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125.アーティファクトの鑑定結果

 小川達がアーティファクトを購入すると、美咲は全員と番号を交換した。


「微妙に使い方が違うんだよね」


 電話番号の登録機能の使い方が分からなかったため、番号は大学ノートに書き記しての交換となった。

 スマホに似てはいるものの、微妙に異なる仕様のようである。

 入力方法はすぐに分かったのだが、肝心の電話番号を入力する場所がなかったのだ。

 試しにと、小川の名前を入力してみたが、その過程で電話番号は聞かれなかった。

 アプリストアらしきアイコンも購入方法が分からず、今のところ、コンパスのアイコンのアプリがある事しか確認ができていない。

 茜の鑑定で、もう少し詳細が分かるのではないかと小川は推測しているが、こればかりは実際に鑑定をして貰うまでは根拠のない憶測にすぎない。

 皆がアーティファクトを購入した翌日の昼前くらいの時間帯に、美咲たちは護衛の依頼を受けてミストの町に向けて出発した。

 なお、アンナはレポートの見直しが発生したため、まだミストの町には戻れない。


「今回は迷宮の経験も積めましたし、想像以上の収入と面白い物を手に入れましたから、大成功ですわね」


 キャシーがそう呟くと、ベルは大きく頷いた。


「あのアーティファクト、きっと、これから手に入らなくなるぜ」

「みんなは予備は買ったの?」


 美咲が尋ねるとキャシーだけ頷いた。


「わたくしは予備をふたつ購入しましたわ」

「合計三つってことは、迷宮の稼ぎの大半注ぎ込んじゃったの?」

「このアーティファクトには、それだけの価値がありますわ。お父様にふたつ渡すつもりですのよ」

「……小川さんの発表まで待ってあげてね。ところで前から思ってたんだけど、キャシーっていい所のお嬢さんだったり?」


 美咲の言葉を聞いてフェルが噴き出した。


「随分今更だね。キャシーの家名はミストだよ」

「ミスト?」

「ミストの町の代官がキャシーのお父さんって言えば分かるかな?」

「え、と、ビリーさん?」


 美咲が唖然とした表情でキャシーの顔を見詰めると、キャシーは肩を竦めた。


「父からミサキさんの事とか、エリーちゃんのお話は聞いてましてよ。ルーシーが肖像画を描いてもらったと喜んでましたわ」

「うあ、知らなかった。教えてくれればよかったのに」

「自分から言うことでもないでしょう? それにわたくしは傭兵になると決めた時から、家名は名乗らないように心がけてますの」

「なんで傭兵なんかに?」

「わたくしに魔法使いの才能があったからですわ」


 ◇◆◇◆◇


 途中、はぐれ白狼との遭遇が一度あったが、美咲の魔素のラインと、フェルの炎槍の組合せであっさり撃退し、一行はミストの町に帰ってきた。


「予定よりも大分早く帰ってきちゃったね」

「遅いよりはいいでしょ。ミサキ、明日プリン食べに行っていい?」

「うん、用意しておくよ」


 傭兵組合で護衛の達成金を貰い、今日は解散となった。

 王都を出たのが昼前だったので、この世界基準では深夜と言ってもいい時間帯だ。


「もう寝ちゃってるよね」


 ミサキ食堂の灯りは消えていた。

 美咲は鍵を開けてこっそり店内に入ると、洗面所で歯を磨き、自室に戻った。


「んー、みんなを起こしちゃうといけないから、お風呂は明日入ろう」


 ベッドに横になった美咲は、アーティファクトを取り出すと、電話帳と思しきアプリを起動した。


「んー、人の追加はこれで出来そうなんだけど、電話番号を登録するところがないんだよねぇ……」


 美咲はアーティファクトの画面を触りながら呟いた。

 名簿のような物はあるのだ。

 ただし、電話番号を登録できる場所がなかった。

 色々試した時に、小川の名前だけは登録はしたので、ポツンと小川の名前が表示されている。

 名前に触れると詳細画面が開く。

 ふと思いついて、名前に触れたまま、指を横に動かしてみると、緑の通話ボタンが現れた。


「電話番号、入れられるってことだよね。取扱説明書がないと、これ難しいよ……ふわぁ」


 しばらく色々と操作を試していた美咲だったが、アーティファクトを握りしめたまま寝落ちしていった。



 翌朝、アーティファクトからのコール音で美咲は目を覚ました。

 受信を選択すると、小川の声が聞こえた。


『美咲ちゃん、おはよう。もうミストの町だよね?』

「小川さん? あ、もう朝なんですね……」

『ああ、ごめん、もしかしたらまだ寝てたかな? 日の出から結構時間が経っているよ。それにしても本当に通話できるとは。この世界が大きく変化しかねないね』

「まあ、連絡は便利になるでしょうね」

『後は通話限界距離が気になるね。これは色々確かめないと』

「頑張ってください……この電話、呼び出したら増えるんですかね?」

『ん? 増えるだろうけど、同じ電話番号のアーティファクトが複数台ってことになるから、通話では不具合が出そうだね』

「あー、それはそうですね。増やせたら便利そうだと思ったんですけど」

『まあ、後で試してみなよ。もしも違う番号のが出てきたら教えてほしいな』

「分かりました」

『それじゃこれで切るよ。色々試したい事ができたからね』

「はい、それではまた」


 通話を終了すると。美咲はベッドの上で猫のように伸びをした。

 そして、着替えを持って、一階に下りようと部屋のドアを開けたところで、ドアの前にいた茜とばったり出くわした。


「美咲先輩、帰ってたんですね。お帰りなさい。部屋から話し声が聞こえたから何かと思いました」

「うん、ただいま……話し声はね、これ」


 美咲は収納魔法から茜用として購入しておいたアーティファクトを取り出した。


「スマホですか?」

「んー、お風呂入ってくるから、鑑定で調べておいて」


 茜にアーティファクトを押し付けると、美咲は若干寝ぼけた表情で階下に降りて行った。


「鑑定で? メーカーとか書いてないんだ。えーと……え?」


 茜は鑑定でアーティファクトの使い方を理解し、起動した。

 そして、一階に降りてエリーの写真を撮影し、ついで電話を掛けようとして、電話番号が分からないことに気付いて、手を止めた。


「もう一台あると面白いんだけどな……でも、これがアーティファクトですかー」


 茜は厨房に入り、マリアに美咲が帰っていることを告げてから、美咲の分の朝食の準備を始めた。


 ◇◆◇◆◇


 風呂から上がった美咲は、ドライヤーの魔道具で髪を乾かしつつ、茜の鑑定の結果を聞いていた。


「まず、名前ですけど、女神のスマートフォンでした」

「女神様のスマホ……面白い名前だね」

「ですね。それで機能なんですけど、カメラ、写真の閲覧、スケジュール帳、電話帳、通話、アプリストアです」

「あー、大体予想通りだね。でも電話帳とアプリストアの使い方が分からないんだ」

「そうなんですか? 電話帳はですね、こうやって使うみたいですよ」


 茜は美咲に画面を見せながら操作をしてみせた。


「新規登録選択して、ここを横にスライドして、出てきた画面が入力画面になるんです」

「あー、そんな簡単な方法だったんだね」

「それとアプリストアですけど、これはポイント制です」

「ポイント?」

「女神様に祈りを捧げた回数分ポイントが貯まる仕組みなんだそうですけど」

「……真面目に言ってる?」

「はい」


 美咲は肩を落とした。


「そんなことしなくてもお祈りくらいするのに」

「ですよねー。あ、美咲先輩、ドライヤー貸してください」


 ドライヤーを受け取った茜は、美咲の後ろに立って、その後頭部から肩に掛けて、髪を乾かし始めた。


「ありがと。あ、そのアーティファクト、茜ちゃんにあげるから」

「いいんですか? ありがとうございます。一台じゃカメラにしかなりませんからねー」

「違うよ。みんな同じアーティファクト持ってるし。小川さん達の分もあるから。今朝試したら王都と電話できたよ」

「電話って……え? 王都と話せたんですか? 凄いじゃないですか」

「後でみんなの電話番号のメモを渡すから」

「はい。あ、乾かし終わりましたよ。朝食の準備も出来てますよ」

「うん、ありがとう。それじゃ、これがみんなの番号ね。私もみんなの番号登録したいから、後で戻してね」


 美咲は収納魔法から取り出したメモを茜に手渡した。


「はーい、それじゃ先に登録しちゃいますね」


 茜はそう言うと、食堂のテーブル席で、美咲の対面に座り、全員分の情報を登録し始めた。


「それにしても遠距離で連絡できるアーティファクトですか。凄いですね」

「うん。研究したら小川さんが発表するって。割とありふれたアーティファクトみたいだから、この世界の通信革命になるかもね。それじゃ、いただきます」


 美咲は電話帳を登録する茜を眺めながら朝食を食べ始める。


「……そだ、茜ちゃん、後で小川さんに電話してあげて」

「おじさんにですか? なんでです?」


 キョトンとした表情で首を傾げる茜。


「そのスマホの鑑定結果と、電話帳の登録方法を教えてあげてほしいんだ」

「あー、電話帳ないと不便ですからねー。分かりましたー」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] たかが代官に町の名前がつくとは…本物の領主様はどうなるんだろう?
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