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183.核

「それでは、わたくしは組合長に電話をかけてきますわね」


 大部屋に戻り、鎧を外すと、キャシーはそう言って部屋から出ていった。


「それじゃ私は小川さんに電話してくる。茜ちゃんは何か伝言とかある?」

「えーと、特にないですね」

「ん、それじゃちょっと行ってくるね」


 美咲が電話を掛けると、小川は通信省の執務室で電話を取った。


『やあ美咲ちゃん。久し振りってほどでもないけど、どうかした?』

「えっとですね。漆の木を発見しました。あとワサビも見付けました。それで、漆の取り方? 作り方を教えてもらおうと思いまして」

『へぇ、新しい産業になりそうだね……漆は木の幹に傷をつけて一晩おいて、翌日、傷から滲み出た樹脂を掻き取るようにして器に入れていくんだ。で、たしか、細かい鉄の粉を混ぜると黒い漆になるんだったと思ったけど、詳しいことは帰ったら調べてみるよ。赤い漆とかも作るのかな?』


 そういえば、漆には様々な色があるんだっけ、と美咲は今更ながらに思い出す。

 黒い漆にばかり気を取られていたが、漆には様々な色があるのだ。美咲が知っているのは黒と赤だけだが、その他にも様々な色の漆が、日本には存在した。


「それは未定ですけど、簡単に作れるようなら考えます」

『なるほど、雑学の本に載っていたと思うから一応調べておくよ。確か丹砂(たんしゃ)が必要だったような気がするんだけど、ちょっと覚えてないんだ』


 タンシャって何のことだろう、と首を傾げながらも美咲はとりあえず納得することにした。


「あと、チェスのルールとかって分かりませんか? 分からなければ、チェスみたいな駒で将棋のルールのゲームを売り出そうかって茜ちゃんが言ってたんですけど」

『あー、なるほどね。チェスの駒の方が立派に見えるからね……でも、成ったり、敵の駒を自分の駒にするのには、チェスの駒は向かないんじゃないかな? 将棋の駒は、あれはあれで、機能的にできてるはずだよ。えっと、チェスのルールは僕もあんまり詳しくないかな。ポーンの動きが将棋の歩と結構違ったはずだけど……チェスのルールはスマホに入ってるはずだから。たしか美咲ちゃんは復活祭でこっちに来るんだったよね? その時までにノートにまとめておくよ』

「よろしくお願いします」

『それにしても、ミストの町の方でワサビが採れるような場所があるとはね』

「あ、その辺は復活祭の時にお話ししますね」

『そうかい? なるほどね』


 小川は、何かを察したようにそう答えた。

 小川には新しい迷宮のことは知らされていないが、ミストの町方面で緊急に女神のスマホの追加要請があったことや、広瀬が長い間樹海の砦に詰めていることから、白の樹海方面で何かがあったのだろうということは勘付いていたのだ。

「それじゃ、復活祭の頃になったら、私だけそちらに行きますね」

『分かった。それまでにチェスのルールはまとめておくよ』

「はい。それじゃまた」




 大部屋に戻った美咲は、茜を伴って厨房に行き、そこで山芋を銅貨一枚で買い取り、呼び出し可能とした。

 そして、山芋を適当な長さに切り、短冊状にすると、グランボアの肉を小間切れにして炒め、色が変わってきたところに山芋を加え、塩と酒と砂糖で味を調える。


「山芋って摺ったのしか見たことなかったです」

「醤油と味醂で煮ると美味しいよ。ここでは郷に入ればで、こっちで手に入る調味料だけでやってるけどね」

「いい匂いですね……主食はどうするんですか?」

「芋を茹でたのが収納してあるから、それをマッシュポテトにして出そうと思ってるけど」


 美咲は大きな木のボウルに入ったジャガイモを取り出す。

 茹でたてを入れていたのだろう。ほかほかと湯気が立っている。皮は剥かれているので、後は潰すだけだ。


「茜ちゃんは、それをマッシャーで潰しちゃって。大雑把に潰れてれば、多少塊があってもいいから」

「はーい……味付けはマヨネーズですか?」

「どうしようかな……そうだね。マヨネーズにしとこうか」

「何か混ぜたりします?」

「何も混ぜないプレーンにしよう」


 美咲からマッシャーを受け取った茜は、ボウルを抱えてジャガイモを潰し始めた。

 ある程度潰れたところで、マヨネーズを薄味になる程度に投入して、茜は更にマッシュポテトを混ぜていく。

 美咲は、山芋とグランボアの煮物を大皿に入れてお盆に乗せると、マッシュポテトの出来を確認する。


「よさそうだね。それじゃ、それはそのままボウルで持っていこうか」

「飲み物とかはどうします?」

「今回はなしで」


 大部屋に入ると、全員がコタツで暖を取っていた。

 ベルなどは、ポニーテールを散らばらせて首までコタツに入って眠っている。


「座布団があったら、絶対に枕にしてそうですよね」

「あー、座布団は今度作ろうか。コタツなら欲しいだろうし、王都行くときとかも役に立つだろうし」

「そうですねぇ。今度作りましょう。座布団のサンプルとかあるといいんですけど……」

「座布団カバーなら買ったことあるよ。サイズの参考にはなるでしょ?」

「そうですね。後でサイズを確認させてくださいね」


 美咲と茜がそんな話をしていると、美咲たちが食事を運んできたと気付いたキャシーとフェルが食器の準備を始める。

 フェルに肩をゆすられてベルも目を覚まし、それに加わる。


「今日は芋尽くしなんだね」


 鍋とボウルの中を見て、フェルは嬉しそうである。


「マッシュポテトも好きなの?」

「お芋は大抵好きかな。昔、森の中で食べた、甘いのが一番好きなんだけど、この辺じゃ見掛けないんだよね」

「もしかして、紫色っぽい芋?」

「そうそう。で、中は黄色いの。知ってるの?」

「それなら、王都で開発中だから、そのうち出回るんじゃないかな」


 サツマイモの量産に向けて王都の魔法協会が実験中だと、美咲が言うと、フェルは満面の笑顔を見せた。


「……来年の秋辺りに期待かな」

「伝手があるから、少しなら手に入るよ? 復活祭で王都に行ったら貰ってきてあげるよ。それを種芋にして、こっちで育ててもいいかもね」

「うん。楽しみにしてるよ。黄金芋、懐かしいなぁ。子供の頃に食べたきりだよ」


 美咲の隣で配膳をしていた茜が首を傾げた。


「エルフがお芋が好きだとは思いませんでした」

「森に住むエルフにとっては割と重要な食材だったりするらしいよ?」

「森のエルフって弓で鳥や兎を狩って食べてるイメージでした」


 コタツの中央にボウルを配置しながらそんなことを言う茜に、フェルは笑顔で答えた。


「そうだね、グランボアとか鹿も食べるし、後は木の実に芋に野菜かな。人間とそう変わらないでしょ?」

「やっぱりエルフって肉食だったんですね?」

「肉食っていうか、森のエルフは木を枯らす害獣や害虫を間引いてそれを食べてる感じかな。人間みたく、飼育してまで食べようとはしないみたいだけど」

「なるほど。エルフの人が弓が上手いのは森の中の狩りで鍛えられたからなんですね」


 茜の言葉に、フェルはクスリと笑った。


「私は森のエルフじゃないけど、そこそこ弓には自信あるよ?」

「あー、はい。確かにフェルさんの弓の腕前は凄いと思います」

「ふたりとも、そろそろ食べないと冷めちゃうよ?」


 美咲が自分の取り皿に煮物を取り分けながらそう言うと、フェルは収納魔法から取り皿と木のスプーンを取り出し、マッシュポテトを山盛りで取っていった。


「いい匂いだね。最近流行ってるマヨネーズかな?」

「うん、使ってるよ。よく分かったね?」

「うん。最近、ミストの町でもマヨネーズを使う店が増えてきたからね。へぇ、温野菜以外にも合うんだね」

「マッシュポテトは温野菜の一種と言えなくもないけどね」



 食事を終え、ベルがお茶を淹れてきたところで、キャシーは、ゴードンとの電話の結果を話し始めた。


「ゴーレムの核についてはできれば売ってほしいということでしたわ。魔法の斧については特にほしいとも言いませんでしたけど」

「薬草とか材木の件はどうなったんだ?」

「それについてはお父様とお話ししましたわ。まず材木についてですけど、町の建設の資材確保先として考慮するとのことでした。まあ、ここは樹海の中ですから、木はたくさんありますものね。それで薬草ですけれど、可能なら町の特産品のひとつにしたいとのことでしたわ。乾燥させてもいい薬草なら他の町に売りに行くこともできますし、安定して薬草を供給できるのであれば、産業として成り立つだろうということでした。詳しくは、持ち帰った薬草を見て判断するそうですわ……話を戻しますけれど、ゴーレムの核と斧について、何か意見のある方はいらして?」


 キャシーがそう尋ねると、茜が挙手をした。


「はい」

「アカネさん、どうぞ」

「斧はとても便利そうなので、残しておいた方がいいと思います。ゴーレムの核はゴーレムを作れる人でなければ意味がないので、売り払ってもいいと思います」

「斧については俺も同意見。木を切る機会がどれだけあるか分からないけど、切ることになれば、この斧の有無で結果はかなり違ってくる。ゴーレムの核は、正直、どっちでもいい」


 ベルがそう言うと、隣でフェルも頷いていた。


「私としても、斧は確保しておきたいかな。あんな斧が出回ったら、森のエルフが怒ると思うし。あ、ゴーレムについては好きにしてくれればいいと思う」

「ミサキさんはどう思いまして?」

「便利みたいだから、斧は売らない。ゴーレムの核については、できれば手元に残しておきたいかな」

「美咲先輩、ゴーレムを作るんですか?」

「そこまでは考えてないよ。ただ、思考できる機械を作れたら凄いんじゃないかと思ってね。女神様謹製の核だから、きっと、色々と面白いと思うんだ」


 美咲が考えていたのは、目と耳と口に相当する部品を持ったゴーレムだった。

 手足はこの際なくてもいい。何を人間と判断するのか、その基準を聞いてみたいと、それだけの目的で核を確保したいと考えていたのだ。

 美咲の中で、ゴーレムのイメージはサイモン教授だった。


「学者みたいなことを考えますのね?」

「そういう目的なら、私もミストの町の魔法協会員として、ミサキに協力しようかな。面白そうだし」

「それでは斧はパーティの共有財産として、ゴーレムの核はミサキさんに売ることにしましょう。値段は他の武器のアーティファクトと同額でいいでしょうか?」

「いくらか覚えてませんけど、それで構いません」


 こうして美咲はゴーレムの核を手に入れたのだった。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

また、誤字報告、ありがとうございます。とても助かっております。

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