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123.迷宮・第二階層・夜番

 見張りと言っても、安全地帯の中のことである。

 地上で行うのと異なり、灯りのそばで、魔物が近付いて来ないかを見ているだけである。

 美咲とフェルは、時折周囲を見回しながら、取り留めもない会話をしていた。


「そう言えばフェル、迷宮の中は魔素が濃いみたいなこと言ってなかったっけ?」

「ん? 外よりは濃いね。女神様が作った世界だから、色々違いがあるんじゃない? 空だってあんなだし」


 空を見上げるフェル。その視線の先には美しい星空が広がっていた。


「空かぁ……あ、そう言えば遅番との交代のタイミングってどうやって計るの?」

「今日のところはこれかな」


 フェルは足元の線香を指差した。


「これ、燃え尽きたら交代ね。星を見て時間を計るやり方もあるけど、天気次第だからね」

「なるほど。それじゃ」

「……静かに!」


 フェルが囁く。

 しばらく静かにしているとがさがさ草をかき分けるような音が聞こえてきた。


「コボルトかな? 数は1か2。接近するまで待とう」

「みんなを起こさないの?」

「手に負えなければ起こすけど、2体くらいなら接近してきた所を魔法で倒せば十分でしょ?」


 フェルは光の杖を起動し、安全地帯を出ないように気を付けながら、足音が聞こえた方に近付いていく。

 すると、闇の中に煌めく物が見えた。


「いた……一匹かな? 安全地帯の性能を見るために、敢えて接近させてみよう」

「大丈夫?」

「ミサキがいれば、大抵の魔物は怖くないよ」


 次の瞬間、コボルトが安全地帯に駆け寄り、そのまま見えない壁にぶつかって弾き返された。

 コボルトはその場で頭を振り、再び美咲たちの方に向かって走り出した。


「ミサキ、行くよ。氷槍!」

「え? ひょ、氷槍」


 フェルの放った氷槍がコボルトを貫く。

 コボルトが光の粒と化し、美咲の氷槍はそのまま暗闇に消えていった。


「一応周囲を警戒してっと」


 フェルは小走りにコボルトの消えた辺りに向かい、魔石と金色の何かを拾って帰ってくる。


「なんか落ちてたよ」

「金色だったよね?」

「これなんだけどね。ナイフ? 短剣かな?」


 フェルが差し出したのは金色の短剣だった。


「珍しいね。値打ち物かな?」

「こんな浅い層でそれはないと思うけど、明日道具屋で見て貰おう」


 ◇◆◇◆◇


 線香が燃え尽きた所でフェルはアンナとベルを起こしに行った。

 交代要員が来るまではひとりになるからと、美咲は光の杖を掲げて安全地帯の4本の石柱の間を歩き回った。


「ミサキ、何してるんだ?」


 ベルが眠そうに目を擦りながら天幕から出てきた。


「一応、警戒。一回だけコボルトが襲ってきたよ」


 美咲が囁くと、ベルは頷いた。


「ん、フェルに聞いた。警戒は引き継ぐから、美咲たちはもう寝なよ」

「そうする。光の杖、渡しとくね」

「ん……アンナは……あ、起きてきたか」


 アンナとベルが出てきた天幕に入ると、フェルがマントを着て横になっていた。


「ミサキ、お休み」

「うん、お休みなさい」


 美咲もマントを収納魔法から取り出して毛布のように包まると、フェルの隣で丸くなった。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝美咲は、朝食は自分が作ると立候補した。


「ミサキ食堂とはいかないけど、それなりの食料は準備してるから」


 美咲は収納魔法から缶詰と焼き締めていないパンを取り出した。


「甘いのが好きな人はサンマの蒲焼、塩味が濃い目のが好きな人はツナ缶がお薦めかな」


 水の魔道具から鍋に水を注ぎ、コンロの魔道具で湯を沸かす。

 鍋にはティーバッグを放り込んで人数分の紅茶を一気に作る。


「ミサキ、そのパン大丈夫なの?」


 フェルが不安気に聞いてくるが、美咲はその口元にパンを押し当てた。


「私の収納魔法は、時間が停まってるから焼きたてのままだよ」


 パンを一口齧ったフェルは、その柔らかさに目をみはった。


「……温かい……え? 何、時間が停まるって? そう言えば、前にお湯が冷めないとか言ってたっけ?」

「とりあえず朝ご飯の準備が出来たからみんな食べよう」


 各自に缶詰とパン、紅茶が行き渡ったのを確認し、キャシーが頷く。


「……言いたいことは色々あると思うけど、頂きましょう。感謝を」

「「「感謝を」」」


 安全地帯に紅茶の香りが漂う。


「うわ、ほんとに焼き立てみたいだな」


 パンを手に取ったベルが、驚いたような表情でパンをちぎって口に運ぶ。


「まだ温かいでしょ。みんなは缶詰は開け方知ってるよね?」


 ミストの町の雑貨屋アカネで缶詰は売られていたため、全員、缶詰には馴染みがあった。

 もっとも、みんな売れ筋のデザート系の缶詰を食べた経験があるだけで、こうしたおかず系の缶詰を食べるのは初めてのようだ。皆、缶詰の味の完成度の高さに目を丸くしている。


「……紅茶、おかわり」


 アンナからのリクエストで、美咲は鍋からカップに紅茶を注いだ。


「ありがとう」

「どういたしまして。みんなも紅茶、まだあるからね」

「それではいただきますわ」

「はーい……どうぞー。あ、パンも足りなかったらまだ買い置きあるから」

「俺、パンお代わり」

「ミサキ、私も」


 美咲は皿に盛った状態のパンを取り出し、中央に置いた。


「はいどうぞ。全部食べちゃっていいからね」


 ◇◆◇◆◇


 食事が終わり、天幕を片付けると、アンナとフェルが美咲に詰め寄った。


「……ミサキの収納魔法はおかしい」

「なんで時間が停まったりするのか、説明してほしいんだけど?」


 ふたりを、まあまあと宥めながら、美咲は以前分析した収納魔法のイメージの違いを説明した。


「最初に収納魔法を使った時のイメージがね、時空間連続体の一コマを切り取るって物だったんだよね」

「ジクウ? 何?」

「待ってアンナ、ミサキがこういう説明するときは、大抵理解できないことを言うよ」

「時間と空間が連続した、要はこの世界そのものね。その一コマの中では時間は経過しないから入れた物の時間が停止するんだ」

「ほら……」

「……時間と空間?」


 アンナとベルは首を傾げている。

 美咲は時空間連続体の概念について、知りうる限りのことを説明したが、ふたりには理解して貰えなかった。

 結果、美咲の収納魔法は小川に調べて貰うべきという結論に至った。


「私はどっちでもいいんだけどね」

「……魔法学の発展のために貢献すべき」

「ミサキの収納魔法については、私もそう思うよ。魔法協会に報告しようよ」

「まあ、小川さんが暇そうにしてたらね」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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