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112.川ネズミ

 偵察兼護衛は、騎乗したマックとジェガンだった。


「ミサキか、久し振りだな」

「あ、マックさん、よろしくお願いします。ジェガンさんもお久し振りです」

「ああ、元気だったか?」

「はい」


 その他、新顔が数名増員されていたが、それぞれの紹介などはなく、マックから。


「黒い鎧着たちっこいのと、エルフの娘、このふたりは絶対に守ること」


 という指示が出された。

 それを聞き、フェルは美咲のヘルムの上から頭をポンポンと叩いて慰めた。


「ま、実際、ミサキは背が低いからね。可愛くていいじゃない」

「そうは言っても、もうちょっと背が欲しいよ……もういいや、それよりフェル、その左手の見せて。これで敵の攻撃を弾くの? 今までそんなことしてたっけ?」

「ん? はい。魔法使いとして戦う時は敵の攻撃を弾いたりする必要はないからね」


 籠手を着けたままの左手を美咲の前に出してくるフェル。

 美咲はその左手をじっくりと観察するが、普通の革鎧と大きな違いを見付けることはできなかった。


「普通の革鎧の籠手に見えるね」

「そういう風に作って貰ったからね。でも実際は籠手の形した盾だから」

「で、敵の攻撃を弾いたりするわけ?」

「そ、受け流す感じでね。ほら、私って魔素を感じられるじゃない? だから魔物の攻撃の筋とかがある程度わかるんだ」

「あー、なるほど」


 やはりフェルが特殊だったか、と、美咲は納得した。


「それでは出発するぞ、ミサキ、フェル、馬車に乗れ」

「はーい」


 ◇◆◇◆◇


 美咲達が乗った馬車は、川沿いの小径を、マック達の先導のもと、ゆっくりと走っていた。

 やがて、マック達が停止の指示を出す。

 馬車が停止すると、ベルとキャシーが馬車を下り、マック達と合流した。

 馬車に残った美咲とフェルは、木立の向こう側にいるであろう川ネズミの様子を窺おうとしていたが、見える範囲には動くものはなにも見えなかった。


「ベルたち、大丈夫かな?」


 美咲の問いに、フェルは肩を竦めて見せた。


「川ネズミ相手で、任務が敵の足止め程度なら問題ないと思うよ」


 そんなことを話していると、マックが近付いてきた。


「ミサキとフェルは、川ネズミが射程内に入ったら即時殲滅。今回は前衛が多いから誤射には気を付けてくれ」

「ミサキの魔素のラインは正確だから大丈夫だと思うよ」

「そうか、だが今回のように前衛を置く戦い方には慣れていないだろう。気を付けてくれ」

「はい」


 ◇◆◇◆◇


 騎馬の偵察兼護衛が二手に分かれる。

 マックが率いる隊は川ネズミの誘引を行い、ジェガンが率いるもう一隊は美咲達の乗った馬車の直衛である。

 ベルとキャシーは美咲達から20メートルほど前方で川ネズミの足止めを行う。

 マックの率いる隊が、川ネズミの縄張りに侵入し、怒った川ネズミを誘引してくる。


 川ネズミは、水辺に棲む大きな魔物である。

 主な生息地は水辺の土の上だが、獲物を求めて水の中に潜ることもある。

 その外見は美咲の予想に近く、巨大なカピバラといったものだった。


「ミサキ、来たよ。ちょっと多いね」

「うん……行くよ、魔素のライン!」

「……炎槍!」


 先頭を走る川ネズミに炎槍が突き刺さる。


「次、魔素のライン」

「……炎槍!」


 次々に川ネズミが動きを止めていく。

 仲間が屠られていることで冷静さを失ったか、川ネズミの速度が速くなる。

 その足元に前衛を務めるベルとキャシーから魔法が飛ぶ。

 足元の地面が弾けることを嫌ったか、川ネズミの勢いが僅かに落ちる。


「魔素のライン。後4匹!」

「……炎槍! 前衛が接敵する。急いで」

「魔素の……ライン!」

「……炎槍!」


 残り2匹となったところで、川ネズミはベルとキャシーの位置に辿り着いた。

 ベルはその鼻先に剣を突き付け、川ネズミの足止めをする。

 キャシーは盾で川ネズミの顔を殴りつけ、剣で毛皮の薄い足元を狙って切りつけた。


「乱戦になったら狙えないよ!」

「大丈夫、2対2ならベルとキャシーは負けないよ」


 川ネズミはベルの動きに翻弄され、鼻先を切られて悲鳴を上げて後退った。

 そこに剣を突き込み、川ネズミが大きく仰け反った隙を逃さず、ベルは炎槍を川ネズミの鼻先に直撃させた。

 川ネズミはしばらくピクピクと悶えていたが、すぐに動きを止めた。

 とどめとばかりにもう一発炎槍を顔に直撃させるとベルは剣を鞘に収めた。


 キャシーは川ネズミの足を切り裂き、速度を奪ってから顔面に切り掛かった。

 川ネズミは悲鳴を上げて逃げようとするが、またしてもその足をキャシーの剣が切り裂いた。

 更に動きが鈍った川ネズミの足を氷槍で貫き、完全に動きを止めてから、キャシーは川ネズミの頭に向かって氷槍を叩き込み、剣で喉を掻き切った。


「ふたりとも凄い!」


 美咲が手を振ると、ベルとキャシーも手を振り返してきた。


「川ネズミは数が少なければ怖い魔物じゃないからね。ミサキの魔素のラインもいい感じだったよ」

「フェルの炎槍も安定してたね」


 すぐにマックの馬が馬車の横にやって来る。


「川ネズミ、半数撃破だ。一応最低限のノルマは達成したが、まだやれるか?」

「えーと、私はまだやれます。フェルは?」

「大丈夫だけど、その前に皮を剥いでおいた方がいいんじゃない? 折角状態がよくなるように倒したんだから」

「いや、川ネズミ以外の魔物が出てこないとも限らない。残りを倒してからにしよう」


 ◇◆◇◆◇


 残りの川ネズミは初回よりも順調に倒すことができた。

 川ネズミの全滅を確認した後、美咲とフェルに護衛を付け、残ったメンバーで魔石取りと毛皮の剥ぎ取りを行った。

 皮を剥いだ川ネズミの死体は、一カ所にまとめ、美咲のインフェルノで焼き尽くした。


「ミサキの魔法、便利だよね。普通は穴掘って埋めるんだよ」


 帰りの馬車の中、ベルが感心したように言った。


「あれだけの数を埋めるんじゃ、時間が掛かりそうだね」

「俺達だけだったら半日仕事かな。だから助かったよ」

「インフェルノ、でしたっけ? わたくし達も覚えられるのでしょうか?」


 キャシーが小さく首を傾げ、美咲に問い掛ける。


「んー、王都ではインフェルノなら何人か使えるようになったっていう話だから、練習次第だと思うけど?」

「けどキャシー、俺達が覚えるなら、氷の魔法の方が迷宮じゃ使いやすいんじゃないか?」

「ベルの言うことも確かですけど、イメージが難しいと思いますわ。インフェルノは炎の色が青いですけど」

「そっか、氷の魔法は俺達の氷槍と見た目は同じなんだっけ。ミサキ、どういうイメージなんだ?」


 問われて美咲は固まった。

 アブソリュートゼロは原子の振動を極力減らし、絶対零度を作り出すものだ。

 王都でも、まだ日本人以外に使い手はいない。


「んー、ゴメン。言葉で説明するのは難しいや。あらゆる物質が凍る温度の氷っていうイメージなんだけどね」

「キャシー、分かる? 俺はギブアップ」

「わかりませんわ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三周目の今、ふと気づいたけど、エルフエルフエルフ……………フェル!!!!?うへー!
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