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132.対策会議

 飛竜が現れたとの報告が入ったのは、長閑な晩秋の朝のことだった。

 白の樹海の砦から、ミストの町の連絡担当に電話で、


『飛竜を確認した。聞いていたものとは、サイズも形も異なる。数は1!』


 という報告が入ったのだ。

 飛竜という言葉に、ミスト側の連絡担当は色めき立ったが、数が1という報告を受けたことで、落ち着きを取り戻した。


「大きさと形が違うというのはどういう意味だ? また、飛竜はどちらに向かっている?」

『大きさは……馬鹿みたいに大きい。なんであれが飛べるんだか分からないくらいに大きい。形はうまく説明できない。四つ足で翼があって空を飛んでいる……地竜を縦に引き伸ばして、背中に翼をつけたみたいな格好だ。今は白の樹海の上空を旋回している』

「分かった。動きがあったらまた連絡してくれ」


 白の樹海の砦のメンバーは、前回の飛竜襲撃のあと、王都から来たメンバーに入れ替わっている。

 そのため、本物の飛竜を見た者はおらず、報告は今ひとつ要領を得ないものとなっていた。

 ミストの町の連絡担当は、得られた情報を即座にミストの町の代官と傭兵組合に通達するよう、指示を出し、続報を待つことにした。




 報告を受けた傭兵組合では、美咲とフェル、そして、高火力の魔法、インフェルノの使い手たちを招集した。

 同時に、偵察隊を組織し、白の樹海へと向かわせた。


「大きな飛竜が現れた?」


 ゴードンの話を聞いた美咲は、以前の飛竜襲撃の際に現れた、プテラノドンのような飛竜を脳裏に浮かべた。


「形も違うらしい。なんでも、地竜を縦に伸ばして、背中に翼をつけたような形だとか」


 ゴードンの言葉に、茜は首を傾げた。

 茜も地竜なら見たことがある。

 美味しい魔物という記憶が強いが、その形状は、トカゲやワニに似ていた。

 茜は頭の中で、ワニを縦に引き伸ばし、背中に翼を付けてみた。


「……ドラゴンに似てますかね?」

「ドラゴンだと? アカネ、何か知っているのか?」


 茜は西洋の竜を、東洋の龍と区別してドラゴンと呼んでいた。それを翻訳機能がうまく訳したのだろう。ゴードンは竜とドラゴンを聞き分けて反応した。


「いえ、私たちの故郷の物語に出てくる竜の一種ですけど、ドラゴンがそんな形なんですけどね」

「ニホンだったか。それで、どんな奴なんだ?」

「空を飛んで、火を噴いて、光物が大好きで、頭が良くて、大抵悪役ですね。まあ物語ですよ……あ、色は何色なんでしょうか?」

「色が重要なのか?」

「えーと、物語の話ですけど、白いドラゴンは人間の味方だったりすることがあるんですけどね」

「伝令だ! 白の樹海に飛竜の色を問い合わせろ!」


 ゴードンは大声で指示を出す。

 指示を受け、入り口付近に控えていた伝令が走り出す。


「あの、物語、作り話ですからね」

「分かっている。だが、他に情報が一切ないのだ」


 情報が一切ない中、ゴードンとしては、どんな些細な情報もないがしろにする事は出来なかった。


「それで、俺たちは何のために呼ばれたんだ?」


 ベルがゴードンに聞くと、ゴードンは腕組みをして、


「とりあえず、この町の最大火力には情報共有をしておきたくてな……笑えるほど情報が少ないが。それと、方針を定めたら、白の樹海に向かって貰う。偵察隊は情報を砦まで持ち帰る予定だ」

「最大火力と言っても、インフェルノの射程だと、空を飛ぶ魔物相手では厳しいと思うのですけれど」


 キャシーがそう呟くと、フェルが頷いた。


「前の飛竜の時だって、美咲の取っておき以外は、ほとんど届かなかったよね」

「レールガンは……また旅に出るのは嫌だよ」


 レールガンの轟音は隠しようがない。

 誰かが疑問に思えば、美咲は王都に招聘され、そのまま戦力として軟禁されかねない。


「ミサキには済まないが、町を守る為には使えそうな戦力を遊ばせておく余裕はないんだ」


 空を飛ぶ魔物への対策を話し合っていると、伝令が息せき切って戻ってきた。


「……飛竜の色は白だそうです!」

「ご苦労。これは良い報せなのか? アカネとミサキ、意見はあるか?」

「私はドラゴンには詳しくないです」


 と、美咲は首を横に振った。騎竜や竜人が出てくるSFがないではないが、茜の知識ほどバリエーションがあるわけではない。

 茜は人差し指を顎に当てて天井を見上げた。


「対話の可能性も試してみるべきかもしれませんね」

「魔物と対話だと? ドラゴンは人間のように話せるというのか?」

「物語だと、人語を解するドラゴンもいますよ。まあ作り話ですけど」

「もしも意思疎通ができるなら、無理な戦いを挑む必要はないかもしれんな」

「それで、どうやって意思疎通ができるかを確かめるの?」


 フェルの質問に、ゴードンは考え込んだ。


「……接近が出来るのなら、ここにいる皆で囲んで、対話が出来るか確かめ、対話ができなかったら即座に駆除に移行すべきか」

「正気ですの?」


 呆れたような口調でキャシー。


「せめて、本気かと聞いてくれ。人的被害を最小に押さえるには、それが一番だという話だ」

「それで返り討ちにあったら、ミストの町の最大火力群の喪失ですわね」

「俺はそのドラゴンってのを近くで見てみたいけどな」


 ベルは楽しそうに笑いながらそう言った。


「あの、質問なんですけど」


 茜が右手を挙げた。


「なんだ?」

「ドラゴンって、迷宮にはいないんですか?」

「迷宮産の魔物については、ミストには殆ど情報がないな。確かに迷宮の魔物は、特殊なものが多いと聞くが。王都の傭兵組合に問い合わせてみよう」


 ゴードンは伝令に、王都への問い合わせを命じた。

 迷宮に、似た魔物が存在しないか。

 存在するとしたら、どのように倒しているのか。

 戦う際に注意すべき点はないか。

 もしも迷宮にドラゴンに似た魔物がおり、倒すための手段が確立されているのであれば、危険度は大きく低下する。


「あの、私も質問です」


 美咲が手を挙げた。


「なんだ?」

「王都に連絡するのなら、対魔物部隊の派遣を依頼できないんですか?」

「それは既にビリーがしている。だが、対魔物部隊の対空攻撃力はそれほど高くない」

「それと、ここにいるメンバーでドラゴンの駆除に行った場合、ドラゴンが飛んでミストを襲ったりしたら、最大火力のいないミストは落ちちゃうんじゃないでしょうか?」

「すれ違うようなら、ミサキのレールガンの出番だ」

「有無を言わさず落としちゃうわけですね」


 対話の可能性はどこに行ったのだろう、と美咲は首を傾げる。


「相手は魔物だからな。ミストの町防衛が最優先だ。それに町から離れれば、レールガンを使っても問題はあるまい」


 ◇◆◇◆◇


 王都から、迷宮に似た魔物がいないか等の質問の答えが返ってきた。

 迷宮には黒竜という、外見の特徴がよく似た魔物が存在した。

 だが、その倒し方は、迷宮の天井の低いところで魔法攻撃を行うというもので、戦い方の参考にはならなかった。


「迷宮のが黒竜なら、今回の相手は白竜ってことになるのかな?」


 美咲の呟きで、暫定名称が決定した。


「それで、どういう作戦で行くの?」


 フェルの質問に、ゴードンは指を折って数えながら答えた。


「ひとつ、白の樹海の砦まで、荷馬車で移動する。移動中に接敵した場合は、ミサキのレールガンでこれを撃ち落とす。

 ふたつ、砦に着いたら、偵察隊に白竜の居場所と、特徴を確認する。

 三つ、白竜を囲み、対話可否を確認する。対話可能な場合、敵意の有無を確認し、敵意なしと判断した場合は撤退。

 四つ、敵意あり、または対話不可能な場合は速やかに駆除をする」


 どうだ? と、片方の眉をあげて皆を見回す。


「組合長はどうするんだい?」


 ベルに問われ、ゴードンは肩を竦める。


「ここで留守番だな。万が一、白竜がこっちに来た場合に備えにゃならん」

「もしも、到着時点で白竜が行方不明になっていたらどうするんですの?」

「お前ら、女神のスマホを持ってるって聞いてるぞ? 動きがあったら、そっちに連絡するように指示する。番号を教えてくれ」

「なんでそれを……まあいいですわ。それではわたくしの番号を代表でお伝えしておきますわ」

「助かる。それでだ、白竜がミストの町以外のどこかへ飛んでいくなら、お前らは戻ってきて構わない。というか、むしろ急いで戻ってきてくれ。迂回してミストの町を急襲でもされたら堪らんからな」

「白竜の駆除に失敗して逃げられた場合も同じですわね?」

「ああ」


 ゴードンは短く答えた。

 それを見ていた茜が口を開く。


「白竜が逃げた場合と、戦って負けた場合は、可能ならミストに戻るで、無理なら最低でも連絡入れた方がいいですよね? ミストの町の連絡担当の番号、教えてください」

「ああ、あとで教える。それとだな、戦って勝った場合も負けた場合も連絡を頼む。とにかく状況の変化があったら、連絡を入れるようにしてくれ」

「美咲先輩、マリアさんには何も言ってきてませんよね?」

「そうだね。一度戻ってもいいですか?」

「済まんが、そろそろ砦に移動を開始してほしい。伝言があれば伝えるようにするが?」

「それじゃ、指名依頼で白の樹海の方に行くから、帰ってくるまで、お店は御休みにするって伝えてください」

「ああ、分かった」


 ゴードンは、キャシーと番号の交換を行うと、立ち上がって閉会を宣言した。


「それでは、これで伝えることは全て伝えた。これより砦に向けて出発して貰う。よろしく頼む」


いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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