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138.新しい迷宮へ

「アーティファクトの発見を優先ですか?」


 茜は首を傾げる。


「アカネさん? 何か気になる点でもありましたか?」

「いえ、アーティファクトをみつけるのはいいんですけど、アーティファクトは取られちゃうんですか?」

「ああ、そこが気になってらしたのね。いったん、傭兵組合に引き渡しますが、あとでわたくしたちに返却されますわ」


 キャシーの説明に納得したのか、茜は頷いた。


「それならいいんです。アーティファクトって物によってはすごく高額なのが出てくるってお話だったので」

「茜ちゃん、目の付けどころがいいね。さすが敏腕商人」

「ん? アカネは魔法使いだろ?」


 ベルが茜に尋ねると、茜は、


「これでも、王都の商業組合ではそこそこ名の売れた目利きの商人なんですよ。アーティファクトの鑑定もお任せください」


 と笑顔で答えた。



 キャシーから迷宮の情報を共有して貰った美咲たちは、砦の塀の上に上っていた。

 塀の上は、幅1m程の通路があり、外側は身を守るための鋸壁になっている。

 キャシーは、鋸壁の間から白の樹海の方を指差した。その方向を見ると、樹海の一部が切り拓かれていた。


「対魔物部隊が魔物の駆除のついでに樹海に踏み入る為の簡易な道を作っています。わたくしたちは、あそこから樹海に入ることになります。周囲の魔物はかなりの数を対魔物部隊が駆除していますが、樹海の奥から魔物は際限なく湧いてきますから油断なさらないように。ここからだと門の天辺しか見えませんけど、門の横の魔法陣の周りには柵が設けられていて、迷宮から出てきた時に魔物と遭遇戦になるのを防止していますわ」

「とりあえず、潜って帰ってくるのは出来そうだね」


 フェルが鋸壁の上によじ登って門の方を眺めるが、その程度の高さでは柵は見えない。フェルはそのまま鋸壁の上に座って足をぶらぶらさせる。


「フェル、危ないですわよ」

「うん、そうだね……ねぇキャシー、迷宮にはいつ潜るの?」

「明日の早朝からですわ。今から潜っても、安全地帯を発見できないまま夜を迎えると危険ですからね」

「それもそうか……ミサキ、今日の晩御飯は期待してもいい?」

「ん? 調味料は一通り持ってきたし、冷蔵庫の中にあった生鮮食品も持ってきてるけど、野菜炒めでも作る?」


 美咲の答えに、フェルとベルが食い付いてきた。


「いいね。ミサキ食堂の味が砦の中で食べられる!」

「俺、辛めの味付けがいいな」

「あー、はいはい。砦の厨房が借りられたら作ってあげるよ」


 続いて、キャシーと茜が反応した。


「ミサキさん、わたくし、甘いものが食べたいですわ」

「んー……パンケーキもどきなら作れなくもないかな」

「美咲先輩のパンケーキ食べたいです!」

「はいはい」


 混沌とした夕食になりそうだと、美咲は溜息をついた。




 塀から下りると、対魔物部隊は半数が出払っていた。

 迷宮周辺に樹海の木々を使って雑な作りの柵を張り巡らせると共に、魔物を駆除する作業に出掛けているのだ。

 美咲たちの姿を見付けたコーマックが近付いてくる。

 それを見て、茜は警戒するように美咲の後ろに隠れた。


「……なんですか? 傭兵のお仕事で来てるって、もう分かったんですよね?」

「ああ、きちんと謝ってなかったからさ。さっきは済まなかった」

「ふ、ふん。分かればいいんですよ。それだけですか?」

「ああ、許してくれるか?」

「特別に許してあげます。もう子供扱いしないでくださいよ」

「ありがとう、次からはレディとして扱うよ」


 コーマックはそれだけ言って、去って行った。

 茜は毒気が抜かれたような表情でそれを見送った。


 ◇◆◇◆◇


 翌早朝、美咲たちは日の出前から起き出した。


「まだくらいねぇ」

「……ミサキ、眠そうだね、顔洗ってきたら」

「んー……そうする」

「みさきせんぱーい、私も行きますー」


 美咲と茜はタオルを持つと、連れ立って外の水場に向かう。

 砦の建物から出ると、そこには広瀬がいた。


「お、美咲たちも起きたのか。早いな」

「広瀬さん? ……おはよーございます」

「おう、眠そうだな」


 瞼が開ききっていない美咲たちに、広瀬は苦笑した。


「広瀬さんはこんな早くからどうしたんですか?」

「俺は朝の鍛錬だ。今日から迷宮か? 気を付けるんだぞ」

「私たちは女神の口付けも持ってるし、大丈夫です」

「そうか。まあ頑張れ!」


 美咲たちは頷くと、顔を洗って大部屋に戻った。

 部屋に戻ると、キャシーたちが鎧を身に着けている途中だった。


「みんな気が早いね。朝ご飯はどうするの?」


 美咲の問いに、キャシーは籠手を着けながら答えた。


「二階層の安全地帯を見付けるまでは急ぐ予定ですの。朝は携帯食でも食べますわ」

「あー、なるほど。茜ちゃん、買ってきた携帯食を食べる?」

「そうします。美咲先輩はどうするんですか?」

「パンでも齧るよ。それより、鎧を着ないと」


 美咲と茜は、収納魔法から武器防具を取り出すと身に着け始めた。

 美咲は魔物駆除の指名依頼で何回か身に着けたことがあるが、茜は実戦では初めての鎧装備である。ひとつひとつ確認しながらなので装着に時間が掛かっている。


「できたかな? うん。よさそうだね」


 茜の鎧がしっかりと固定されているかを確認し、美咲は頷いた。


「ありがとうございます……で、携帯食ですね。干し肉がいいかな」


 茜は携帯食から干し肉を取り出すと齧り付いた。

 しかし、干し肉は信じられないほどに固かった。

 噛み千切ることは諦めた茜は、手で干し肉を折り取って、小さな欠片を口に放り込む。

 あむあむと噛んでいた茜だが、しばらくすると涙目になった。


「……みさきへんふぁい、からいれす」

「からい? ああ、固いのね。無理そうなら諦めてパンでも食べる?」

「ほうひまふ」

「とりあえず口の中身、厨房のゴミ箱に捨ててきなよ」


 茜はその後、美咲の用意したパンを貰って朝食とした。

 なお干し肉はそのままでも食べられないことはないが、スープにするのが普通の食べ方である。そのまま食べようとした茜のリサーチ不足であった。


 朝食を済ませた一行は砦を出て、迷宮の門に向かって歩き始めた。

 砦の塀の上からは、見張りの兵士が美咲たちを見送っていた。


 樹海の入り口は邪魔な灌木が完全に切り払われており、まっすぐに樹海に足を踏み入れることが出来るようになっていた。

 キャシーとベルは、光の杖を取り出し、薄暗い樹海の中を照らしながら歩を進めた。


 対魔物部隊により、樹海の中に踏み分け道が出来ており、ほぼまっすぐに迷宮に向かって進むことができるルートが確立されていた。美咲たちは、キャシーとベルを先頭に、周囲を警戒しながら一塊になって樹海の中を進んでいく。


「もう少しですわ。魔物には遭遇せずに済みましたわね」


 キャシーが前方を指差す。

 迷宮のある広場が木々の向こうに姿を現していた。

 そこには門と、雑な作りの柵に囲まれた魔法陣があった。

 ゆっくりと進んだ一行は、石畳の上に足を乗せる。

 樹海の奥側は、木々に横棒を組み合わせた簡易な作りの塀になっている。

 それ以外の方向は、まだ切り拓いている途中で、切り倒した木材が、乱雑に積み重ねられている。


「かなり出来てきていますわね。四方を塀で囲んで、魔物が入れないようにするらしいですわ」


 それも一時的な措置で、最終的には、ミストの町程ではないにしても、しっかりとした石造りの塀を四方に張り巡らせた小さな町にするのだという。


「あれが迷宮の門ですかー。不思議ですねー」


 自動で開閉を続ける門を見て、茜が感嘆の声をあげる。

 門は動力も原理も解明されてはいない。一種のアーティファクトのような物である。


「それでは皆さん、準備はよろしいですわね?」


 キャシーは、偵察隊が作った地図を片手に、門の前に立ち、皆の顔を見回した。


「次の開門のタイミングで行きますわよ」


 そして、門が閉じ、再び開いたタイミングで、一行は迷宮に足を踏み入れた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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