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115.たい焼き

 美咲達がリビングに通されてから、しばらくするとアンナと小川が魔法協会から帰ってきた。

 リビングで寛ぐフェルたちを見て、アンナは目を丸くした。


「みんな、何しに王都に?」

「明日から青の迷宮に挑戦しようと思ってね」


 フェルが代表で返事をする。

 アンナは、しばらく考え、不思議そうな表情で問い掛けた。


「……どうして?」

「迷宮に挑戦する理由? 私も美咲も黄色になったし、そろそろ迷宮に挑戦してもいいかなって思って」

「ベルとキャシーは?」

「俺は傭兵として一度は潜っておきたくてね」

「出来ることの幅を増やしておきたいと思いましたの。青の迷宮なら、わたくしたちでも潜れるでしょうから」


 キャシーの言葉に、アンナは首を傾げた。


「ミサキも潜るの?」

「あー、うん。迷宮ってものについて知っておきたいんだよね。将来、白の迷宮に潜りたいって思うかもしれないし」

「そう……なら、日程を少しずらすことはできる?」


 アンナの問いに、フェルは頷いた。


「それは大丈夫だけど、なんで?」

「回復魔法のレポート、もう少しで合格を貰えそうなの。そうしたら私も行きたい」

「そっか、もう少しってどれくらい?」

「オガワ先生に聞かないと分からない。回復魔法自体は習得した」

「そうだね。アンナ君の回復魔法は十分なレベルに達しているね」


 横で話を聞いていた小川が口を挟んだ。


「それで小川さん、アンナを連れて行ってもいいんでしょうか?」


 美咲がそう尋ねると、小川は少し考えてから首肯した。


「回復魔法の腕前については十分だね。レポートも一通りまとめて貰ったし、いい機会かな。アンナ君、回復魔法の助手の任を解くよ。今までありがとう」

「……いいの?」

「ああ、君のお陰で回復魔法の教科書がほぼ完成したからね。当初の目的は達成出来たよ」

「オガワ先生、ありがとう」

「それじゃ、アンナも一緒に来るんだね?」


 フェルが聞くと、アンナは頷く。

 そして、ベルとキャシーに向かって問い掛ける。


「もちろん。一緒に行ってもいい?」

「もちろんですわ」

「歓迎するよ」


 キャシーとベルはそう答えて笑顔を見せた。


 ◇◆◇◆◇


 屋敷のアンナの部屋は、しばらく残すこととなった。

 急な出発に、荷物の整理が追い付かなかったためだ。


 翌日、アンナを加えた5人は、青の迷宮があるネルソンの町に向かい、乗合馬車に乗り込んだ。

 乗合馬車は貸し切り状態だった。

 アンナはベルに教えて貰いながら革袋に布を詰め込んだクッションを作り、感心したように馬車の振動に身を任せていた。


「これはいい。売り物になるのでは?」


 アンナの言葉に、ベルは肩を竦めてみせた。


「ミサキに言ったんだけど、作りが簡単すぎて売り物にはならないってさ」

「……ああ、確かに。材料さえあれば誰でも作れる」

「ところでアンナは回復魔法をマスターしたんだよな?」

「した。自分以外の怪我なら治せる」

「自分のは治せないんだ?」

「回復魔法はそういうもの」


 魔法という方法で回復魔法を使う場合、術者からある程度距離を置かなければ魔法は発動しない。

 術者が自分自身に対して回復魔法を使おうとしても、魔法の安全装置により、魔法は不発となるのだ。


「じゃあ、アンナが怪我をしたらどうするんだ?」

「ミサキに期待している。ミサキ、よろしく」


 唐突に話を振られ、美咲は目を瞬かせた。


「なに? なんの話?」

「アンナが怪我した時はミサキに期待してるってさ」


 ベルに教えて貰い、美咲は頷いた。


「うん。女神の口付けなら持ってるよ」

「ミサキなら回復魔法も使える筈。オガワ先生が言ってた」

「あー、えーと、イメージはあるから多分出来るかな? きちんと練習したことはないんだけどね」


 回復魔法の試験をするには、怪我をした生き物が必要となる。

 魔法協会ではネズミを対象として魔法の訓練を行っていたが、ミサキ食堂には実験動物はいない。

 そのため、美咲は、自分の持つイメージで回復魔法が発動するのかを試した事がなかった。


「ネルソンの町に着いたら練習してほしい。魔道具に頼り切るのは危ない」


 アンナは美咲の目を真っ直ぐに見つめながらそう言った。


「え? 試すって言っても、怪我人がいないと無理だよね?」

「私が指先に針を刺すからそれを治して」

「……アンナ、結構荒っぽくなってない?」

「そう? 前からこんな感じ」

「なあ、回復魔法の練習なら馬車の中でやればいいんじゃないか?」


 ベルの言葉に、アンナは首を横に振った。


「馬車の中だと発動可能距離ギリギリすぎる。もう少し広い所で練習したい」

「回復魔法って難しいんだな」

「難しい。今までの常識の外にイメージがあるし、条件も色々ある」

「習ってよかったか?」

「勉強になった……とても、勉強になった」


 ◇◆◇◆◇


 ネルソンの町には昼過ぎに到着した。

 青の迷宮の町である。

 町の中心に迷宮の入り口があり、その周辺に宿屋や各種商店が並んでおり、外壁の外には自給自足するための畑や牧場が広がっている。

 迷宮は国の所有となっていて、入り口は傭兵組合が委託されて管理している。


「到着したねー。今日はとりあえず宿に泊まる?」


 馬車からおり、大きく背伸びをして、美咲はフェルに尋ねた。


「うん。迷宮に入るのは明日の朝からだね。ミサキはアンナと回復魔法の練習だっけ?」

「あー、そうだね。アンナ、回復魔法の練習だけど、宿でやろっか」


 美咲がそう聞くと、アンナは頷いた。

 その横ではキャシーとベルが固まった体をほぐすように体を動かしていた。


「なー、宿もいいけど、その前に昼飯、どうする?」

「適当に入りましょう。わたくしもお腹が空きましたわ」


 キャシーがキョロキョロと辺りを見回す。


「あ、あの屋台、面白そうですわ」

「どれ? ああ、本当だ、珍しいね。俺はあの屋台でいいけど、ミサキはどうする?」


 ベルの指差している屋台には、魚のような物が売られていた。


「たい……焼き?」


 美咲の目には、それはたい焼きにしか見えなかった。


「親父さん、とりあえず2つ頂戴」


 ベルがたい焼きを購入し、齧り付いた。

 中身は白あんのようだった。

 キャシー、アンナ、フェルと、たい焼きを購入するのを見て、美咲も列に並んだ。

 屋台の中を覗けるようになると、そこにはたい焼きの型がなかった。ただ、渋めの親父がホットプレートのような物を前に佇んでいた。

 しかし、単なる平らなホットプレートでたい焼きが焼けるとも思えず、美咲は思わず質問していた。


「あの、それ、どうやって作ってるんですか?」

「ん? ああ、この鉄板がアーティファクトなんだよ。小麦と豆、砂糖をセットすると、自動的に魚の形に焼き上げてくれるんだ。面白いだろ?」

「そ、そうですね。便利なアーティファクトがあるんですね」

「俺の戦利品さ。食ってくかい? うまいぞ」

「それじゃ2つ」


 アーティファクトで焼かれたたい焼きは、美咲のよく知るたい焼きと同じ味がした。


「……アーティファクトって、一体なんなの?」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


アーティファクトは「便利で不思議な道具」です。

大当たりを引けば、一生遊んで暮らせるような物が出てくることもあります。

なお、たい焼き器は、地味ですが投入した以上の食料を生産しています。

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