113.学習
投稿、失敗していました。。。
傭兵組合に川ネズミの皮と魔石を届けた一行は、既定の料金と、持ち込んだ素材の代金を受け取り解散した。
時刻はもう夕刻である。
美咲は広場にエリーがいないことを確認してからミサキ食堂に帰ってきた。
食堂では今日も茜が夕食を作っていた。
「ただいま」
「あ、美咲先輩、お帰りなさい。魔物駆除、どうでしたかー?」
「うん、順調だったよ。マリアさん達は?」
「エリーちゃんの勉強見てますねー」
「ああ、読み書き算数を教えるって言ってたっけ、それのこと?」
「だと思いますよ。なんか字はほとんど覚えてるらしいんですけど」
茜と話していると、2階からマリアとエリーが下りてきた。
エリーはパタパタと走ると、茜の足に抱き着く。
「エリーちゃん、どうしたの?」
「ちょっと厳しく教え過ぎたみたいで……エリー、こっちに来なさい」
「やー」
「もう。済みません、アカネさん。エリーが言うこと聞かなくて」
「構いませんよ、足にくっついてるだけなら邪魔になりませんから」
茜は気にせず、そのまま料理を続ける。
それを見て、マリアは諦めたように溜息を吐いた。
「はぁ。エリーは算数するとすぐ拗ねるんですから」
◇◆◇◆◇
翌日、美咲の感覚では、まだ結構早い時間帯にフェルたちがやってきた。
「ミサキー、昨日の話なんだけど、インフェルノ、教えて貰えないかな」
「インフェルノを? 説明する自信、ないんだけど」
「インフェルノは見るからに炎槍と違うから、見取りでなんとかなると思うんだ」
「えーと、つまりお手本を見せればいいのかな?」
「そうそう」
フェルの後ろでは、ベルとキャシーが頷いている。
それを見て、美咲はしばらく考え、首を縦に振った。
「分かったよ。お手本にするのはいいけど、呪文は自分で工夫してね」
美咲のインフェルノは、イメージのみで温度変化を実現しているため、炎槍と同じ呪文であっても通常の炎槍とインフェルノを使い分けることができてしまっている。
そのままでは見本として不適切であろう。と考えた美咲だったが、茜のように呪文を即興で作る自信がなかったため、その部分はフェルたちに丸投げすることにした。
塀の外の魔法協会の実験場に移動した美咲達は、鉄の的を前にした。
「まず最初に言っておくと、鉄をも溶かす高温の炎は青白いから……ってそれは見たことあるんだっけ?」
「わたくしは飛竜の時に見たことありますわ」
「俺は初めてだから、ちょっと楽しみだよ」
「じゃ、ミサキ、一回目、お願い」
「ん。それじゃ行くよ。イメージは青白くて熱い炎ね……え、じゃなくて、インフェルノ!」
美咲は少しでもイメージの助けになればと、炎槍ではなく、インフェルノという名前で魔法を発動させた。
美咲の前に現れた青白い炎の槍が鉄の的に当たり、的は蒸発する。
「うーん、どう? キャシー」
フェルが首をひねり、キャシーに問い掛けた。
キャシーは首を傾げている。
「青白くて熱い炎、ですわね」
「それは最初から分かってたよね」
「それ以上は分かりませんわ」
ベルは何かイメージが掴めたのか、腕組みをして頷いている。
そして。
「俺も試してみていいかな?」
と言った。それを聞き、美咲はベルに場所を譲る。
「どうぞ」
「ありがと。んーと、鉄をも溶かす青白き炎よ、槍となりてあの的を穿て、インフェルノ」
ベルの前に白っぽい炎が現れ、炎槍となって的に当たった。
「んー、的は溶けてなさそう? 失敗かな?」
ベルのその呟きを聞いてフェルが否定した。
「いやいやいや、的の鉄板、熱で歪んでるから。少なくとも普通の炎槍じゃないよ、今のは」
「そうかな? でもインフェルノって程じゃないよね。俺のイメージ不足かな。炎も青白くなかったし」
「そこはあと一息なんじゃない? ミサキ、もう一回インフェルノを……的を狙うと勿体ないから、空に向けて撃って貰える?」
「あー、うん。いいけど……今のベルの魔法でも十分強力じゃない?」
「どうせなら溶かしたいじゃない、鉄の的」
「えーと、それじゃみんな見ててね。インフェルノ!」
空に向かって青白い炎が飛んでいく。
青空に紛れる事無く、強い光を放つそれは、50mほど上空まで飛翔し、拡散して消えた。
「あー、あの色か。もう一回、俺が撃ってもいいかな」
「いいよ」
「鉄をも溶かす青白く、強き炎よ、槍となりてあの的を穿て、インフェルノ」
先程よりも僅かに青みがかった炎の槍が的に当たって消える。
「……やったかな? どうかな?」
「的の端っこが溶け落ちてるね。ミサキのほどじゃないけど、インフェルノを名乗ってもいいんじゃない?」
「よし!」
ベルがグッと拳を握った。
「わたくしもいいかしら」
「ああ、俺は何となくイメージ掴めたから、後は空に向けて練習してるよ」
「では。呪文、真似させてもらいますわね。鉄をも溶かす青白く、強き炎よ、槍となりてあの的を穿て、インフェルノ」
キャシーの前に現れたのは普通よりも白っぽい炎槍だった。
的に当たった炎槍は弾けて消えた。
「ちょっと白っぽかったよ」
フェルの言葉に、キャシーは首を傾げた。
「でも的は溶けもしませんでしたわ……前に飛竜を撃ち落とした魔法で、さっきの強い輝きを再現したのですから……んー、難しいですわ」
「籠める魔素量が少ないんだと思うよ。私も試していいかな?」
フェルがそう言うと、キャシーはフェルに場所を譲った。
「鉄をも溶かす青白く、強き炎よ……槍となりてあの的を穿て、インフェルノ!」
フェルの気合の入った呪文と共に、フェルの前に青白い炎の槍が浮かび、鉄の的に吸い込まれた。
そして、美咲のインフェルノに引けを取らない威力のインフェルノは鉄の的を瞬時に蒸発させた。
「凄いね、フェル」
「いや、ミサキに言われてもね。でもいい感じだったよね?」
「私のと同じくらいの威力があったよ」
腕組みしながらキャシーが唸っている。
「うーん、魔素の量、ですわよね。魔素を流し込む感じで行けばいいのかしら。フェル、かわっていただける?」
「はいはい。少し、魔素を溜めてから一気に放出する感じにするといいと思うよ」
「溜めてから、一気に、ですわね。行きますわよ。鉄をも溶かす青白く、強き炎よ……槍となりてあの的を穿て、インフェルノ!」
ミサキやフェルほどではないが、青みがかった白い炎が的を貫いた。
「いい感じだね」
「どうです? 溶けました?」
「直撃した部分に穴が開いてるね。一応、インフェルノを名乗ってもいいんじゃない?」
「やりましたわ……こうなるとアブソリュートゼロも挑戦してみたいですわね」
「あー、見た目、氷槍だから無理だと思うけど」
美咲がそう言うが、それでも一度見せてほしいと3人は美咲に頼み込んだ。
「もしも誰かが習得出来ればこのパーティの切り札になるからね。ミサキ、駄目元でお願い」
「まあ、大した手間じゃないからいいけど。気を付けてね。何でも凍らせる魔法だから触ったりしたら指が無くなっちゃうんだから。冷気は熱気ほど感じられないかもしれないけど、絶対に氷や的に触らないこと」
「わかりましたわ」
キャシーの横ではベルが神妙な表情で頷いている。
「それじゃ。アブソリュートゼロ」
美咲の前に現れた氷槍は、白い線を残して的に吸い込まれた。
そして数呼吸の後、的は砕け散った。
「相変わらず不思議な魔法だね」
「フェルの目から見て、魔素の働きはどうだったんですの?」
「そうだよ。フェルなら何かわかったんじゃないか?」
「魔素が普通の氷槍より多く消費されてたってくらいかな。後は普通の氷槍と一緒だね」
3人は美咲の手元と砕けた的を見比べ、少し呆れたような表情で溜息をついた。
「まあ、ミサキだからね」
「そだね」
「ですわね」
いつも読んで頂き、ありがとうございます。