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114.迷宮へのみちのり

 青の迷宮を目指しての準備は着々と進んでいた。

 そして、美咲達がミストの町を旅立つ日がやってきた。


「それじゃ行ってくるね。迷宮がどんなところかしっかり確認してくるから」


 見送りに出てきた茜、マリア、エリーに笑顔を見せ、美咲はそう言った。


「美咲先輩、無理しないでくださいね。王都では遠慮せずに皆さんと屋敷に泊まってください」

「うん。ありがと。それじゃマリアさん、留守中、よろしくお願いします」

「はい。お気をつけて」

「ミサキおねーちゃん、またねー」


 エリーがぶんぶんと大きく手を振っている。

 美咲はそれに手を振り返し、ミサキ食堂を後にした。


 ◇◆◇◆◇


 待ち合わせ場所は青海亭のそばだった。

 護衛対象の商隊の荷馬車には、既にフェルたちが乗り込んで待っていた。


「おはよう、待たせちゃった?」

「まだ商隊の準備が整ってないから大丈夫だよ。ほら、ここに乗って待ってよ」

「ありがと」


 フェルが少し奥に移動して場所を空けてくれたので、美咲はそこに乗り込んだ。

 この世界産の袋にタオルを詰め込んだクッションを収納魔法で取り出し、美咲は馬車の中で腰を落ち着けた。


「ミサキ、それは?」

「座布団かな。布を詰め込んだ袋だよ、馬車は揺れるからね」

「へぇ、私も真似しよ」


 フェルは皮袋に衣類を詰めたクッションを作り、尻の下に敷いた。


「……ちょっとおさまりが悪いかな?」

「皮の袋だと滑っちゃうのかな?」

「わたくしも真似してみますわ」

「あ、俺も俺も」


 キャシーとベルも、美咲を真似て簡易クッションを作りだした。

 美咲のクッションほどではないが、それなりに柔らかい布の塊が新たにふたつ作り出された。


「へー、馬車の床に直接座るよりもだいぶ楽だな」

「ええ、これは売れるんじゃありませんの?」

「袋に着替えを詰めれば誰でも簡単につくれちゃうからね。売るのは難しいと思うよ」


 そんな話をしていると。不意に前方からガラガラと馬車が動きだす音が聞こえてきた。


「出発だね」


 フェルが呟くと同時に、ガタンと揺れ、美咲達の乗った馬車が動き出した。


 ◇◆◇◆◇


 馬車は王都への道をゆっくりと進んでいく。

 道中、魔物に襲われる事もなく、美咲達は単なる荷物として荷馬車の荷台で揺られていた。


「暇だねー」

「だねー」


 美咲とフェルである。

 ベルとキャシーは馬車の揺れが心地よかったのか、眠ってしまっている。

 魔物が襲ってきたら叩き起こしてくれと頼まれているため、美咲達は眠る訳にはいかない。


「王都に着いたら、明日、迷宮に向かって出発だよね?」

「うん、そうだよ。正確には青の迷宮の管理をしている町までの移動だけどね」

「迷宮の中では何泊位するの?」

「それは潜ってみないと分からないかな。慣れるまでは一泊くらいに留めると思うけど、慣れてきたら迷宮の最奥を目指すかもしれないし」

「最奥ってどうなってるの? マリアさんはそこまで行った事ないって言ってたよね」

「聞いた話だと、魔法陣があるんだって。一瞬で入り口まで帰って来られるらしいよ」


 迷宮は女神が作ったということだから、これもまた、人間の為の仕組みなのだろう、と美咲は納得することにした。


「便利だね」

「そうだね。あれ?」


 先頭の馬車の車輪の音が、石造りの橋を渡るガタガタという独特の音に変わる。

 橋のことを知らないフェルは、何事かと音に耳を澄ませて警戒した。

 何回か王都に来た事のある美咲は、聞き覚えのある音に、自分の現在位置を把握した。


「橋だね。もうすぐ王都かな」

「そうなんだ、じゃあそろそろベルとキャシーを起こしておこうか」

「もう少し行くと馬車が停まるから、そこで起こせばいいよ」

「慣れてるね」

「王都にはなんだかんだで結構行き来したからね」


 ◇◆◇◆◇


 王都に到着した美咲達は、出発前の茜の勧めにしたがい、リバーシ屋敷に向かった。


「みんな王都は初めてなんだっけ?」

「子供の頃に来たことがあるかな」

「わたくしはたまに護衛で来てましたわ」

「俺は初めてかな。思ってたより大きいな」


 ベルは物珍しそうにあたりを見回した。

 ミストの町と比べると、道ひとつとっても広く作られている。

 建物の高さも、ミストの住宅地と比べると、一回り大きい物が大半である。


「ほら、ベル。そんなに上を見ていると危ないですわよ」


 キャシーに注意され、ベルは照れ臭そうに笑った。


「ミストとは何もかもが違うんだな」

「王都は広いですけど、人も多いですから、その分、建物は詰め込んでるんですわ」

「へぇ……でも町に入って、反対側の塀が見えないって、結構広いよな」

「需要と供給ですわ。限られた土地に対して、住みたがる人の数が多いから」

「あー、なるほどねー」


 子供のように、キャシーに手を引かれながら、ベルはあちこちを見回している。


「あ、傭兵組合があるよ。寄ってかないか?」

「そう言えば報酬の受け取りがありましたわね。ミサキさん、寄っていきましょう」

「そうだね」


 一行は傭兵組合に立ち寄ると、商隊護衛の報酬を受け取った。

 フェルが手続きをしている間、時間を持て余した美咲達は依頼票の掲示板を眺めていた。


「依頼の大半は護衛なんだな」

「王都は他のどの町より流通が盛んでしょうから仕方ないですわ」

「言われてみれば魔物駆除の依頼ってないね」


 掲示板を眺めていた美咲がポツリと呟いた。


「それはそうですわ。王都周辺は対魔物部隊が警戒しているんですから」

「あ、そう言えばいたね」


 ◇◆◇◆◇


 傭兵組合を出た一行は、フラフラと珍しい物に惹かれるベルを引っ張りながらリバーシ屋敷に向かった。


「ほら、ここだよ」

「大きなお屋敷ですわね」

「アカネ、こんなお屋敷を放って、食堂の店員やってるんだね」


 呆れたようなフェルの言葉に、美咲は苦笑した。


「私も茜ちゃんを雇った時は、こんな屋敷住まいだとは知らなかったんだけどね」


 雇ったというよりも、居候として転がり込んできた、が正しい。

 いずれにせよ、茜は王都の屋敷を放置して、ミサキ食堂で生活することを選択した。

 小川と広瀬が管理してくれているからいいようなものの、あのふたりがいなければ、この屋敷はどうなっていたことか。


「ミサキ様、お帰りなさいませ。そちらの皆さんは?」


 玄関周りを掃除していた、顔見知りの年配のメイドが声を掛けてきた。


「うん、今日一日、泊めて貰おうと思って来たんだ。急に来てゴメンね。えーと、フェル、ベル、キャシー、みんなアンナの友達なんだ。アンナはいる?」

「かしこまりました。アンナ様は今日はオガワ様とお出掛けされています」

「魔法協会かな? アンナ、回復魔法、使えるようになった?」

「申し訳ありません、そこまでは存じ上げておりません」


 メイドは玄関の扉を開けて、一行を招き入れた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

第六回ネット小説大賞のページで受賞作品に対する応援コメントなどが募集されています。

※拙作に限らず、受賞作全般、広く受け付けているようですので、あの作品に一言言っておきたい等ございましたら是非。


一カ月でほぼ完治したと思っていた足ですが、1週間前から痛みが出始めて、再び、杖なしで歩けない状態になってしまいました。困りました(>_<。


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[一言] 対魔物部隊て、Monster Attack Team ?ワンダバ?
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