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110.それぞれの準備

 翌朝、美咲は装備を整えて広場へ向かった。

 広場では、フェルが魔道具を並べ、座っていた。


「おはよう、フェル」

「ミサキ、おはよう……盾が増えてるね?」


 一目で美咲の変化に気付いたフェルは、立ち上がり、美咲の周囲を回りながら他に変化がないかを眺めてまわった。


「うん。マリアさんに迷宮の話を聞いて、盾があった方がいいって言われたんだ」

「へぇ、ってことは、迷宮に一緒に潜ってくれるの?」

「そのつもりだよ。フェルから見てどう? 何か足りない装備とかない?」

「どれどれ?」


 フェルはしゃがみ込んで美咲のブーツに触れた。


「あ、意外としっかりしてるんだ。これなら脛当てはなくても大丈夫かな。右手は盾があって、左手はノーガード……あ、マンゴーシュを抜くのか。その黒い革鎧は当たりだったね、ヘルムもしっかりしてるし……主武装は、ま、美咲は魔法使いだから、防御に力を入れるのが正解か」

「どうせ武器があっても使いこなせないだろうからね。それなら一撃を耐えて魔法で反撃かなって」

「接近戦になると、魔法の効果はかなり低減しちゃうんだけど、アブソリュートゼロなら、最悪でも足止めになるか。そうだね、そのスタイルの方がいいと思うよ」


 一通り確認したフェルは、しばらく腕組みをして考え込んだ。


「んー、基本の装備はよさそうだね。この上にマントを羽織れば寒さ対策も出来るだろうし、夜はそのまま眠れそうだね」

「パーティに迷宮経験者はいるの?」

「ん? いないよ。みんな興味はあるんだけど機会がなくてね。ミストの町からだとどの迷宮も距離があるからね」

「なら、今日の午後、ミサキ食堂が終わった後で、みんなを集めてマリアさんにお話を聞いてみない? マリアさんには私から頼んでみるから」

「あ、話を聞けるならお願いしたいな。ベルとキャシーには私から伝えておくよ」


 ◇◆◇◆◇


 美咲はフェルと別れた後、傭兵組合に足を運んだ。

 朝の混雑する時間帯は終わっており、すぐにシェリーを捕まえることができた。


「ミサキさん、おはようございます。今日はどうかしましたか?」

「ん。今度迷宮に潜ることにしたからその報告に来たんだ。時期は未定。期間は一カ月前後」

「えーと……期間がざっくり決まっているってことは、帰ってくるんですよね?」

「うん、食堂もあるしね。帰ってくるよ。それで、長期間町を離れるから指名依頼の予定があるなら聞いておきたくてね」

「……そうですか。ご連絡ありがとうございます。今、組合長は会議中なので伝えておきますね」

「会議? 何かあったの?」

「商業組合との定期的なものです。事件が起きたわけじゃありませんよ」


 ◇◆◇◆◇


 美咲は食堂に戻ると、マリアに、今日の午後、一緒に迷宮に潜るパーティのメンバーが話を聞きに来るので対応をお願いしたいと依頼した。


「分かりました。とは言っても私も何回か潜った経験があるってだけですけどね」

「みんな、一回も潜ったことがないみたいだから、経験者に話を聞いておきたいんですよ」

「そういうことなら、何かお話のネタになりそうなものがないか、考えておきますね」

「お願いします」


 美咲達がそんな話をしていると、エリーがやってきてマリアの足に抱き着いた。


「エリーちゃん、どうしたの?」

「あのね、エリーもおっきくなったらめーきゅーいくの」

「じゃあ、エリーちゃんも一緒にお話しを聞こうか」

「うん!」


 と、厨房から茜の声が聞こえてきた。


「美咲先輩、準備できましたよー。開店してくださーい」


 ◇◆◇◆◇


 午後、ミサキ食堂の閉店処理が終わった頃にフェルたちがやって来た。


「ミサキー、来たよー」

「お邪魔しまーす」

「失礼します」


 3人をテーブル席に案内すると、美咲は茜に声を掛けた。


「茜ちゃん、お茶をお願い」

「はーい!」


 木のカップに人数分の紅茶を注ぎ、茜がカウンター越しに美咲にお盆を渡す。

 美咲は、カップをテーブルに置くと、自分も椅子を引っ張り出して話を聞く体勢になった。


「それじゃマリアさん、お願いします……あれ? エリーちゃんは?」

「お友達が迎えに来て遊びに行きました。それじゃ、なにからお話ししましょうか」

「あの、質問いいっすか?」


 真っ先にベルが手を挙げた。


「はい。どうぞ」

「俺はベルです。迷宮では夜はどうやって過ごすんすか?」

「魔物が入れない安全地帯が何カ所かありますから、そこで見張りを立てて交代で寝ます」

「えっと、安全地帯でも見張りが必要なんすか?」

「安全地帯って言っても、そんなに広くはありませんからね。朝起きたら、境界線の向こうが魔物だらけになっていたら身動きが取れなくなりますよ」

「そうっすか。ありがとうございます」

「そうですね。まず迷宮の一日の過ごし方についてレクチャーしましょうか」


 マリアは、迷宮での過ごし方についてレクチャーした。

 朝、起床後はまず魔道具に魔素を充填する。これを怠った場合、魔素切れの魔法使いと、魔素切れの魔道具を抱えて野営する羽目になるかもしれない。

 また、朝食に限ったことではないが、食事はしっかりと。食べられるときにしっかり食べておかないと、すきっ腹を抱えて魔物と戦う羽目になる。

 基本的に探索では、人工物と安全地帯を探す。アーティファクトは箱に入っていることが多いが、建造物の中に隠されていることもある。人工物を見付けたら、持ち帰れるようなものがないかをしっかりと調べ、何かを入手したら速やかに確保すること。

 アーティファクトをひとつ見付ければ、探索は成功と見做していい。欲張らずに持ち帰ることを優先すべきだ。

 安全地帯の見分け方は、青の迷宮であれば、赤い石で囲まれたエリアがそうだ。

 安全地帯にいても、石を投げるような魔物が相手なら、攻撃は通ってしまう。だから、完全に気を抜くことはできない。

 こちらの遠距離攻撃も通るので、敵が少ないうちに魔法で倒してしまうのがよいだろう。

 迷宮の中は、洞窟や草原、山岳など、様々な地形が現れる。空があるようにも見えるが、実際には天井が存在しているそうだ。これについてはマリアの経験ではなく、他のパーティからの伝聞情報であるが、過去、強弓の持ち主が空にしか見えない天井に矢を当てたことがあるらしい。

 しかし、外の時間と連動して空の明るさは変化するので、暗くなる前に安全地帯を発見するのが探索の最優先事項となる。

 天候は晴れが多いが、曇天や降雨、降雪となる場合もある。そのため、パーティ共用の装備として天幕があるのが望ましい。

 夜は安全地帯で休む事になる。天候、気候によっては天幕を張って休む事になる。

 大抵の魔物は明かりを嫌うので明かりの魔道具は点けっぱなしで問題ない。

 魔物は死ぬと魔石を残して消えてしまうが、稀に毛皮などを残すこともある。迷宮の探索では、それらも重要な収入となるので拾い忘れのないように。


「だいたい、こんな所ですね。何か質問はありますか?」

「はい、よろしいでしょうか?」


 キャシーが手を挙げた。


「どうぞ」

「わたくしはキャシーです。あの、迷宮内で他のパーティと出会った場合はどうしたらよいでしょうか?」

「まず会うことはないと思います……一回の開門で同時に入った人は同一パーティと見做され、迷宮内で一緒に行動することになりますが、別のタイミングの開門で入ったパーティとは出会うことは殆どありません。一応、出会った場合は不干渉がルールですけど」

「開門、ですか?」

「迷宮の入り口は大きな門になっていて、ゆっくり40数える程の時間で開閉を繰り返します。パーティで入る時は、門が開いている間にパーティ全員が入る必要があります。あまり大勢で迷宮内を荒らされないための仕組みだと言われていますね」

「……さすが、女神様がお創りになられただけのことはあるというか……不思議な仕組みですね」


 ◇◆◇◆◇


 マリアの講習が終わり、フェルたちが帰った後、ミサキ食堂をシェリーが訪れた。


「あれ? シェリーさん、なにか?」

「はい、指名依頼についてお話があるので、できればこの後、傭兵組合に来て頂けないでしょうか?」

「うん、それはいいけど、私だけ? それともフェルや茜ちゃんも?」

「ミサキさんとフェルさんです。フェルさんには先程すれ違ったので、声を掛けてきました」


 美咲はシェリーの言葉に頷き、茜に一声掛けてからシェリーと共に傭兵組合に向かった。

 道中、シェリーに話を聞くと、美咲達がいる間に、確認されている大型の魔物退治を進めておきたいというゴードンの意向だという。


「なるほどねー。そんなことなら別にいつもの事だし、構わないかな」


 傭兵組合の会議室に通されると、既にゴードンとフェルが揃っていた。


「よく来てくれた。それでは今回の指名依頼の趣旨についてだが」


 ゴードンは美咲が席に座るのを待って、そう切り出した。


 依頼内容は道中、シェリーから聞き出したものとほぼ同じだった。

 存在が確認されているが、街道などから離れた位置にいるため、経過観察とされていた魔物を、美咲達がいる間に倒してしまいたい。ということだ。


「それで、どれくらいの数なんですか?」


 美咲の問いに、ゴードンは、机の上の資料を確認し始めた。

 即座に返事が返ってこなかったことに若干の不安を感じつつ、美咲は返事を待った。


「16頭だな」

「随分多いですね」


 思わず、美咲はそう言った。

 白狼や地竜の比ではないが、それ以外の魔物退治が1から2頭だったことを考えると異例の多さだった。


「群れなんだ。魔物としては極めて珍しい半水棲で、例の虎のゴーレムがいた湖から流れ出ている川沿いに生息している。動きが殆どなかったから経過観察としていたんだ」

「それ、放置しても害はないように思うんだけど」


 フェルが呟く。

 その呟きを拾い、ゴードンは答えた。


「そう思っての経過観察だったが、ゆっくり数が増えてるからな、そろそろ倒して憂いをなくしておきたいんだ」

「数が多いけど、どういう戦術でいくの?」

「水辺から離れると足が遅くなる魔物だから、遠距離から魔法を撃ち込んでもらう。全滅が理想だが、半数撃破でも十分だ」

「だってさ、ミサキ、どうする?」

「うん、フェルさえよければ受けてもいいと思うよ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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