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136.新たな指名依頼

 迷宮への荷運びは何事もなく終了した。

 美咲たちが荷運びを終えてミストの町に戻ってから二日後、広瀬から茜に電話がかかってきた。

 ちょうどエリーと遊んでいた茜は、エリーを抱っこしながら電話に出た。


「おにーさん、どうしたんですか?」

『うん、今度、白の樹海の方にうちの中隊が行く事になったんだ』

「あー……なるほど」


 迷宮周辺の開拓の妨げとなる魔物を狩るのがお役目だろうと、茜はあたりをつけた。

 迷宮ですね。と言いかけた茜は口止めされていることを思い出し、口に出すのは思い止まった。だが、このタイミングで対魔物部隊が白の樹海に来る理由など、他にないだろう。


『それでだ。最近色々物騒だから、例の魔剣は茜が持ってた方がいいと思ってな』


 広瀬は、リバーシ屋敷にある、茜の注文した魔剣のことを持ち出した。


「んー、私は魔法使いだから、剣は使わないと思うんですけどね。おにーさんが使ってくれて構いませんよ」

『お守り代わりに持っておけって、詳しくは言えないが、色々物騒になるかもしれないんだから』


 迷宮周辺の魔物を対魔物部隊が狩ることで、魔物が刺激されて魔物溢れとなる可能性がないとは言えない。広瀬はその脅威について懸念していた。


「おにーさんがそこまで言うなら……」

『それじゃ、今度持って行くから。それと、傭兵なら鎧くらい持っとけよ』

「革鎧なら持ってますよ」

『そうか、ならいいんだ』


 広瀬はそう言うと、美咲によろしくと告げて電話を切った。


「広瀬さん、なんだって?」


 そう尋ねる美咲に、茜は肩を竦めた。


「今度、白の樹海に行く途中で寄るそうです。屋敷に置きっぱなしの魔剣を持ってきてくれるって」

「このタイミングで? となると、アレが目的だろうね」

「でしょうね」


 ふたりで納得しあう。

 そんなふたりの様子を、エリーは不思議そうに見上げていた。




 広瀬は宣言通り、翌日、魔剣を片手にミサキ食堂を訪ねてきた。


「美咲も茜も元気そうだな」

「広瀬さんもお変わりないですね」

「おにーさんはこれから白の樹海ですか?」

「ああ。とりあえず魔剣を渡しておこう」


 広瀬はそう言うと、魔剣を茜に差し出した。

 茜はそれを受け取ると、剣を僅かに抜き出した。青黒い剣身がギラリと光る。


「相変わらず綺麗な剣ですよねー」

「素振りくらいはしておけよ。何かあった時に身を守れる程度にはなっておけ」

「はーい」

「広瀬さん、今日は泊まっていきますか?」


 美咲の問いに、広瀬は首を横に振る。


「残念だがあんまり時間がないんだ。この後、隊を率いて白の樹海にいかないといけないからな」

「そうですか、お気をつけて」

「おう。美咲たちもこれから物騒になるかもしれないから、色々気を付けるんだぞ」


 そう言って、広瀬はミサキ食堂を後にした。


 ◇◆◇◆◇


 ビリーが虎のゴーレムがいた湖畔に村を作るという発表をしたのはその頃だった。

 最初に小さな村を作り、そこを拡張して観光客を呼べるような町にするのが最終的な目標だと告げられ、多くの人々は首を傾げた。

 虎のゴーレムによって砂浜が拡張された湖畔は確かに美しいし、王都からの距離も半日程度と程よい距離である。しかし、ミストの町にそれだけの体力があるとは思えない。というのが大方の予想だったのだ。

 しかし、ビリーは発表からすぐに人員を募集し始め、大量の資材をミストの町に集積し始めた。

 傭兵組合でも多くの傭兵がこれに参加し、湖畔の開拓ブームが始まろうとしていた。


 ◇◆◇◆◇


 白の樹海に迷宮が現れて10日後のことだった。

 美咲、茜、フェル、ベルは再び傭兵組合の会議室に呼び出された。


「今日、集まって貰ったのは、お前たちに指名依頼を受けてもらいたいからだ」


 そう切り出したゴードンに、フェルが質問をする。


「どんな指名依頼? このメンバーで、この人数ってことは、もしかして迷宮の探索とか?」

「その通りだ。パーシーたちから、迷宮のランクは青程度だという報告が上がって来てな、それならもう少し層を厚くできるだろうという話になったんだ。パーシーたちとは別行動で迷宮に潜って貰いたい」


 ゴードンはそう言うと、依頼の詳細が記載された羊皮紙を会議卓の上に広げた。


「俺は構わないけどさ、ミサキとアカネは商売があるだろ?」


 ベルは美咲と茜の方を見やりながら、そう言った。

 美咲は頷きながら答えた。


「うん、あんまり長期間だとちょっと困るかも。茜ちゃんの方は?」

「私ですか? 雑貨屋は十分に在庫があるから大丈夫ですよー。ケーキは生ものだから、留守にしている間は供給を停止します。あと、食堂のお手伝いは、美咲先輩次第ですね」

「最大一カ月くらいならどうだろうか?」


 窺うようなゴードンに、美咲は少し考えてから首を縦に振る。


「それ位なら大丈夫です」

「そうか。フェルはどうだ?」

「私も大丈夫だよ。でもいいの?」

「何がだ?」

「ベルが迷宮に行っちゃったら、迷宮からの連絡を受けるのに、一手間掛かるじゃない?」


 ミストの町の連絡担当は、ビリーのお膝元である商業組合に詰めている。

 細かな連絡をしたくても、連絡担当経由では、情報伝達速度も、その精度も若干落ちてしまう。

 それを嫌って、わざわざキャシーとベルに連絡係になって貰っていたはずだ。


「それなんだが、ビリー経由で新たな迷宮の存在を国に伝えて貰ったら、女神のスマホが支給されたんだ。俺への連絡は、俺に直接電話をかけてくれればいい」

「私たちからは直接連絡出来ますけど、パーシーさんからの連絡はどうするんですか?」


 美咲がそう尋ねた。別行動で迷宮探索とするとなると、同じタイミングで地上に出て来られるか保証はない。キャシーが美咲たちと一緒に迷宮に潜った場合、パーシーからミストの町への連絡手段がなくなってしまうことを懸念してのことだ。


「パーシーには、砦の女神のスマホを使うように指示する。こちらについても、通信省から許可が出ているんだ」

「分かりました。それなら安心して迷宮に潜れますね」

「それで、全員、受けて貰えるということでいいな? ……よし、それでは出発は明日の朝とする。それまでに準備を整えておいてくれ」


 ゴードンは散会を宣言した。


 ◇◆◇◆◇


 美咲の場合、迷宮探索に必要なものは、一通り、収納魔法でしまいこんであるので、いつでも出発できる状態にあった。

 しかし、茜はこれが初めての迷宮であり、それなりの準備が必要だった。

 傭兵組合を出たところで、美咲は茜とフェルに声を掛けた。


「茜ちゃん、一緒に買い物に行こう……フェル、光の杖って在庫ある?」

「光の杖? うん、あるよ」

「よかった。買いに行くね?」

「分かった、一緒に行こう。茜の準備ってことなら、武器や防具もあった方がよくない?」

「あ、鎧と魔剣なら持ってます」


 魔剣と聞いて、フェルは少し驚いたような顔を見せた。だが、すぐに気を取り直したように続ける。


「武器と防具があるなら後は小物かな」

「そしたら、光の杖と、あと水の魔道具と……それから水筒を買っておこう。で、天幕は私のに入ればいいか」

「寝袋とか、マットみたいのはないんですか?」

「一応地面に毛布を敷くけど? あー、いっそお布団を収納して持って行くとか?」

「ミサキ、それはやめた方がいいよ。布団が湿気を吸っちゃうから……簡易ベッドを持ち込めばいいんだけど、そうすると大きな天幕が必要になるし、明日までに揃えるのは難しいと思うよ」

「駄目ですかー」


 フェルの言葉に、肩を落とす茜。

 美咲とフェルは、そんな茜を伴って魔法協会に足を運んだ。


「はいこれ、光の杖と、水の魔道具でいいんだっけ?」

「他に何か必要なものってあったっけ?」

「……んー、魔道具はこんなものだね。コンロの魔道具は共用のがあるから、改めて買う必要はないし」

「ありがと。茜ちゃん、それじゃ残り、買いに行こうか」


 魔法協会を後にした美咲たちは、北門のそばにある雑貨屋に向かって歩き出した。

 その雑貨屋は、雑貨屋アカネとは異なるラインナップの商品を取り扱っていた。

 雑貨屋アカネが、町の中で使う生活雑貨を扱う店だとすれば、こちらの雑貨屋は、旅人向けの小物をメインに扱う店だった。


「美咲先輩、保存食は買わないんですか?」

「硬いパンと干し肉とかだよ? 美味しいものじゃないんだけど……買ってく?」

「はい! 食べてみたいです」

「飽きたらアイテムボックスにしまっておけばいいか。缶詰も持っておいてね」

「はーい」


 雑貨屋で、革で出来た水袋と固いパンに干し肉、乾燥豆とそれらを煮炊きするための小さな鍋を買う。

 茜は興味深そうに買った物を眺め、確認してから収納魔法に保存した。


「あとは、私の買い物にも付き合ってね」


 美咲はそう言うと、パン屋に向かった。

 この時間だと焼き立てとまではいかないが、それでも当日焼いたばかりのパンの柔らかさは、固いパンとは比べるべくもない。

 収納魔法にしまったままの空いている大きい木皿を取り出し、買い取ったパンを乗せて再び収納魔法にしまい込む。

 パン屋を出た美咲は、その足で八百屋を覗き、何種類か果物を購入し、それも収納魔法にしまい込んだ。


「これでいいかな?」

「美咲先輩、カップスープとかも持って行きましょうよ」

「あれはみんなの前で作るには、ちょっとオーバーテクノロジー過ぎるからねぇ」


 お湯に粉を入れてかき混ぜるだけで出来上がるスープである。この世界にも似たものがないではないが、味は雲泥の差。この世界の常識に照らして、カップスープは異端すぎる。

 皆から見えない厨房で作るであれば問題はないが、迷宮の中であれば、皆の目の前で調理することになる。そのため、美咲はカップスープを持って行くことに対して躊躇を見せた。


「んー、そしたら、完成品を鍋に入れて、それを収納魔法にしまっておけばどうですか?」

「それじゃ一食分にしかならないじゃない」

「うーん、迷宮で美味しい物を食べるのは難しそうですねー」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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