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111.パーティメンバー

「そうか、受けてくれるか」


 喜ぶゴードンを前にして、美咲は少し考え込んだ。


「ミサキ、どうかした?」


 怪訝そうな表情でフェルが問い掛ける。


「んー、いい機会かなって思って……あの、組合長、条件つけてもいいですか?」

「条件によるが、どんなのだ?」


 美咲は、この仕事を、迷宮探索のパーティメンバーである、ベル、キャシーと共に受けてみたいと告げた。

 勿論ベルたちの予定もあるため、この場では決められないが、合同での依頼達成という経験は迷宮でも役に立つ筈だ。

 美咲がそう言うと、ゴードンは右手のひらで頭部をぴしゃりと叩いた。


「なるほど。そういうことなら、人手は必要だから問題はないぞ」

「人手が必要になるんですか?」

「魔物の数が多いからな、倒した後の魔石と毛皮の採取の仕事がある」

「……ねぇ、フェル、毛皮の採取ってベルたち出来るかな?」

「大丈夫だよ。できない傭兵の方が珍しいよ」


 ◇◆◇◆◇


 美咲が食堂の前に戻ると、ちょうどエリーが帰ってきた所だった。


「エリーちゃん、今日は何して遊んだの?」

「おにごっこ!」


 狐人だからか、エリーは身体を動かす遊びが得意だった。

 最近では仲の良い友達が増え、絵を描いていない時は外で走り回っていた。


「鬼ごっこかぁ。ほーら捕まえたー!」

「きゃー!」


 美咲はエリーを捕まえて抱っこすると食堂のドアを開けて中に入った。


「お帰りなさーい。どうでした? 傭兵組合」


 茜が厨房から声を掛けて来る。


「うん。またいつもの指名依頼。エリーちゃんも帰ってきたよ」


 美咲がそう言うと、カウンター越しに茜が顔を覗かせた。


「エリーちゃんお帰りー、うがいと手洗いしておいでー」

「はーい、ミサキおねーちゃん、おろしてー」

「はいはい。それで茜ちゃんは何しているの?」


 美咲が厨房に入ると、ジャガイモと玉ねぎ、人参を煮込むような匂いが漂っていた。


「今日の夕食の準備ですよー」

「手伝おうか?」

「あ、シチューなんで大丈夫ですよー。後は煮込むだけなんで」

「主食は?」

「今日はこっちのパンですねー。焼きたての買ってきました」

「んー、じゃあサラダか何か作ろうか?」

「あ、冷蔵庫に入ってますよ」


 美咲が冷蔵庫を開けると、ニンジンと葉物野菜、キャベツを茹でたサラダが鎮座していた。


「ドレッシングは?」

「日本製にしようかと。サウザンドアイランド、エリーちゃん好きみたいなので」

「うん、茜ちゃんも成長したね」

「まだ美咲先輩の域には達してませんけどねー」

「そりゃ私は自宅の家事を一手に任されていたんだから、そう簡単に追いつかれたらショックだよ。それじゃ着替えてくるね」

「はーい」


 ◇◆◇◆◇


 翌日、魔物駆除のメンバーと日程が決まった。

 メンバーは美咲の希望通り、迷宮探索のパーティメンバーを含んだものとなっている。

 出発は3日後となった。

 その連絡を受けた美咲は、対象の魔物についての情報を聞いていないことを思い至り、フェルに話を聞きに行った。


「というわけで、対象の魔物について何かしってる?」

「うん、一応聞いているよ。名前は川ネズミっていうんだけど、子牛くらいの大きさでね、川べりに生息している魔物なんだ。走るとそこそこ早いけど、川から離れるのを嫌うから、魔法で狙い撃ちして行けばすぐに片付くと思うよ」


 川に住むネズミと聞いて、美咲はカピバラを連想したが、サイズが子牛くらいということで、大きさを二倍くらいに補正した。


「毛皮が売れるんだっけ?」

「そだね。マントなんかに使われるよ、毛が詰まっているから撥水性能が高いんだ。高級品だよ」

「魔石と毛皮が売れるってことは、どこを狙えばいいのかな?」

「頭だね。普通の炎槍なら魔石は燃え尽きないから」

「そうすると、射程一杯から、白狼を倒せる程度の魔素のラインかな?」

「それでいいと思うよ」


 川ネズミの倒し方を相談しながら、美咲は疑問を覚えた。


「でも、川から離れるのを嫌う魔物なら、倒す必要ないよね?」

「組合長が言ってたでしょ。数が増えて来たから、そろそろ憂いをなくしたいって」

「確かにそんなこと言ってたね」

「魔物って、数が増えると習性が変わったりするからね。倒せる内に倒しておくのは間違いじゃないと思うよ」

「そうなんだ」

「魔物溢れって、そういうことだよ」


 例えば白狼にしても、通常は森の中で狩りをする。

 稀に、群れからはぐれた個体が馬車を襲うことがあるが、せいぜいその程度だ。

 何事もなければ、白狼は町を襲ったりはしない。

 しかし、個体数が一定を越えると、それまでの習性からは考えられないような行動を取るようになる。

 それが魔物溢れと呼ばれる事象である。

 魔物により、そのラインは異なるとされるが、20から30が基準と言われている。

 川ネズミが魔物溢れを起こすのか、起こしたとしてどういう行動を取るのかは不明だが、早い内に数を減らして憂いを失くしておきたいというゴードンの言葉は、そこから来ていた。


「とりあえず、全滅させていいんだよね?」

「そうだよ。魔物は全滅させたと思っても、どこからか湧いて出てくるからね」


 ◇◆◇◆◇


「おはよー、ミサキさん」


 魔物駆除当日、ベルがポニーテイルを揺らしながらやって来た。


「あ、ベルさん」

「俺のことはベルでいいよ」

「それじゃ、ベル、おはよう」

「うん、お揃いだね」


 ベルはそう言って美咲のポニーテイルを指で突いた。

 ベルの方が若干短めだが、同じポニーテイルである。

 美咲は


「そうだね」


 と頷いた。


「まだ俺だけ? フェルはともかく、キャシーはもう来てると思ってたんだけど」

「あ、ふたりとも来てるよ、馬車のあたりにいると思うけど?」

「えーと、ああ、ホントだ、フェルー! キャシー!」


 ベルはふたりの名を呼びながら馬車に近付いて行った。

 美咲も準備は終わっているのでベルと一緒に馬車に向かう。

 今日の皆の装備は革鎧だ。

 ベルは片手に円盾を装備し、腰には短めの片手剣をぶら下げている。

 キャシーも似たような装備だが、剣が倍近く長かった。

 フェルはと言えば、盾はなし、ベルと同じ程度の片手剣のみを装備していた。


「フェルは盾持たないんだね?」


 不思議そうに美咲が問い掛けると、フェルは左手を持ち上げてみせた。


「左手の籠手が複合素材になってるからね」

「複合素材?」

「そうそう、革と金属と魔物素材。ちょっとした攻撃ならこれで弾けるんだよ。盾みたいなものだね」

「それを使いこなせる人は、そうはいないと思いますわ」


 キャシーが呆れたような口調でそう言った。

 それを聞き、美咲は納得した。

 これはフェルがおかしいのだと。


「それでフェル、これで全員なのか?」


 ベルに訊かれたフェルは、首を横に振った。


「まだだよ。一応偵察兼護衛が付くことになっているから」

「さすが、この町の最大火力だな。護衛までか。ちょっと異常だな」

「おかしいのは主にミサキだから」

「あー」

「そうですわね」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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