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135.口止め

 傭兵組合の会議室に入ると、疲れた表情のゴードンが皆を出迎えた。

 全員を椅子に座らせると、ゴードンは皆の顔を見回し、


「よく戻ってくれた。白竜と門について、皆が見て感じたことを聞きたい」


 と告げた。


「わたくしは電話で話した通りですわ」


 そう言って肩を竦めるキャシーにゴードンは頷く。


「ではベル。白竜はどのように見えた?」

「山のようにでかい。頭がよさそう。あと強そうかな」

「戦って勝てそうか?」

「無理だろ、あれは。人間がどうこうできる大きさじゃない」


 即答するベル。


「そうか。白竜は、また飛来すると思うか?」


 ゴードンの問いに、今度はしばらく考えてからベルは答えた。


「……ないと思うな。目的は果たしたって感じだったし」

「門はどう見えた?」

「まんま、迷宮の門だね。見た目もそっくりだったし、門も自動で開閉をしていたよ。あれで迷宮の門じゃなかったら詐欺だ」

「なるほど」


 ゴードンは、フェル、美咲、茜の順に、白竜と門について質問を繰り返した。

 茜が、美咲なら白竜に勝てると威勢のいいことを言ったのと、同じく茜が、迷宮の門が分からないと首を傾げたの以外は、全員ベルと同意見だった。


「それで組合長、そんなことを聞くためにわたくしたちを呼んだのですか?」


 ゴードンは首を横に振る。


「いや。聞き取りはしたかったが、まずは口止めだ。今回の件については、俺が許可するまで他言はしないでくれ」


 白竜という巨大な魔物の存在と、新しい迷宮の存在、いずれも下手に口外されれば、大騒ぎになるのは目に見えている。

 それを理解しているのだろう。美咲たちはゴードンの言葉に何も言わずに頷いた。


「それとだ、お前たちには指名依頼を出したいと考えているんだ」


 ゴードンの言葉に、キャシーは重い溜息をつく。

 新しい迷宮の存在を広めず、今後を見据えて調査を行うには、自分たちに色々と依頼せざるを得ないということを理解している表情だった。


「……指名依頼の内容は迷宮探索でしょうか?」

「いや、探索は、パーシー達に任せる。お前らには、砦までの荷運びと連絡役を頼みたいんだ」

「連絡ってことは、目当ては俺たちの女神のスマホか?」

「そうだ。それと、迷宮付近までの物資輸送を頼みたい。これからしばらく、結構な期間、砦で世話になるからな。砦に物資を備蓄しておきたいんだ」

「あの、連絡役ってことは、誰かはミストの町に残るんですか?」


 美咲の問いに、ゴードンは片手で自分の頬を撫でながら答える。


「物資輸送は全員に依頼したい。門側の連絡要員としてキャシーが砦に詰め、ミストの町の連絡要員としてベルには傭兵組合に詰めて貰いたい」

「分かりましたわ」

「町は俺かよ。まあ黙って椅子に座ってるだけで金が稼げるのはありがたいけど」


 キャシーとベルが納得したのを確認し、ゴードンは全員を見回し、頭を下げた。


「これから迷宮関連の依頼は、お前たちに頼むことになる筈だ。済まんがよろしく頼む」


 ◇◆◇◆◇


 物資の輸送は準備が整っていないとの事で、翌日早朝、再び集合することとなった。

 ミサキ食堂に到着すると、茜は大きく背伸びをした。


「美咲先輩、昨日は疲れましたねー」

「そうだね。板の間で雑魚寝だったし、今日は一日寝てようか」

「ですねー」

「おかえりー」


 ドアを開けると、美咲たちをエリーが出迎えた。

 美咲たちを見上げて尻尾をゆらゆらと揺らしている。


「エリーちゃん、ただいまー」


 茜が抱きしめると、エリーは苦しそうにじたばたと暴れる。

 逃げられないように抱きしめて尻尾を撫でていると、エリーは大人しくなって茜にもたれかかった。


「あかねおねーちゃん、くるしい」


 そう言いつつも逃げるのをあきらめたエリーは、茜の腕の中で、唯一自由になる尻尾をパタパタさせる。

 美咲は、エリーの頭を撫でつつ、その狐耳を指でなぞる。


「きゃははは! みさきおねーちゃんくすぐったい!」

「あらら、ごめんね」

「んー、エリーちゃん成分補給完了ー」


 茜が拘束を解くと、エリーは数歩後退り、首をコテンと傾けた。


「おしごとおわり?」

「終わったよ。マリアさんは?」

「ごはん、かいにいったの」


 ミストの町のパン屋は早朝から店を開けている。

 マリアはエリーを置いて、そのパン屋に朝食のパンを買いに出ていたのだ。


「そっか、お留守番できてえらいね」


 美咲が頭を撫でようと手を伸ばすと、エリーはその手をかいくぐって茜の後ろに隠れる。


「みさきおねーちゃんたち、ごはんは?」

「適当になにか作るから一緒に食べよう」

「うん!」


 元気に頷くエリーと手をつなぎ厨房に入った美咲は、作るのに時間が掛からず、軽めで、多少冷めても美味しいものということで、ナポリタンを作ることにした。

 小鍋ふたつにお湯を沸かし、片方でパスタを茹で、もう片方で、レトルトのナポリタンソースを温め始める。

 そうこうする内に、マリアが帰ってきた。


「ただいまー」

「おかえりなさーい」


 エリーがパタパタと玄関に走っていく。

 その後姿を眺めながら、美咲はパスタの固さを確認した。


「んー、ちょっと固めかな?」

「マリアさん、帰ってきましたね。そろそろいいんじゃないんですか?」

「そだね。それじゃ茜ちゃんはパスタソースの準備をお願いね」

「はーい」


 美咲がパスタを皿に取り、茜がレトルトのパスタソースをかけていく。出来上がったらテーブル席に配膳して出来上がりだ。


「ミサキさん、アカネさん、戻られてたんですね」


 厨房を覗いたマリアが声をかけてくる。美咲は配膳をしながら問いかけた。


「うん。ただいま。マリアさん、パスタ作ってあるけど食べる?」

「あ、いただきます。今日は食堂を開きますか?」

「今日、明日はお休みだね。今日は眠いから、これ食べたら、お風呂入って寝るし、明日はまた砦までとんぼ返りなので」

「……大変ですね。また指名依頼なんですか?」

「砦に荷物を運ぶのを頼まれたんですよ」

「ああ、なるほど」


 流通において、収納魔法がどれだけ重要な魔法なのかをよく知るマリアは、それで納得した。


「指名依頼が続けて来るなんて、魔法使いはすごいですね」

「たまたまだよ」


 白竜の秘密を守る為とは言えない美咲は、そう言って苦笑した。


 ◇◆◇◆◇


 茜を先に風呂に入れさせ、美咲は自室に戻ってベッドに転がった。


「あー、疲れたー」


 履物を脱いだ足をバタバタさせて、ベッドの横にしつらえた本棚に片手を伸ばす。

 適当に一冊抜きだすと、パラパラとページをめくる。


「これかぁ……続き、読みたいなぁ」


 この世界に来る前まで読んでいた未完の小説を胸に抱き、ベッドの上に仰向けに転がる。

 美咲のスキルは、美咲が買った物を呼び出すものだ。買った事がないものは呼び出せない。

 つまり、美咲が買ったことのない小説は読むことができない。

 この世界にも本は存在するが、それは手書きの高価な物だ。簡単に手に入るものではないし、手に入るとしても、地球の小説ほど洗練されてはいないし、ましてやSFなど望むべくもない。

 しばらく本を抱いたまま目をつむっていた美咲だったが、


「……お父さんもお兄ちゃんも、ちゃんとご飯食べてるかな」


 疲れが出たのか、美咲はそのまま眠りに落ちていった。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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