれないと茜はお酒について分からないなりに警告する。


「まあ、数日の事だからね。お酒は控えておくよ。干し肉と美咲ちゃんに貰った炭酸水でも飲んでるさ」

「ところで、美咲先輩は、ナツを連れていくんでしょうか?」

「荷物運びと盾役くらいにしか使えないかもしれないけど、美咲ちゃんには連れていくように言うつもりだよ」

「あー、みんな収納魔法使いだから荷物運びはいらないし、遠距離で決着しちゃうから、盾役も不要ですよね」


 茜の言葉に、小川はふむ、と頷く。

 そして、武具屋を覗いて柄の部分まで金属でできた戦斧(バトルアックス)を一本購入した。

 対魔物仕様で、刃の部分には魔鉄が使われている。魔銀ほどではないが、白狼程度なら切り裂ける武器である。


「迷宮でナツに持たせるんですか?」

「まあ、ナツは力持ちだからね。役に立つかもしれないし、戦斧はなんか格好いいからね」


 小川は割とミーハーだった。

 ナツの人型時の見た目を有名ロボットアニメの敵のモビルスー〇に似せるあたり、ゴーレムに関してはかなり趣味に走っている。

 戦斧を選んだのもアニメに寄せた結果であるのだが、残念ながら茜にはそこまでは分からなかった。

 だから、斧に火の魔法で熱を加えればリアルになるだろうか、などという小川の呟きを理解できる者はどこにもいなかった。


 そして翌日。

 傭兵組合の前には、美咲と茜に小川、それにキャシー、フェル、アンナが顔を並べていた。

 ベルは組合の荷馬車に馬を繋いでいる。


「小川さんは、魔物が増えた原因調査のために白の樹海には行ったことあるんですよね?」

「対魔物部隊に守られながら、樹海のほんの入り口の付近だけだけどね」

「今まで潜っていた5人に加えてオガワさんとアンナのふたりか。大所帯になってきたね」


 荷台に登りながらフェルが呟く。


「まあ、白の迷宮なんかはもっと大勢のパーティで挑戦するらしいですから、この程度なら可愛いものだと思いますわよ」

「そうだけどね。青の迷宮も樹海の迷宮も5人で潜っていたから、隊列とかも考えないとだよね」

「そうですわね。前衛はわたくしとベル。次がアカネさんとミサキさん、オガワさん、一番後ろにアンナとフェルでしょうか。全員が魔法を使える贅沢なパーティですけど、前衛職が少ないのは困りますわよね」

「ちょっといいかな?」


 キャシーとフェルの会話にオガワが口を挟んだ。


「人間サイズのゴーレムがいるから、最後尾はゴーレムにしてもいいんじゃないかな?」

「以前に出たゴーレムの核のアーティファクトですわね? でも、ゴーレムはあまり賢くないと聞きますわよ?」

「ゴーレムの核が迷宮産だからね。工事用のゴーレムよりも性能はいいよ。迷宮内の敵については話で聞いただけだけど、護宝の狐でなければ問題はないと思うよ」


 小川がゴーレム用に買った戦斧は魔鉄を用いたもので、魔剣の切れ味には届かないが白狼程度であれば切り裂ける品質のものである。

 ナツが戦斧を使いこなせるかは不明だが、戦斧をしっかり握り、刃を指定した物に向けて振る程度のことならば並のゴーレムでもできるのだ。ナツならば、もう少し賢く動けるだろうと小川は考えていた。


「第二階層のグランボアとコボルトくらいなら倒せるわけですわね? 一番後ろに配置して、後ろからの不意打ちを回避できるなら十分役立ちそうですけれど」

「ゴーレムは美咲ちゃんが持ってるから。持ってきたよね?」


 小川に話を振られるとは思っていなかったため、少し反応が遅れた美咲だったが、話は聞こえていたので質問の意味は理解できていた。


「ええと、はい。ナツなら連れてきてますけど。戦えるんでしょうか?」

「反応速度は悪くないし、あの体もすぐに使いこなしていたからね。それにゴーレムがゴーレム用の斧で木を切ることだってあるんだから、ナツの反応速度なら、魔物を斧で切るくらいはできると思うよ?」

「ゴーレムもいいけど、そろそろ出すぞ」


 ベルが荷台の方に振り向いて声を掛ける。

 そしてすぐに荷馬車の車輪がガラガラと音を立て始める。


 荷馬車は何事もなく、白の樹海へと進んでいく。

 白の樹海に近付くと、樹海の手前、砦の横に小さな小屋のようなものができていた。

 砦と比較するから小さく見えるが、実際には横幅10メートル以上の大きな丸太小屋(ログハウス)だ。


「あんなの作ったんですね。何の小屋でしょうか?」


 茜は遠くに見える小屋を不思議そうな顔で眺めている。

 窓は灯り取りの小さいものが幾つかあるだけで、中で過ごすようにはできていないように見える。

 ログハウスにありがちな煙突や暖炉もなさそうである。


「……倉庫、でしょうか?」

「ええ、町をひとつ作ろうというのですから、資材の量も少なくはありませんわ。中には雨ざらしにできないものもありますから、保存用に倉庫を作るとは聞いていましたけど、こんなに大きいとは思いませんでしたわ」

「運送することを考えると迷宮の門のそばに作ればいいのに、とか思っちゃいますけど」

「迷宮の門周辺には色々作らないといけませんから、土地の余裕がなかったのでしょう。建設には魔法使いも相当数が協力しているそうですから、荷運びは収納魔法を使うのでしょうね……それにしてもこの小屋、町の建設が終わったらどうするつもりなのかしら?」


 倉庫を見上げながら砦に近付いていくと、門のそばに数台の荷馬車が並んでいる。

 その馬車の横に馬車をつけると、ベルは馬を馬車から外し、砦の中の厩舎に繋ぎにいく。

 茜もそれにくっついて厩舎に入り、馬の背中を撫でている。


「ミサキさん、ゴーレムを見せてくださいまし」

「はい……ええと、名前はナツです」


 収納魔法から取り出されたナツは、人型で、しゃがんた状態だった。


「ナツ、待機状態を解除しなさい」


 美咲の命令で、ナツは立ち上がった。

 立ち上がったナツの身長は、170センチ程度である。

 見た目は白黒虎柄のMS、ザ〇である。ただし、目は単眼ではなくふたつ付いている。頭部に付けたフレキシブルアームがいい感じに動力パイプ状になっている。

 当然、その元ネタが分かる者はフェルたちの中にはいない。


「オガワさんと同じくらい、背丈があるんですのね?」

「美咲ちゃんが、高いところに手が届くようにしてほしいと言っていたのでね」

「武装はどこにあるんですの?」

「ああ、僕が持ってるよ……ナツ、この戦斧を装備しなさい。そして、もしも魔物が襲い掛かってきたら、それを戦斧を使って駆除しなさい。できるね?」

「はい」

「喋った?」


 フェルが目を丸くしている。

 虎のゴーレム騒動の後、魔法協会の資材を使ってゴーレムについて勉強していたフェルは、ゴーレムが喋らないということを正しく理解していたのだ。


「ナツには3つの言葉だけ登録してあるんだ。はい、いいえ、分かりませんだけなら音声で答えてくれるよ」

「へぇ、ゴーレムの標準部品には言葉を話すのはなかったはずだから、専用の部品を作ったんですね? さすが、賢者様は違いますね」

「賢者?」


 耳慣れない言葉に美咲は首を傾げる。

 それを見てフェルは笑った。


「オガワさんは、魔法協会では賢者様って言われてるんだけど、ミサキは知らなかったみたいだね」

「……あー、前に誰かがそう呼んでるのを聞いたことはあったけど、みんなそう呼んでるの?」

「魔法協会ではみんなそう呼んでるし、何なら季節ごとに王都から送られてくる協会の会誌にもそう出てるね」

「僕は色々手を出してるからね。何でも屋って意味で呼ばれてるんだと思うよ。できれば今まで通り、小川って呼んでほしいんだけど」

「それはさておき、砦の方にご挨拶をしてまいりますから、皆さんは樹海にいく準備をお願いしますわ」


 キャシーはそう言って、砦の塀の上に登っていった。

 今は対魔物部隊等が駐留しているが、本来の砦の兵士は、3交代で塀の上から白の樹海を監視するのが任務なのだ。

 砦の兵士に挨拶するのであれば、寝ている夜番の兵士を起こすか、塀の上で監視をしている兵士を捕まえるしかない。

 そんなことを考えながら砦の中をぐるりと眺めた美咲は、人影の少なさに気付いた。


「ねぇフェル。今日は、砦の中はあまり人がいないみたいだけど、全員出払ってるのって珍しくない?」

「そうだね。前は対魔物部隊は交代で魔物の駆除をしてたから、塀の中で訓練している人も結構いたけど、今日はいないね……みんな樹海に出掛けてるのかな?」

「いいところに気が付きましたわね」


 挨拶を済ませてきたキャシーがそう答える。


「ここ数日で、迷宮の門周辺の開拓を一気に進めているらしいですわ。だから、砦には最少人数を残して全員樹海で作業しているそうですの」

「……ということは、迷宮の門の周辺の安全は確保されてるってことだから、私たちは運がいいね」

「なんかフェル、前向きだね……魔物が刺激されて出てくるかもしれないから、慎重に行こうよ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また、誤字報告ありがとうございます。とても助かっております。

ちょっとペースが予想よりも遅いのです。予定では迷宮に入ってるはずだったのに。。。

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