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148.樹海の迷宮・第二階層・土魔法

 魔法の鉄砲と魔法の弓の性能は大まかに判明した。

 また、各自の適性を調べた結果、魔法の鉄砲はキャシーが、魔法の弓はフェルが射手を務めることとなった。


「やっぱりエルフと言ったら弓ですよねー」


 立ったまま弦の調子を確かめるフェルを見て、茜は楽しそうにそう言った。


「森育ちだと確かにそうだけどね。町育ちだと魔法使いが多いよ?」


 フェルの返事を聞き、茜は、そう言えば、と続けた。


「フェルさんはドワーフと仲悪かったりするんですか?」

「あー、あれも森育ちのエルフ限定だね」

「なんで仲が悪いんですか?」

「ほら、製鉄とかってやたら木を燃やすでしょ? 森育ちにはそれが我慢できないらしいよ」


 木を切り倒して炭にして、森がどんどん減っていくのが許せないって言ってた、とフェルが答える。

 なるほど、と納得顔の茜に、今度はフェルが質問した。


「茜って、なんでアーティファクトに詳しいの?」

「んー、ここだけの話ですけど、何となく分かっちゃうんですよねー。一種の才能でしょうか」

「便利な才能だね。ニホン人は多才で羨ましいよ」


 フェルと茜がそんな話をしている間、美咲は少し離れた所で、キャシーに魔法を習っていた。


「そこで作り出したいものの形を想像して、地面に魔素を浸透させて、一気に魔力にするんですのよ」

「……えーと、イメージして魔素を浸透させて……こうかな? えいっ!」


 美咲の前方2メートルほどの地面が盛り上がり、一辺50センチほどの立方体が現れた。そばには同じ体積の穴が開いている。

 土魔法である。

 野営では穴掘りは必須技能である。トイレや残飯処理など、色々な用途で穴が必要になる。

 スコップのような道具もあるが、手を汚さずに穴掘りをする方法もあると聞き、美咲はキャシーに教えを乞うたのだ。


「これはまた……随分大きな穴が開きましたわね……干渉できる範囲は魔素量に比例すると言われてますから、ミサキさんなら当然の結果なのかしら? わたくし、その半分も掘れませんわよ」


 土を操って幾つか穴を掘り、その都度出来上がる土の山を見ながら、美咲は首を傾げた。


「これ、面白いかも?」

「粘土遊びみたいなことも出来るんですのよ……操土!」


 キャシーは土を操り、手のひらに乗るくらいの土人形を作ってみせた。土から粘土を分離したのか、現れた土人形の色は、ただの土とは少し違っていた。

 それを観察していた美咲は、なにか納得したように頷くと、地面に魔素を浸透させ始めた。


「……せーの!」


 地面から白っぽい槍のようなものがすさまじい勢いで伸びた。

 その槍のようなものは、1メートルほど伸びた所で停止した。


「……何を……なさったのかしら?」

「土の中から石や砂だけ抽出して、石の槍を作ってみたつもりなんだけど……」


 石の槍をコンコンと叩く美咲。かなり頑丈そうだった。

 槍の根元の地面には、槍の体積よりも若干大きな穴が開いていた。

 それを見て、キャシーは大きなため息をついた。


「土魔法は反応が遅いから攻撃には使えないって言われてますのよ。それをミサキさんは……一体どうやったらそんな速度で土が反応するんですの?」

「え? 出来るだけ魔素を固めて、一気にえいやってやったんだけど」

「魔素を固めて? 一気に?」


 キャシーは足元の地面に視線を落とす。

 魔素を集めて一気に魔力に変換すると、指程の太さと長さの土の棒がするすると伸び、パタリと倒れた。強度も弱いし、攻撃に使うには伸びる速度が遅すぎた。

 キャシーは少し考え、もう一度試してみるが、今度は土が砂に変わっただけで、地面から砂がゆっくり噴き出しているようにしか見えなかった。


「……ミサキさんとわたくしの魔素量の違いからでしょうか? それにしてもこんなに違うなんて……」


 キャシーは倒れた土の塊を平らに均すと、美咲が作った石槍に手をかけて軽く力をかけてみる。石槍は地面に根が生えているかのように動かなかった。

 次にキャシーは、少し足を広げて重心を低くすると、両手で石槍を握って地面から抜こうとした。しかし、やはり石槍は、ピクリとも動かなかった。


「……随分としっかり埋まってますわね」

「うん。石や砂を集めるのに、かなり深い所まで魔素を浸透させたからね。でも攻撃に使うには不向きかも。氷槍とかの方が簡単だし早いよ……邪魔だから折っとくね」


 美咲は石槍の根元に魔素を浸透させると、そこで石を断ち折り、石槍を持ち上げた。その断面は、磨いたように光を反射していた。

 それを見て、キャシーは呆れたように溜息をついた。


「……本当に器用に魔法を使いますわね。わたくし、そんなこと出来ませんわよ?」

「やってみたら簡単だったよ? でもこれで穴掘りは魔法で出来るようになったよ。ありがとう」

「どういたしまして……さて、それでは、そろそろ探索を開始しましょうか」


 キャシーは美咲の手から石槍を受け取ると、クルリと回して地面に突き刺した。



 今までに護宝の狐が出現したのは、林と川に挟まれたエリアと草原の丘のふもとだ。

 強いて言えば林の中に出てきたことはないという程度で、特に、目立った出現傾向などがあるわけではない。

 したがって、その探索は、地道に足で行うことになる。

 発見後、魔法の鉄砲や魔法の弓で攻撃を加えることを考えると、出来るだけ遠くから発見することが望ましい。

 幸い、護宝の狐の色は草原ではそこそこ目立つ。

 美咲たちは目を皿のようにして、黄色い物を探して迷宮内を歩き回った。


「あの辺にある黄色いのって何かな?」


 美咲が小さな丘を指差す。

 その中腹には黄色い何かが見えていた。


「ん? んー……花だね。狐はあんなに小さくないよ。それにもっと色が濃いかな」

「そっかー、フェルは目がいいね」

「エルフだからね、人よりは目も耳もいいと思うよ」



 護宝の狐を探しながら移動を続ける一行は、途中で子供のグランボアと二回遭遇した。

 どちらも魔法の射程距離外から、魔法の銃と魔法の弓で危なげなく倒す。普通の魔物が相手であれば、アーティファクトはかなり強力な武器と言えた。

 グランボアのドロップは牙と毛皮、魔石と代わり映えのしないものだったが、茜は牙を見て、ひとつ買い取りたいと言いだした。


「別に貴重品ってわけじゃないから構わないけどさ、そんなのどうするんだ?」


 ベルが訝し気な表情で尋ねると、茜は、加工してアクセサリーにしたいと答えた。


「こう、穴を開けてですね、革紐を通して首からぶら下げたらワイルドな装飾品になるかなぁって」

「でかいし重いぞ?」


 片手で牙を持って重さを確かめながら、ベルが言外に無理じゃないかと言うと、茜は肩を落とした。


「んー、無理ですかぁ。なんか傭兵らしい装飾品がほしいなって思ったんですけど」


 溜息をつく茜に、ベルは苦笑した。


「傭兵らしい装飾品なら、魔力発動体の指輪とかがいいと思うぞ。後、魔石の指輪」

「そういうのなら幾つか持ってます。そうじゃなくて、こう、野趣溢れるっていうか、獲物の素材から作ったようなのが欲しいんですよね」

「もっと小さい牙や爪にしとけよ。コボルトがたまに落とすらしいぞ」


 話を聞いていた美咲が、足元から石ころを拾い上げて土魔法を使う。


「えーと、こんな感じかな……茜ちゃん、こんなのはどう? 迷宮の石から作ったアクセサリーだよ」


 平面で構成されたそれは、グランボアの牙をそのまま小さくしたような形をしていた。

 魔法で切り取った面はどこもツルツルで、ただの石ころがまるで宝石のようだった。


「もしかして勾玉ですか? アクセサリーにするには、ちょっと角の所が痛そうですね。それにしても、美咲先輩器用ですね。後で私にも土魔法を教えてください」

「野営の時にでもね。意外と簡単だよ?」


 美咲の後ろでは、そんなことを言うのは美咲だけだ、とキャシーが首を横に振っていた。



 結局その日は、護宝の狐を見付けることは出来なかった。

 安全地帯に戻った美咲が、女神のスマホで希望のコンパスを起動し、護宝の狐の場所を知りたい、と願ってみたが、コンパスの針はクルクル回るだけだった。


「心から望むには、もう少し疲れないと駄目かなぁ」


 美咲はそうぼやき、女神のスマホをしまう。


「多分、もう探すのが面倒で仕方ないってタイミングで使ったら、コンパスも反応すると思うんですけどね」

「難儀な仕様だよね。さて、今日の夕飯は何にしようか。食べたい物はある?」


 美咲に聞かれ、茜は腕組みをして考え込む。

 茜はしばらく唸っていたが、顔をあげて答えた。


「パンはまだあるんですよね。だったら、ツナマヨのサンドイッチとかどうでしょう?」

「サンドイッチか、こっちには食パンがないんだよねぇ。コッペパンにでも挟めばいいか。ツナマヨサンドだけだと寂しいね……コンビーフも使おうかな」


 美咲は収納魔法から、ツナ缶3缶、コンビーフ2缶、玉ねぎ5玉、マヨネーズ、胡椒と、木のボウル、まな板、包丁、菜箸、大皿を取り出すと、玉ねぎの皮をむき始めた。

 美咲の足元には深い穴が土魔法で掘られており、ゴミはそこに落とされていく。

 皮むきを終えた玉ねぎをみじん切りにし、缶詰の中身をそれぞれ別のボウルにあける。

 コンビーフは菜箸でざっくりほぐしてから、ツナ缶は油を切ってから、みじん切りにした玉ねぎとマヨネーズを入れてよく混ぜ合わせる。

 コンビーフには黒胡椒を加えて更に混ぜ合わせる。

 それらを横に切ったコッペパンに挟み、大皿に載せていく。

 最後に土魔法で地面の穴を塞いで出来上がりである。

 この世界のコッペパンは少し固めなので、パンにバターは塗らず、挟んだ具の水分や油分でしっとりするのを期待する。


「ちょっと多かったかな? まあ、余ったら収納魔法でしまっておけばいっか。みんな出来たよー」


 美咲が声を掛けると、フェルたちが集まって来る。


「今日はコンロを使わないんだね?」

「缶詰を使った手抜き料理だからね。切って混ぜて挟むだけ。簡単だよ?」


 どちらも味がマヨネーズ味になってしまったし、色も茶色系だけなので、美咲としてはちょっと失敗したかと思わないでもなかったが、食事は概ね好評だった。


 野営は、茜のリクエストで早番が美咲と茜になった。美咲に土魔法を習いたいとのことだった。

 本来であれば、アブソリュートゼロを使える美咲と茜は別の班に分けるところだが、今は魔法の鉄砲がある。魔法の鉄砲の存在は、戦術の幅を広げるのにも役立っていた。


「それで土魔法なんですけど、どういうイメージで使ってるんですか?」


 地面に突き立てた光の杖の前に、美咲と茜は並んで、膝を抱えるようにして座っていた。その足元には、魔物が出た時の為、魔法の鉄砲と魔法の弓が置いてある。

 本来であれば野営の時は、お互いの死角を補い合うために向かい合わせに座るものなのだが、ふたりとも魔法の練習に意識が向いていて気付いていないようだった。

 時計代わりの線香の煙がゆっくりとたなびく中、美咲は自分なりのイメージを説明する。


「まず穴掘りだけど、穴の大きさと、掘った土をどこにどういう形で移すかのイメージかな。砂に水が浸透するイメージで魔素を浸透させて、一気に土を移動させるんだ。こんな風に」


 美咲は足元にゴミ捨てに使えるくらいの穴を作って見せる。穴のそばにはサイコロ状の土があった。

 茜は美咲の手元を覗き込むが、別に手で作業をしているわけではない。何も分からなかった茜は、美咲に呪文はないのかと尋ねた。


「そう言えばキャシーさんは操土とかいう単語で土を操ってたような?」

「それですそれ、要は氷槍とか炎槍みたいなものなんですよね、きっと……土の槍なら飛ばせるかも」

「あー、これもキャシーさん情報だけど、土魔法は攻撃魔法に向かないって言ってたよ」


 ああでもない、こうでもないと、茜は呪文を考え始める。


「ええと、大地を為すものたちよ、我が意に答え、その形を変えよ……操土」


 ポコリと、朝顔の種を植えるのにちょうど良さそうな感じの穴が開いた。

 美咲が作った穴と見比べ、茜は何回か操土の呪文を使う。やがて、穴の大きさが美咲の作った穴と同じ程度まで広がった。


「何となくコツが掴めましたよ。次は石の加工を教えてください」

「ちょっと待ってね。あ、危ないから動かないでね」


 美咲が地面に意識を向けると、そこから石槍が飛び出してきた。

 目を丸くする茜に、地面の中の砂や石を抽出して石槍を作ったと説明すると、美咲は石槍を根元の部分で断ち切った。


「これを教材にするといいよ。イメージは、魔素を剃刀より薄く石に浸透させて、そこで石の結合を断ち切る感じかな」

「待ってください。それって本当に操土なんですか? なにか別の魔法だったりしませんか?」

「土魔法だよ? だから、地面に埋まってるようなものじゃないと切れないと思うし」


 美咲は首を傾げた。


「地面に埋まってるような物? ……あー、今日のご飯で使った空き缶とかって埋めちゃいました?」

「空き缶ならアイテムボックスにしまったけど? ほら」


 空き缶を取り出した美咲に、茜は、それを切ってみてほしいと頼んだ。

 美咲は操土を使って空き缶を断ち切り、ハートマークを作って見せる。


「密度が高いからかな、ちょっと抵抗があったけど、鉄もアルミも所詮は地下資源だからね。そりゃ切れて当然だよね」

「……美咲先輩の前には、フルプレートメイルすら敵じゃない訳ですね……これは絶対に覚えたいです。練習しなきゃ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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