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147.樹海の迷宮・第二階層・性能測定

 翌朝、美咲たちは迷宮の門の前にいた。

 キャシーの手には魔法の鉄砲が、フェルの手には魔法の弓が握られていた。

 対魔物部隊が周囲で仮組の塀を作っている中で、美咲たちは装備を確認しあうと光の杖を起動して迷宮に足を踏み入れる。

 大きくて薄暗い洞窟のような通路を進むと、地図を見ていたベルが辺りを確認しだした。


「ベル、まさか迷ったとか言わないですわよね?」

「ああ、それなら大丈夫。ほらここ、前に美咲が付けた印が消えかけてるからさ」


 ベルが壁を指差す。

 そこには、矢印の痕跡のようなものがうっすらと残っていた。


「迷宮に吸収されかけているのですわね。こんな風に残るとは思ってませんでしたわ」

「いや、よく見てみろよ。今まさに消えるところみたいだぜ」


 ベルは壁に光の杖を近づける。

 壁に微かに残った赤い塗料が、まるで壁に吸い込まれるように、じわじわと消えていくのが確認できた。


「おもしろいね。上からもう一度書いたらどうなるのかな?」


 美咲はスプレー塗料を取り出すと、矢印の三角の部分だけ、赤く塗りつぶした。


「相変わらず便利な塗料ですわね。今塗った塗料はまた何日かは残ったままになる筈ですわ」

「へぇ、そうなんだ」


 美咲が三角を塗り終わる頃には、元々あった矢印は完全に消え去っていた。そして新しい三角は、キャシーの言の通り、そのまま残っていた。

 それを確認した一行は、再び、迷宮の中で歩を進める。


「それにしても、今回の依頼は妙だよね」


 フェルがぽつりと呟いた。

 その呟きに、美咲が反応した。


「妙って何が?」

「アーティファクトで護宝の狐を倒せるか調べるってあたりが、だよ。アーティファクトの所有権は私たちにあるのに、その性能を調べるみたいな依頼でしょ?」

「あー……多分だけど、護宝の狐を倒せるなら私たちから買い取るつもりなんだよ。ほら、護宝の狐って、普通の魔法は避けちゃうし、本物の魔剣じゃないと切れないじゃない? 全力の魔素のラインなら威力や速度があるから倒せるけど、それって逆に言うと、私たち以外には倒せないってことだよね」


 美咲の説明を聞き、フェルは少し考えて頷いた。


「んー、うん。そうだね」

「そこに、今まで見たことのない武器が出てきたから、それに希望を託したんだと思うよ。その弓で倒せるのなら、私たちじゃなくても護宝の狐を狩れるってことだからね」

「でも弓は一張りしかないよ?」


 フェルは、左手に持った弓を抱きしめるようにする。どうやら弓に愛着が湧いているようだ。

 そんなフェルに美咲は微笑みかけた。


「大丈夫だよ。ほら、女神のスマホみたく、同じのが沢山あるかもしれないよ? それなら問題ないし、他に同じのがなかったら、手放さなきゃいいだけじゃない?」

「そう、なのかな? ミサキも協力してくれる?」

「うん」


 と、一番後ろを歩いていたキャシーがフェルに声を掛けた。


「フェル、こっちの魔法の鉄砲には興味はないんですの?」

「だってそれ、普通の魔法しか使えないよね」

「本当にそう思いますの? わたくしには、この魔法の鉄砲の方が、その魔法の弓よりもずっと大きな可能性を秘めているように思いますわ……そうですわね。ミサキさんが魔素のラインを使った状態のフェルの氷槍を登録したとしたら?」


 キャシーの問い掛けに、美咲とフェルは黙り込んだ。

 魔法の鉄砲が完全に魔法を再現するのだとすれば、或いはそれは、護宝の狐を倒せるかもしれない。

 その可能性を理解したのだ。


「……あれ? でも確か、その鉄砲って、この弓と違って使う人の魔素を消費したよね。ミサキみたく魔素が豊富じゃないと、撃ったら倒れるんじゃないかな?」

「それは……そう……ですわね」

「あ、でも、アカネならミサキに次ぐ魔素量だから、行けるかな?」

「うぇ? 私ですか?」


 名前を呼ばれると思っていなかったのだろう。茜が上擦った声をあげる。


「第二階層に下りたら実験してみましょう。アカネさん、それまで魔素は無駄遣いしないでくださいまし」

「はーい」


 第二階層に降り、安全地帯に入った一行が最初に行ったのは、魔法の鉄砲に美咲の魔素のライン付きの氷槍を登録する実験だった。

 全力の魔素のラインは使える回数が少なすぎるため、指程の太さの魔素のラインと氷槍の組合せで魔法の鉄砲に登録する。

 その状態の魔法の鉄砲を茜に持たせ、効果を検証するが、魔法の鉄砲は魔素のラインなしの状態の威力しか発揮しなかった。


「うまく行かないものですわね」

「どーします? アブソリュートゼロでも登録しておきますかー?」


 銃口を空に向けて茜が問うと、キャシーは少し考えてから頷いた。


「そうですわね。迷宮内では多分それが一番強力な魔法でしょうから」


 返事を聞いた茜は、登録された魔法を消し、上下を逆に持ち替えると、空に向かってアブソリュートゼロを放った。


「……あ、空が凍った」


 茜は空を見上げて呟いた。

 迷宮の天井に映し出された青空の一部が、白く凍り付いていた。

 空からパラパラと白い氷の破片が降って来る。


「ここの空は偽物なんだから、撃っちゃ駄目だよ」


 フェルが呆れたようにそう言う。

 茜は、魔法の鉄砲を持ち替えると、今度は遠くの空を狙って引き金を引いた。

 白い氷の槍が飛び、再び空の一部が凍った。


「登録終わりましたー」

「え? ちょっと待って……氷槍!」


 フェルは茜が撃った空を狙い、氷槍を放った。

 氷の槍は、そこまで届かずに途中で消えていった。


「……アカネ、魔法の鉄砲貸して」

「え? はい」


 茜は安全装置を掛けて、魔法の鉄砲をフェルに渡す。

 それを受け取ったフェルは、魔法の鉄砲を構え、白く凍った空を狙う。


「ええと、安全装置を外して、引き金を引く」


 今度の氷の槍は、茜が撃った辺りに着弾した。


「うわぁ……改めて見てみるとアカネの魔法って射程距離が凄いね……私の魔法の倍近く届くんじゃない?」

「あー、そう言えばおじさんが前に言ってました。私たちの魔法は射程距離が倍以上あるとか」

「これなら、この魔法の鉄砲もそれなりに使えるかもしれないね」

「どういうことですの?」


 キャシーが腕組みをして首を傾げていた。


「アカネの魔法を登録した魔法の銃を使うと、射程距離が50ミール(50メートル)以上に伸びるんだよ」

「普通の魔法使いの有効射程距離の倍ですわね。この前は近くの木を狙ってたから射程距離にまでは気が回りませんでしたわ……遠くから狙えるのなら、護宝の狐に通用するかも知れませんわね」


 魔法の鉄砲は、魔法の弓と違い、使用者の魔素を消費する。そのため、何回も試射は出来なかったが、数回の試射で、有効射程距離は50メートル程あることが判明した。

 魔法を避ける護宝の狐相手では、どれほど意味があるかは分からないが、相手に気付かれないように遠くから狙撃するのであれば、或いは、護宝の狐に有効なのではないかという結論に至った。

 登録する魔法は、避けられた場合でも足止めになる可能性を鑑み、今のまま、茜のアブソリュートゼロにしておこうと話が決まる。

 続いて、弓の実験が始まった。

 弓に関しては、全員が弓を試射するところから始まったが、美咲と茜は、そもそもまともに弓を引くことさえ出来なかった。

 ベルとキャシーはそれなりに矢を飛ばしていたが、丘の中腹に土で作った的に当てるには至らなかった。


「やっぱり弓はフェルが一番上手ですわね」

「長弓は弦に耳を引っ掛けそうで怖いんだけどね」


 フェルはそう言って、弓の弦を指先で弾いて鳴らした。


「あ、ひとつ試したい事があったんだっけ。ミサキー」


 フェルは美咲に的までの魔素のラインを引くように頼むと、魔素のラインに向けて矢を放った。


「あれ?」


 矢は魔素のラインに触れると、そのサイズが一回り大きくなったが、矢の速度や軌道に変化は見られなかった。

 飛距離にも変化はなく、試射の的にトスッと刺さった。


「矢が大きくなった以外の変化なしか」


 フェルはそう呟くが、美咲が、それは違うと否定した。


「矢が大きくなったら飛距離が落ちる筈でしょ。矢が大きくなっても飛距離が変化しなかったってことは、威力が増したってことだよね」

「そうなの? そうかな?」

「物理の法則から考えるとそうなる筈だけど? 質量が大きくなればエネルギーも大きくなるわけだから」

「ミサキはたまに難しいことを言うね」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

大変申し訳ありませんが、体調を崩しており、しばらく更新が不定期になると思います。

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