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109.盾

 翌日、美咲はマリアを伴い、防具屋で盾を眺めていた。


「ねえ、マリアさん、どういうのがいいと思います?」

「そうですね。ミサキさんのメインは魔法だし、腕に装着できる木製の盾がいいと思います。大きさは肘から指の先より少し大きい程度でしょうね……慣れるまでは結構邪魔に感じると思いますけど」

「木製なんですか?」

「一番いいのは高いですけど魔物の革とかですかね」

「鉄製じゃないんだ」


 マリアは説明しながら、該当する盾を指差して回った。

 美咲はマリアの後をついて回りながら、区別がつかずに混乱していた。


「鉄より木の方が軽いのは分かりましたけど、革製の方が強度があるんですか?」

「魔物の革製の盾は、魔素の影響を抑えますから対魔物では一番強いし、重さも軽いですから、予算に余裕があるならお薦めですね」

「革の盾って、木に革を張り付けた物だと思ってた」

「そういうのもありますけどね……あ、これは珍しい出物ですよ」


 マリアは店の主人に断って、革の盾を壁から外して美咲に手渡した。

 

「これが魔物素材で作られた盾ですね。これはリクガメの甲羅と白狼の革を使ってますね」


 白っぽい石のようなそれは、見た目に反し、とても軽かった。

 裏面には、衝撃を逃がすためだろう。白狼の物と思われる毛皮が使われている。

 また、盾の周囲も革で補強されている。


「わ、ほんとに軽い。白狼の革は……ああ、内側に使われてるんだ。へえ。これで幾らくらい?」

「75000ラタグです。随分と大きな甲羅から削り出してますね」

「あー、あれかぁ……」


 その盾は美咲とフェルが倒した陸棲の亀の魔物の成れの果てだった。

 或いは白狼の毛皮すらも美咲達が倒したものかも知れなかった。


「これは掘り出し物ですよ。普通はこの値段じゃ出回りません。大物でも出たんですかね?」

「うん。大きかったかな……腕に装着ってどうやるの?」

「この部分に腕を通して……そう、それで、ここを握るんですよ」

「へぇ。思っていたよりしっかり固定出来るんだね」


 しばらく盾を付けたまま腕を振り回していた美咲は、店主に、この盾がほしい旨を伝え、金貨7枚と大銀貨5枚を支払った。


「薦めておいてなんですけど、即決で買うとは思ってませんでした」

「んー、一目ぼれ? 気に入っちゃったからね」

「それで、迷宮に潜る覚悟は出来たんですか?」

「うん。いつか白の迷宮に潜りたいって思うかもしれないし、練習にはちょうどいいでしょ?」

「白の? 最高難易度ですよ」

「うん、知ってる」


 日本への帰還を完全には諦めきれていない美咲であった。


 ◇◆◇◆◇


 夕刻、ミサキ食堂にふたりの来客があった。

 いや、正確には、ふたりの来客と、ふたりの従者というべきだろう。


「アカネ、来たわよ」

「アカネ、久し振りだね」


「ケンちゃん、リズちゃん、どうしたの?」


 ケント王子とエリザベス王女であった。

 ふたりはミサキ食堂の前に馬車を停め、ミサキ食堂の普段は使われていないテーブル席に座り、茜と向き合った。


 ふたりの後ろにはトニーとギルが立っている。

 なお、マリアとエリーは、ミサキ食堂の前に馬車が停まるのと同時に、美咲に言われて2階に退避している。

 美咲は紅茶を淹れるため、厨房でお湯を沸かしていた。


「アカネが色鉛筆という名の絵の道具を作ったと聞いたのよ」

「アカネ、色鉛筆見せて貰えるかな」

「あー、もう王都まで噂が流れてるんだ。てゆーか、そんな事なら、私を王都に呼べばいいのに、わざわざ来たの?」


 茜がそう答えると、ケントとエリザベスは顔を見合わせ、頷いた。


「アカネ、絶対、他になにか隠しているわよね」

「アカネのことだから、他にもなにかある筈」

「あー……」


 開発中の紙のことや、色鉛筆は一部の色が未完成であること、最近、スイーツ作りに凝っており、この世界の物だけで作れるレシピが溜まってきていること、等は隠しごとに含まれるのだろうか、と茜は天井を見上げた。


「まあ、とりあえず色鉛筆ね」


 茜はアイテムボックスから、この世界産の色鉛筆と鉛筆削りを取り出し、ふたりに手渡した。

 次いで、雑貨屋で販売している大学ノートを取り出して、これも手渡す。


「その棒が色鉛筆。色鉛筆を、こっちの鉛筆削りの穴に差して回転させると、色の付いた芯が見えてくるから、芯が尖ってきたらそこで削るのをやめて。それで、色鉛筆でノートに絵を描くんだけど」

「絵画の勉強はしたことがある……色は何色あるの?」

「絵なら先生に褒められたことがある。木炭で書くのと同じ要領ね?」


 ケントとエリザベスは大学ノートに色鉛筆を走らせる。

 どちらも茜を見ながら描いている。

 ざっとあたりを付けたところで描いた絵を茜に見せて来る。


「アカネ、こんな感じ」

「アカネ、可愛く書けたわ」


 ふたりの絵は、初めて色鉛筆を使ったにしては上手だった。

 だが、エリーの絵を見慣れてしまった茜からすると、まだまだだった。


「あーうん。上手だと思うよ。初めてにしては、うん、上手だね」


 そう誉めつつも、物足りなさが言葉の端々に滲み出てしまっていた。


「むう、アカネも描いて」

「アカネ、もっと上手に描けるの?」

「私は大したの描けないよ。えっとねー」


 茜はスケッチブックをアイテムボックスから取り出すと、ふたりに見せた。

 そこにはエリーが描いた茜の絵が描かれていた。


「上手じゃない」

「アカネ、絵の才能あったんだね」

「違う違う、これを描いたのはエリーっていう子供。この子の才能を伸ばしたくて色鉛筆を開発したんだー」


 茜の言葉に、エリザベスは改めて絵を見直した。


「確かに上手いわね……紹介して貰えるかしら?」

「会ってみたいね」

「パトロンになりたい? でも会ったらびっくりすると思うよー。美咲先輩、連れてきてもらえます?」

「あー、茜ちゃん、エリーにはまだ早いと思うけど」

「コネ作りですよ。王族とのコネなんて、そうそう作れないんだから、いい機会じゃないですか」

「んー……まあ、顔合わせだけならいっか……」


 美咲は二階に上がり、マリアとエリーを連れて下りてきた。

 美咲に言われ、マリアはエリーが描き溜めたスケッチブックを持ってきている。

 王子と王女がいると聞き、マリアは固くなっているが、エリーは分かっていないのか、大物なのか、いつもと同じ調子でニコニコしている。


「エリーちゃん、おいでー」


 茜がフォークに差したケーキを掲げると、尻尾をユラユラと振りながら近付いていく。


「この娘がエリー?」

「まだ幼いね」


 茜の差し出したケーキにパクリと食いついたエリーは、ケントとエリザベスの視線に怯えたのか、茜の座っている椅子の後ろに隠れた。


「これがさっきの絵を描いたエリーちゃん。エリーちゃん、怖がらなくて大丈夫だよ。いい人たちだから」

「……ん」

「エリー、あなたがこの絵を描いたの?」


 茜を描いた絵を、エリザベスが差し出すと、エリーはこくんと頷いた。


「マリアさん、スケッチブックをこちらに持ってきてもらえますかー」

「ひあ、は、はひ」

「マリアさん、貸してください」


 緊張のあまり、ガチガチのマリアからスケッチブックを受け取った美咲は、スケッチブックを開いてテーブルに乗せた。


「へぇ、人物画以外も大したものですね」

「見たことのない技法が使われてるね、これは凄い」


 ふたりはページをめくっては新しい絵を見て驚いている。

 美咲が教えたのは基礎だけだ。

 エリーの絵の技法や、風景の切り取り方は、エリー自身が発見したものだ。


「どう? この子、天才だと思うんだよねー」

「エリー、将来、パトロンが欲しくなったら、このエリザベスを頼ってくるといい」

「エリー、ケントでもいいからね」

「エリーちゃん、大きくなって絵描きさんになりたかったら、頼っていいって」

「ん? うん。でもエリーはよーへーになるんだよ?」

「そっかー。まあ、覚えておくといーよ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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