表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/258

117.迷宮・第二階層・アーティファクト

 第二階層は岩山に囲まれた草原と林のフロアだった。

 空には太陽らしき物が見えているが、本当の空ではない。

 先行して階段を降りたベルは周囲を見回して声をあげる。


「見える範囲に敵はいない!」


 だがこの声は誰にも届かなかった。

 第一階層と第二階層は、物理的には接続していないのだ。

 すぐにフェルが姿を現す。フェルはベルの後ろまで走り、辺りを警戒する。


「敵は?」

「見える範囲にはいないぞ。さっきそう……そっか、下で声をあげても上の階には届かないのか……よし、全員下りてきたな」


 一行は周囲を警戒しながら階段から少し離れる。

 間違えて階段に足を掛ければ第一階層に戻されてしまうためだ。


「それでは探索を始めますわよ。ベルとわたくしが先行します。アンナは後方の警戒、フェルとミサキさんは魔法の準備をお願いしますわ」


 キャシーの指示に従い、隊列を組み直す。

 フェルは周囲を見回し、目を擦った。


「なんか、外より魔素が濃いみたい」

「それって悪いこと?」


 呟いたフェルに問い掛ける美咲。

 フェルは首を横に振った。


「悪いことじゃないよ。むしろ魔法の威力と射程距離は上がるかな?」

「ふうん。それじゃ、威力調整、気を付けないとね」


 フェルと美咲がそんなことを話していると、キャシーが振り向いて、指示を出した。


「みなさん、人工物か、赤い石があったら教えてくださいませ」


 このフロア以降、階段や宝箱と言ったオブジェクトはパーティ毎にランダムに配置される。

 地図は地形を知る上では役立つが、それ以上の物ではない。

 アーティファクトを入手し、次のフロアに進むにはフロア内を探索しなければならないのだ。

 アーティファクトは箱や建造物など人工物に隠されているとされている。またフロア間を繋ぐ階段も人工物である。従って、まず探すべきは何らかの人工物である。もっとも、人工物と言ってもそう見えるだけで、実際に人間が作った物ではない。そういう観点で言えば、迷宮のすべてのオブジェクトは女神様が作ったということになる。

 また、赤い石に囲まれたエリアには魔物が入れない。そこは迷宮で寝泊まりするうえで貴重な安全地帯である。暗くなれば発見が困難となる為、早い内に発見しておく必要がある。


 一行は魔物を警戒しつつ、人工物と赤い石を探して歩き出した。


「……キャシー、現在位置が分かった。林と丘の配置から、地図のこの辺だ」

「なるほど、確かに。降りてきた階段を書き加えてくださいまし」


 ベルが地図上の現在位置を指で示すと、キャシーは地図と地形を見比べ、そう言った。

 鉛筆を取り出したベルは、地図に降りてきた階段を書き加える。


「この位置ですと、あの丘に登って周りを確認すれば、かなり広範囲が見渡せますわね」

「だな。行ってみるか。それとも俺が偵察してくるか?」

「全員で行きましょう。丘の向こうに魔物がいたら大変ですから」

「そか、そうだな」


 キャシーとベルは遭遇戦に備えて剣を抜き、移動を開始する。

 小高い丘の上に移動した美咲達は、そこで一辺50センチ程の箱を発見した。


「ついてますわね」

「ねえフェル、これがアーティファクト?」

「違うよミサキ、アーティファクトの入った宝箱。物が何なのかは開けてみてのお楽しみ」

「宝箱っていうか、ただの木箱に見えるんだけど」


 丘の上にあったのは、どこからどうみても、ただの木の箱だった。

 宝箱のような構造ではなく、木の板が蓋として乗せられている。

 ベルはゆっくりと箱に近付くと、剣先で箱の蓋をつつく。木の蓋は大した抵抗もなく動いた。


「釘で打ち付けられてる様子もないな……中身を確認する」


 そのまま剣先で木の蓋をずらし、ベルは中を覗き込んだ。

 そして、そのまま、木の蓋をどけると、木箱の中に手を突っ込んだ。

 箱から取り出されたのは黒っぽくて光沢のある手のひらサイズの長方形の板だった。

 ベルはそれを裏返してみる。裏面は一部に黒っぽい光沢のある部分が存在するが、大半は白っぽい金属で覆われていた。


「何でしょうか?」


 板を受け取り、キャシーがあちこち確認する。


「……私にも見せて」


 板はアンナの手に渡った。


「見せて見せて」


 フェルが覗き込む。

 美咲はそれを見て呆然としていた。

 美咲の知識での中で、それに最も近い物を挙げるとすれば、スマートフォンが該当した。


「えーと、ちょっと見せて」


 アーティファクトを受け取り、電源ボタンらしき部分を長押しする。

 ポーン、という音と共に黒い面にカラフルなアイコンが表示され、クルクルと回り出した。


「なに? なんですの?」

「音が鳴った! なんか絵が映った! 絵が動いてる!」


 キャシーとベルが驚いて覗いてくる。

 美咲は、クルクルと回っているアイコンをタップしたり、スワイプしたりしてみるが反応がない。


「ミサキ、何をしたの?」


 分かりにくいが、アンナが少し興奮気味に聞いてくる。


「えっと、ここのをゆっくり5数える間押したら、えーと……なんか動き出した」


 美咲から板を受けとり、アンナは美咲に教えて貰った操作を行った。


「……変化なし」

「ちょっと貸して」


 アンナから受け取り、再度電源らしきボタンを10秒ほど長押ししてみる。

 すると、ふっと、画面が暗転した。


「ゆっくり10数える間押したら止まったよ」

「凄いなミサキ。アーティファクトに詳しいのか?」


 停止したアーティファクトをベルに手渡すと、ベルは感心したようにそう言った。

 美咲は首を横に振る。


「そんなことはないけど、何となく? それに結局、何に使えるかわからないし」

「遠見の鏡とか、そういう系統のアーティファクトかも知れませんわね……この後ですが、どうしましょうか?」


 キャシーが全員を集めて相談をする。


「アーティファクト1つ見付けられたら一旦戻るのがセオリーだって聞いたけど」


 フェルの言葉にキャシーは頷く。


「ですけど、まだ入ったばかりです。どうしたものでしょうか?」

「安全地帯を探しておくのはどうだ?」

「……魔物も見てない」


 ベルとアンナはもう少し探索をしたいようだ。

 キャシーは美咲を見詰めた。


「ミサキさんはどうしたいですの?」

「え、私? そうだね。安全地帯の探索をして、暗くなる前に戻るって言うのでどう?」

「探索継続3名。それでは、暗くなる前に戻るという前提で探索を続けましょう」


 その決定を聞き、ベルは、アーティファクトが入っていた箱を引っ繰り返して上に乗り、周辺を見渡した。

 その横で、アンナ、フェルも四方を観察する。


「小さな人型の魔物発見……犬顔だ」


 ベルが魔物の方を指差す。


「小さいね。コボルトだっけ? 攻撃する?」

「こちらには気付いてないようですわね。安全地帯の探索を優先しましょう」


 フェルの問いに、キャシーは首を横に振る。


「だな。安全地帯と、出来れば降りる階段の位置を発見しておきたいよな……でもここからじゃ無理そうだ、林の方に行ってみるか?」

「……確かにここからだと林の向こうは見えませんわね。行ってみましょう」

「うし、それじゃ、これは預かっておくぜ」


 ベルはアーティファクトを箱にしまい、そのまま収納魔法で格納して、林に向かって歩き出した。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バナー"
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ