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11.白狼撃退

朝食を食べた二人は再び塀の上の人となった。

夜間は見えなかった白狼の姿がよく見える。


「フェル、どれから狙う?」

「まず塀を一周してみて、塀に近いのから狙っていこう」


魔素の操作は用いる強度、精度、扱う距離、時間などにより疲労度が異なる。

夜間は目に付いた白狼から狙っていたが、狙えるのであれば近くの敵から狙っていきたいフェルであった。

主に、ミサキの消耗を減らすために。


「ミサキ、魔素のラインだけど、昨日のより細く出来る?」

「んー……出来ると思うけど」

「それじゃ今日は4分の1くらいの太さでやってみよう」


昨夜の白狼は二つに弾け飛んで燃えていた。戦いに興奮していて気付かなかったが冷静に考えると明らかなオーバーキルである。ならば威力を落として撃てる数を増やした方が良いだろう。という判断である。


「それじゃ、あの辺からやってみようか。あ、タイミング取るのに必要だから声に出してお願いね」


樹海側の門に近い白狼が最初の獲物になった。


「了解。魔素のライン……太さは指2本分位で」

「器用なもんだわ、ほんと……炎槍!」


撃ち出された炎の槍が白狼に突き刺さり、白狼が燃え上がった。

昨晩は呪文と同時に炎槍が着弾していたのだが、今日は飛ぶのが見えている。

威力も大幅に低下しているが、それでもまだ十分な殺傷能力があった。


「次、あっちの寝てるのいくよ」


塀の上を移動する二人。その後ろを連絡役の傭兵がついてくる。


「さっきと同じ程度で……魔素のライン……」

「ん、いい感じ……炎槍!」


先程と同じように白狼に炎槍が着弾し、燃え上がる。


そんな調子で10体ほども倒しただろうか。


(今日はあんまり疲れないなぁ)


等と美咲が考えていると、突然白狼達が遠吠えを始めた。


「何? 何事? フェル?」

「分からないけど、警戒しよう」


塀の上でしゃがみ込み、白狼の様子を伺う。


「あれ? 逃げてく?」


白狼は樹海の方向に走り去っていった。


「ねえ、フェル、終わったの?」

「さあ、私も魔物の生態は知らないから……」


だが、塀の上の傭兵たちは大盛り上がりだ。下でも盛り上がっている。


「ねえフェル、下に戻ろっか」

「そね」


塀を降りるとお祭り騒ぎだった。

どうやら、白狼が撤退したのだろう。


「おお、フェル、よくやってくれた!」


髭で禿のごつい男性が声を掛けてきた。


(誰これ?)

「あ、組合長……終わりで良いんですか?」


組合長らしい。

確かに他の人にはない輝きがある。主に頭部に。


「白狼は計算が出来る魔物だ。引いたのであればそれで終わりだ。しかしいつの間にあんなに魔法の腕を上げた?」

「ああ、あれはミサキの能力です。彼女、魔素の扱いに長けていて白狼まで魔素のラインを引いてくれたんですよ。私一人じゃ遠くの白狼なんて倒せませんて」

(そなの?)


自分がやった事を理解していない美咲であった。


「そうか。それじゃ二人の色を変えないといかんなぁ」


目立つのは駄目だ。この流れは止めないと。と美咲は抵抗を試みた。


「いやいやいや、私、何にもしてませんから! 私はフェルの指示に従っただけです。私は紫大好きですから!」

「そうかそうか。そう言えば前半は炊き出しも頑張ってくれてたそうだな。シェリー、二人のランクアップ申請を通しとくように!」


組合長は人の話を聞いていなかった。

更にフェルが追い打ちを掛ける。


「そうです。ミサキがいなければ白狼まで魔法を届けられませんでした、ミサキの魔素制御は魔法の射程距離を飛躍的に伸ばします」


そういう事だったらしい。

魔法使いであるフェルには代わりがいるが、魔素制御をおこなうミサキに代わりはいない。

そう考えると、ミサキの希少性が際立つ。際立ってしまう。


「や、フェルの魔法が凄かったんですよ!」

「じゃ、お前、明日から青な!」


ガハハと笑う傭兵組合長には何を言っても無駄なようだった。


 ◇◆◇◆◇


「そう言えば昨夜の魔道具だけど」


組合長から解放された美咲はフェルに確保されていた。

ヘッドランプについて、後で説明すると言ったのを覚えられていたらしい。


「これね。便利な魔道具だったけど、欲しければ予備があるのであげるよ。好きにしていいから」


フェルの手にヘッドランプを押し付ける。正直、『呼び出し』で出せる物はそんなに惜しくはない。

これで解放されるのであれば安い物だ。


「いや、これ、魔素が働いてないでしょう。魔道具じゃないよね? 魔剣の親戚ってくらいに魔素の影響を受けてないんだけど?」

「知らないよ。故郷で買った品だし。魔道具でないならなぜ光るの?」


ヘッドランプ、魔道具説を推してみる。


「だからそれを聞きたいって話で」

「詳しい事は分からないけど、中に入っている電池って物の力で光っているんだって。分かるのはその程度」


白熱電球ならともかく、LEDの発光原理なんて知らない。質問されても電池の力です、としか答えられない。

なので、入手方法以外は全部正直に話して解放されたい。

使い方を説明する。フェルはそれを一度聞いただけでほぼ理解した。


「……なるほどねぇ。横のダイアルを回すと点灯……明るさ調整も可能と……やっぱり魔素はまったく働いていない……魔道具じゃないのは明らかなんだけど……アーティファクトって事は幾ら何でもないわよね。魔素でないとしたらデンチに光の素が詰められている……のかな?」

「電池が切れたら使えなくなるから、それだけ覚えておいて」

「魔素みたく補給は?」

「この電池はそこまで便利じゃないよ」


ただのアルカリ電池なので充電は出来ない。


「使い終わったら捨てるって事?! あ、デンチを交換するのか……にしても贅沢な構造ね……それにしてもこの素材……透明だけどガラスとは違うみたい……完全に平らだし素材は一体……」


フェルが何やらヘッドランプに夢中になったようなので、放置して宿に向かう美咲であった。


 ◇◆◇◆◇


「やあ、ミサキちゃん、聞いたよ。大活躍だったって?」


青海亭の女将が何やらおかしな事を口走っていた。


「誤報です、活躍していたのは主にフェルです」

「そうなのかい? まあ、何にせよ、町を守ってくれてありがとうね……食事はまだだよね、ジュースでも付けようか」


食堂の席までエスコートされる。


「……えと、じゃ、甘いのお願いします」


甘いジュースは、オレンジみたいな味がした。

食後、そのまま眠りそうなのを我慢して温泉に入る。


「フェルに説明聞くの忘れたなぁ……なんとなく見当はつくけど」


温泉にのんびり浸かりながら、昨夜あった事を美咲は自分なりに分析してみる。

おそらく魔法は距離に比例して威力を失うのだろう。

だから、フェルの魔法は白狼達に届かなかった。届いても威力が弱くなっていた。

だが、魔法が飛ぶルートに十分な魔素があれば、魔法の威力は減衰しないのだろう。

そうであればフェルに指示されて美咲のやった事の説明が付く。


(問題は、なんで別の魔法使いに頼まなかったのか……だけど……多分、扱える魔素の量の違いだよね)


美咲の魔素はフェルが二度見したほどに多いのだ。

さらに言えば、魔道具の魔素補給で若干器用に魔素を扱えるところを見せてしまっていた。

だから、あの局面でフェルは美咲を探しに来たのだろう。

昨夜と今日の使用回数の違いは、一回当たりの使用魔素量の違いに準ずると考えると大体理解出来る。ような気がする美咲であった。


「しまったなぁ……」

(目立ってしまったのは大失敗だよね。埋没しなきゃなのに……誘拐したら大事件になるくらいに有名人になるのも手だけど、失敗して中途半端に有名になると最悪……リスクを考えると地味に生きるべきだよね)


既に色々手遅れになりつつあるのだが、美咲はまだ理解していなかった。

商業組合にタオルという、この地域に存在しない遠方の特産品を持ち込み。

白狼の群れを退治して、ミストの傭兵組合では平民としては最短で青に昇格。

町では青いズボン(デニムパンツ)に緑の背負いアタックザックという極めて目立つ色の服装。

作業服は生成りが基本のこの世界でこれで目立っていないと考える方がどうかしているのだが、美咲は未だに気付いていなかった。

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