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116.迷宮・第一階層

 宿を取り、連れ立って町を歩く。

 迷宮を訪れた旅人向けの土産物屋や、食堂、宿屋等が軒を並べている。

 傭兵が多いからだろう、大通り沿いに鍛冶屋も店を出していた。


「何というか、雑然とした町ですわね」

「俺はこういう町並み、結構好きだぜ」

「雑然としてる。けど嫌いじゃない」


 キャシー、ベル、アンナが先導する形で5人は町を回っていく。

 アンナが土産物屋に突貫しそうになるのをキャシーが留めたり、ベルが珍しい食べ物に釣られそうになるのをアンナが留めたりと、中々に騒がしい。


「アンナ、マントは持ってきてるっけ?」


 ベルに聞かれてアンナは人差し指を顎に当てて考え込んだ。


「……持ってきてる」

「そっか、川ネズミの革を使ったマントが売ってたから、どうかと思ったんだけどね」

「間に合ってる」

「防水性が高くて暖かいらしいよ」

「そんなに良ければベルが買うといい」

「あはは、興味はあるけど先立つものがね……」


 あちこちの店を冷やかしながら、一通り眺めて満足した一行は、迷宮の地図を購入して宿に戻った。


 ◇◆◇◆◇


「ミサキ、回復魔法の練習」


 美咲が部屋に戻ろうとすると、アンナが声を掛けてきた。


「あ、やるんだ。どこでやろうか?」

「部屋の中だと狭いかも。ここで」

「廊下で? 怪しい人だね。でも仕方ないか」

「ん。それじゃ、」


 アンナは針を取り出し、左手の薬指の先に刺した。

 小さくぷくりと血が出てくる。


「えーと……異物排除、組織を構成する細胞の増殖、その修復と血管類の修復、皮下脂肪、表皮細胞の修復……回復」

「……一回で成功するなんてズルい」

「あ、成功した? よかった。これで血を拭いて」


 美咲はハンカチを取り出してアンナの指先の血をぬぐった。

 そこには傷跡は残っていなかった。


「……ニホン人の知識とイメージはズルい」

「うん、まあ、それだけ沢山勉強してきたからね」


 小学校、中学校、高校と基礎的な部分から丁寧に積み上げてきている。

 それに加え、美咲にはSFで科学的な考察や知識を得る機会があった。

 今があるのはそれらの積み上げがあってこそだった。


「勉強してきた?」

「そ、沢山本を読んで、いっぱい試験を受けて、分からないことは調べて」

「……わかった。ズルいと言ったのは訂正する。羨ましい」

「アンナも勉強したんでしょ?」

「まだほんの入り口だってオガワ先生は言ってた」


 ◇◆◇◆◇


 翌朝、一行は、宿を出て迷宮の入り口に向かった。

 迷宮の入り口の前にはそこそこ長い列が出来ていた。


「あちゃー、出遅れたかな」


 列を見てベルがボヤく。


「ボヤいてないで、わたくしたちも並びますわよ」


 キャシーはそう言いながら列の最後尾に並んだ。

 美咲達もキャシーに続いた。


「門に入るのはパーティ毎だったよね」


 美咲の問いにフェルが頷いた。


「マリアさんの話だと、40数えるくらいの間隔で門が開閉して、その間に入った人はパーティって見なされるだったかな?」

「……マリアさん?」


 アンナは不思議そうな表情で首を傾げた。


「ああ、そっか、アンナはマリアさんを知らないんだっけ。ミサキ食堂の店員さんで、昔、迷宮探索をしてた傭兵なんだ。色々と迷宮の話を聞かせてくれてね」

「……ミストの町も変わったのね」

「言うほど変わってないと思うけどね。マリアさんとエリーちゃんの詳細についてはミサキに聞いてね」

「……エリーちゃん?」

「ああ、はいはい。まずマリアさんはうちに住込みで働いてもらってるのね。それでエリーちゃんはマリアさんの娘さんでまだ小さいのに絵の天才。えーと狐の獣人さんね」


 ◇◆◇◆◇


 列はそこそこ長かったものの、ほぼ40秒ごとにパーティ単位で門の中に入っていくため、待ち時間はそれほど長くはなかった。

 列が短くなるにつれ、壁に隠れていた門が見えてくる。

 石造りの重厚そうな門は、40秒に一度、10秒ほどの時間をかけて開き、20秒開いた状態を維持し、10秒ほど時間をかけて閉じるという動きを繰り返していた。

 門を誰かが操作している様子はない。

 ただ静かに開閉を繰り返しているだけだった。

 門の前には門番らしき男が立っており、パーティ単位で門に入るように促している。


「次ですわね。ベル、地図の準備はよろしくて?」

「お、おう。キャシーは光の杖の準備な」

「……ふたりとも落ち着いて」

「ねえフェル、最初は迷路だったよね。敵は出ないって話だけど、武器は準備した方がいいかな?」

「そうだね。だけど抜刀は迷宮に入ってからね」


 一応、それなりに準備をしてきた筈だが、いよいよ迷宮に入るという段になって、色々と不安になってきたらしい。

 門を前にして、不足はないかとおろおろし始めている。

 そんな一行の動揺を余所に、門は静かに閉じ、また開く。


「次のパーティ、中へ」

「は、はい! みんな、行きますわよ」

「おう。アンナ、フェル、ミサキ、行くぞ」


 美咲達は門を潜り、迷宮最初の、迷路の階層に足を踏み入れた。

 キャシーは光の杖を起動し、杖の先端に光の珠を浮かべる。

 その灯りのもと、ベルは町で入手した地図を開き、最短距離を辿れるように準備を始める。

 アンナとフェルはいつでも剣を抜けるように剣の柄に手を掛ける。

 美咲は、その後ろについて、光の杖を起動する。


「それでは行きますわよ」


 キャシーの声に皆が頷いた。

 迷宮一階は迷路の階層だ。

 ただし、既に多くの傭兵により迷宮は踏破され、地図が出回っている。

 ベルが持っているのがその地図である。

 最短で階段まで進むルートはチェック済みで、地図通りに進めば迷うことなく第二階層まで進むことができる。


「次の角を右に」

「右、ですわね……異常ありませんわ」


 一行は、ゆっくりと迷路を進んでいった。

 そして、前方に下に降りる階段を発見した。


「あった。地図通りだね。俺が先に降りる。ここからは敵が出てくるから武器はすぐに使えるようにしておいて」

「わたくしは殿を務めます。フェルは先に降りて周辺に敵がいたら魔法でこれを駆除してくださいませ」

「了解」

「フェルが降りたら、アンナ、ミサキさん、わたくしの順序で降ります」

「それじゃ行くよ」


 ベルが階段に足を掛けた。

 数歩降りたところでベルの姿がかき消えた。

 分かりやすく階段の形をしてはいるが、実態は転移の魔道具のような物なのだ。

 ベルに続き、フェル、アンナ、美咲が階段を降り、それを確認してからキャシーが階段を降りた。

 キャシーの姿が消えるのと同時に第一階層は暗闇に包まれた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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